目を開けたら現実の世界の自室のはずなのに、俺の視界に映っている景色はギルドの『玉座の間』のままだった。もしやと思い玉座の方に目を向けると、予想通りそこには目を閉じる前と同じくモモンガさんが座っていた。
「モモさん…ですよね?」
「えっ…? あ、ハチマンさん。はい、モモンガですけど…。これ…どういうことかわかりますか?」
「いや、俺にもわかんないです。ユグドラシルⅡができた…とかですかね?」
「……いや、それはないと思いますよ。仮にそうだとしても何かしらの通告はするはずですし」
俺が話しかけるとモモさんは俺と同じく困惑している様子(表情ではなく声色で判断)のため、これでモモさんによるものでないことは確認できた。
可能性の内の一つが潰れたため、俺は終了時刻になってもログアウトできない状況は運営からのドッキリか何かなのではないかと思ったが、その考えはモモさんにより否定された。確かにモモンガさんの言う通り、そうであるならば必ず前もって通告があるはずなのにそれが一切なかったのはおかしい。それに仮に俺が考えたことが本当だとしても、こんな寂れてしまったゲームを新しくするほどの予算が運営にあるとは思えないし、そもそも売れるとも思えない。
だとすれば他にどんな可能性が……
そうやって俺がどうしてこうなったのかと色々考えていると、モモさんが話しかけてきた。
「あ、あの、ハチマンさん…」
「ん? どうかしたんですか?」
顔を向けてみると、モモさんが俺の顔を見て何やら驚いているようだった。そんな様子のモモさんに、俺は疑問を抱いた。
だって俺のプレイヤーの顔デザは人間に近いものなので、モモさんやタブラさんのようなインパクトのあるやつではないため、特に驚くようなものではないのだ。なのにモモさんは俺の顔を見て驚いている。なので俺は、どうしてそんなに驚いているのかをモモさんに問いかけてみた。
するとモモさんは、とんでもないことを口にしたのだ
「あの、顔が……顔が……‶動いて″ますよ…!」
「——え? 顔が動くなんて……——っ!?」
「そんなことありえない」と言おうとしたが、実際に顔に触れてみると表情筋が動いていることに気が付いた。しかもただ動いているだけではない、それどころか体温や触感も感じられた。いくらVRゲームという他のものよりもリアルに近い感覚で遊べるとは言え、ここはゲームの中なのでキャラクターの表情が変わることはない。ましてや感触や体温を感じるなんて、あってはならないことだ。それなのに俺の顔が動いてるというのは、異常事態以外のなにものでもなかった。。
今起きていることに脳内が混乱している俺だったが、ここでふとよい案を思いついた。もしかしたらこの事態を解決できるかもしれない案を。
「——そうだ! 『GMコール』……!」
そうユグドラシルではコンソールの中に『GMコール』というものがあり、それはプレイヤーが緊急時(バグやチーター遭遇時など)に運営と連絡が取れるようになっているのだ。正にこんな事態の時にこそ役立つものであるため、俺はすぐにそれを使おうと思いコンソールを開けて『GMコール』を使用しようとしたのだが、それは出来なかった。
なぜなら——
………
……
…
「はぁ!? 嘘だろ!? モモンガさん、コンソールが開きませんよ!」
「ええ!? 本当ですか!?」
——そう、コンソールが開かなかったのだ。
普段であれば指を右から左へとスライドさせる動作をすることで現れるのだが、その動作をしてもコンソールが現れなかったのだ。反応が悪いのかと思い何度も同じ動作をしたのだが、それでも一向にコンソールが現れることはなかった。
「くそっ、ダメだ……っ。モモさんの方はどうですか!?」
「……ダメだ、開かない。……一体どうなっているんだ!!」
もしかしたら俺のコンソールだけがエラーで動かないという僅かな期待を込めてモモさんに確認してもらったのだが、俺の期待は虚しいものだったようでモモさんの方もダメだったようだ。
「(頼みの『GMコール』すらダメなんて…!) くそが…っ」
俺たちが最後の頼みの綱も使えないことに苛立っていると、横から綺麗な女性の声が聞こえてきた。
「どうかなさいましたか? モモンガ様、ハチマン様」
