色々悩んでいましたがようやく書き出し始められました。
ひとまず今週中にこちら含めて掌編を二本更新しますです。
その後5話更新の予定です。
「そろそろ利子だけで五十億飛んで九千万。果たして君たちに返せる金額かね」
「じゅうお……っ!?ま、待ってくださいそんな金額っ!先週までは……!!」
「何言ってるのさ。あれからまた水もガスも電気も使っただろう?その分も当然借金になるとも。君は今あの百夜堂の建物設備全てを私から借りている状態なのだから」
「──っ」
こちらを嘲るような大人の視線に私は唇を噛み締めた。あんな、あんなめちゃくちゃな詐欺に引っ掛けられるなんて。それであっさりとシズコ委員長が大切に守ってきた百夜堂のお店を騙し取られるなんて。
情けなくて、悔しくて、涙をこぼしそうになる。けれど、泣いてはダメだ。目の前の詐欺師はそうやって私が苦しむのを見て楽しんでいるのだから。
自治区がどんどんおかしくなっていって、まともな商売がどんどん難しくなっていって。私が大好きなお祭りもそのあり方が金儲けと人を貶める欲望にまみれた醜い形へ変えられていって。それでも、シズコ部長はお店を守っていったのに。それなのに、私は……。
「さて、返済期限が今日なのだがぁ……?」
くつくつと喉の奥で笑いながら言葉の端を引き延ばす。すでに何度も繰り返されたやりとりだ。非常に屈辱的なのに私の口は慣れてしまったようにいつもの言葉を繰り返す。
「今は、まだ、お金が用意できてないんです。お願いします、返済猶予をどうか引き延ばしていただけないでしょうか」
深く、頭を下げる。
震えそうになる全身に力を入れて押さえつける。今の私にはそうする他ないのだ。詐欺同然、いや、陰陽部か連邦生徒会が機能していれば到底許されないような契約でも、力でも。
そして、人を探す為にも。
私には今目の前の大人に頭を下げる以外の選択肢はない。
「そうかそうか。そうまで真摯な態度を取られると私も心が痛いがこれもルールでね。かわいそうだからとタダで見逃すこともできないのだよ。わかるかい?」
「……ッ」
じっと頭を下げる私に何度も聞かされた理屈を投げかける。ここで何を言おうと無駄だ。それを私は幾度も繰り返されたこの引き延ばしの交渉で学ばさせられていた。
「だが、私とて鬼ではない。なんとか君の助けになる方法を考えた。君ももうよく知っているだろう。君に残された資本、君自身に対する権利を購入することで今週の利子分の返済と認めようじゃないか」
何度聞かされても怖気が走る。僅かに揺れた視界に重ねた私自身の手が映る。その甲には椿の花を模した刺青が刻まれていた。それは一月前の権利の販売によって刻みつけられたものだった。
「寛大な提案に心から感謝いたします」
こんなもの、私をいたぶるための遊びなんだ。遊びに付き合って莫大な額の借金がチャラになるなら安いものだ。必死に自分に言い聞かせて声の平静を保つ。そして自分から売る権利を口にする。
「私の体の一部に、墨を入れる権利を……お売りいたします」
ひどく粘ついた視線が体に絡みつくのを感じた。そうしてまた、私の体に消せない証が刻まれることとなった。
◯
眩しいライトの下、一糸纏わぬ格好で私は寝かされていた。お腹を上にした仰向けの姿勢。最近また少し大きくなってきた胸にも、伸ばされた腕や脚にも、右目の下にもあの大人に刻まれた証が既に残されている。絡まり合うような黒い蔦、どこか怪しい花の意匠。
うつ伏せになればそちらも同様だ。
