欠片もエッチな要素はないので何のためのR-18タグなのか悩ましいです。
タイトル通りレイサが入ってからの、ある日のスイーツ部の出来事です。出来事という程に何かある話しではないですが。
ここに突っ込む形でいいか若干迷いましたが、ゴミクズ状態で転がっているレイサが回想してるイメージで見てもらえればと。
併せて章わけを行なったり、星屑イフの章にこちらも短いですがちょっとした会話文の話を追加したりしました。
──それはレイサがスイーツ部に入部して少しした頃の話。宇沢レイサスイーツ行列行脚も目前に迫ったある日の出来事だった。のである。
〇
「ナツ……あんたまた一人で何ぶつぶつ言ってんの?」
「ちょっと青春の一幕にナレーションをね」
「ふーん、それならみんなに聞こえる様にそんな隅に向けて話さなきゃいいのに」
「へ……?」
ぽかんと。いつもぼんやりとした表情の多いナツが目と口を丸くする。
「まあ、あんたの言うロマン的には"こっそり"っていうのも大事だったりするのか」
「…………」
「え!?何その顔、どうしたの?」
「いや、なんでもな〜い。それより私のこと呼びにきたんでしょ?」
「そうだった。レイサのあの件、話すことになったから」
「あぁ、あの件ね」
カズサの言葉にポンと手を打ち、話しかけていた──もとい水をやっていた部室の観葉植物から離れてテーブルへ向かう。
「あれぇ?私またなんかおかしかった?」
などと。どこかのネット小説の主人公の様なことをぼやきながら、カズサも後ろからついてくる。
杏山カズサは少し前から変わった。少し子供っぽくなって、かなり大人っぽくなった。アイリあたりはその変化をレイサとの仲が急接近したからと思っている様だが、ナツは少し違う原因だと感じていた。確証があるわけではないけれど。
とはいえ、決して悪い変化ではないと思う。一人で遠くに行ってしまいそうな危うさはあるけれど、自分たちやレイサとの繋がりを今まで以上に大切にしようという気持ちを度々感じるのだ。カズサの身に何があったのか、友人としてナツも気にならないわけではなかったが、彼女が自分から話してくれるまで待とうと考えている。
それよりも、今は新しく部活に加わったもう一人の友人についてだ。
「マイスプーン……ですか?」
マカロンを手に取っていたレイサはヨシミの言葉に小さく首を傾げた。
「そうよ。放課後スイーツ部の一員となった以上、あんたもスイーツ用の装備を整える必要があるわ」
びしりと指を突きつけられるレイサ。
装備、と言われてなるほどと頷いた。
このキヴォトスでは銃器を持ち歩かない住人はいない。それはこの都市で暮らす上で当たり前の必須の装備だ。誰に聞いてもそう答えるだろう。同じ様にスイーツを真剣に追い求めるのならばマイスプーンを持ち歩くことが必須である、そういうわけだ。
まだまだ自分は勉強不足だなぁとレイサは反省する。
「今度色々食べにお店を回るでしょ?その前に買っておくといいんじゃないかってみんなで話してたの」
ナツを連れてきたカズサが椅子に座りながらそう補足する。
「マイスプーンはいわば自分の魂の片割れ……山を歩く時の杖。眠る時の枕。雨の日の長靴。色々試しながら自分にあったものを探していくといい」
続いて席についたナツもしたり顔でそう言う。
「なるほど……やはり銃の様なものなのですね。なら真剣に、慎重に選ばねばいけませんね……」
むむむ、と眉を寄せるレイサにアイリが優しく笑いかける。
「あはは、そこまで重く考える必要はないと思うよ。あ、でもレイサちゃん銃も制服もかわいいしスプーンもお揃いみたいにしちゃうのもいいかも」
ふむふむと頷きながら、レイサはスイーツ部員たちの言葉をメモしていく。入部するにあたって新しく買ったスイーツ部用の手帳である。星やケーキ、黒猫のシールで表紙を飾った一品ものである。
「そういえば──」
メモを終えて顔を上げたところで、レイサは頭に浮かんでいた疑問を口にする