俺たちが声のした方に振り向くと、そこには守護者統括である『アルベド』が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。‶アルベドが動いて俺たちに話しかけてきている″という目の前の様子に、俺は呆然となってしまった。だって本来動くことも喋ることもないNPCがこちらの様子を窺っているのだ、夢か何かだと言われた方がまだ納得できる。
「アルベド、なのか…?」
「はい。ハチマン様とタブラ・スマラグティナ様によって創造された、守護者統括のアルベドでございます」
俺が恐る恐る問いかけると、アルベドは微笑みながらそうだと答えた。NPCはただの人形だと分かっているのに、傾国の美女と言っても過言でない程の彼女の笑顔に思わず唾を飲み込んでしまう。
すると、視界の端が赤黒く染まっていくと同時に、身体の中からとある衝動が湧き出て来て頭の中を支配してくる。その衝動というのは、『血を飲みたい』というものだ。
衝動については分からないが、視界が赤黒くなっていくことについては覚えがあった。なぜなら、俺はゲームをやってる時に何度もその体験したことのあることだからだ。
「こ、これは……ッ(もしかして、『吸血』のスキルか……!?)」
『吸血』。それは《吸血鬼》という種族が持つ【スキル】の一つであり、その効果は頸(くび)に噛みつくことにより対象からHPとMPを吸収して自身を回復させるというもの。体力を回復させると聞くと良い【スキル】と思うかもしれないが、自身と同レベル帯の相手には頸を噛む隙などほとんどないし、だからと言って自分よりもレベルが低いと噛みつけてもそんなに回復が出来ない。何よりもデメリットなのは、この【スキル】は自分の意思とは無関係に発動してしまうところだ。しかも、発動してから10分以内に『吸血』をしないと、一定時間デバフが掛かってしまうのだ。
そのため今の俺は直ぐにでも誰かから『吸血』をしなければならないのだが、異常事態中の今においてはそう簡単な話ではないのだ。なぜなら、こんな何が何やらわからない状況下で『吸血』をした場合どうなるのかが分からないからだ。もしかしたら『吸血』をしたとしても今の状況が変わらないかもしれないし、仮に良くなってもそれとは別の問題が発生する可能性も0%ではない。それに『吸血』をするということは、当然アルベドたちの内誰かの頸(モモさんは身体が骨で噛めないため除外)に噛みつく必要があるのだが、彼女らにそれを許してもらえるとは思えない。
だって、いくら緊急事態とはいえいきなり『お前の頸を噛ませて欲しい』などと言われて「はい」と言う奴なんていない。少なくとも、俺だったら絶対に断る。
いつもであれば『吸血』がいつ起こってもいいように『血液パック』という血を補給できるアイテムを持ち歩いているのだが、今日が最終日ということもあり俺はアイテムの補充をしておらず手持ちがない。
本当に何てタイミングの悪さ……っ!!
「ハァ……ッ! ハァ……ッ!!」
「ハチマンさん!? 大丈夫ですか! この症状は……もしかして『吸血』のスキルか……!(クソッ! どうする!? 俺は『血液パック』なんか持ってない。でも、だからといって今から宝物殿に行って探して取ってくるとなると、間に合わないかもしれないし……っ)」
モモさんが慌てた様子で俺に話しかけてくれているのは映っているが、『吸血』の衝動が強すぎるようで声は上手く聴こえない。
このままだと……本当に、マズいかも……ッ。
どうにかしないといけないのは分かっているのに、衝動の所為で上手く頭も働かないし、だんだんと頭痛の様なものも感じるようになってきた。本格的にマズいと思っていた正にその時、アルベドが俺の傍へと駆け寄って来た。
——三人称視点
ハチマンの傍へと駆け寄ったアルベドは、彼のただならぬ様子に悲しそうに表情を歪めた後に自分と同じく彼の様子を心配しているモモンガへ、今の彼の様子はどういうことなのかと問いかけた。
「大丈夫ですか、ハチマン様!? モモンガ様! なぜハチマン様は苦しまれておられるのですかっ!?」
「っ(話して、大丈夫なのか…? まだNPCが安全とは分かってないのに、ハチマンさんの状態を教えたらさらに大変な状況になることも……)」
