グッドラック、じゃないんだよなぁ…。
激励とも、冷やかしともつかない友人からの軽口に、真冬は小さく息を吐く。
羽流の口癖なんだろうか?
作戦会議もなにもあったもんじゃない。女に誘われて手を出さない男なんかいるわけないってさ。そりゃいるでしょうよ。他に相手がいるだとか、単に私が好みじゃないってことは往々にして考えられる。なにより、体の関係をもつなんて事、簡単に考えて良いはずがない。
「ねぇ、清水くん? 今日は…さ? 私の家…来ない?」
簡単に、考えて良いはずがないんだけど。
私も年頃って奴なのかな。
本当に彼への好意だけ?
尽きない性への興味を全く否定できないまま、それでもと、もうこのままじゃいたくなかった。
たった一歩の勇気でいい。それだけで、変わる世界は確かにあった。
あの時にだって出来たんだ。今の私に出来ないなんて事はない。
いつまでも彼に甘えていられないから。この先も一緒に居たいって願うなら、どうしたって越えなきゃいけない一線だ。
失敗したっていい。
ううん、ダメだったってしょうが無い。
ただの失恋。それはきっと、珍しい話じゃ全然なくて、ありふれた恋物語の一つってだけ。それでいい。何もしないままじゃ物語にもならないから。
私はヒロインで、私だけの恋物語の主人公。
これも厨二病かな? でも、正気じゃ こんなことやってられないもん。
足りない勇気の代わりに、余った羞恥心を燃料に使えばこうもなる。
いつもはやれない大胆な事も、今なら勢いで出来てしまいそうだった。
「えと、ん…良いのか?」
「うん。いつもお世話になりっぱなしだし…その、ちょっと良いお菓子あるんだ。お母さんが仕事先で貰ってきてくれてね? だから、その、一緒に食べよ? それから…二人で宿題してさ…後は…。あ、用事とかある?」
「いや、ない…ないけど」
「そっか…」
後は、なんだろう? 何をしたら良いんだろう?
これは所謂お家デートって奴だ。
そのくらいの自覚はある。
ただ、世のカップルたちが家に集まって何をしてるかなんてのは、まるで想像がつかなかった。
いや、嘘だ。
一つだけ、確かに分かる事はある。
男の子と女の子。年頃の二人が部屋で二人きりってなれば、そこに興味を向けるなって方が無理だろう。全部が全部、全員が全員とまでは言わないでも、私達にとってはもう、無縁の話じゃないはずだ。
ほら、だってさ。
私に誘われた時の彼の横顔。その頬が赤らむのに気づいてしまった。
今日まで良く隠せてきたもんだ。今まで通り、手を繋いで歩くのだって躊躇わなかったのに。二人きりを意識させただけで、こんなに素直になってくれるなら、もっと早く言えばよかったと思う。
「いらっしゃい」と「お邪魔します」
それがいつか「ただいま」と「おかえりなさい」に変わる日はくるのかな?
少し緊張した様子の清水くんを部屋に案内しながらも、取り留めのない妄想が私の頭の中を占めていた。結婚の二文字。それに対する実感はまだまだ遠い。
自分で思っているよりも、私は悪い子だったみたいだ。
ううん、そうじゃなくても、実りそうな初恋にはしゃいでしまっている幼さはきっとある。
たった一時の恋愛感情を運命だと信じたりして。本当に、私は清水くんの彼女で良いんだろうか? 自信なんかない。口約束すらしていないんだ。私の早とちりだって言われたら、それ以上に恥ずかしいことなんか無いだろう。
二人で宿題をしてる時だって上の空だ。いつもなら、すらすら解ける程度の問題にすら躓いて、見かねた清水くんに手伝ってもらう始末。
「どうした? なんか調子悪い?」
「ううん。ちょっと…二人っきりで、緊張してる…のかも?」
「あっ…。ああ、うん。そうだな、こういう時って、皆どうしてるんだろうな?」
「どうって…そんな。お家でできることなんて、二人で動画見たりとか、じゃないの? 後はゲームとか、モンスター…なんとかだっけ? なんか人気あるって、怪獣とたたかう…みたいなの? やってみる?」
「あれ、スマホ版なんかあったかな。とりあえずさ、宿題も終わったし。お菓子食べようぜ? 良いのあるんだろ? ちょっと楽しみだったんだ。その間に調べてみるよ」
「ふふっ。なにそれ、清水くんの食いしん坊。うん、ちょっとまってて…」
