会社である以上介護の現場でも上下関係もあれば各々の役目もある。だが能力だけあれば上手く回るのかと聞かれたらそうでもないようで…。
「荒井君、これはどういう事なのかしら ? 利用者様の転倒を許すなんて、しかもこの方は転倒注意者だったと思うけど ? 」
「す…すいません…」
介護リーダーのデスクで叱られているのは荒井清人、春に入社してまだ3ヶ月の男性介護士である。
その荒井を叱っているのは深津里美、荒井よりも数年早く入社しフロアリーダーを任されている女性リーダーだ。
またの名を鬼である。
報連相の徹底、仕事上の態度、基本的ではあるが職員が業務に慣れるほど疎かになりがちな所を突いてくる。
引き締めには欠かせない存在なのだが声の調子や言い方がキツい為、部下からは鬼と恐れられているのだ。
今回荒井が 責されているのは、荒井がある転倒注意者から目を離して業務を行っていたからである。一応伝えておくが別に荒井がサボっていたからではなく、たまたま職員が手薄な時に、たまたま他の方の対応をせざるを得なくなったからである。幸いにも転倒した方は軽傷で済み家族への連絡も済んでいる。
しかしそれでも事故は事故、忙しく時間にも限りがある中報告書の作成をすることになってしまい、荒井は夜遅くまで残業をする羽目になってしまったのだ。
所変わって荒井の自宅。早番で上がれるはずが時計の針は午後10時を回っており、荒井はコンビニで買ってきた安売りの弁当を温め寂しく頬張り同じく購入したお茶で喉から落とす。自宅のアパートでシャワーを浴びて布団を敷きほっと一息つく。
「…彼女ほしいなぁ…」
ポツリと口から出た一言、疲れた身体から出たその言葉は荒井の本音であっただろう。荒井は新人社員ではあるが20代半ば、今がバリバリの働き時であるがいかんせんインドア派の彼には出会いが無さすぎた。周りの女性はリーダーの深津を除いて全員既婚者であり良き出会いは未だ皆無。学生時代からコミュニケーション能力を磨いておけば、もっと外で人付き合いを学んでおけばこうはならなかったかもしれないが現実は無情、後戻りはできないのだから自業自得としか言いようがない。
寝る前に少々スマホをいじり、いいゲーム無いかなぁとアプリステーションを探していた荒井だがあるアプリの前で指が止まる。
「…マッチングアプリ ? 」
マッチングアプリ、出会いのない男女を紹介しくっつけさせることが目的のアプリ。荒井はなんとなくこういうのは危険なにおいがすると敬遠していたが、今回のアプリは宣伝文句が一味違った。
「マッチング成功率100% ? はは、ホラもここまで言うと面白いな」
そう、このアプリはどういうカラクリか ? 『マッチング成功率100% 運命の出会いを貴方に』という謳い文句をデカデカと掲げていたのだ。最初はヘラヘラ笑っていた荒井だが、次第に興味が湧いてきたのかスマホにインストールしてしまっていた。
さて、インストールしたアプリを起動させると派手な謳い文句とは裏腹に出た画面は非常に簡素なものだった。
『貴方のお化粧をしていない顔を自撮りで撮影してください。化粧していると読み取れません』
どうやら専用カメラ機能で撮影すると、それだけで自分と相性が最も良い相手を選んでくれるらしい。さすがに荒井でも自撮りくらいはできる。パシャリとシャッター音が鳴りアプリにデータが読み取られる。俺はこんな間抜け面だったのかと自虐しながらスマホをベッドに落とす。最近は疲労が抜けきっておらず寝落ちする事もあった。
「はぁ…眠…」
眠りに落ちる瞬間、荒井の脳裏に浮かんだ女性はリーダーである深津であった。
テレビの芸能人みたいな美人でもなければグラマラスな女性でもない。休憩中はタバコも吸い、飲み会ではお酒も飲む、自分の理想とはかけ離れた女性である。だが、一番現実的な女性でもあった。その現実とは『これくらいが普通の女性なんだろうなぁ』という失礼なものでもあったが。少なくとも、あんないつも眉間にシワを寄せて怒るような女性とはマッチングしたくない。そう荒井は考えていたのだった…。
※ ※ ※
翌日、荒井はスマホのアラームに起こされることなく目が覚めた。こんな事は入社して初の出来事である。
「…ッ!?やべ!遅刻した!?」
ガバッと布団を剥いで起き上がるとすぐに制服に着替えようとする、しかし本日は休みの日でありバクバクいってる心臓は次第に落ち着きを取り戻してきた…が。
「あ、あれ…ここ何処?」
冷静になってからようやく気がつく。目が覚めた場所は見たこともない部屋だったのだ。自分の部屋も殺風景だったがこの部屋もまた必要最低限の家具しか無い部屋であり、介護関係の参考書くらいしか書物が無い。あとはドレッサーや姿見くらいか。