一箇所二箇所ならおしゃれと言うこともできただろう。けれど、私の体中に描かれたものはそんな生やさしいものでは無かった。決して拭い落とせない男のラクガキが私の体中に踊っていた。温泉なんてもっての他、もう二度と知り合いに肌を見せることなどできない。
それが既に幾度も繰り返された返済猶予の引き延ばしの結果だった。
特に顔に墨を入れられた時は周囲への誤魔化しに苦労した。ちょっと気分転換のフェイスペイントなのだと、そんな説明に一体何人のお客様が納得したのか。
嫌な事ばかり思い出していると、その嫌な思い出の元凶が無造作に私の下腹部に手を置いた。
「ここだ。今日はここに入れる」
ゾワリと。これまで感じたことのない程の怖気が背筋を走った。もう、何度も繰り返してきたはずなのに、グッと押し込まれるその手のひらを全力で振り払いたい衝動に駆られる。だが、私を取り巻くあらゆる事情がそれを許さない。
いつもと同じように機械と針が私の横に並べられていく。一般的な刺青の入れ方にも詳しくはないけれど、彼の作業はとにかく道具が多く、随分と時間がかかっていると思う。そして、その分痛みに耐える時間も長い。
「────っ!」
ツっ、と肌を貫かれその下に炭が流し込まれる感覚に奥歯を噛み締める。へそ下、無防備な急所に何度も何度も針が突き刺さる。本来なら異物の入る余地の無いはずの場所が他人の手によって侵されていく。
彼はひと刺し毎に細かく機械を操作しながら丁寧に丁寧に私の体へ刻印を刻んでいく。この男が何故こんな事で借金の猶予を引き延ばしてくれるのかわからない。私の体に何か執着してるのか、人体に刺青を掘ることに興奮を覚えているのか、もっと別の意味があるのか。けれど、その理由がなんであれ私はこの長く続く痛みにじっと耐えるしかないのだ。耐えて、耐えて、耐えて。いなくなった彼女を見つけて、お店を取り戻す方法を見つけて。それで──それから──。
痛みが思考を邪魔する。下腹部に響く痛みは月毎に訪れるそれともまた違い、嫌な汗が額を流れる。私の内側に別の誰かの意思が注ぎ込まれていくような、悍ましい感覚は痛みをより鋭敏にした。針が刺されるたび、そのさらに奥にあるだろう臓器を意識させられた。女であれば誰もが持つ。その場所を丁寧に浮き彫りにされていくような。叫びだしたくなる衝動を必死で噛みしめる。腹の上、皮膚を這う指の感触を必死で無視しようとする。
嫌で、嫌で、なんとか他のことを考えようと必死になる。店の売上、嫌がらせを繰り返す悪質な客。運営権を取り上げられたお祭り。見つからない級友。明日への不安。思い浮かぶのはそんな心を萎えさせる暗い内容ばかり。それでも、自分の体が変えられていくような悍ましさを感じ続けるよりはほんの少しだけマシだった。
ふと、卒業の直前に社長と話したことを思い出した。
「お店はこれからあなたのものになるけれど、いい、一つだけ忘れないで」
シズコ社長は何を言ったのだっけ?
私はそれになんと答えたのだっけ?
痛みがうるさくてうまく思い出せない。けど、何か大切な言葉だったような。なのに、社長の声も、顔もなんでか乱れた映像のように上手く脳裏に思い浮かべられない。
結局、施術中私はずっと記憶をたぐり続けて、けれど結局思い出すことはできなかった。
◯
「さあ、できたぞ」
裸で大きな姿見の前に立たされる。
これも、借金返済の引き延ばしにあたっていつも行われる行為の一工程だった。自分で見るだけに飽き足らず、こうして私に自分の体を直視させるのだ。その様子を見てまた笑い声を上げる。
本当に悪趣味だった。
「ほら、今回は特に力作だ。見たまえ、この形!わかるだろう?」
