今回はまたスイーツ部宇沢の日常を切り取った掌編になります。
今回は千切れたレイサの見る夢とでも思ってもらえれば。
もう一本掌編を挟んで4話に移れればなと思っています。
また、本編に関する細かな補足や余談などを活動報告でまとめてみたのでリンクを小説説明の欄に載せておきます。
補足というか妄想の書き足しというか。そんな感じです。
「う〜ん」
パジャマ姿で首を捻るレイサ。時刻は零時を過ぎ、いい加減寝るべき時間だ。とはいえ、普段遅い時間まで見回りを行ったり、その後に宿題に手をつけるレイサは意外と夜更かししがちだったりもする。その結果、時々授業でうっかり居眠りしてしまうこともあるのだけれど。
ただ、今回はいつもと夜更かしの理由は違う。
「う〜〜ん、私から皆さんに提供できるもの……むぬぬぬぬぅ」
いつの間にか上下逆さになりながら──この前制服姿でやっていたら杏山カズサに怒られた──レイサが唸り声を上げる理由、それは最近入部した放課後スイーツ部についての事だった。
新入部員であり、かつスイーツ初心者でもあるレイサは入部してからというもの常に教えられる立場にいる。カズサやアイリ、ナツにヨシミという他部員たちはみんな優しく、様々な手ほどきをレイサにしてくれる。それ自体は本当にありがたい。未だビギナーであるレイサはまず彼女たちから教えを受け、見て習うべきというのもわかる。
ただ──
「あ、ヨシミちゃん。前に本屋さんだった裏通りのところ新しいクレープ屋さんになっててね──」
「ねぇ、今週の雑誌に載ってたこのグレープワッフル面白そうじゃない?」
「あ、さっきお店で聞いたけど今年も百鬼夜行から出張店舗が──」
「みんな、アビドスに眠る芳醇な甘味の伝説を知っているかな?」
互いにスイーツの情報を持ち寄る部員たちの様子を思い出す。それぞれが自分なりのアンテナを持ち、日々新しい甘味の開拓に余念がない。放課後スイーツ部はそんな彼女たちが互いの情報を共有する場でもあった。
そんな中で唯一レイサだけがスイーツの情報を持ち寄れずにいた。
初心者なりに情報を集めればいいと思うものの、どうにもレイサの集めるスイーツの情報はパッとしない。彼女たちのように自信を持ってこれをと言うことができない。レイサの部屋には付箋の貼られた雑誌が何冊か置かれているが、それも今のところ全て『自習』で終わっている。
何故だろうかとレイサは逆さまの頭を捻る。
雑誌で紹介されているスイーツ店。通りで限定セールの大きな看板を掲げるドーナツ屋。これはどうだろうか、そう思うものはあるけれど、どうしても部室で口にすることができなかった。楽しげにここがいい、あれは美味しいに違いないなんて話を弾ませるみんなを見ていると、なんとなく自分の調べた内容がひどく薄っぺらくつまらないものに思えてしまうのだ。
「私が初心者だからなのでしょうか?けれど……」
いつまでもこのままというわけにはいかないだろう。
部活は楽しい。みんなで食べるスイーツは普段の何倍も美味しい。
だからこそ、レイサは放課後スイーツ部の一員と胸を張って言えるようにならなければならないのだ。
体の向きを元に戻し部屋の雑誌をペラペラとめくる。紹介されてるフルーツタルトやショートケーキも決して悪いものではないと思う。なのにどうしてこうもピンと来ないのだろう。部活のあの場で、「私も──」と言い出せないのは何故なのだろう。
「うぬぅ〜〜」
唇を突き出して唸る。
別にスイーツの新情報を持ってこれたから一人前と言えるものでもないだろう。それでも、まずはそこからできればとレイサは考えていた。
付箋を貼ったページを一つ一つ確認していく。
「みなさん知ってそうな情報なのがよくないのかも……」
ポツリと口にしてみた言葉は思いの外納得感があった。考えてみればレイサの得られた情報は有名な雑誌やSNSで紹介されるような、少し調べればわかるものばかりだ。あのスイーツ通たちが見逃すとも思えない。思い返してみれば、この雑誌の内容を言おうとした時にも「けど、これくらいの情報はみんな知っているだろうし」という考えが頭をよぎって口を閉じてしまっていた。