モモンガはアルベドからの問いに直ぐには返事が出来なかった。なぜなら、モモンガから見て普通であれば動くことも喋ることもないNPCが、まるで人間の様に行動していることを未だに受け入れられなかったからだ。今のところはハチマンのことを心配していても、彼の状態を知れば掌を返して危害を加える可能性も十分考えられる。
モモンガはアルベドたちが何か不審な行動をしたら直ぐにハチマンを守れるように構えていたが、それは杞憂に終わることとなる。なぜなら、アルベドは心の底からハチマンの身を心配しているからだ。
「モモンガ様! どうしたらよいのですか!? 私に出来ることであれば何でも致しますッ!! ですのでどうか、ハチマン様を救う術をお教えください!! お願いいたしますッ!!」
「!」
アルベドは必死だった。アルベドにとってハチマンとは、ただの主ではなく自分が心の底から愛している愛おしい存在だ。ハチマンのためなら、アルベドは文字通り‶何でも″する。それこそ、例え自身の命を差し出すことになろうとも、一切の迷いもなく差し出すほどだ。
そんなアルベドの必死な表情を見たモモンガは、何も根拠はないのに彼女は嘘偽りなくハチマンのことを本当に心配しているということを理解した。
そのためモモンガは、ハチマンの今の状態となっている理由とその解決法をアルベドへ伝えた。
「……ハチマンさんは今、『吸血』というスキルによってこうなっている。解決するには、誰かの血を摂取する必要があるのだ」
「っ!?(スキルによって!? 一体どうして…! いえ、今はそれよりも……!!) 血を…血を摂取して頂ければ、ハチマン様は良くなられるのですね! そうですよねッ!?」
「そうだ! だが、今は血を摂取させるアイテムが……『でしたら問題ありません!』 っ!! …何だと? それはどういう……」
モモンガは苦しそうな声で問題を解決するためのアイテムはないと告げようとしたが、アルベドがそれを遮るように解決できると断言した。アイテムがない状況でどうこの状況を解決するのかを疑問に思ったモモンガは、顔を上げてアルベドを見た。
アルベドは自身に対して疑惑の目線を向けるモモンガの顔を見つめると、こう言い放った。
「——私の血を飲ませます!!」
そう堂々と宣言したアルベドは、頸を覆う布に手をかけるとそれを取り払った。
——ハチマンside
「ハァ……ッ。くそ、が………ッ(聴覚も…だんだん……おかしくなって、きやがった……ッ。このまま、じゃあ……マジ、で…ヤバい…………ッ)」
視覚だけでなく聴覚までもがまともに機能しなくなってきたことに、俺は焦りを抑えられない。モモさんとアルベドが何かを話しているのだろうが、今の俺には途切れ途切れにしか聞こえるためそれを理解できない。
——もしかしたら、このまま死んでしまうかもしれない。感覚がおかしくなっていく所為で、そのようなネガティブなことまで考えてしまうようになってきている。
そんな時、俺の視界にシミ一つないまるで雪のように白く美しい頸が現れた。
「ハ——ン様! ど——わた———く—をか——血——の——く——いッ!!」
何かが耳から聞こえてくるが、今の俺にはそんなものよりも目の前に映っている極上の頸(えさ)の方が重要だった。ついさっきまでは五感全てが狂っていたというのに、頸が視界に映った瞬間それだけははっきりと見えた上に女性特有の匂いや香水の匂いまでもが鮮明に感じられるようになった。
頸に噛みつくなど、たとえどんな場合でもしてはいけないと分かっているのに、今の俺には理性よりも『目の前の頸に噛みついて血を啜りたい』という欲求を満たす方が優先すべきこととなっていた。
そのため、俺は樹液に吸い寄せられる虫の如く目の前の美味しそうな頸に吸い寄せられてしまい、大きく口を開けてそれへと思い切り噛みついた。
——ガプッ!
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~っ❤❤❤」
何やら叫び声の様なものが聞こえてきたが、俺は一切を無視して頸に八重歯を当て続けた。すると、八重歯が皮膚を貫通したことで『ドロリ』とした‶何か″が口の中へと入って来た。それが舌へと触れた瞬間、それが今一番欲していたものであると理解した俺は、それをもっと味わうべく唇を頸へと密着させて吸い出していった。
——ヂュ~~~~~~~ッ!!