それは桃の花のように見えた。この男が私に刻むのはいつも花や植物をモチーフとしていた。花のついた枝が左右に伸びその先端に花をつけている。枝の付け根は奇妙に捩れ絡まるように三角形に近い輪を描く。それは。中に何かを収めるように空間が空いていて。つまり──。
「────────っ」
気持ち悪い。そんな感情を見せるだけ負けなのだ。私は舌を噛んで表情が動きそうになるのを堪える。何事もないような顔をして、なんとか呼吸を整えて。
「それでは、今回の返済はこれで終わりましたね。少し肌寒いのでそろそろ服を──」
言いかけた私の方に男の手が置かれる。まるで、自分のものにそうするように私の意思など無視したひどく乱暴な手つきで私の体を引き止める。
「いや、ダメだ。今日から君は私の所有物だ。これからは許可なく衣服を着ることを禁ずる」
「────は、何を言い出すんですか急に」
咄嗟で、つい突き放すような強い言葉がこぼれてしまう。だが、彼はそんなことを気にすることもなく、いつもの気持ち悪い笑い声をだす。
「君の体に刻んだ十ニの刺青。これで全ての契約書が完成した。君の体の全ての機能、使用の権限は私のものとなった」
意味不明な言葉を吐く男の手が痛いほど私の肩に食い込んでいる。
「なんだ、まだ何もわからないのか。なら、教えてあげよう。その刺青は一種の電子コードにもなっている。きちんと会社間の契約などでも使われる正式なものだ」
そう言って、おもむろに携帯を取り出すとそのカメラを私の下腹部に向ける。嫌悪感で咄嗟にその手を突き放そうと思ったのに、体が動かない。ピッと読み込みを知らせる電子音が鳴り、その画面が私に向けられる。
『第十条 一項 私、里浜ウミカはこの文書が刻まれた腹部に備わった臓器の占有権を◯◯様に譲渡する事に同意します。また、膣や子宮、尿道を用いた性的行為、卵巣の排卵、受精、着床、妊娠、出産とそれによって誕生した子供に対しても◯◯様が権利を所有するものとし、同意なくこれらの権利を侵害した場合には第一条十四項及び第三条二項及び第二十二条八項に基づき罰則を受けるものとします』
つらつらと並ぶ文言の、そこまで読むのが限界だった。
「なんですか、これ……」
「何って、これまで君の体に刻んできた契約文の一部だよ。全部読むかい?契約書だからね、きちんと細部まで読む事を薦めるよ。最もこの文言を君の体に記すことが既にサイン代わりになっているわけだが……」
「そんなふざけた事がっ!!!」
「ふざけちゃいないさ。むしろ君は今までどうして刺青を刻むだけで利子を帳消しにしてもらえるか不思議に思わなかったのかい?」
「っ!」
「ああ、いや。確かに君の体は美しく魅力的だ。私の作品として飾りつけることができるなら億支払おうと安いものだ。けれど、それだけで終わらせる程私は人が良くないんだよ」
何も言えなかった。
いや、何も言う気になれなかったのか。
そんな私の体を男の手が、無遠慮に撫で回す。
「……」
「うんうん、思ったとおりの手触りだ。やはり色艶も理想的だ。私の墨がよく映える」
こんな契約なんて無効だ。あり得ない。一方的に提示されただけで私は同意なんてしていない。許されない。許されていいはずがない。
なのに……なのにどうして体が動かないんだ。
「それは、ご主人様の扱う墨にはナノマシンが含まれていて、今ウミカの体はそのマシンに制御されているからデース」
「え……?」
聞き覚えのある声が脳内の疑問に答えを返した。立て続けの驚愕に頭の中が真っ白になる。だって、そんなはずない。ずっと、ずっと行方不明で。ずっと探していて、その協力を求めた事がこの男の詐欺にかかる理由になって。けど、それでも契約に沿って捜索が今も行われているはずで。なのに、なんで!!!