あの場で気づいていたのに忘れてしまっていただなんて。自分の間抜けっぷりに溜息を吐く。
原因は察しがついた。けれど、だとして、ならばどうすればいいのだろうか。
「スイーツ部のみなさんが知らないようなスイーツの情報なんて……それこそどうやって調べたらいいのでしょう」
眉をハの字にして雑誌を閉じる。ここに書いてある情報ではおそらくダメなのだ。
「誰も知らないスイーツ……誰も知らない情報……私だけが知ってる……お菓子……」
頭の中を小さなレイサが必死で駆け回る。何か、何か手段は、あるいは情報はないか。途中で眠気と戦ったり、杏山カズサとのパトロールの約束を思い返したり、あっちこっちを行ったり来たりしながらも答えを模索する。
「あ…………」
十分ほどポーズや表情を変えながら唸っていたレイサの脳裏にふと過ぎるものがあった。
「あそこなら……!いや、でもスイーツではない気がしますし……どうなのかな……うーん……」
なのに、思いついてまた悩む。
結局レイサの唸り声は太陽が昇る直前、レイサがそのまま寝落ちてしまうまで続くのだった。
◯
「杏山カズサこんにちはぁ……」
「なんか妙に眠そうだけど、どうしたの?」
部活へ行く前、軽い見回りの為に合流したカズサに怪訝な顔をされた。
「いえ、少し考え事をしてたら……寝不足で」
「……ふーん。ちょっと仮眠とったら?」
レイサの言葉に一度自分の髪をいじってから、カズサが提案する。
「え、でもこの後パトロールして部活ですし……」
「二十分くらい寝るだけでも結構変わるんだよ?ほら、こっち来て」
何か言い返す前に手を引かれる。どうしようと迷ってる間にやってきたのは公園のベンチだった。
「えっと……」
レイサと向き合うようにベンチに座ったカズサが自身の膝を叩いてみせる。
「ほら、ここならあんた寝慣れてるでしょ?時間になったら起こしてあげるから」
「え?いや、慣れてるって……そんなこと……え?」
当たり前のように言われて、おかしいのは自分なのかとレイサは戸惑う。彼女は何を言ってるのだろう。だってこのままベンチに横になればレイサの頭はカズサの太ももの上に乗るわけで──
「そうやって迷ってるだけ時間の無駄なんだから、ほーら」
もう一度自分の足を叩いて促すカズサ。
「けど、そしたら、その……ひ、膝……まく……」
目をぐるぐると回し始めたレイサに剛を煮やしたカズサが一瞬立ち上がる。
「あーもう!細かいことは気にしない!」
細かくはないと思う。なんて言う暇もなく。カズサの足がブレたかと思うとバランスが崩れレイサの体がグルンと傾く。
「へ!?」
空中で横になるレイサの体をカズサの両手が捕える。
「え?」
何が起きたかレイサが思い至る頃には、カズサの膝の上に頭を乗せてベンチの上で横になっていた。
「……きょ、杏山カズサ!?」
「ほら、眠いんでしょ?このまま寝れば……」
「あ、いや、その!」
横向きなので頬と耳にタイツの生地とその下の柔らかな感触を感じる。ではなくて──
「りゅ、リュックを……下ろしても、いいですか?」
「あ……」
言われて気づいたのかカズサが気の抜けるような間抜けな声を漏らす。
結局、ワタワタと一度起き上がって背負っていたリュックを下ろし、抵抗するのも無駄と悟って半ば流されるままに大人しくカズサの膝の上に頭を乗せて横になるのだった。
「……何か悩んでるの?」
横になると途端に眠気が襲い、ウトウトとし始めたレイサの耳にカズサの声がかすかに聞こえた。カズサの顔は上を向いたまま。話しかけたのではなく、独り言のようなものだったのかもしれない。
ただ、聞こえたので答えないと、と。
「私……もっと、ちゃんと……スイーツ部として…………」
けれど、眠気で曖昧な頭のままではそこまで口にするのが限界で。レイサの意識は途切れた。
「……」
スースーと寝息を立て始めたレイサの、サラサラとした髪を丁寧に撫でながらカズサはぼんやりとその横顔を見つめていた。
「スイーツ部には私のわがままで入ってもらったようなもんだもんね……」
普段の彼女と少し違う声音。憂いの浮かんだ顔は、ともすれば彼女の今の年齢よりずっと年上の様にも見える。