「んんぅっ!?❤❤❤ ハ…チ……んひぃ!?❤❤❤ マ……ン…さ、まぁ……っ❤❤❤ んあああああああっ!!?❤❤❤」
——美味しい。
口の中に広がるそれを味わった感想がそれだった。ドロリとしていて生暖かくお世辞にもいい触感とは言えないものであったが、今の俺にとっては今まで味わってきたものの中で間違いなく一番と言えるほどの美味しさだった。俺はまるで中毒にかかってしまったかの如く、それを啜ることに夢中となった。
そうしてそれを啜っていくに連れて、頭の中を蝕んでいた頭痛が和らぎ五感の方もだんだんと正常へと戻っていった。そして、頸を噛んでから1分ほど(?)の時間が経過したであろうか、俺の身体は完全にいつもの調子……いな、それよりも良い状態へとなっていた。
先程までの不快感が嘘の様に消え去り、とても清々しい気分であった。……だが、そこで俺はふと思ったことがある。先程は『吸血』による衝動の所為で深く考えることもなく欲求に従って目の前の頸に噛みついたわけだが、現在もなお噛みついて血を吸わせていただいている頸は一体誰のものであるのか、と。
俺は恐る恐る、閉じていた目を開けた。
そして、俺の視界に映ったのは——
………
……
…
「ん゙…っ❤❤❤ はぁ……っ❤❤❤」
——汗で髪がしっとりとさせ、頬を上気させながら息を荒げているアルベドの姿であった。
その姿は正直言って滅っ茶苦茶エロいものであり、もしも先程までの状態であったら勢いに任せてアルベドを襲っていたであろうと断言できるほどだ。
俺はそんな状態のアルベドを見て少々固まってしまっていたが、彼女が「あんっ❤❤❤」と喘ぎ声(?)を出したことで意識を取り戻した俺は、謝りながら即座に彼女から離れた。
「っ!? す、すまんアルベド!!///」
「あ……っ❤❤❤」
俺が口を離して距離を取ると、アルベドは名残惜しいそうな声を上げた。その声にすら色気が纏っているため思わずドキッとしてしまうが、俺は理性を総動員し頭を振って煩悩を振り払い改めてアルベドへと謝罪した。
「す、すまなかったアルベド!/// どうやら、スキルが発動して我を失ってしまったようで……け、決して故意にしたことではないんだ……!!///」
「はぁ……❤❤❤ はぁ……っ❤❤❤ 気に…なさらないで、ください……っ❤❤❤ 私が、望んだ……こと…ですので……❤❤❤」
アルベドはそう言うと、うっとりとした表情で俺が噛みついていた場所を指先で撫でた。アルベドの頸には4つの虫の刺し傷の様な痕と、思いっきり唇を吸いつけたことによる所謂『キスマーク』の痕が出来上がっていた。
仕方のなかったこととはいえ、アルベドの……女性の身体に傷をつけてしまった。そのことに俺は罪悪感を感じてしまっている。
しかし、それは長くは感じられなくなった。なぜなら、モモさんが慌てた様子で俺のに顔を覗いてきて、身体の状態を確認してきたからだ。
「大丈夫ですか、ハチマンさん!? 何か異常とかはありませんか!?」
「! あっ、モモさん…。——はい、大丈夫です。迷惑、かけました…」
「はぁ~~~ッ! もう、ビックリさせないでくださいよ! 心臓が止まるかと思っちゃいましたよ!?」
「心配かけて、すみません。俺は大丈夫ですから、今はアルベドの方を何とかしてやってください」
「…それもそうですね。——ユリ・アルファ! 前へ出よ!」
「!! は、はひっ!!///」
俺がアルベドを何とかしてくれと頼むと、モモさんは顔を上げてプレアデスたちを見た後に一人のメイドの名を呼んだ。
ユリ・アルファ。彼女は『やまいこ』さんによって作成されたNPCで、戦闘メイド《プレアデス》において長女の役割を持っている。
モモさんに呼ばれたユリは顔を赤くさせた状態であり、声をかけられると身体をビクッとさせて言葉を噛んでしまっていた。だが、顔を赤くさせているのはユリだけではない。ユリ以外のプレアデス(姉妹)たちも、顔を赤くさせ身体をモジモジとさせていた。