他愛のない会話だとは思う。
けど、二人とも意識して、そこには触れないようにしていた空気もあった。
サクッとした軽い食感。舌に蕩ける優しい甘さ。
口内に広がるバターの風味が鼻から抜けて、小さな幸せを噛みしめる。
「お、美味い美味い。いいなこれ、クッキーなんてそんな変わらないと思ってたけど、美味いなこれ。おお、うん…美味い」
「ふふっ…。食レポ、下手っぴだね? さっきから美味いしか言ってないよ?」
「良いだろ、美味いんだから。ほら、北見も食べろって、じゃないと俺が食い辛い」
「いいよ、清水くんが食べちゃって…。私は、うん。見てるだけでお腹一杯だもん」
「…もしかして、小動物扱いされてるか、俺?」
「口元…気にしてから言ったら?」
ほとんど無意識だった。彼の口元に残っていたクッキーの欠片に指を伸ばして、それから…そこで、正気に戻ってしまったんだ。
「…」
「…」
見つめ合って、頬を染めて、何も出来ずに目を逸らす。よくある恋愛もののお話だったなら、このままひょいっと、クッキーの欠片を私が食べていたはずだ。
にっこりと微笑んで、余裕のある女の子アピールをしてさ。
でも、私達に出来たのは「ごめん」とか「悪い」って、曖昧な態度でその場をやり過ごす事だけだった。
居た堪れない。
恥ずかしさに顔から火が出そう。
今すぐこの場から逃げ出したくっても、自分の部屋以上に安心できる場所なんかない。思わずベットの方へ流れた視線が、今まで考えないようにしていた事を思い起こさせる。
「あ…あのねっ、しみず、くん…その、さっ…!」
今しかない。と思えば我慢なんか出来なかった。
というか、こんな焦れったいままで居る方が辛い。手持ち無沙汰に 二人で怪獣退治を始めるなんて まっぴらだ。
懸念はある。だってもう好きじゃんって、思い当たる節はいくらもあるのに、言葉にしてくれない彼の態度に不安は残る。
胸がドキドキして、息が詰まりそうで、喉に引っかかった言葉を強引に押し出してしまえば、後はもう止まらなかった。
「私っ、今日っ…! お母さん、お仕事だって、夜…誰も居なくって。だから、そのっ、あ、えっと…! なんて、いうか…ね?」
途切れ途切れの言葉は、音量だってバラバラだ。
感情ばっかりが先行してしまい、自分でだって、何が言いたいのかわからなくなる。
「あっ、そうだっ。これっ! これ…みてっ。みて、ください…」
そうして、ワタワタと取り出したスマホを彼に前に突き出してみせた。
画面に表示させたアプリは、女の子の体調を管理するためのもの。それによれば、今日は大丈夫な日だと太鼓判が押されている。
「おまっ…北見、ちょっと、落ち着けって…これ。自分が何言ってんのか、わかってるのか?」
「わかってる…うん、わかってる、つもり。そりゃ、冷静じゃないかもだけど。正気だったら…こんな事、さ? 清水くんだって…こうなるかなって、ちょっとは…ね?」
「そりゃ…まぁ、考えなかったって言ったら、嘘だけど…。でもさっ!」
「ううんっ、良い。そう思ってくれてただけでも…私は、うん。嬉しい…から」
良かった。
心底そう思う。
一番最初の難関。実は女の子として見られてないんじゃないかって不安。
電車での事は、ただ刺激に反応しちゃっただけ。今までの事だって、ただの親切で。全部私の勘違いだったっていう、一番つまらない終わり方だけはなくなった。
「あのさ…。あの時の電車でのこと、清水くん、本当に忘れちゃった? 私は…私には、無理だよ。だって、あんなのさ…ちょっと思い出しただけで、変な気分になるんだもん。やっちゃったの…私。ごめんなさいっ! 悪いって、ダメだって、分かってたんだけど。清水くんに触られた時の事思い出してたら、なんか我慢できなくって。気持ちよかったんだ。初めてだったんだよ。あんな、あんな風に、自分の体がなるなんて、全然知らなかったの。自分で触ってみた時はこんなんじゃなかったのに…」
だから、結局、何が言いたいの?
そんなの知らない。私に聞かないで。
胸の奥に押し込んでた言葉を ただ吐き出しているだけ。
今まで言いたくて、一つも言えなかった事を口に出したら こうもなるでしょ。
エッチしたい。
当然だ。
好きな人の一番になりたいって、大切にされたいって思って何が悪いの?
