※この作品はR-18です。

マッチングアプリで入れ替わった上司と部下   作:プニたけっち

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今回は中編です。入れ替わってもいい事ばかりとは限らないかもしれませんね。


中編

この日荒井と深津の休日は珍しく重なっており、二人は深津の自宅で会う約束となった。スマホ越しで話す声は自分のものであるが口調は女口調だったので自分がオカマになったような不気味さがあった。

 

深津里美となった荒井清人は自宅の中を掃除していた。何故か ? 露骨なご機嫌取りである。先ほど深津の身体で盛大にオナニーしてしまった負い目があり、また叱責を受けたときに許してもらうために少しでもいいことをして点数稼ぎをしておこうという魂胆なのだ。

 

「ふう…これで一段落、でも汚いなあこの部屋。全然掃除してないんじゃないのリーダー」

 

深津の部屋はビールの空き缶やらたばこの吸い殻で汚れており、基本的に綺麗好きの荒井は我慢ができず冬ではないが大掃除を実行したというわけだ。

 

「でも疲れた~…この身体すごい疲れやすい…リーダー不摂生しすぎなんじゃない ? 」

 

何故かリーダーと身体が入れ替わるという緊急事態にも関わらずしっかりボディチェックはしたスケベ野郎。だがそこに感動は無かった。

 

「お腹少し弛んでるしあまり足長いわけじゃないし、それに目の下に隈が…ろくに睡眠取れてないんじゃ…」

 

お腹を触るとモニモニと指で摘める程のお肉が纏わり付く。健康に気を遣っていた元の身体に比べて今の身体は対極に位置する不健康ボディ、肥満予備軍、暴飲暴食していると思われる部屋のゴミ、さすがにリーダーだけは勘弁と思っていた身体に自分が入っている…悪夢としか言いようがない。

 

たしかにこの身体でしばらく過ごしても良いと妥協はしたが、それはそれ、早く元の身体に戻りたいと強く願う深津である。

 

だがその願いとは裏腹に、荒井は深津里美の身体を長期間に渡り使うことになることをまだ知る由もないのだ。

 

※ ※ ※

 

およそ30分が過ぎ深津の家には荒井清人と深津里美がテーブルで対面していた。深津がジッと相手を見る、荒井はまだ男の身体に慣れていないのか正座をしたり足を崩してあぐらをかいたりとせわしない。服装も自宅にあったものを選んできたのか、白いTシャツにジーンズとカジュアルなもの。

 

対して深津も似たような服装をしていた。なにせこの家に何があるのかもわからず取り敢えずある物を着ようと考えたわけで、だが。

 

「ねぇ…なんで貴方そんなサイズ小さいジーンズ履いてるの?」

 

「な、なんでって言われても…一番サイズ大きいの履いたんですけど」

 

ジーンズとは脚のラインがもろに出るズボンである。荒井は痩せているのでスラリと履いているが、深津の場合は、ギュム、と擬音が出るような程むっちりと…ハムのようにパツパツだったのだ。

 

(嘘でしょ?私あんなに太ってたっけ?たしかに最近サイズきついなあとは思ってたけど)

 

(く、苦しい…本人の前だから言えないけど、リーダーデブなんだもん、なんでもうワンサイズ上の服とか買わないんだよ…)

 

認めたくなくても目の前の事実が真実、深津里美の身体は肥満予備軍、健康診断でも痩せましょうと所見欄に書かれる程であった。

 

「わ、わかったわ。私のお金で服買っていいから…それよりも…貴方これやった?」

 

ようやく本題に入った2人だが、荒井が見せたのはあのアプリ、例のマッチングアプリだった。

 

「あ…それ…はい、登録して写真も撮りました」

 

「そう…やっぱり…見てこれ」

 

荒井が見せてきたのはアプリ画面。そこには深津の顔があり『マッチングおめでとうございます!これが貴方と一番相性が良い相手です。末永くお互いの身体を大切にしてください…』という文面が出ていた。

 

深津も慌ててスマホのアプリを起動すると同じ文面が出ていた、唯一違うのが荒井の写真が出ていた事。

 

今スマホは入れ替わった相手の物を使っているので、荒井のは深津、深津のは荒井の写真が載っている事になる。

 

(俺と相性抜群の相手がリーダー…勘弁してくれよ!冗談じゃない、なんでこんな性格キツいデブにならなきゃならないんだよ!)