プレアデス(セバスを除く)がそうなってしまった原因は分かりきっている。‶俺″の『吸血』によるせいだろう。あんな光景を目の前で見てしまったのだから、動揺してしまったとしても仕方のないことだ。
ユリが玉座の前へ出て来て跪くと、モモさんは彼女にアルベドの介抱を命じた。
「ユリ・アルファよ。アルベドを部屋へと連れて行き世話をしてやってくれ。それと、念のためにペストーニャも呼んでアルベドを診させなさい。もし、アルベドに何か異常があったら直ぐに連絡するのだ。よいな?」
「——はっ! かしこまりました!」
モモさんからの指示を受けたユリは、命令を遂行すべくアルベドの傍へとやってきて身体を支えながら立ち上がった。その際にユリと目が合ったのだが、彼女は俺と目が合った瞬間より顔を赤くさせて目を逸らした。
俺がしたことなので仕方のないことなのは分かっているのだが、大切に思っているNPCに目線を逸らされるのは中々にダメージを負ってしまう。
しかし、そんな俺のことなど知る由もないユリは、アルベドの身体を支えながら『玉座の間』から退出していった。正直言うとアルベドの様子が気になるため付いて行きたいが、今は現状の整理をする方が優先のため何とか堪えた。
そしてユリとアルベドを見送った俺は、今現在の状況についてモモさんと話し合いを始めた。
「……モモさんは、今の状況をどう考えてますか?」
「そう、ですね……。NPCが動いたりコンソールが表示できなくなったりスキルが発動して身体に変化が起ったり……今まで起ったことを考えると————俺たちは‶ゲームの世界に来たんじゃないか″と、俺は思ってます」
「!」
モモさんの口から出た言葉に、俺は驚愕した。しかし、俺はモモさんの意見を否定することが出来なかった。なぜなら、そう考えると全ての辻褄が合うからだ。
NPCが動き出したのも、コンソールが使用できない状況も、俺のスキルが実際に身体に影響を及ぼしたのも、今俺たちが‶ゲームの中にいる″と考えれば全てのことに説明がつく。
しかし、これはあくまでもモモさんの意見は推測の域を出ない。だって、実際に物的証拠が何一つとしてないからだ。
「(たとえモモさんの推測が合ってるせよ間違っているせよ、調べる必要があるな…) ……モモさん。どちらにせよ、調査は必要だと思います」
「…そうですね。確かに調査は必要です。じゃあ一先ずは、ナザリックの内部と地表部周辺について調べましょうか。安全確認は一番重要ですから」
「そうですね。だったら………《プレアデス》は前に来てくれ!」
『! ——はっ!!』
俺はプレアデスに前に出てくるように指示を下。正直指示に従ってくれるか分からず不安だったが、俺の不安は杞憂に終わり全員がキッチリ返事をして玉座の前まで来てくれた。
執事長兼《プレアデス》のリーダーであるセバスが先頭で、他の5人のメイドは彼の後ろで横一列となって跪いている。後ろの5人に視線を向けると、先程の所為か目線を逸らされてしまい悲しい気持ちになったが、それが顔に出ないようにしつつ彼らに話しかけた。
「お前たちに頼みたいことがあるのだが……構わないか?」
「もちろんで御座います、ハチマン様。我々は至高の御方々のために存在しております。そんな我々が至高の御方々の役に立つことができるのであれば、この上ない喜びに御座います」
「……(え? なにこれ? 忠誠心高すぎじゃね?)」
俺がそう聞くと、先頭にいたセバスがもちろんだと答えた。もしやと思い視線をセバスの後ろで並んでいるプレアデスにずらしてみると、プレアデスからもセバスと同じような気配を感じた。
もしかして、ナザリックにいるNPC全員がこんな感じなのか? だとしたらこれってハードモードすぎだろ! 俺はただのサラリーマンだからそんな畏まられるほどの存在じゃないんだが!?
……いや待て、落ち着くんだ俺! 今はそんなことではなくセバスたちに指示をしないと。こういうのって支配者風にしゃべった方がいいのか?