「あの時の事、後悔なんてしてない、けど……そのせいであんたが悩む様な事があるなら……」
「むにゃ……きょうやまかずさぁ〜……これすっごくおいしいですね〜〜」
レイサの口から溢れた寝言に優しげな笑みを浮かべた。ひどく切なそうな、大切なものを眺める表情。
「もう少し……せめてもう少しだけ……こうして……」
夢の中に浸るレイサの頭を壊れ物に触れる様に撫でる。強く吹いた風がカズサの髪を靡かせその顔を隠す。ほんの少し、カズサは深く俯いて。
カズサがレイサを起こしたのはそれから二十分と少し経ってからだった。
◯
パトロールを問題なく終え二人は放課後スイーツ部へ。
カズサのおかげで眠気も解消されたレイサの挨拶のキレは戻っていた。
「こんにちはぁ!!」
「あ、レイサちゃん、カズサちゃん。こんにちは」
「今日もパトロール?レイサはともかくカズサがこんなに続くなんて意外よねー」
「トリニティの平和を守ってくれてる二人に感謝のスイーツを用意しておいたよ」
部室で出迎えてくれたアイリ、ヨシミ、ナツたち。彼女たちがテーブルの上に置かれたスイーツの箱を持ち上げて見せる。それは可愛らしいキャラクターの描かれたあるスイーツ店のものだった。
「あ、それって!」
数日前、話題に上っていたワッフルのお店のものだとレイサはすぐに気づく。カズサも驚いた様に目を見開いた。
「あそこ、今話題になってるし販売数も少ないから買うの大変って話なのに。よく買えたね」
「我々には限定品の女王がついていたからね」
「ま、学校終わって速攻で並びに行ったからね。これくらい余裕よ」
「二人ともパトロール頑張ってるから、なら私たちでその間にカズサちゃんが気になってたスイーツを買っておいて驚かせようって」
「アイリ……ありがとう」
「ちょっと!なんでアイリ限定なのよ!私たちも買ったんですけど!?」
「あ、ごめんごめん。ナツとヨシミもありがとね」
「礼には及ばぬさ。封印されし魔獣が正義の騎獣キャスパリーグになって騎士と共に駆けることへのこちらからのお礼だよ」
「ッ、あんたは……!どうしてそうやって!毎度茶化して……!」
部室の隅で格闘を始めたカズサとナツ。二人の乱闘にも反応せずレイサは机の上のワッフルを見つめ黙りこくっていた。
「レイサちゃん、どうしたの?」
「あ、ぁ……」
「もしかしてワッフル苦手とか?」
不審がって顔を覗き込んだアイリとヨシミ。
「ありがとうございます!!!」
そんな二人の鼓膜が破けそうになる。
「わっ!?」
「み、耳!?耳がぁ……耳がぁ……!」
あまりの大声にカズサとナツも争う動きを止めレイサを見る。
その頬は赤く染まり、瞳はキラキラと輝いている。
「私、あの!本当に嬉しくて!!すっごい、すっごい嬉しいです!」
なんだろう。胸がキュッとなる。けれど、それは決して嫌な感覚ではなくて。こんな大袈裟に感動する様なことではないのかもしれない。けれど、レイサは嬉しさで胸がいっぱいになって。気持ちを抑えられなくなっていた。
「っ声量調整!!」
「あ、あう……ごめんなさい」
耳を抑えて目を回していたヨシミに同量の声をぶつけられハッと我に帰る。
「まぁまぁ、こんなに喜んでくれたんだから、よかったよね」
アイリがとりなしてくれてホッとする。
「せっかくアイリたちが買ってきてくれたんだもんね。こんなことしてないで早速食べよう」
ナツに馬乗りになっていたカズサがひょいと立ち上がりポットの側へいきコーヒーを淹れ始める。
「味は3種類だったから好きなの選んでね」
ナツもそそくさと起き上がりカップを並べてカズサを手伝い始める。
レイサは机の上を軽く片してスペースを空けて。アイリやナツは食器を用意する。
ただそれだけの事が、どうしてこうも楽しく感じられるのか。これからみんなで食べる ワッフルを想像するだけで既に口の中が幸せになっている。
「ワッフルの中にちっちゃい紫の粒みたいなのが練り込まれてるね」
「こっちは赤っぽいやつだ」
「あ、このソースをかけるんだよ。こっちも味に合わせて3種類」
「ソースにも何か入ってるね。キラキラ光ってて見てるだけでワクワクしてくる」