 

(…なんて考えてんでしょうね、表情でバレバレだっつーの)

 

失礼な事を考える深津だが、荒井は冷静だった…冷静にならざるを得なかった。それはリーダーであり冷静に仕事を進めなければならなかった経験によるもの。

 

「このアプリの会社に問い合わせても応答なし。アプリを消したらどうなるかわからないし、完全にお手上げよ」

 

両手を上に挙げてため息を一つつく荒井、冷静に努めて相手を安心させる、上司としてのスキルである。

 

「えぇ…それじゃ原因がつかめるまでずっとこのままってことですか ! ? 嫌ですよリーダーの身体なんて ! 」

 

対して余計な言葉が多い深津、事情を全く知らない他人が二人を見比べたらどちらが精神的に上か一目瞭然だろう。なお深津はその余計な一言を口に出した途端、荒井の鬼のような形相にヒエッと小さな悲鳴を出した。まさに沈黙は金。

 

「…まぁいいわ。取り敢えずしばらく私たちは元に戻れないという前提で動かなかきゃならないわ。だからこれを持ってきたの」

 

「な、なんですかこれは ? ノートにペン ? 」

 

そう言いながら荒井は手持ちのバッグから使い古したノートとペンを取り出した。ノートにはかつてフロアリーダーになりたてだったころから現在へ至るまでに行った業務の内容や困ったときのQ&Aが整理され且つびっしりと記入されている。何度も使い読まれたであろうそのノートは『深津里美』の財産であり経験そのものであった。

 

「いい ? あんたは明日から『深津里美』として業務に取り組まなければならないの。あんたはもう新人社員ではなくフロアリーダーなの、だから今日は勉強よ。明日までに徹底的に仕込んであげるわ」

 

荒井の表情は真剣そのものであり、職場で顔を合わせている時よりも鬼気迫る表情である。これには深津も思わず怖気づいてしまう。

 

「ちょ、ちょっとリーダー、俺にもこころの準備が…」

 

パンッ ! と部屋の中に乾いた音が響く。荒井の平手が深津の頬を叩いたのだ。

 

「バカ ! リーダーはあんたよ、あんたはもうリーダーなの。フロアリーダーとしての責任があるの。今まであんたはあんたなりに仕事で全力だったかもしれないけど、それだけじゃあもう足りないの。あんたの肩と判断に部下の、職員の、利用者様の命と人生がかかってるの ! 気合入れなさい ! 」

 

まぁ深津の気持ちもわからないでもない。まだ通常業務にやっとこさ慣れてきた所にいきなりリーダー業務やれなどと正気の沙汰ではない。尻込みするのも当然だろう、これですぐさま頷けるのは余程の自信過剰な奴か能天気な奴に違いない。なにより『深津里美』の仕事のハードっぷりを知っていればやりたくないと思っても仕方ない。

 

いつ帰ってるの ? と聞きたくなるくらいの激務なのだ。もっともこれは仕事内容だけの問題ではないのだが…。

 

「…もうあんたは荒井清人じゃないの…深津里美なのよ…」

 

「…ッ ! ? 」

 

肩を落としがっくりとうなだれる荒井。だがこの時だけは、目の錯覚なのだろうが互いの目には相手の姿が本来のものに見えていた。

 

荒井の両目から流れる涙、それを見た漢深津里美、基本的には善人でお人好しの『荒井清人』黙ってノートを開きペンを取る。その眼にはこれまで仕事の中では見せなかった炎がメラメラと燃え上がっていた。

 

なお、仕事の鬼でもあった『深津里美』彼女の指導は苛烈で何度も今の深津が涙目になったことは言うまでもないことだった。

 

※ ※ ※

 

さて、身体が入れ替わった2人が今までと違う存在になりきる事は簡単な事ではない。現に深津は態度が露骨に変わり職場の同僚…もとい部下から心配されるほどであった。

 

致命的ではないが小さなミスが起き彼女の更に上の上司から注意される事もあった。最近たるんでいるんじゃないのか?と言われた事もあった。だが、ここで挫けたり逆ギレしたら身体がもとに戻った後の『深津里美』が路頭に迷う事になる。基本的に善人の『荒井清人』はそれを許すわけにはいかず、歯を食いしばり我慢し、ひいこら言いながら仕事を覚えていった。

 

対して荒井清人は順風満帆。なにせ今までやってきた事だ、基本を抑え利用者様相手に対応を変え、一つ一つを確実且つ丁寧にやっていけばよいのだから。パワーダウンした深津とは逆にパワーアップした荒井、同僚の元部下からは仕事ぶりが変わりすぎて心配されるという珍事が発生してしまう事もあった。

 

 

二人にとって激動の春夏が過ぎ秋が来る。

 

変化が出たのは季節だけではなかった。

 

深津はリーダーとして振る舞うにつれて賢く動く事を覚えた。なにも自分だけで全ての業務を行う必要なんてないじゃん、そう思ったのだ。そもそも『深津里美』が行ってきた業務の中にはリーダーが必ずしも取り組む必要が無い業務も含まれており、現場サイドで解決できる事は少しずつ部下に任せていったのだ。他人に任せない、自分がやったほうが早い、自分の仕事が増える、責任感が強く他人に任せることを良しとしない『深津里美』だからこそ陥った負のスパイラルであった。今の深津里美は楽ができるなら楽がしたいと考える人物、こうして仕事にも慣れ負担が減り心に余裕が生まれていったのだ。もちろん失敗した部下への助力や気配りは行い、自分への悪口が来ないように立ち回る。

 

いつしか深津里美は職場内からは良い意味で変化したと評判が上がっていったのだった。

 

「かんぱ~い ! ! 」

 

街路樹に紅葉が目立つようになり人々がいつしか薄着から厚着へと衣替えをした頃、深津と荒井は近所の居酒屋で久々に二人だけの飲み会を行っていた。

 