「フィーナ!!!」
感情を取り繕う事などもうできなかった。
顔を向けた先に立っていたのは変わらぬ無邪気な笑みを浮かべたお祭り運営委員会の一員、朝比奈フィーナだった。
表情も声も変わらない。けれど、その身に纏うのは透けて全身の肌の見えるベビードールの様な衣装だけで。その布越しには私以上にたくさんの刺青がひどく淫に踊っていた。
「騙していたんですか!!」
私は今度こそ肩を掴む手を振り解いて男を睨む。そんな私をニヤニヤと眺めながら彼は答えた。
「いいやぁ、騙してなんかいないさ。君の要請どうり我々も百鬼夜行のお祭り運営委員会所属の朝日奈フィーナは探していたとも」
「嘘をつかないで!だった、彼女は……!」
「おい、お前はなんだ?」
「はい、フィーナはご主人様の所有物。学籍も姓名も既に売却済みのご主人様のフィーナです」
「……」
「と言う事だ。やはり君の探している百鬼夜行の朝日奈フィーナはここにはいないらしい」
意味がわからなかった。
「大丈夫ですよ、ウミカ。ウミカもご主人様の作品としてもっと磨いていただければ自然とどうするのが正しいか理解できる様になりマスよ」
なにか、甘い匂いをさせながらフィーナが私を慰める様に抱きしめる。
されるがまま、その体温を薄い布越しに感じた。
「だって、ウミカの胸もちょっと大きくなってきてますよね?」
「……え?」
何を
「ああ、そいつがさっき言ったが君に掘った刺青には極上のナノマシンが含まれている。それらは私が設定した理想の体に近づく様に昼夜君の体を作り替えている」
「え……?」
「肌艶、張り具合はほぼ手を入れる必要はないが肉付きはもっと男好きする感じにしなければならないからね。まずは胸と尻を優先して大きくしてるんだ。ああ心配しなくていいよ、寝て起きたら体が変わり果ててるなんてそんな可哀想な事にはならない。何より情緒がないだろう?君はこれから少しづつ少しづつ私がデザインした通りの体になっていくるだ」
何を
言葉の意味が
理解
したくない
「思考や好みもほんの少し調整するがそこは基本的に君の個性を尊重してる。何よりそう言った君らしさまで壊してしまっては作品として台無しになってしまうからねぇ」
「……」
「ただ、塞ぎ込みすぎると体に毒だろうし、少し脳内物質などはいじってもいいかもしれないね。加減はわかってる。怖がる必要はないよ」
私の胸を揉みながら男が何か言っている。
「それに、おめでとう!君が私の所有物になったからね。借金も帳消しだよ。君に纏わる権利は人権含め私のものだ。そう言ったものを所有していない君にはそもそも借金はできない。よかったねぇ、私も嬉しいよ」
太ももを撫でられる。気持ち悪いのに、抵抗する意思が湧いてこない。
「百夜堂も潰さないから安心してくれ。あのお店と込みで君は私の作品となるからね。きっと過去最高の作品になるよ。君の体も百夜堂も少しづつ少しづつ整えていって、より美しく、淫で、けれど純情な、そんな作品にしてあげるからねぇ」
男の手が私の下腹部に移る。彫られたばかりの刺青を撫で回して、その下に指を伸ばす。
「そうして、君が最高の作品として完成した暁にはこの処女をオークションに出品しよう。偉大な芸術作品だ。きっと今までのどんな美術品より値がつくようなそんな処女に作ってあげよう」
どうして
どうして私は
フィーナはうれしそうに
そんなわたしをみてる
どうして
「嬉しいだろう?なら笑いなさい」
なにか 言われてる
「笑いなさい。笑え」
どうしてだろう
かおが、うごいて くちのかたちが
かわって
「うん、素敵な笑顔だ。百夜堂を初めて訪れた時、私を迎えてくれたのと同じ笑顔。その顔のまま、全身を淫に作りかえる事ができればそのコントラストは万人を魅了する!間違いない!!!」
そうして。
そうして里浜ウミカはご主人様の作品となりました。
◯
二日目。
朝起きるたび自分の体が変わっていくように思える。それまでは意識もしない程度の、もしかしたら少し胸が大きくなったかもと気づいたくらいの些細な変化だ。けれど、明確にご主人様に作り変えられていっていると自覚してからは、目覚めるたび自分の胸もお尻もどんどん大きく膨らんでいるように思えて、それが恐ろしい。毎朝義務付けられてる姿見での自分の体の確認をすれば、体型の変わり始めた私の体があの日より増えた刺青に彩られてそこにあった。
研磨時間。そう呼ばれる時間にご主人様の手により揉まれ、擦られ刺激され続けている胸が外気の流れに反応して微かにピリリとした感覚を覚える。研磨の度胸に塗られるオイルのせいだろうか、ここのところどんどん体が敏感になっている気がする。「胸でイケるのももうすぐだね」ご主人様はそんなふうに言っていた。その言葉を理解したくなかった。