「あ、そっちのソース残ってるならちょっとちょうだい。別の味にも合わせてみたい」
「すっごく甘いのに後味がスッキリ……ワッフルでこんな風に感じたの初めてかも」
「コーヒーはもっとさっぱりしたやつがあうかもね」
だから。
みんなでこうしてスイーツを味わう中で、レイサは思い切って昨日の夜考えていた事を口にすることにした。ここが新しい自分の居場所なら、怖がらず勇気を出してみるべきなのだと。
「あ、あのっ!実はスイーツ……かは自信ないのですが、お菓子のことでみなさんに紹介したいところが──」
◯
部室でみんなでワッフルを味わってから明けて翌日。
放課後スイーツ部の五人はトリニティ郊外を歩いていた。先導するのは珍しくレイサ。
「レイサ嬢のオススメスポット、楽しみだね」
茶化す様にナツが言うと途端にレイサは不安になってしまう。
「お、オススメ……と言われるとちょっと自信がなくなってしまうのですが」
「別に自信なんて持たなくてもいいわよ。トリニティのお菓子スポットで私たちも知らない場所なんてそうないんだから」
ヨシミの言葉にホッとして、同時にまた不安にもなる。スイーツ部の誰も知らないのではないかと思ってはいたが、とはいえ真新しさがあるかと言われれば微妙な気もする。
昨日はあんなに勇気が湧いていたのに。一日経つとあっという間に不安が上回ってしまった。普段の自警団任務の中ではこんな風に感じることもないのに。
「けど、なんだかどんどん雰囲気が……」
「レイサ、こっちってもうほぼ完全にスラム街じゃん。本当に方向あってる?」
周囲の雰囲気に不安そうにするアイリ。怪訝そうな顔で尋ねるカズサ。
「はい、こっちであってます。あんまり治安が良い場所でないのは確かですが……このルートならよほどの事がない限り危険もないはずなので……」
「おい、そこのテメェら。金持ってそうじゃねーか?ちょっとアタシらにも小遣いわけてくれよ」
「あー……」
言ったそばから。
わかりやすい改造制服にマスクのスケバンが飛び出してきた。
「フラグってやつだね」
「あんたたちなんかに渡すお小遣いはないわよ!」
「ヨシミちゃん、そんな最初から喧嘩腰にならなくても」
「ダメだよアイリ。この手のやつはちょっと丁寧に話してやるだけで相手のことを舐めてくるから」
「最近はパトロールも念入りにしてたのにぃ……いえ、他の人を襲う前にここで会えたのが好都合と考えるべきですね」
ガックリの肩を落とし、それから気持ちを切り替え愛銃シューティング☆スターを構えて顔を上げる。
「みなさん、こんなことになってごめんなさい。ひとまずここは自警団の私たちが──」
「何言ってんのよ。喧嘩を売られたのは私たち放課後スイーツ部でしょ?」
「うん、力になれるかわからないけど、私だって協力するよ」
「ここはこれから私たちスイーツ団のシマになると教えてやらなければね、そうだろう?」
「なんで私に振るの……?まぁ、でもそういうこと。変な気なんてきかせる必要ないから、全員でさっさと片付けよう」
各々自分の銃を構えてレイサに並ぶ。それが堪らなく心強くて、昨日と同じ様な嬉しさが溢れてきて。
自警団としてなら、彼女たちを巻き込むべきではないのだろう。けれど、放課後スイーツ部の宇沢レイサとしてなら。
「……はい!」
「お前ら何ごちゃごちゃと──」
苛立った不良がガンを飛ばしてみせる。
──が、絶好調となったレイサと仲間たちの暴れっぷりにろくに抵抗する間も無く吹き飛ばされていくのだった。
「すいません、スズミさん。ありがとうございます!」
「いえ、レイサさんこそ部活動の最中だったのでしょうに、ご苦労様です。あとは私が」
「はい!よろしくお願いします」
「部活、楽しんできてください」
「はい!!」
不良たちを制圧後、レイサが連絡して来てもらったスズミに後を任せてようやく先に進む。
「そこの角を曲がって……」
それから数分で目的地に到着した。
「ここが……」
「おぉ……トリニティの、それもこの時代にこの佇まい。ついエモいと言いたくなる雰囲気だ」
そこは寂れた小さな駄菓子屋だった。看板はなくトタン壁。建物の横には大きな木が一本、その下にこれまたひどく古びたベンチ。