「んぐ、んぐ…ぷはぁ美味い ! いやあ久しぶりの酒はいいわねえ ! 」

 

「リーダー、ここには知り合いはいないんですから…おっと、いないのよ。演技やめてもいいんじゃない ? 」

 

「あ、あはは、そうでした」

 

身体が入れ替わってから数か月、深津は身体が求めるアルコールやタバコの誘惑に抗うことができずたしなむようになっていた。リーダーになってから理解したリーダーの重圧、多大なストレスを誤魔化す為に酒やタバコに逃げるのも不思議ではないのかもしれない、そう今の深津は考えた。

 

「しかしこの半年ちょいでよくここまで成長したわね、正直見違えたわよ」

 

「えへへ、鍛えられましたからね」

 

実際にフロア内での深津の評判は上々、最近では何とか上層部からの評価も持ち直し仮に元に戻ったとしても迷惑がかかることはないだろう。

 

「はいはい、私の身体使ってんだから当然だけど。まずは今日は飲みましょう」

 

「賛成です。ゴチですリーダー ! 」

 

「リーダーはあんたなんだからおごりはあんた…いえ、そんな考えは捨てるべきね。互いに安月給なんだから割り勘よ」

 

「そうっすね」

 

けっこう軽いやり取り、半年前までは想像もつかなかったに違いない。上司と部下の身体が入れ替わり互いに成りすましながら半年も過ごすなど。

 

※ ※ ※

 

「きゃはは ! 飲んでる~荒井 ! 」

 

「り、リーダー…もう帰りましょう、お店に迷惑がかかりますって」

 

何時間は互いに飲み交わした後で荒井は完全にできあがりビールをぐびぐび飲み干していった。元々荒井はお酒を飲むことはなかった、入れ替わった今の荒井も『部下の身体だし勝手にタバコとか酒とかやらないほうがいいわよね』と律儀にも考え禁酒禁煙を行っていたのだ。だが今の深津が身体に引っ張られ酒タバコ大好きになったように、今の荒井は禁酒禁煙をしていた結果アルコールに弱くなったのだ。

 

「な~に言ってんのよ ! リーダーはあんたよ ! 私じゃなくてあんたなのよ、こんな役立たずのリーダーじゃなくてさ ! 」

 

「何言ってるんですか ! ? そんなこと…」

 

酒を飲むと心の中に眠る本性がにじみ出るもの。入れ替わる前に部下から出ていた陰口を気にしてはいないわけではなかったようで、部下のことを考えていたのは入れ替わった翌日に話した通りではある。しかしその思いも表に出なければ厳しい上司であり鬼の具現でしかない。

 

「嘘つくんじゃないわよ ! 私知ってんのよ ! ? 深津里美の評判が前より良くなってるの、リーダー向きじゃなかったのに今は生まれ変わったように気さくで話しやすくなったって ! 」

 

「それは俺も同じですよ、荒井清人は比べ物にならないほど優秀になったって」

 

深津の説得も残念ながら効果をなさない。なぜならば深津の奮闘ぶりを一番見てきたからである。ミスをしながらも懸命に成長した深津、だが一方で自分は ? いかに他職員から見直されても結局『こんなの出来て当たり前』なのである。

 

「…入れ替わってよかったのよ…私たち」

 

ハイテンションから一転してうつ伏せてポツリと荒井はつぶやく。

 

「頑張れば頑張るほど自分の首が締まる…私がきついからって職員が辞めていく…介護の仕事は確かにきついわ、相手は人間だもの、言ってもわからない方もいるし職員の神経も病んでいくし腰痛にもなる…辞めていく大きな理由は職場内での対人関係…でもね、ここでダメならどこに行っても長続きしないのよ…ここはまだマシな方なのよ…だから早く一人前にしようと思って、仮にここを辞めても別の所で戦力になるように仕事とか技術教えてたのにさ…鬼だのなんだのってさ…泣きたいのはこっちよ…」

 

「荒井く…リーダー」

 

荒井は時々言葉を詰まらせるように絞り出していく。もはや無関係ではいられない、リーダーを追い詰める一端でもあった自分だからこそ、これは言わなければならない。

 

「リーダー…すいませんでした…俺、そこら辺疎くて、普通の学校出てすぐここの職場に入って、そのまま仕事して…リーダーの身体にならなかったら、今の話し聞いたりリーダーの仕事しなかったら…使い物にならなかったと思います」

 

照れくさいが本心である言葉、深津の顔が赤いのは酒のせいだけではあるまい。

 

「でも今のあんたは立派にフロアリーダーを勤め上げている…深津里美の身体を使いこなせている…なによ私より女らしさに磨きがかかっちゃってさ~生意気よこのこの~ ! 」

 

「いててやめてくださいよリーダーww」

 

「さぁ飲むわよ~ ! 深津さん、じゃんじゃんね~ ! 」

 

深津の心が届かないわけではなかったとは思いたいが残念なことに相手は酔っ払い、効果があったかどうかは定かではない。結局二人は更に酒を身体に取り込んでいくのだった。




お読みいただきありがとうございました。次回でお話は終わりですが、よろしければお付き合いくださませ<(_ _)>
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