「皆さんのマイスプーンはどの様なものでしょうか?」
是非参考にできればと。
「見てみる?いいわよ」
ふふん、と鼻を鳴らしヨシミが懐から銀のマイスプーンを取り出す。ナツやアイリ、カズサもそれぞれ鞄やポケットに手を入れ自分のそれを手に取った。特に戸惑うことなく全員が取り出す辺り、やはり必須の装備らしい。
「私のはこれよ!」
ヨシミが掲げて見せたのはシンプルな、一枚の金属から形作られたものだった。持ち手の先端には可愛らしいプリンアラモードモチーフのキャラクターが象られ、反対側は切れ込みが入りすくうだけでなく突き刺すこともできる様になっていた。所謂フォークスプーンというやつである。
「おぉ……」
「マイスプーンって言ったけど、スイーツはフォークが欲しい場合も多いもの。こういうタイプが使い勝手いいのよ」
「音に聞こえし限定版の女王のスイーツ・ハンター……ふっ、私も久々に見た」
「限定版の女王!?スイーツ・ハンター!?」
ナツの心踊る言葉にレイサは前のめりになる。ヨシミはレイサの憧れの視線に満足げに微笑みながら「いずれあんたも知ることになるでしょうね……トリニティスイーツチャレンジ、その長く険しい戦いの舞台を」などといつになく気取った言葉を口にするのだった。
「ナーツー、あんたコイツが食いつくってわかって言ったでしょう」
声量ボリュームが壊れかけのレイサを呆れた目で見ながら、カズサが自分のスプーンを差し出す。
「ほら、私のはこんなの」
カズサのスプーンは柄がピンクに塗られたスプーンだった。こちらもおそらく一枚の金属板を成形したもの。ただ、ヨシミのものに比べるとその光沢は鈍い。使われている金属が違うのだろう。こちらは割れ目のないオーソドックスなスプーンで柄の先端部分にはKAZUSAと持ち主の名前が書かれていた。
「シンプルイズベスト、といった感じですね。あなたのものはフォークにはなっていないんですね」
「ん?まぁ、普段はお店のもの使うことが多いし」
それにフォークが必要なタイプって最悪フォークなくても食べれるじゃん、などと身も蓋もないことを言うカズサ。果たしてスイーツ部がそれでいいのだろうか。
「このスプーンには名前はないのですか?」
「え、ない。別にスプーンに名前はつけないよ」
「ええ!?だって杏山カズサ自分の銃には嬉々としもがぁ!?」
言いかけたレイサの口にテーブルの上にあったマカロンが突っ込まれる。
「そういう昔の話は禁止って言ってるでしょ!あーもう!」
もぐもぐ……ごくん。
「いいじゃないですか!かっこいいですよマビノギオン!そんな恥ずかしがること──」
「私は恥ずかしいの!ほら、もう一個。あーん」
黙らせる為に更なるマカロンが差し出される。つい反射的に開いてしまったレイサの口に追加のマカロンが放り込まれる。最近ちょくちょく繰り返されているカズサからレイサへの餌付けの成果だった。
「えーっと、私のスプーンはこれだよ」
カズサの話を先に進めて欲しい気配を察したのか、次はアイリがマイスプーンを差し出した。他二人に比べると大きめの円盤部。持ち手は別素材になっている。ツルツルとした見た目は陶器だろうか。アイリのパーソナルカラーになっているライトグリーンとブラウン、チョコミントの色に塗り分けられた、こちらもかわいらしいスプーンだ。
「私の場合は基本的にアイスを食べるのに使うからそれ用のスプーンなんだ」
「むぐ……なるほど、自分の得意分野に特化させるということですね。銃器選びもそういった側面はありますし……戦いへの考え方はスイーツも同じということですね」
「あー……うん、そうかな?そうかも」
今の気づきをメモするレイサに一度は首を傾げるも、間違ってはいないかとアイリは納得する様に頷いた。
「ちなみにこのスプーン持ち手がすごい握りやすくってね──」
ただ、やはりこだわったスプーンなのだろう。目を輝かせアイリはいつもより早口でスプーンの注目ポイントについて語って聞かせる。レイサがその度「なるほど!」「それはすごいです!」なんて調子のいいことを言うものだからいつも以上にアイリの話は白熱するのだった。