◯
五日目。
明らかに大きくなっている体の一部。それは私の身長や体型にはやや不釣り合いに思える。ご主人様はしきりにそれらを揉んでどんどん美しくなっているねと褒めてくれるけれど、私にはあまりその感覚がわからない。今の研磨はお尻が中心になっていて、胸に刺激を受けた状態でご主人様が丁寧に私のお尻を磨いていく。胸の刺激で気持ちいいのか、お尻を触られて気持ちいいのか、私にはもう区別がつかなくなってしまった。昨日は穴の中に指を入れられてイッてしまって、「明日からは胸の刺激なしで気持ちよくなっていこう」とご主人様に頭を撫でてもらった。
◯
七日目。
少しずつ重くなってきた胸や尻のせいで少し体を動かすのが億劫に感じられる。「今より大きくすると君の魅力を損ねてしまうからね」との事で私の体はこれ以上は大きくならないらしい。その言葉にホッとした……きっと、ホッとしたはずだ。
最近は喉を使った奉仕の勉強をしている。最初は息をすることもできなくてとても苦しく嫌なだけだったけれど、最近は喉の奥を突かれる感覚が腰のあたりを疼かせる様になっていた。お尻や、胸の快感に連動させる形でいつの間にか私の口や喉はそれだけで快楽を得られる性感帯に変わり始めている。食事の度内腿を擦らせるようになった私に気づいたご主人様に命じられ、最近は大勢の人に見られながらの食事を摂る様になった。ご主人様が彫った入墨がよく見えるよう当然裸だ。理由は、よくわからなかった。ただ、何かを口にして、飲み込む度その唇や喉元に大勢の視線が突き刺さるのを感じ、またお腹の奥が疼いてしまった。いずれ私は食事を摂るだけで絶頂する体になるのだろうと、そんな予感を覚えた。
◯
十日目。
ご主人様に百夜堂へ連れていってもらった。まだ改築の最中だと言うけれど、左右に大きな棟が増設され、お店の大きさはこれまでの3倍以上になったのでは無いかと思えた。ご主人様に「いずれはまたここで働かせてあげよう」と言われて様々な感情がよぎったけれどそれよりも嬉しさが勝っている事に驚いた。私は、また百夜堂をやれる事が嬉しかった。ただ、周囲のお店たちが撤去されているのが申し訳なかった。きっとご主人様が買い取って立ち退きをさせたのだと思うけれど。隣が百夜堂だからそんな目にあったのかと思うと、なんてお詫びすればいいかわからなかった。「先に少し実地研修をしていこう」そう言われてお店の中に連れて行かれた私は大きく内装の変わった店内の奥、キラキラと眩しい浴場で全身を使ってご主人様に奉仕した。試験も兼ねていた様で六十三点とやや苦しい点数だった。これからはもっと厳しくしていくからなと言われて愛液が止まらなくなってしまった。
◯
十二日目。
今日はお客を取る練習だと言ってご主人様以外の方に奉仕することになった。やってこられたのは百夜堂の近所のお店の方々。あの大きな増築のためにお店を潰された人たちだった。彼らは一様に私に憎悪の視線を向けて、私のせいでどれだけ自分たちが苦しめられたか、どれだけ私が愚かだったのかを怒鳴りつけた。ご近所付き合いとして、すれ違えば笑顔で挨拶をして、時には新メニューや企画の相談も受けてくれた彼らが顔を歪め私を罵るのが恐ろしかった。何度も何度も罵倒されその度に額を地面に擦り付けた。万一の事がない様にと私の下半身には固い貞操帯で覆われていた。私の処女はご主人様の作品でいずれは正式な場でオークションにかけられる。ここでそれを散らすことは許されていなかった。だから私はそれ以外の私の体の全てを使って彼らにお詫びしなければならなかった。それからほぼ一日中彼らに奉仕を続け、私は私がこの世で最も愚かで、この体を楽しんでもらう事以外に存在価値のないものなのだと強く自覚した。
◯
あれから、沢山ご主人様に手を加えていただいて。お店を大きくしていただいて。オークションでは過去最高額を出していただいて。
それから。それから。
なんだかとても長い時間が過ぎた気がします。私は今も百夜堂の店主をしています。卒業してしまった社長から継いだお店を今も守っています。
男をいきり立たせる匂い。喘ぐ声と水音の絶えない百夜堂に、今日もお客様がやってきました。
「い、いらっしゃいませ……淫靡なる夢の館『百夜堂』へようこ、そ……」
いつか、ずっと昔に見た覚えのある狐耳が横切って。懐かしい誰かが通り抜けて。
私。なんだか、
胸が
軽く
あぁ
ごめんなさい、社長。