夜の街に生きるTS娘が、雇用主と特別な関係になるまでのお話 作:TSしたとねり
ソーヤ・ミドリ
身長170センチ
髪色 鳶色
瞳色 金色
得意武器 拳銃
不得意 刃物
B93W64H92
——某県某市。
街の明かりに照らされて、細い指が街を歩く獲物等を誘っていた。
白魚のような指先は触手のように、獲物たる男たちへと向けられる。
六本。五本。四本と五本。
煌々と輝くネオンの中で舞う蝶たちそれぞれは、己の魅力を引き立てる為の、色とりどりな色の服を身に纏い、声を掛けてきた男たちへと媚を売っていた。
四本。三本と五本——。
ハンドサインによる交渉が成立し、一組の男女が身体と身体を密着させた。
己を買った男にしなだれかかり、毒々しい紅色をたたえた口紅が乗った唇で蝶たちは心にも無い言葉を男たちへと囁いていた。
少なくとも金があれば良い。
男が優しければもっと良い。
愛などいらない。誰にも助けられず、誰にも頼る事ができず、ただ信じられるのはお金だけ。
——モラルという言葉が「非常識」という意味を内包しつつある時代。
時代は経済成長と反比例するように、人間から常識や理性を退廃化させていた。
街は薬や酒で身を崩した者たちで溢れ、法執行機関も形無し。
そんな退廃的な歓楽街を、一人の男が息せききって足早に歩いていた。
男はスーツ姿である。
中肉中背。顔立ちからも、とりとめて特徴のない男だった。
しかし男は歓楽街に似つかわしくない、——今では少なくなった——仕立て屋で仕立てたオーダーメイドのスーツを汗で濡らし、ビジネスバッグを大事そうに両手で抱え歩きながら、時折り背後を振り返る。
「はぁ、はぁ、はぁ」
気象情報局による天候操作により、都市の気温は高くもなく低くもない。
男が荒い呼吸で街中を歩くには、低い気温だと言っても良いだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ、っ、くそ!」
男は何かに追われるように『TS亭』と書かれた一軒のバーを通り過ぎ、急いで裏路地の中へと入った。
ビルとビルの間にある裏路地は、歓楽街のネオンの明かりも届かず、暗くてどんよりとした空気を漂わせている。そんな中——、
——カツン、
と突如ビルの間に音が反響して聞こえた。
——カツン、カツン。
1秒に一回の感覚で鳴る音は、男の額から汗を噴き出させた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はっ、はっ、はっ、はっ」
その音が確実に近付いて来ていることを認識した男の呼吸は、次第に浅いものへと変えていく。
どうしてこんな事に、等と男は思考を巡らせ、薄汚いビルとビルの間に身を滑り込ませた。
——カツン、カツン、カツン。
背後から近寄る音は、男から10メートル程離れて鳴り止んだ。
額から噴き出た玉のような汗が、男の顎へと伝った。
「おいオッサン、随分と手を煩わせてくれたじゃねぇか。えぇ?」
背後から掛けられた声は、この場にそぐわないほど華麗なものだった。
男が振り返ると、そこには美女がいた。
茶色の髪をポニーテールのように一つに纏め、女性にしては高め——男と同じ170センチくらいか——の身長に、豊満な胸を覆い隠す濃い紺色のノースリーブシャツ。カーキ色のデニム生地のホットパンツからスラッと伸びる脚は、筋肉質なものではあるが程よく脂肪が乗っていた。
外国の血が濃いのか美女の鼻梁は高く、吊り目がちな眦に、黄金のような色を湛える瞳を好戦的に細め、男に向ける。
「おい、聞いてんのか?」
男は美女のあまりの美しさに見惚れ、数瞬言葉を失った。
微動だにしない男に対して、美女は男のような口調で険のある声を掛ける。