視線を下ろすとそこにはたわわとは言わないが女性特有の膨らみがあり、同時に男にあるはずのナニがキレイサッパリ消え失せていた。
「ま、まさか〜、俺女になってたりとか?」
何となくだが、自分の身体が根本的に変わっているというのは理解していた。アソコをパンパンと叩くと良い音が聞こえアレが無かったのだからまぁわかるだろう。
すぐそこある姿見を覗けば今自分がどうなっているかわかるのだろうが、あえてそうしなかった。
自分の胸がさっきとは別の意味でドキドキしているのがわかる。今まで女性と付き合った事など無い自らにとって初めて好きにできる女の身体、自分が今どうなっているのか、あえて顔を見ないでこの女の身体を堪能したい。確認するのはその後でいい、変に顔を見てしまってブサイクだったら萎えてしまうと考えたからだ。
「ま、まずはお胸を確認…い、意外とあるんだな」
この身体が身に着けていた簡素なブラジャーを外すと、手でしっかりと掴むことができるほどのオッパイが身についていた。乳首をツンと軽く押すと、慣れない身体だからなのか電気が走るような感覚に陥った。次にズボンと白いパンティを下ろすと生え放題の陰毛が目に映った。どうやらこの身体の持ち主はけっこうズボラなところがあるらしい。
もしそこの姿見に身体を写せば、今の表情は実にマヌケな感じに写っているに違いない。口はだらしなく開き、全裸で自分の胸を揉みしだき興奮する変態チックな女がいるのだろう。左手の薬指に指環がなかったから、おそらくこの女は未婚の可能性が高い。ならばこの身体は好きにしてもいい、独居なのならなおさら都合がいい。少々声を出しても他人に聞こえる事は無い。
「ん、んん…!いい、この身体いいぞ!実によく馴染む…オッパイ揉んでも乳首弄っても、超気持ちいい!」
どこまでも都合がよい展開ではあるが、今だけは状況は味方していた。大声を出しても誰も妨害をしない、この身体を好きにできるのだから。
「つ、次はオナニーさせてもらっちゃおうかな~」
実に良い笑顔を浮かべながら右手の指を股間に持ってくる。いきなり膣に挿入することはなく、身体の股関節、マンコの横を指でなぞりながら身体をより興奮させる。
『この身体は見たことも会ったこともない俺に好き放題されるんだ』
そう考えるとより興奮する荒井清人、これまでの仕事に追われオナニーすらできない禁欲生活により色々と性欲が暴走してしまっていた。普段ならば申し訳無さが浮かぶのだが今はそんな考えは微塵もなし。とにかく女の身体を楽しみたかったのだ。
身体は興奮し熱くなり、この身体そのものが『お願いだから早く挿れて、イジワルしないで!』と訴えるような感覚に陥った。
「オッケー、すぐに気持ちよくしてあげちゃうよ!」
今やこの身体は俺のもの、なら気持ちよくなるのはこの身体の為でもある。そのような暴論を頭に掲げ本番に挑む。
「はあアッ!ん、んん!指が、指が吸い付いて!いいです清人さん!もっとです、もっと気持ちよくして!」
指を出し入れする度に愛液と空気が混じりジュボッジュボッと音が鳴る、次第に身体は楽な姿勢を取り始め勝手にM字開脚のポーズを取る。足の指が床の畳を強く踏み、手足の制御が効かなくなる。
「ふぅ!ふん!ふああッ!身体がッ言う事効かない!気持ちッ気持ちいい!」
清人の意識や感情だけでなくこの身体自体も余程性に餓えていたのか、いとも簡単に絶頂を迎えつつあった。
「い、いく!イッちゃう!好きです!清人ッ大好き!愛してるッ!」
最後はちゃっかりと愛する恋人を捏造しながら手加減なしの絶頂を味わった。眼前は白くモヤがかかり脳裏には火花が散り全身が甘美な痺れが奔る。荒井清人は初めて女の身体で絶頂を感じた。次第に全身から力が抜け、心地良い倦怠感が訪れる。身体はM字開脚から大の字へと変化していった。
「はぁぁ…こ、これが女の身体か…マジ気持ちよかった…」
顔が自然とニヤケていく…荒井清人は既にこの身体を気に入っており、少しくらい顔が好みじゃなくても妥協しようかなと考えていた。たとえ姿見に今この全身を映し出したとしても…。
「さて、ではお顔を拝見…ん?」
オナニーする前に顔を見ないでおこう、その判断は間違いなく正しかった。
「ん…んん!?」
確かにその顔はブサイクではなかった、だが先に見てしまえばオナニーどころではなかったに違いない。
「な…なんで?」
全身から嫌な汗が吹き出る。
「なんで俺深津リーダーになってんのおおおおッ!?」
荒井…深津のスマホに着信がかかってきたのは絶叫を上げた直後の事であった…。相手は当然…荒井清人。
リーダーさんの身体に入ってしまった荒井君はどうなって
しまうのでしょうか ?
お読みいただきありがとうございました。