だって、初めてなんだもん。上手な誘い方なんて分かるわけない。ここに来るまででも、いっぱい いっぱい だったのに、これ以上を私に求められても困るんだ。
「落ち着けって北見。とりあえず、とりあえずな? お前が、俺を、その…オカズにしたのは分かったから。そこは、謝らなくて良い。それは、うん。俺も一緒で、お互い様だから。俺の方こそ、勝手に、悪かったって言うか」
彼の告白は、私にとっての福音だった。
女の子として見て貰えていただけじゃなく。夜のお供にまで選んでくれて。
少し、自信が付いた。ううん、調子に乗っちゃったって言い換えて良い。
「忘れるなんて、やっぱ無理だよな。思い出さないようにすればするほどさ、気にしちゃうってあると思うし。実際に、俺もそうだったから…。お前の顔見る度思い出しそうになって。反応しないようにするの、すっげー大変だったんだぜ? だから、まぁ、なんていうか…オナニーくらい、女子でもするよなって、いいたくって、だから…ぁ」
彼が何を言っていたのか、正直ほとんど聞こえていなかった。
躊躇いがちな言葉のほとんどは、私の心音に掻き消され、それを聞き返すよりも、これから先の行為に気が向いて仕方がない。
「清水くん…あのっ、あのねっ…もう一個、見て欲しいのが…あるんだ」
ぐいっと、彼にスマホを押し付けた私は、空いた手で自分の服に指を掛けた。
1つ、2つと、上から順に制服のボタンを外し、開けた胸元を大きくしながら、上着の袖から腕を抜いていく。
肌は白く、それらしい筋肉も見られない。
貧相かと言われればそうでもないし、女の子らしい体の曲線もちゃんとある。
ただ華奢なだけ。外で遊ぶより、部屋の隅で本を読んでいるうちに、そういった成長とはすっかり無縁になっていた私の体。
不安だった。
こんな私の体でも、彼は喜んでくれるんだろうか?
ブラウスを脱いだ後。晒した肌の上、着け慣れないブラジャーの心地に意識が向いてしまう。淡い緑を白いレースで飾った下着。可愛らしいピンクのリボンなんか、如何にも女の子らしい装いで、私一人じゃ絶対に着けるような代物じゃない。
いわゆる勝負下着。
それは、今まで私が避けてきた、誰かに見られる事を意識した下着だった。
それを自分から着けることになるなんて、思っても見なかったな。
今日1日中ドキドキだ。ブラウスから透けて見えないか? なにかの拍子でスカートから覗けてしまわないか? 見られて、からかわれたりしたらどうしよう?
それに何より。
彼の視線が、いつも以上に気になってしまう。
綺麗って、可愛いって、思ってくれるかな。ううん、そんな曖昧な言葉じゃなくって、エッチだって、彼好みの女の子になれているのかどうか。私の事を魅力的に思ってくれるかどうか、そればっかりが気がかりだった。
そのまま、立ち上がった私は、スカートのホックにまで指をかける。
すっと、衣擦れの音が響く中、ふわり、足元でスカートが広がった。
体を隠すのは、新調したブラジャーと、まだ真新しさの残るショーツだけ。
見せつけるように両腕を後ろに回した途端、彼の視線が私の下着に突き刺さる。
「あ、あははっ…。ご、ごめんね…急に、こんな、変なの見せられても清水くん、困っちゃうよね…。でも、もしさ…ちょっとでも、ね? 良いなって、思ってくれたら、私は…うん…えと」
変じゃない、変なんかじゃない。
そう言ってやりたい清水の口は、なのにいつまでたっても動かない。
言ってしまえば感動か。同級生の下着姿を見て、打ち震えている自分がいるのも確か。これがもし、初めて見た女子の下着姿だったとしたら、この場で鼻血を噴いていたかもしれない自信はある。
まだ、小さい頃。男も女もなかった頃。お互いの下着や、裸を見たって何にも思わなかった。それがいつしか恥ずかしいと思うようになり、事故であっても見る機会が減る頃には、ラッキースケベなんて単語は漫画の世界の中だけになっていた。
少年誌のグラビアアイドル。
そこから進んで、ネットで見つけたエロ画像。
そういったものにトキメキを感じる健全な男子の清水にとって、同級生の下着姿。
いや、もっと身近な、好意を寄せていた女子の下着姿は、あんまりにも刺激的に映った。
どういう下着を着けているんだろう?