「駄菓子屋だって割とリサーチはしてるつもりだったけど……流石にここは知らなかった」
「うん、ナツちゃんもだよね」
「うん、トリニティの甘味を扱う店は調べ尽くしたと思ってたけど……私もまだまだだったらしい」
驚き、物珍しそうに駄菓子屋を眺める部員たちの反応にレイサの口元がつい緩んでしまう。どうやら不安に思う必要はなかったらしい。
「さぁ、さっそく中に入りましょう!おばちゃぁん!!!」
いつもより二割増くらいの声量で引き戸を開いて声をかける。
「その声は、レイサちゃんかい?」
出迎えてくれたのはモフモフとした毛並みのおばあさん。レイサが小さな頃からこの店をやっていて、その頃からちっとも姿が変わらない。
「はい!お久しぶりです!!」
「久しぶりって程でもないだろうに……おや、珍しい。今日はお友達も一緒なのかい?」
レイサの後から店内に入って来たカズサたちに気付き、そう尋ねるおばあさん。
「お、おじゃましまーす」
「おじゃましますってアイリ」
「いやでも言いたくなる気持ちはわかるなぁ」
「こういうとこ初めてなんだけど……なんで懐かしいって思うんだろうね」
キョロキョロと興味深そうに店内を見て回る四人。お友達、と人に言われるとなんだかむず痒くなる。けれどそれ以上にやっぱり嬉しくて。
「……はい!!そうなんです!」
「そうかい、そうかい。女子高生のお口にあうかわからないけど好きなの買ってっておくれ。レイサちゃんのお友達ならサービスしてあげるよ」
「ありがとうございます!」
みんなを代表してアイリが頭を下げる。
そうしてスイーツ部の駄菓子屋探索が始まった。
「あ、これちっちゃい頃に食べたことある。まだあったんだ……」
「今もちっちゃいでしょ……って暴れない暴れない!」
「あ、これってゼリーズのグミじゃない?」
「待ってアイリ、それゼリーズじゃなくて
「え、あ!?」
「この手のパチモン商品まだ生き残っていたのか……」
「杏山カズサ!これ!これオススメです!!」
「これってアイス……に似せたお菓子か。あったねこんなの」
「レイサちゃん!それにチョコミント味はある!?」
「え、ど、どうでしょう……?」
「あるよー。棚の奥の方だけど」
「!!!」
「アイリの目が輝き出した」
「あ、ココアシガレット。しかもこのデザイン昔のやつじゃん。確保〜」
「あ、こっちにもペロロのパチモンシール……いや、これは本物ペロロだ」
「麩菓子とラムネも買ってー、駄菓子屋で大人買いする背徳感ヤバいなぁ」
ワイワイと。狭い店内を所狭しと並ぶ駄菓子やおもちゃを一つ一つ見ては盛り上がるスイーツ部。レイサはその度、これはどんな味がした。こちらも一緒に買うのがオススメだ。それはこうやって食べると楽しい。こんな思い出がある、など様々な話をした。
「はい、まいどありー。たくさん買ってくれてありがとうね」
「今日はありがとうございます」
「また来ますねー」
「それではお元気で!!」
袋いっぱいの駄菓子を抱えて店を後にするスイーツ部。
「いやぁ、まだ見ぬ未知の甘味がこんなところにあるとはねぇ」
「未知っていうか、懐かしいって感じだけど。ってかナツあんたベーゴマまで買ったの?」
「ふっふっふっ、その内大会を開くから楽しみにしてるといい」
楽しげに今日の戦果を語り合うスイーツ部。
「あの!よければ、瓶ラムネだけでも……ここで飲んでいきませんか?」
そんな四人にレイサは店前の古ぼけたベンチを指差し、そう提案してみた。
「お〜いいねぇ」
真っ先に乗ったのがナツ。
「わぁ、なんか雰囲気あるよね」
アイリがそれに続いて、ハンカチを敷いてベンチに座り、
「私も小さい頃、こういうお店の前で友達と集まって駄菓子食べたなぁ」
ヨシミがベンチのすぐ横にしゃがみ。
「ヨシミ……その座り方は、ちょっとガラ悪くない?」
ラムネを取り出して配りながらカズサが呆れて。
「ほら、レイサちゃんもここ」
アイリが自分の隣を叩いてみせる。
「は、はい」
三人で座るにはベンチは少し狭くって、けれど体を寄せ合って座るのが楽しい。
「では、この古き良き駄菓子屋にかんぱーい」
「「「「かんぱーい」」」」