「わ、私は何も知らない! 私はボスから届け物をするように頼まれただけで……」
フリーズ状態から立ち直った男は、最後まで言葉を発する事を許されなかった。
冷たい金属の感触が、男の額に突き付けられたからである。
無骨なデザインの、骨董品と言える火薬式の自動拳銃を男に突きつけながら、美女——ソーヤ・ミドリは笑みを浮かべた。
「そうかいそうかい。良いんだぜ? オレは。このしみったれた裏路地に、しみったれた死体が一つ増えるだけだからな。墓標にはこうだ。つまらないおつかいを頼まれた、しみったれ男、裏路地で血のシミを作る。でどうだ?」
ソーヤの言葉はどことなく楽しげな色さえ浮かんでいた。
事実、ソーヤにとってこのような事は日常茶飯事。死体袋の手配さえ容易くこなすだろう。
冗談にも聞こえる言葉を発した美女の瞳に、一切の冗句も混ざっていない事に勘づいた男は、己の命と運ぶように言われた荷物を天秤にかける。
「わ! わかった! 話す! 話すから!」
「おう、分かりゃ良いんだよ。ついでにその荷物もこっちに渡しな」
男はビジネスバッグをソーヤに渡すと、力なくその場でへたりと座り込み、ポツポツと話し始めた。
話は男の身の上話から始まり、男に与えられていた仕事の内容まで多岐に渡る。
知りたくもない、つまらない事まで話す男に銃を向けながら、ソーヤは器用にホットパンツのポケットからタバコを取り出した。
黄色いパッケージのタバコは、現代では高級品である。
巷では頭がハッピーになれる薬だとか、気持ちを落ち着けすぎて首を括りたくなる作用のある葉っぱが流行していると聞くが、ソーヤは昔ながらの紙巻きタバコをこよなく愛していた。
タバコを咥え、片手でジッポライターを使い火を付け、深く煙を吸い込む。
——これこれ。これだ。
喉を燻し、肺から脳にニコチンが染み渡る。
『空気は綺麗につかいましょう』と書かれた政府のポスターに向かって煙を吹き付け、男の様子を窺う。
話し続けている男の話の内容に、真新しい物はなく、メモを取る必要すらもない。男の話す情報程度、ソーヤですら既に把握済みのものだからだ。
「これで全部だ……だから……」
「あぁ、
ソーヤはタバコの2本目に火を付けようかと考え、止めた。
最後に吸った、肺に溜めていた煙を吐き出し、ソーヤは火の付いたタバコを地面に捨てた後ブーツの底で火を消すと、男は唯ならぬ雰囲気を感じ取ったのか唇をワナワナと震わせていた。
「じ、銃を退けてくれ。助けてくれるんだろう?」
縋り付くように躙り寄る男に、ソーヤは不快感を覚えた。
男からの懇願ほど気持ち悪いものはない。
これが美女からのお願いであれば少し考えてあげなくもないのだが、ソーヤが対峙している対象が美女に見えるようであれば、眼科か精神科の受診をお勧めするところ。つまり、ソーヤに男に情けを掛けるそんな趣味はない。
「悪ぃな。これも仕事の内に入ってるんだ」
「そ、そんな! 俺に……!」
ソーヤは話し終えるや否や、躊躇いもなくP220の引き金を引いた。
「ぃがっ!」
銃口から吐き出された9mmパラベラム弾は、火薬の匂いとともに男の後頭部から脳漿を撒き散らした。
地面に薬莢が落ちる音と共に男の身体は力なく地面に倒れ、最期に発せられた脳からの電気信号によって男の身体を小さく震わせ、そして二度と動かなくなった。
「はい、しゅーりょー」
ソーヤはP220を腰に吊ったホルスターに納め、一息ついた。
今日の仕事はこれで終わり。店仕舞いに少し早い時間のような気もするが、早く帰る事ができるのだからダンナも喜んでくれるだろう。
依頼主からのオーダーも瑕疵一つなくこなした。
目下の問題は、この男の死体をどうするかだが、雇用主に頼めば何とかなるだろう。