想像していたよりも、女の子を思わせる配色に目が奪われた。それは、普段の落ち着いた彼女の印象とはガラリと変わる。
むしろそれがいい。
ああ、もうなんだったらさ。黒だとか、赤だとか。そういう分かりやすい下着を想像していた自分がガキっぽくて、急に恥ずかしくなってくるくらいだ。
「ね? 清水くん…?」
「え、あ、な、なんだ? どうした…北見?」
「いや、ちがくて…。何も言ってくれないから、その、やっぱり、ダメだよね、こんなの。私なんかの、下着見せられたってさ…」
ぎゅっと、耐えるように北見が自分の体を抱き直した。
その瞳に溢れ出したものを見つけた俺は、ようやくと、自分が何も言ってやれてない事に気づく。
「あ、ちが。いや…その、ごめん。あんまり綺麗でさ、すごく似合ってる、うん」
「…ほんとに?」
「ホントだってっ。俺が北見に嘘ついたこと…」
「あるよ。この間、寝坊したじゃん…。一緒に学校行こうって言ってたのも清水くんなのに」
「うっ、あ…」
そこを責められたら ぐぅの音も出ない。
しかし、それでもだ。彼女の下着姿に見惚れたのは間違いなく、どうにか信じて欲しい俺に出来たのは、その場で立ち上がる事。勃起し、ズボンを押し上げる自分のモノを見せつける。そんな情けない態度しか思いつけなかった。
「うっ、あっ…へ、あ、それ…清水、くんの、なんで…そんな」
真っ赤に染まる北見の顔。それを見れただけでも、恥を偲んだ かいはあった。
「なんでってさ、証拠。見れば分かるだろ、こんなの…」
「こんなのって…。だって、それ…。別に、私じゃなくたって、エッチな本とかでも、なるんでしょう?」
「なるけど。今一番エッチなのって…北見の、その、裸だろ?」
「…わかんないよ、そんなの。だって、わたし…女の子、だし…」
強情だな。いつもの北見なら曖昧にでも「うん」て、頷いて誤魔化していただろうに。もう、引くに引けないのか。あんな風に肌を晒してまで、俺に何もされなかったってなると、そりゃ辛いだろう。
せめて、触れてやるべきなんだろうか?
キスくらいなら許されるのか?
触れて、キスをして、そこから先、果たして俺に我慢が効くのかどうか。
心臓の鼓動がヤバい。股間のモノははち切れそうで、先走りだって滲み始めているくらいだ。
その細い肩を捕まえた途端、彼女の肩がビクッと跳ねる。
抵抗なんかなかった。そのまま顔を寄せていくと、慌てたように目を閉じた北見が可愛らしい。自分から顔を持ち上げて、差し出された唇は引き結ばれたまま、ガチガチに緊張しているのが伝わってくる。
「大丈夫だよ、北見。ちょっと、ちゅってさ、軽くするだけだから」
「う、うん…」
頭を撫でて、髪を梳いて、頬を撫でた。
北見が落ち着くまで続けていてもいい。ふるふると、震えている彼女を見ているだけでも、少し意地悪な気分にだってなってくる。
ちゅっ…。
でも、結局。我慢が出来なかったのは俺の方。
気づいた時にはもう、唇を触れさせていた。少し水気のある感触。しっとりとしていて、ふっくらとしていて。何よりも、彼女と俺の体温が唇から通い合うだけで、溶けていくような心地よさに包まれる。
離したくない。
離れたくないと思っていて欲しい。
ぷつんっ。
理性が途切れるのは分かっていた。それでも尚、彼女を求めた俺は、言い訳できる立場ではいられない。北見が誘ってきたんじゃないかって。流石にそれでは情けなさ過ぎる。彼女がここまでしてくれたんなら、此処から先は俺がどうにかしてやりたい。
「ベッド…使っていいか?」
「うん…」
しかしだ。俺にも経験があるわけじゃない。
出来た気遣いはこの程度。先に彼女の心配をしろよって今更思っても、聞き直すのだってバツが悪い。
良いのか? 本当に良いのか? 触っても大丈夫なのか?
内心は童貞丸出しだ。
ベッドの上で横たわる彼女を前に、深く息を吸い込んだ。常とは違う少女の香りが鼻腔をくすぐり、俺の興奮が煽られる。それを態度に出さないためには、押し黙る以外の選択肢なんかない。
見下ろして、見上げられて、見つめ合って、目を逸らされた。
恥ずかしさに耐えるように、丸まった指が顔に横に置かれている。
形の良い胸の膨らみを俺の前に晒したまま、それでも北見は隠そうとすらしなかった。
そっと、ブラの上から彼女の膨らみに触れてみる。
それは、電車で触れた時よりも確かな女性を伝えてきて、俺の興奮は一段と高まった。想像していたのとも まるで違う。思い返した時より生々しい。
制服越しより近くに感じる彼女の体温。大きく上下する胸の内側から、トクンっと、胸の鼓動が伝ってくると、俺の心臓までざわついてくる。
「なんか、さ? ちょっと意外だった」
「ぇ? いがいって…。ぁ、わたしから、誘ったこと?」
「いや。まあ、それもなんだけど。下着がさ、なんていうか、清水っぽくないって…言い方悪いな、これ。えと、ああ…。もうちょっと、大人しいの着けてるのかなって、勝手に思ってたから俺」
