機動戦士ガンダムSEED TR -輝ける星を目指して‐ 作:開いたぞ、性癖の扉が!!
女性士官の下へたどり着いたケイは声をかけた。
「失礼します」
「…!!君は…?」
「連合軍特殊部隊ティターンズ所属、ケイ・ムラサメ少尉であります―――貴官は連合軍の士官とお見受けいたします。軍の損害の確認と、コロニー外に残存する敵勢力との今後について報告するため、上官へとお取次ぎ願いたい」
「っ!?ティターンズ……!」
ケイは目の前で傷の手当をする数人の民間人と、手当をされる連合軍の士官に敬礼をして名乗った。
階級は少尉だが、ティターンズでは連合の階級よりも一段階上の階級というローカルルールじみた仕組みがある。とはいえ相手の方が階級が上なのだが。
女性士官と民間人はティターンズの暗い紺を基調とした制服とケイの顔を流すように、しかし目を見開いて驚いていた。
「子供!?あの白兎のパイロットが……?」
「嘘だろ、俺たちよりも年下じゃないか」
「連合軍ってそんなに余裕無いのかよ……」
「現在の国際法であっても、前線に立つ兵士として何ら問題はありません」
主に無作為に行った戦争で人が減ったせいですが、とケイは続けた。
戦うために兵士が必要になり、そのために未来を先細りさせるように子供を前線に立たせる―――見えていないだけで、小さな紛争地ではよくある話だった。そして機体のテストと銘打ってそれらを壊滅させたこともある。
ケイからすれば、子供を戦争の矢面に立たせることなど人為的に遺伝子を操作し命を
「もしかして、貴方もコーディネイター……?」
「いえ、自分は生まれ持ってのナチュラルというやつですが―――『貴方も』と言う事は貴方は?」
「違うわ……違う、けど……あまりにも現実味が無いせいで混乱しただけよ。ごめんなさい―――私はマリュー・ラミアス。大西洋連邦宇宙軍第八艦隊大尉のマリュー・ラミアスよ」
女性士官はストライクを動かしたキラという子供がコーディネイターだという事に薄々感づいては居たが、しかしそれ以上にMSの運用に慣れた目の前の子供はそうではないと言う。
自然が生んだにしては明らかに戦い慣れている―――そして子供として扱われる事に辟易としている様子だった。
ケイの他の兄弟は色々生まれに後ろめたい所のある人間だったりしたが、ケイはその中で生まれた奇跡的な副産物である。
マリューは申し訳なさそうに俯くと、決意したようにケイへ現状を語った。
「……申し訳ないけど、私もまだ上官どころか他の仲間と連絡が取れていないのよ。ヘリオポリスにはまだ軍艦が残っているから、今通信を繋いで確認しようとしていたところなの」
「了解……ではこちらで連絡を待っても?」
「ええ、MSが居てくれれば心強いわ」
マリューはフゥ、と久方ぶりに肩の力を抜いた。
子供であれ、MSという強力な護衛が居れば民間人を独りで―――しかも自分ではなく民間人の乗ったMSに守ってもらうという情けない事態は避けられる。
―――噂の白兎が、こんな小さな子供だったなんてね。
ちらり、と件のパイロットを見る。
何を考えているのか分からない無表情と紺色の制服は極めて攻撃的な印象を抱かせるが、落ち着いて見ればとても可愛い―――年頃の少年と言ったところだろうか。
むしろコーディネイターと言われた方が自然な程顔は整っている。
一時的に緊張の糸が解けたからか「私も同じくらいの歳だったら絶対唾つけるのに」などと考えるくらいには、マリューが置かれた状況が難しい事を表していた。
ケイ・ムラサメ、ティターンズ、連合軍ではまことしやかに噂される程度だったとはいえ、それらが存在しMSを保有していたとなれば色々と戦況も変わる。
しかしもし、他の連合軍と連絡が取れなければ。
敵の睨むコロニーの中、2機の連合軍所属のMS―――自分たちだけが取り残された事になる。
「お願いだから、誰かに繋がって」
残された自分の無力さを恥じるように、マリューはただ祈った。
◆ ◆ ◆
これだから軍隊は、と独りごちるのはケイだった。
そもそもTR計画とはTR計画原初の1人―――ケイの兄弟の『オリジナル』にあたる人物のニュータイプ能力とそれを基に計画された兵器開発が現在の目的であって、誰かの指揮下で言いなりになる事ではない。
誰よりも早くMS開発に乗り出した研究所だったが、能力と理想は高くあっても資金が足りなかった。
そのために連合やオーブ、ザフトや民間企業―――色々な組織と裏で手を組んで情報の切り売りをしてきた。
マリュー大尉と言ったか―――正直言って、ここに居る連合軍が生き残る術は敵の戦力数に委ねられている上に、小回りの利く戦力は民間人が乗るストライクと直接的な指揮下に無いヘイズルだけ。敵中を突破するには難しいと言える。
―――強襲形態なら速やかに相手に打撃を与えられるが、さっきから全身の毛が逆立つような嫌な感覚が離れない。こういう時は大抵ロクな事が起こらないって昔から相場が決まってる。