その様子をカズサはほほえましそうに眺め、ナツとヨシミはそんなカズサに溜息を吐くのだった。
「トリは私だね」
取り出したスプーンを体の後ろに隠し、楽しそうにナツが笑う。ヨシミとカズサはまたかと呆れ、アイリは少し困り眉であははと笑う。けれど期待に目を輝かせるレイサがいるならオーディエンスとしては十二分である。
「私のマイスプーンは──これだぁ!!」
ばばーん!とセルフ効果音をつけながら掲げられたナツのマイスプーン。それは──
「ってレンゲじゃない!?」
突っ込んだのはヨシミだった。
彼女の言う様にナツが手にしていたのは白い陶製のレンゲだった。ピンクの蓮の花と小鳥が描かれておりかわいらしい。ちょっと高級な中華料理店などで出てきそうな一品だ。
「レンゲだってスプーンと同じ様に使えるでしょ?それに中華のデザートなんかはレンゲで食べるものもあるし」
「それはそうだけど……えぇ……でもありかも?ありなの?ありかぁ……むしろ流行を作る可能性すら……う〜ん」
何やらヨシミは自分の中の何かと戦い葛藤しているようだった。
「また変えたんだね、スプーン」
「まあね、ちょうど昨日から。こいつが私の新しい相棒さ」
カズサの言葉に頷くとナツは得意げにくるりと手の中でレンゲを回して見せた。
不思議そうにしていたレイサにアイリが説明する。
「ナツちゃんは割と頻繁に持ち歩くスプーンを変えてるの。この前は木製のやつだったし、その前はまた別の……」
「えっと……それはいいんですか?」
スプーン選びとは銃選びに通ずる。そんな風に思っていたレイサは純粋な疑問をナツへぶつけてみる。
「そりゃいいとも。別にこれ一本!ってこだわって持ち歩かなきゃいけないなんて誰も決めてないんだから」
「た、確かに」
「もちろんこだわりの一本に全てを預けるのも自由だよ」
どちらでもいいんだよ、とナツは言う。
「それに私は未だ探求の途上。自分にとって何がいいと思えるのか、それを模索している最中なのさ」
顔の前でレンゲを構えてみせるナツにレイサはまたキラキラと尊敬の眼差しを送っていた。
「前にヨシミも言ってたけど話半分に聞いときなよ、レイサ」
溜息を吐きながらレイサに言い聞かせるカズサを見て、ナツは楽しげに笑う。
それに気づいてカズサが怪訝な表情を浮かべる。
「ん、どうしたの?」
「いやぁ、レイサが絡むと子供っぽくなるよなあって」
「はぁ?なにそれ……そんなことないでしょ」
「ふっふっふ〜さぁてどうかな?」
「……」
「は!?眠りについていた猛獣が目覚めようとしている……封印を破ろうというのかキャスパリーグ!」
半目になったカズサをナツが更に煽る。
ゴゴゴゴゴと、そんな音をアイリは聴いた気がした。
「ふーん、そう。ケンカを売ってるってことで──いいんだよね!」
笑顔で固定化されたまま、カズサがナツに飛び掛かる。
「くっ、力によって言論を封殺しようとも我らの権利は決して──」
「あんたは!いっぺん!痛い目みろ!!」
「杏山カズサ!!暴力はいけません!暴力はいけません!」
「うるさぁい!あんたに言われたくない奇襲自警団!!」
ドカンガシャンガランガチャンニャーン
ある意味いつものスイーツ部の光景。盾の下まで逃げ切り守りを固めるナツ。その上から押し潰そうと踏み付けの態勢を取るカズサ。カズサを後ろからはがいじめにするレイサ。騒がしくて馬鹿馬鹿しい、
全力でからかい、全力で抗い、全力で怒り、全力で笑う。
──あぁ、たとえいつか終わる日々だとしても。繰り返したこの青春が色褪せることは決してない。
小さく呟いたナツの言葉は今度は誰にも聞かれなかった。
〇
その後、無事自らのマイスプーンを購入したレイサはスプーンに『シャイニング☆スター』と名付け誇らしげに掲げ、毎日見せびらかされていたカズサは流石に辟易していたという。