「ああ、うん…まぁ、普段は、そう、だね…。大人しいっていうか、地味っていうか、ね? なんか、あはは…っ」
苦笑して、少し逡巡するような素振りを見せた彼女は、息を吐いた後、白状するように話し始めた。
「はぁ…。ううん、清水くんが合ってるよ。だって、これ…選んでくれたの羽流(はねる)だし」
「羽山が?」
「うん。下着売り場で見つかっちゃって…それで、まあ遊び半分だったんだろうけどね。でも、あんまり一生懸命に選んでくれるから、邪険にも出来なくって、それで。あははっ…派手だよね? 私にはさ、子供っぽいっていうか、可愛すぎるっていうの? 羽流が着けるには良いんだろうけど。似合ってるって言っても、清水くんだってもうちょっと大人っぽいって、そういうの…期待してたんじゃ?」
今日、この日、この時以上に、俺は羽山に感謝したことはなかったろう。
気の置けない友人。鼻高々に、調子に乗って、得意げに笑うアイツの姿に、後光が差してさえみえる。悪く言っても悪友だと思っていた相手からの思わぬアシストに、内心で喝采を送り続けていた。
「そりゃ、赤とか黒とかさ。俺、想像力足りなくて、そんなのばっかり考えてたから。そうだよな、北見だって可愛いの着けたいよな。大丈夫、ちゃんと似合ってる。北見の下着姿、とっても可愛い」
「いや、だから…私が選んだんじゃなくって。でも、うん…。そっか、清水くんが、そういうなら…そう、だね。よかった…」
言い訳ばかりを口にしていた北見の表情が緩む。一つ呼吸をおいた後、丸まっていた指先からも力が抜け、少しだけ緊張が解れたみたいだった。
「赤いのと…黒いやつ、だよね? 分かった…そっちも、用意しとく…」
「あ、いやっ、別に、着けて欲しいって話じゃなくてだなっ」
「オカズにはしたんでしょ?」
「うっ…それ、は…したけど」
自分で申告した手前、今さら反故には出来ず、俺は少し唇を尖らせた北見の前で項垂れるしか出来なかった。
「んっ…♥」
鼻に掛かる声だった。
北見も自分が漏らした声音に気づいたんだろう。緊張を解すために続けていた会話も先が続かなくなり、自分たちが今何をしているのかを思い出すには十分だった。
女子の吐息。それも、好きな女の子が相手なら尚更だ。
ブラ越しに触れる胸の柔らかさに興奮を禁じ得ない。さわさわと、動かすだけ。
手の平に包んだ膨らみの柔らかさを感じながら、優しく刺激を与え続けるのも限界だった。
遠慮がちだった愛撫が大胆になるにつれ、艶めいていく吐息に誘われるように、また一つ我慢ができなくなっていく。
少しの間、指を離すのですらもどかしかった。
それでも、直接触ってみたい。当たり前の欲求に逆らうことは出来ず、ブラの隙間に指を忍ばせようとすると、北見に呼び止められてしまった。
「あっ…。んっ、待って清水くん。えと、さ。いい、けど。その、ブラ、今外すから…」
「良いって、そのままで」
「でも、邪魔…でしょ?」
「邪魔なもんか。似合ってるって言ったろ? 今日くらいはさ、そのままがいい。でも、ちょっとずらすな?」
「あ、うん…。でも、まって…無理にすると壊れちゃうから…緩めるね? ん、いいよ…」
「ああ、悪い。そこまで気が回らなかった」
実際そのとおりだ。頭の中はもう、北見に触れることしか考えてない。
胸を見たい、直に触れたい。もっと、可愛い声を聞かせて欲しい。
男しての欲求が頭の中で鳴り響き、今だって股間を窮屈なものに変えていく。
白い肌の上。ふわりと、弾みをつける山の頂に桜色をした可愛らしい乳首が顔を覗かせる。緩んだブラを その山の麓に追いやった俺は、ようやくと言った心境で、直接彼女に触れる事が出来た。
「あっ…♥」
揺れる声に、羞恥の色が滲む。
けれど、それ以上に吐息は艶めいて、見上げてくる瞳はその先に期待を寄せているみたいだった。
柔らかく、沈み込み、吸い付いた先で、押し返される。
包みこんだ手の平、押し付けた指先。その全部を包み込む少女の肌の温かさ。
「んっ…♥ はぁっ…ゃっ、あ、はっ、ふぅ…ぁっ、ぁ、はぁぁ…♥」
揉めば揉むほど艶を増す声。鼓動はどんどんと早くなり、熱っぽい吐息が俺の頬を撫でると、それだけで股間のモノが跳ね上がった。
「北見…」
「うん…」
顔を近づけてみると、頬から耳の先まで紅潮しているのがよく分かる。
恥ずかしげに瞳を閉じた北見の頬を撫で、もう一度彼女と唇を重ね合わせた。
「ん、ちゅっ…はっ、ぁ、ん、ふぅ…ちゅっ、ゃ、ぁ、んんぅぅ…っ!?」
1回、2回。触れて離れて、また触れて見て。繰り返す内に、緊張で引き結ばれていた唇も解けていく。熱っぽい吐息。艶めいた声が漏れる唇の隙間。
ほっと、わずかに息を漏らしたその油断を狙って、彼女の中へと舌先を進ませた。
驚いて、目が丸くなって。慌てて唇を逃がそうとした彼女の頬に手を添える。