ん~……よくわからん。……いつも通りでいいか。変に偉ぶったり口調を変える方が、NPCたちの不評を買ってしまうかもしれないし。
「そ、そうか…分かった。 ——じゃあ、お前たちに命令をしようと思う」
俺がそう告げると、《プレアデス》全員の顔がさっきより引き締まった。その表情からは俺からの命令を「絶対に成功させる!」という強い意気込みが感じられた。そんなに張り切りすぎなくてもいいんだがとも思ったが、そんなことを一々気にしていても話が進まないため敢えてそこ無視して彼らに指示を出していった。
「まずセバスはソリュシャンを連れてナザリック地下大墳墓より半径1キロ圏内を捜索してくれ。何かを発見したらすぐに連絡をすること、特に知的生命体を見つけたときは絶対に、だ。そして発見したら出来るだけ友好的に接し、可能であればナザリックまで連れてきてくれ。相手が何かを欲した場合は余程のこと以外は受け入れろ。それと外で戦闘になったときは、どんな相手であれ撤退を優先で行動をして情報を持ち帰るんだ。……俺は、お前たちが傷つく姿を見たくはないからな。そして残りのプレアデスは、第九・第十階層で異変がないか一般メイドたちと共に調査してくれ。もちろんそっちも、何か異変を感じられたら直ぐに俺たちに報告してくれ。もし何もなく終わったら、そのまま警備についてほしい。後は……そうだ。階層守護たちに、『担当階層の調査』と『2時間後に第六階層の『闘技場/コロシアム』に集合して欲しい』ということを伝えて欲しい。……モモさんからは、他に何かありますか?」
「いいえ。問題ありませんよ」
「わかりました。——それじゃあお前たちは、俺が今言った通り行動を開始してくれ」
『はっ! かしこまりました!!』
力強く返事をした《プレアデス》は、俺からの指示を遂行すべく俺たちに頭を下げた後すぐに玉座の間を後にした。
俺たちはNPCたちがいなくなり緊張から解放されたことで、大きく溜め息を吐いた。
「「はぁ~……」」
「あ~、すっごい緊張しました。会社の圧迫面接思い出した……」
「お疲れ様です。…すいませんね、指示出しとか任せちゃって」
「いえいえ、気にしてませんよ。むしろ間違ってないか、内心ドキドキしてましたから」
モモさんは俺に任せっきりだったことに謝罪してきたが、俺はそんなの気にしていない。
モモさんは昔からこういうの気にする人だったからなぁ。まぁ、俺はそういうところもモモさんの長所だと思うが。
俺はそう思いつつ、2時間後までにどうするのかをモモさんへと問いかけた。
「あと2時間。いや、早めに行ってた方がいいから1時間半ぐらい、か。その間どうしますか?」
「そうですね……もし、ここが本当にユグドラシルの世界だとするなら、【アイテム】の確認や身体の動作確認、それに【魔法】もちゃんと発動するかどうかは今の内に確認しておきたいです」
「なるほど。確かに何かあって戦闘をしたときに、『何もできませでした』じゃ笑えませんからね」
それからの1時間は、モモさんと一緒に魔法やアイテムを調べるために費やした。昔はコンソールから【アイテム】や【魔法】などを出していたのでコンソールが出ない現状では確認するのに苦労したが、【アイテム】は虚空に手を入れる動作で出せることや【魔法】はポーズや声出し、念じたりすることで使うことが出来るようになるのがわかった。
因みに、【魔法】の使用方法については俺が先に発見したため、モモさんをビックリさせようと思い【伝言/メッセージ】で頭の中に直接話しかけた。結果としてはモモさんが凄くビックリしていたので企ては大成功だったのだが、お返しに【火玉弾/ファイヤーボール】を喰らわされた。…確かに悪かったと思うけど、いきなり魔法ぶっ放したのはどうかと思う。俺は耐久についてはペラいので、軽めの攻撃だとしても俺にとっては中々の威力なのだ(まぁ、装備のお陰でダメージ自体はほぼなかったけど)。
だが、それのお陰でフレンドリーファイアが有効であることがわかった。
とまぁ、そんなこんなである程度わかったから今度は闘技場で実践的な動きを確認するということで移動することになった。流石に『玉座の間』でやるわけにはいけないから、俺もこのことには賛成した(後は早めに第六階層に問題がないのかの確認もしたかったし)。
ただ、念のための保険として、安全か確かめておきたい場所が俺にはあった。
「すみませんがモモさん、先に行っていてくれませんか? 少し寄り道したい所があるので」
「? 別にいいですけど……どこに行くんですか?」
モモさんは俺の行く場所について聞いてきた。俺が行こうとしている所はモモさんにとっての『黒歴史』がある所なので、もし言ったら止められてしまうかもしれないので正直に言うとあまり言いたくはない。
だが、何も言わずに行くいうのは流石に悪いと思ったのと、その場所が安全にしろ危険にしろ俺が何かあって伝えられずに死んでしまう可能性もあるため、素直にモモさんに言うことにした。
「……『宝物殿』です」
「ぐふぅ!!」
俺がそう言うと、モモンガさんは悲鳴を上げながら胸(胸骨?)に手を当てて蹲った。そうするとモモさんの身体を緑色のオーラが包みこんだ。すると先程の悲惨な様子が嘘のようにすっと立ち上がった。
このオーラは【精神作用無効化】というスキルによるもので、モモンガさんの感情が一定以上高まると発動し精神を平坦なものへとするようだ。これも、さっきまでやっていたことの中で発見したことの一つである。
「な、何で…宝物殿に行くんですか……?」
「…アルベドやプレアデス、セバスは俺たちの言うことに忠実でしたが、他の皆が絶対にそうだとは言えません。だから、もしもの逃げ場所として先に確認しておきたいんです。『宝物殿』は俺たちにしか入ることが出来ませんから。それに……あそこにはモモンガさんが作ったパン―「ぐはぁ!?」——ド…って、ええっ!?」
モモさんが作ったNPCの名を言おうとしただけで、またモモさんは蹲って【精神作用無効化】が発動していた。
嘘だろ!? 名前言おうとしただけで【精神作用無効化】発動とか、どんだけあいつのこと黒歴史扱いしてんだこの人!?