いつもならナツの大仰な言い回しにツッコミを入れるメンバーも乗っかって、それがおかしくってみんなでクスクス笑う。
ひんやりとしたラムネが喉を潤す。ここにくる前にひと暴れしているからか、いつもよりずっと美味しく感じる。
「けど、レイサちゃんここのお店の事本当に好きなんだね。どのお菓子についてもたくさん話してくれて」
隣に座るアイリがそう言って笑いかけた。
「あ、その……しつこかったらすいません。なんだか、舞い上がっちゃって」
「そんな事ないよ。それに放課後スイーツ部は自分の好きなものを探したり、みんなに教えたり、楽しんだり、そういう場所なんだから」
「……自分の、好きなもの」
アイリの言葉を繰り返す。それはずっとレイサが探していた何かに思えて。
「自分が美味しいって思ったスイーツはみんなにも知って欲しいでしょ」
「面白そうだなぁって思った甘味は食べに行きたいよね」
「自分一人だと気づかないスイーツもあるしね」
「思ったものと違ったり、ひどい目に遭うこともあるけど……それも含めて楽しめばいいんだよ」
「あ……」
その言葉がストンとレイサの中のモヤモヤとしていた穴をピッタリと埋めた。自分に感じていた至らなさ。足りなかったもの。
あの部室でスイーツの情報を持ち寄るみんながキラキラと見えた理由。
誰も知らない情報だとか、新しい話題だとか、重要なのはそこではなくって。
自分が好きなもので。どれだけ美味しいだろうと期待するもので。みんなにも教えて、話して、一緒に食べてみたいもので。
みんなで食べたワッフル。隣に並んで戦ってくれたこと。駄菓子屋での会話。気づかせてくれる場面は何度もあったのに。面と向かってアイリに言われてようやくレイサは理解する。本当に。自分の間抜けっぷりに笑いが込み上げて来てしまう。
「そっか……そうだったんですね。ふふ、あはは!」
笑いが止まらない。少しだけ、目尻に涙が滲む。きっとみんなびっくりしてる。
けれど込み上げてくる、この喜びを抑えることができなくて。
今日、気づかぬ間に自分も彼女たちと同じ事ができていたのだと。それが嬉しくって。
あぁ、今度からはもっと自信を持って名乗ろう。
自分は自警団兼放課後スイーツ部所属の宇沢レイサなのだと。
甘くて幸せな思いにレイサは笑う。
◯
ほんの少し、蛇足の二人。
駄菓子屋の一件から数日後。そろそろ日常となりつつある二人でのパトロールの最中。
「そうだ、杏山カズサ」
見回りもほぼ終わりというところで、レイサが思い出したように声を上げた。
「どうしたの?」
横を歩いていたカズサがレイサの顔を覗き込む。
「いえ、改めてお礼を言っていなかったなと。私を放課後スイーツ部に誘ってくれてありがとうございます」
「え?」
思わぬ言葉にポカンと口を開ける。
レイサはそんなカズサの様子に気づかない様に言葉を続けていた。
「きっとあなたが誘ってくれなければ私は部活に入ろうなんて考えなかったでしょう。けれど、あの日のあなたのお陰で今、毎日がすごく楽しいんです!」
屈託のない笑みがカズサに向けられる。
「だから、改めてありがとっ!?」
言いかけたレイサの体が突然抱き寄せられる。
「ふぇ?え!?」
気づけばレイサの体はカズサの腕の中にあった。
「本当に?本当に……部に入ってよかったって思ってくれてる……?」
いつもと少し違う声音。触れれば割れてしまいそうな、カズサの囁く声。
「放課後スイーツ部に入って……楽しいって……」
私の都合で引き入れて、本当は嫌だったって、後から後悔してるなんて、そんな事は本当にない?
カズサがそこまで口にする事はない。そんな事はできない。
ただ、怯えるようなその鼓動が伝わったから。
「大丈夫ですよ、杏山カズサ。スイーツ部に入れて私はとっても嬉しいです。あなたがあの日手を引いてくれたお陰なんです。あなたが私にくれたものです」
あやすように、その頭を撫でる。
理由はわからないけれど、彼女の不安が少しでもなくなるように。
「ありがとうございます、杏山カズサ」
だからそんなに怯えないで。
パトロールの最中のほんの僅かな時間。
そんなこともあったという、些細な話。
蛇足の二人。