どうして良いか分からないんだろう。チラと合った視線が動揺で揺れているのが見て取れるくらいだ。
「嫌、だったか?」
「嫌っていうか…だって、今のって…」
「今のって?」
「あ、えと、その…」
意地悪な問いかけだったと思う。
きっと彼女にだって、それは分かっていたはずだ。
「言わなきゃダメ?」無言のままの問いかけ。泳いだ視線が再び俺を捉え、躊躇いがちに見上げてくる彼女に頷き返す。
「でぃーぷ、キスって…。舌、入れるやつ…で」
「北見でも、そういうの調べるんだ?」
「違っ、調べたんじゃないの。…たまたま目についただけで。恋愛物だと、ちょっと過激なシーンがあるだけっていうか」
「ああ、少女漫画はやべーっていうもんな」
「だからっ、ちがくてっ! そういうのばっかり、読んでるわけじゃないんだよ?」
「でも、読んだ事はあるんだろ?」
「それはっ…そう、だけど。でも、だって、清水くんだって、あるでしょ? エロ本って、少しくらいはさ…」
「そうだけど。ああ、でも最近は読んでなかったな」
「え、どうして?」
本気で言ってるんだろうか?
ここまでされておいて、想像がつかないなんて事はないと思うんだけどな。
人に抜けてるとか言いながら。緊張すると、自分だって大概ポンコツになるんじゃないか。
「ずっと、北見のことばかり考えたから。抜こうとすると、どうしたってお前の顔がちらついてさ。どうするんだ? 俺、もう絶対エロ本じゃ抜けないぞ? 北見がこんなエッチだなんて知っちまったらさ」
「どうって…それは、そんなの…。どうしてもって、その時は…。あっ、んっ…ちゅっ、はぁっ、あっ、まっ、清水、くっ、あ、ん、んふっ…♥」
ああ、もう、その仕草だけでエロかった。
何を考えていたのか、手に取るように分かってしまう。
その時はどうだって言うんだ? もう少し待っていたらきっと「私が…その、して…あげる、から…」くらいは言っていたはずだ。
都合の良い妄想だなんては思わない。
実際に彼女はもう、俺の舌を受け入れるように口を開いてくれている。
戸惑いは感じる。反射的な抵抗だって そこにはあった。
けれど、思うままに彼女の口の中の感触を味わっていると、次第に、だんだんと、抵抗はなくなっていき。調子を伺うような仕草で、彼女の舌先が俺の舌に触れてくる。
先走りのくせに、射精したみたいな勢いで出てくるな。
舌と舌とを触れさせて、拙いディープキスを楽しんでいる間にも、増々と俺のモノは勃起を強くする。ドクン、ドクンと、鼓動は高鳴り、押し出されてきた血流に俺のモノが跳ね上がると、尿道を駆け上がってきた先走りが、トランクスに吸い込まれるのを感じていた。
もう、良いんだろうか?
脳裏に流れる囁きは、俺に我慢の限界を知らせてくる。
触れ合っているだけでも気持ちがいい。キスだって、ずっと続けていられる自信はある。けれど、それだけじゃ解消できない欲望が下腹の奥で煮えたぎっていた。
「北見っ…なぁ、おれ、さ…もう」
挿れさせて欲しいとまでは言わない。でも、その肌には触れさせて欲しい。
手でも良い。素股なんかしてくれたら最高だ。でも、それじゃすぐに物足りなくなる予感はあった。
胸に触れてみても、キスをしたって収まらない。むしろ、興奮が加速しただけ。
そんな状態で、自分のモノを彼女の肌に触れさせた所で、余計に射精欲を煽るだけに終わるんだろう。
「…うん」
北見がどこまで考えて頷いたのかは分からない。
あんなアプリまで見せてきたんだ。普通に考えれば最後まで許してくれているものだとは思う。
下着姿の彼女の上に跨る俺。
服なんてもう全部脱いでしまっていて、股間に屹立するものは正しく俺の欲望を彼女に伝えていたはずだ。
心臓がヤバいくらいに痛い。
ちょっと針を刺せば爆発するんじゃないかって程に息苦しい。
それにあわせて、股間のモノがビクビクと打ち震える度、俺の理性は削られていくみたいだ。
「冷静じゃないかもだけど」そういった北見の気持ちが良く分かる。
正気じゃこんな事できる訳がなかった。その場の雰囲気。感情に任せて求め合う。
もしかしたら。なんて漠然とした悪い予感も、殊更に興奮を煽る材料にしかならなかった。
「行くぞ…北見」
「…」
返事はなかった。ただ、顔を背けて、小さく頷かれただけ。
恥ずかしいんだろう。男の俺より不安が大きいのは確かな筈だ。
触れた下着は、既に愛液で湿っていた。
脱がせるだけ。それすらも煩わしく感じた俺は、ヌルリ、湿り気を感じる薄い布地を指で引っ掛けた。そのまま端に寄せると、ピタリと閉じた彼女の割れ目が目に入る。
これから、ここに、俺のモノが挿るんだ。
先端を彼女の割れ目に充てがった。
鼓動は増々と強くなる。
形になって現れた興奮は、ダラダラと、先走りの量を増やし…。
「まってっ…!? ごめん、でも、やっぱり…私…」
「おっ、おぅっ!? ど、どうした…北見?」
やっぱり、まだ不安が大きいのだろうか?