「だ、大丈夫ですか? モモさん」
「え、ええ……、大丈夫です…。なんとか…」
「そ、そうですか……なら、いいんですが。…まぁ、今言ったことから俺は宝物殿に行くので第六階層には先に行っていてください。あっ、もちろん何かあったら直ぐに連絡くださいね? ——それと、今回は非常事態かつ時間がないので俺だけですが、今度行くときにはモモさんもちゃんと付いて来てくださいね。いくら『黒歴史』とはいえ、あいつはモモさんの子供みたいなもんなんですから」
「……わかりました。…パンドラには今度窺う、と言っておいてください」
俺がそう言うと、顔を逸らしながらも一応は了承の言葉を返してはくれた。
……そんなにも‶あれ″が嫌なら、書き直せば良かったのに。俺はそう思ったが、それは今更言ったところでどうにかなる話ではないので何も言わなかった。
「了解です。ではモモンガさん、また後で」
俺はモモンガさんにそう言い残し、《リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン》の力で『宝物殿』へと転移した。
——宝物殿
「さて、ここはいつも通りだな」
俺が転移した場所の周りには、山のように置かれた大量のユグドラシル金貨やアイテムがある。これらは俺たちアインズ・ウール・ゴウンが集めたものであり、中には自分で取ったのもあるが今はそんなのを気にせず奥の方にある闇のように真っ黒な扉の前まで行った。
「確か合言葉は……【かくて汝、全世界の栄光を我が物とし、暗き物は全て汝より離れ去るだろう】、だったか?」
合言葉を言うと、扉が消え去り更に奥へと続く通路が現れた。ほんとにこのギミックを作ったタブラさんたちは天才だと思う。俺だとこんなプログラムを組むことは出来ないからな。
そんなことを考えながら道を進むと、俺はお目当ての部屋に辿り着いた。ここが『宝物殿』において、特に重要な物(ワールドアイテムや個数制限のあるアイテムといったレアアイテム)を管理している場所である。
扉を開けて中に入ると、部屋の真ん中に置いてあるソファーに誰かが座っていた。その者も俺が来たことに気付いたようで、立ち上がるとこちらに身体を向いてきた。
それによりそいつの顔が見えたのだが———そいつの姿は‶俺″であった。
普通であれば目の前に自分と全く同じ姿をしている存在がいれば驚くことなのだろうが、俺は目の前にいる‶俺“の正体を知っているから驚くことなく話しかけた。
「まさか俺の姿で迎えてくれとはなぁ。————‶パンドラズ・アクター″」
そう言うと、俺の姿をした者は形がグニャグニャと変形していった。見る人が見れば恐怖映像なのだろうが、ゲームにおいて見慣れている俺にとっては特段何も感じなかった。そうして少しすると、‶俺の姿“をしていた者が、最終的には軍服を着た埴輪の顔の異形となって立っていた。
こいつこそがこの『宝物殿』を守る領域守護者であり、モモさんの手によって作成されたNPCの『パンドラズ・アクター』である(モモさん的には、『歩く黒歴史』とされている)。
「よぉうこそおいで下さいましたッ! 至高ぉぉぉの41人の一人であらせられる、ハ~ッチマン様ッ!!」
発音や動作がやけに大げさであるが、それはモモさんがそうあれと設定したものなのだ。『パンドラズ・アクター』を作成していた当時、モモさんは思春期に掛かる病である『中二病』を患っていた。その時のモモさんは、とあるアニメで出たキャラの動作・言葉を見て『カッコいい!!』と感動を受け、それらを全て自身のNPCであるパンドラの設定につぎ込んだのだ。それにより世間一般的には恥ずかしさを感じる動作を、真顔(ハニワ顔のため実際には分からない)で行うキャラとなってしまったのだ。
俺も初めて見た時は、思わず吹き出しそうになったほどだ。え? 失礼だって? じゃあ聞くけど、あのハニワ顔でキレッキレッの動作をしつつあの発音に加えて時々ドイツ語まで混ぜて話しかけてくるんだぞ? 笑うなって方が無理がある…!
