夢のような、現のような。
もしかしたらあったのかもしれない会話。
戦いの前には口上が必要だ。何と戦うのか。何故戦うのか。たとえそれすら定かでなかったとしても。
"ソレ"は語る。
これより迎え撃つべき脅威のほんの一片を物語る。
〇
人は自ら禁じたものを求める感情があります。
誰もが抱くささやかな願望です。
禁忌故に特別な行為。許されぬからこそ試したいという好奇心。それは遥か太古の神話より描かれ、今なお物語のモチーフにもされる普遍的なテクストです。
その中には様々な禁忌がありますが、特に普遍性の高いものが"壊す"という行為です。
おや、あまり物語としては馴染みはない?確かに。一見すると既存の物語でこれを主題としたものはあまり無いように感じられるでしょう。ですが、日常の中でこれ程にわかりやすい禁忌は存在しない。
街中で何かを壊すこと。
あるいは人を壊すこと。
──そして、ルールを壊すこと。
どうでしょうか。こういう解釈をしてみると数多の禁忌を破る物語にも壊すという概念を 当てはめられるのではないでしょうか。
即ち、禁忌を破るという行為そのものが壊す行いなのだと。
そういうこった!
おっと失礼。前置きが長くなりました。
本題はここから。ひとりの少女がおりました。
ごくごく普通の、無垢で可愛らしい学生です。しかし彼女は悲惨な事件に巻き込まれ、その身も心も穢されてしまう。痛ましい事件です。しかし少女は壊れた自分を肯定します。そして自分が壊れたように他者を壊してしまおうと考えるのです。
……悲しい話ですがここまでならよくある怪談話です。被害者が加害者となる。子供たちの間で密やかに囁かれ、やがて忘れ去られたでしょう。
ですが、ここに一つのモチーフを与えます。
よりカリチュアライズした形を与える。そう解釈!これも一つの解釈なのです!先生!
そういうこった!
それは破滅を予兆する凶星、そして願いを叶える流れ星。星は常に様々に特別なモチーフとして人々に扱われてきました。即ち、破壊の願いを叶える流れ星。願い諸共世界と燃える"星屑"!!
明快な形。願いを叶えるという役割。名が与えられたのです。
私は最初にささやかな願望と言いました。ですがそれ故にその願望は世の中の至る所に溢れている。彼女はそれを束ねるアイコン、アイドル……あるいは文字通り"スター"となったのです!
そういうこった!!
と、失礼。いつも以上に長々とお話してしまいました。これは本来我々とは別の者たちが仕掛けるアプローチ、そして非常に稀有な例故、つい口が回ってしまいました。
そう、彼女は生徒"だった"のです。
果たして"生徒"を辞めてしまった彼女に"先生"ができることはあるのでしょうか。今回のテクストでどう解釈すべきか、これも興味深いモチーフです。
彼女こそは囁かれ、求められ、願われる破壊の兆星。星屑レイサ。
先生、どうか彼の星に願い燃やされぬようご注意を。
〇
「虚像」と「非実在」の長口上をじっと聞いていた彼はしばらく目を瞑った後に言葉を返した。
"それでも彼女は私の生徒だよ。だった、なんて言うことは許さない。たとえ今どういう姿になっていようと彼女は私の生徒だ"
言葉を聞いた額縁の中の後ろ向きの紳士は納得してみせる。
「なるほど、あなたはそう解釈するのですね先生」
それはどこまでも平行線の、大人たちの会話だった。
戦いはもうすぐ目の前まで迫っていた。