俺を押しのけるような勢いで彼女の細い腕が伸びてくると、開きかけていた割れ目の上を亀頭の先が滑っていった。
焦り過ぎか。もう少し愛撫を続けるべきだったのか。
最悪今日はこのまま、そう思えば、苦々しい口惜しさを感じないでもなかったが、流石に彼女を傷つけたいわけじゃない。だが、でも、せめて手でもしてくれないものかと逡巡を重ねていると。
「ちがっ!? 違うの…ごめんね、急に。でも、でもね? 私やっぱり、まだ…聞けてないから。それが、少し…。ううん、ちょっと不安で、イヤで、だから…お願いだから、聞かせて欲しい」
「聞きたいって、何をだ?」
その時の、呆れたような北見の顔といったらなかった。
さっきまでの興奮が、一瞬にして冷めた気分だ。
「はぁ…っ」と溜息を吐き「すぅ…っ」と深呼吸を重ね、北見はゆっくりと口を開く。
「私のこと好き?」
ガンっと、頭を殴られた気がした。
言ってないか? 言ってなかったか?
自分の中ではもう、北見は俺の彼女のつもりで、でも、彼女にはそれが伝わってなかったとしたら大問題だ。
「うん、分かるよ? そうなのかなって、思う時はあったけど。でも、やっぱり…ちゃんと聞けてなくって…だから、その…ね?」
不安げに揺れる瞳が、恐る恐ると見上げてくる。
そりゃ怖いだろう。ここまでやって、自分の勘違いでしたなんてさ。
勢いでここまでしたは良いけれど、こんな状態じゃどっちに転んでも逃げられないんだ。振られるだけならまだいい。適当に流されて、レイプされる事だってありうると、その不安はどれほどのものだったか。
「清水くん…。清水 陽斗くん。私は…貴方の事が好き。私は、北見 真冬は貴方の彼女で良いですか?」
その愛おしさといったらなかった。
文字通り、自分の全部を曝け出しての告白は、正しく俺の胸を打つと、萎え掛けていた股間に再び熱が回り始めていた。
「北見…じゃないな。真冬。ごめん、遅くなった。俺、ちゃんと真冬のこと好きだから、ちゃんと女の子として大事に思ってるから。自信もってさ、俺の彼女だって皆に言い触らしていいぞ」
「…皆、そのつもりだと思うよ? あんな毎日一緒に帰って、一緒に登校してたらさ」
「そ、そうか? 誰もそんな事いわなかったしな」
「デリカシー、じゃないの? 陽斗くんって、変な所で抜けてるよね、やっぱり」
「そうなると…後で羽山には礼を言っとかないと」
「そう、だね。私も、一杯お世話になったし…二人で、ね?」
めでたし、めでたし、なんてなる訳がない。
ずれていた想いが通じ合って良かったとは思うけど。
俺達を包む空気はなんとも微妙な温度を保ったまま、再び行為の熱が燃えがるまでには至らない。
勢いで、ここまで来たのは良い。
それは、正気でなんてやってられなかったからだ。
そしていざ、正気に戻った俺達は、あと一歩の踏み出し方が分からなくなっていた。
目の前には愛液に濡れる女の おまんこと、それを欲する男の肉棒がある。
最早、俺達を遮るものなんてない。真冬の告白を受けて、俺の勃起はもう最高潮になってもいた。このまま おまんこに突っ込んで、射精欲を満たしたい。
だが本当に良いのかと、性欲に流される自分に躊躇いを思い出す。
でも、結局は同じこと。
たとえ一歩が踏み出せなくても、ブレーキなんてとっくに壊れていた。
心臓はまるで壊れたエンジンみたいに回り続けていて、ゆっくりとでも俺の体は前に進み始める。
「その…真冬、良い、か?」
「う、うんっ。だい、じょぶ…。私も、そのつもりで…だから、その。このままは、私も…辛いし、恥ずかしいから、だから…その…陽斗くん」
「いいよ」って、羞恥に濡れた声音に俺の肉棒がドクンっと跳ねた。
残っていた正気は いよいよと置き去りにされ、真冬の体に手を掛けた時にはもう見えなくなっていた。
彼女の下着を大きくずらしながら足を開かせ、捕まえた腰に俺のモノを寄せていく。じっと、熱い視線が肉棒に注がれる中、時折漏れる悩ましい吐息が耳に纏わりつく。
鼓動に押され、上向く肉棒を無理矢理に抑え込む。跳ねた先端が真冬の入口を擦り、甘い快楽の予感に耐えかねた肉棒が熱り立った。
もう、何もかもが焦れったい。沸騰し始めた射精欲を抑え込むのも限界だ。
焦れば焦るほど、入口は分からなくなるし。狙いを外した先端が割れ目の内側を滑っただけで、ビリビリとした甘い痺れに肉棒が戦慄いた。
落ち着け、落ち着け、俺。
確か、もうちょっと下だったはず。
腰を引いて、割れ目を開かせ、先端を充てがって…。
ようやく見つけた入口に息を呑む。そのまま腰を進めて、彼女の中へ入り込もうとした瞬間だった。
ドクンっ!!