まぁ、『中二病』を卒業した今のモモさんにとっては、恥ずかしい行動・言動を自分以外にも堂々と披露したがるパンドラは正に『歩く黒歴史』なのだ。
……話が逸れたな。見た感じ言動・行動ともに俺のよく知っているパンドラであり、今のところは敵意や殺意といったものも感じられない。俺は一応直ぐにでも応戦できるように覚悟をしつつ、パンドラに話しかけた。
「……その様子だと、お前は元気そうだな」
「もぉぉちろんですともッ!! 私はこの御方々が集めた多くア~イテムたちに囲まれているので、とても満足しておりますッ!! ……ただ、近頃我が創造主であるモモンガ様が来てくださらないことは、とても寂しく思います…」
あんなにテンションが高かったのに、モモさんの話になると先程までの勢いが嘘の様にどんどん言葉に力が無くなっていった。
……そういえば、モモさんここには長い間来てなかったからなぁ。自分の『黒歴史』を見たくないって言って、持ち出すのも預けるのも来てたのは俺だけだった。いくらアイテム好きという設定があるにしても、ここにずっと一人でいたら寂しくもなるだろう。
「大丈夫だパンドラ。モモさ……モモンガさんはお前のことを気にしていたし、今の事態が落ち着いたらお前に会いに行くとも言っていた」
「!! ——わぁぁかりましたッ!! このパンドラズ・アクター! その時を心待ちにさぁぁぁせていただきますッ!!」
俺が元気づけるためにそう言ったら、パンドラはまるで水を得た魚のように元気になっていった。パンドラの調子が戻ったことに俺が安堵していると、パンドラが
「……それより、『事態が落ち着いたら』とおっしゃられておられましたね。それにアイテムの出し入れでもないご様子……——もしや、何か問題でも起きたのですか?」
流石はモモンガさんが作った際に知恵者と設定されたNPC、言動・行動こそ道化師のように振舞ってはいるがかなり頭が回る。
これまでの会話において、パンドラは少なくとも俺やモモさんに対しては敵意がないことは確認できている。
……パンドラには話しておくか。こいつは現時点で信頼できる数少ないNPCだし、頭もいいから何かあったら相談にも乗ってくれそうだし。
そう判断した俺は、パンドラに今起きていることとここへ来た目的を話した。
※ハチマンが説明中
………
……
…
「——ってなわけだ」
「ふ~む、なるほど…。そのようなことが」
「ああ。そんなわけで、もしもの時はここを避難場所にさせてもらいたいんだが、構わないか?」
俺からの説明を受けて何やら考えている様子のパンドラにそう問うと、彼は一切の迷いなくOKだと答えてくれた。
「もぉぉちろんにございますッ! ハチマン様ッ!! 私は至高の御方々を守るためであれば、ぃぃ命を懸ける覚悟で御座いますッ!!」
「そうか…ありがとう。では、俺はモモさんとの約束があってそろそろ行かなきゃいけないからこれで失礼させてもらう」
「さようでございますか。それでは又のおぉぉぉ越しをお待ちしておりますッ!!」
「ああ。今度来るときは、モモさんも連れてくるからな」
俺はそう言って手を振った後に、《リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン》を使用してモモンガさんがいるであろう第6階層の『闘技場/コロシアム』へと転移した。
どうでしたか?
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それでは皆さん、さようなら!