コロニーの外から感じる、ケイを探そうとする何者かの視線―――じっとりとしていて気色が悪い事この上なかった。
ヘイズルも強力なMSとは言い難く、拡張性を売りにしているというのにまだ全力どころか、本来両腕にあるはずのシールド・ブースターは片方しか無く他の装備を換装していないため、どちらかと言えば平時よりも弱体化していると言っていい。
先ほどの戦闘で何事も無かったのは中立国のコロニー内でもあり、何より相手が強奪したMSの特性を生かしきれてなかったからだ。
―――緊急時に奪い返せだの傷をつけるなだのと。
連合軍は注文が多いとごちるが、戦局を変えるためにはG兵器は必須であることは明白だった。
しかし同時にあれだけの数のMSを傷つけずに捕獲するというのは難しい話であり、それら奪われた兵器が同時出撃をするのであれば幾つかのMSは破壊せざるを得ないだろう。
戦闘データは多ければ多いほど計画に与える影響は大きい。
特にこれから最新鋭主力機のG兵器ともなれば得られる物は想像をはるかに超えるだろう。ケイにとって奪還する事に関してはともかく、これと戦う事に対して意見するような事は無かった。
イージス、デュエル、ブリッツ、バスター。あとは数も知れぬ敵の艦隊と嫌なプレッシャーの持ち主。
「問題は後者か」
幸いにもG兵器は機体の能力は恐ろしいものの、勘がプレッシャーの持ち主を警戒する以上はコロニーの外に居る何者かが一番気になるところではある。
兄弟以外にこうしたプレッシャーを放つ人間は多くない―――それどころかここまで強い念を感じるのは初めてに近い。
「……誰なんだ、お前は」
◆ ◆ ◆
「白兎、か」
ザフト軍のナスカ級高速戦闘艦『ヴェサリウス』では、一人の男が想いふけっていた。
ラウ・ル・クルーゼ―――若くしてザフトのエースパイロットに昇りつめた彼は、つい先ほどまで謎に包まれていた『白兎』の戦闘映像を見ていた。
ザフトの保有するMSであるジンやG兵器とはどこか違うMS、そのパイロットが彼にとっての気がかりになっていた。
胡散臭い噂ばかり持ち上げられていたが、どこで誰が製造したかも定かではないMSは彼にとって珍しく個人的な知的好奇心を揺さぶられた。
普段ならば自らの目的以外でこうも気を取られる事は無い。
しかし、クルーゼは確かに感じていた。相手のパイロットから発せられる何かを。
「お前なのか、ムウ・ラ・フラガ。或いは―――それに似た何かか」
恐らく前者である可能性は低い。
幾ら腕の立つ者として名の知れるかの者であっても、直近までMAを操縦していた人間が新型のMSを操縦する事はできないと言える。
それは対峙した事のあるクルーゼだからこそわかる事だった。
付け加えるならば白兎は血のバレンタインの時点で存在を確認されており、ムウ・ラ・フラガが白兎のパイロットであるならば事件後にMAに乗って戦場で相まみえたのはおかしい。
「フン……」
相手もきっとこちらに気づいた事だろう。
これだけの意識を割けば、相手がムウと同じであるならば気づかないわけがない。
しかしクルーゼは相手からのプレッシャーを感じなかった。相手が無視をしているのか、それともクルーゼの眼鏡にかなうような力量ではないか。
「隠されれば知りたくもなる―――俄然何者か気になるところだ」
宇宙は広いものだと、クルーゼは清々しさに似たものを感じた。
もしこれがクルーゼの予想する存在であるならば―――それは自分と似た何者かがこの宇宙に存在し、そして自分とそれは引きあった。
「クククッ……まるで運命だな、これは」
白鳥の羽ばたく優麗な湖の景色と、そのほとりで戯れる兎の群れ―――クルーゼは白兎を見た時からそのイメージを感じ取っていた。
戦場で感じるわけが無い、軍人からすれば軟弱なイメージ―――クルーゼ自身もバカバカしいと感じた。
しかしその持ち主が誰なのか、何故こんなにも鮮明なイメージを感じるのか。それが気になって仕方がない。
―――白兎、是非この目で拝見したいものだ。
クルーゼは内心の高揚を抑えながら、出撃の準備を進めた。
一方その頃、ケイは視姦されるような感覚と悪寒に襲われていた。
Tips:マリュー・ラミアス
連合軍第八艦隊所属の技術士官。
ザフトによるヘリオポリス襲撃で命からがら生き延びた。生身の白兵戦が強い上にPS装甲の開発に携わったりしているナチュラルかどうか疑わしい人。
ケイを見る目が怪しい。
Tips:ラウ・ル・クルーゼ
ザフトに所属するMSパイロット。クルーゼ隊の隊長。
勲章を授与される程の実力を持ち、独特な空間認識能力でケイの気配を感じ取った。
そこで見たイメージが何なのか知るためにケイに興味を持つ。
ケイ曰く「ねっとりしたプレッシャーは大体コイツ」
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