一瞬、目の前が真っ赤に染まり、頭の中が白で満たされた。
ドクンっ!! ドクンっ!!
先端から何かが吹き出しているのは分かっても、俺にはソレを止められない。
暴発した射精欲。今一番の快感に体の芯を貫かれ、滾った精液を真冬の体に吐き出してしまっていた。
「あっ、えっ…へっ、あ、や、はる、とくんっ、んっ…は、あ、あぁぁ…っ」
なんて、言ったらいいんだろう?
それを前にした真冬はただ「へ?」と、不思議そうな顔をするしか出来なかった。
ドクンっ!! ドクンっ!!
目の前で おちんちんが大きく跳ねる度に、飛び出した精液が肌にかかる。
ううん、それは降り注ぐような勢いで、ベタリ、ベタリと、真新しかった下着に白濁色の染みを付けていった。
出されちゃった…。
それは良い。
私だってそのつもりで、ただ、予想と少し違ったのは、何をする前から出されてしまったこと。本当なら中に出されるのも考えていた。やっぱりちょっとは痛かったりもするのかなって、身構えていた部分もあっただけに、唐突に降り注いだ精の熱を、どう受け止めて良いのかが分からない。
体が熱い。
精液で汚れた素肌から、彼の興奮が染み込んでくるみたい。
なんていうかさ。
まぁ、それは、うん。それでも良いかなって、良かったかなって私は思う。
ちょっとした拍子抜け、欲求不満は残っても、暴発しちゃうくらい興奮してくれたって言うなら、まぁ、悪い気まではしなかった。
しないんだ、けど…。
「悪い…真冬、おれ、そのさ…なんていうか」
「あははっ…。いいって、怒ってなんかないよ。ほら、私達初めてだったし、こういう事もあるよね」
落ち込んでしまった彼を見ると、流石にからかう気なんて起きない。
「陽斗くんのエッチ」「そんなに興奮しちゃったんだ」場を和ませるために思いついた冗談も、きっと彼に追い打ちを掛けるだけに終わるだろう。
なんとか、彼の気を持たせたい。
でも、初体験で失敗しちゃった経験を拭うなんてこと、それを成功させることでしか叶わないようにも思う。
「えと、陽斗くん…? 私は、大丈夫だからさ…そんな、落ち込まないで、ね?」
「ありがとう真冬。でも、俺は、流石にさ…。なんかもう、最初からダメじゃん。告白もしないで、真冬を不安にさせて。誘ってくれたのも真冬からだったし。ちゃんとしようと思った矢先に、こんな…こんなさ…」
気持ちはわかる。
ううん、本当の所では分かって上げられないとは思うけど。男の子のプライド的な部分。ちゃんと出来なかったってショックが大きいのは理解できるつもりだった。
私だって、痛がったりなんだりで、ちゃんとさせて上げられなかったらって思うと怖い。たまたま今回は、そこまでしなかっただけで、次は私がこうならないとは限らないんだ。
「ねぇ、陽斗くん? それ、その…おちんちん? もう、今日は…ダメ?」
「ダメ…かぁ。あはは…はぁ…」
「ちがっ、まってっ。勝手に落ち込まないでよっ!? そうじゃなくってね? 2回目って無理かなって話しっ。一度出ちゃったら、今日は無理そう?」
「2回目って…まぁ、すぐにとはいかないだろうけど。ちょっと休めば、多分…」
「そっか…それなら、うん…大丈夫だよ」
「大丈夫って?」
落ち込んだ彼をそのままに、体勢を入れ替えるように体を起こすと、今度は私が彼を押し倒す番だった。