ソーヤはそんなことを考えながら、ウキウキ気分でホットパンツのポケットの中から携帯電話を取り出し、雇用主に連絡を取ろうとすると——、
「……おい」
——と、ソーヤにかけられたのは怒りを内包した男の声だった。
「うげっ」
ソーヤはその声の主の方を向き、ゲンナリとした表情を浮かべ、すぐに愛想笑いで顔面を取り繕りながら口を開いた。
「俺が到着するまで待っていろと言っただろう、ソーヤ」
ソーヤが言い訳をする間もなくに声を掛けたのは、ソーヤよりも頭四つ分は高い背丈の大男だった。
男の身長は2メートルに迫るほど。
太い手足は、ソーヤのものと比べれば丸太のようである。
男の黒髪はかろうじてその血統をアジア系である事を告げているが、様々な血が混ざり合った結果、アジア系ともアフリカ系ともとれる整った顔立ち。
率直に言えば精悍な顔立ちと言える。
ソーヤが根っからの女性であれば、その大男の精悍な顔立ちと滲み出る強者の匂いでに、すぐに股ぐらを濡らしていた事だろう。
男はキリッとした細眉を眉間に寄せ、エメラルド色の瞳は怒りを湛えてソーヤに向けられている。
「いやー……ダンナぁ、オレも待とうと思ったんだぜ? でもよ、このシミっタレ野郎がさ……」
ソーヤは息絶えた男を指で示して抗議の声を上げるが、ダンナと呼ばれた男——エリクはそれをため息を吐く事で制した。
「はぁ……何が気に食わなかったのかは知らん。でもなソーヤ? 死体を片すクリーニングにも金が掛かるんだ。お前の給料よりも遥かに大きな金額がな」
「へへぇ……そうかい。そりゃ知らなかった」
飄々と嘘を吐くソーヤに、エリクは大きなため息をついた。
「まぁ何にせよ、だ。ブツは手に入ったんだし、さっさとずらかるとしよう」
「同感! 賛成賛成。偶にはいいこと言うじゃんダンナ!」
ソーヤがグッと身体を伸ばすと、薄い生地のタンクトップが上に引っ張られ、その下にある健康的な腹が露わになった。
無駄な肉はなく、薄らと割れた腹は日に当たっていないせいか白く滑らかで扇情的。
エリクはその仕草を視線で咎めるが、当の本人はさして気にした様子もない。
「ん? ダンナどうした?」
大きな溜息を吐きたくなる。いや、とっておきの南国産葉巻を咥えたくなる。
周囲に目がないとはいえ、男の前で無防備な姿を見せつける
「……ソーヤ、帰ったらお仕置きだ」
突然エリクが発した『お仕置き』というワードに、ソーヤはギョッと表情を変えた。
「だ、ダンナ⁉︎ そりゃないぜ⁉︎」
「良いから黙って歩くぞ。続きは家に帰ってからだ。そろそろ表にも勘付かれる頃合いだ」
ソーヤはまだ何か言おうと口を開いたが、今のエリクに何を言っても火に油を注ぐ結果にしかならない事を、女の身体に変わってしまった数年のうちに身を以て知っていたため、返事は決まっていた。
「あぁ、クソ……分かったよ」
渋々、といったようにソーヤは男から奪ったビジネスバッグを小脇に挟み、既に歩き出しているエリクの後を追い始めた。
突然だが、ソーヤ・ミドリは男である。いや、男だったと言うべきか。
その経緯はつまらない話だ。モラルもクソもあったものではない現代において、あまりにもありふれた話と言っても良い。
ソーヤは仕事でドジを踏み、莫大な借金を作った上で売り飛ばされた先で、薬を飲まされて女体化。そこで娼婦のような事をしているうちに、出会ったのがエリクだったという訳だ。
当初は娼婦とその客でしかなかった、エリクとソーヤの関係が一変したのは、ほんの3年前。
エリクがソーヤの借金の全額を肩代わりし、身請けして以降のこと。
単純に言えば、ソーヤとエリクの現在の関係は雇用主と被雇用者でしかない。
例えその関係性に肉体的なものが付随していたとしても、ソーヤは男だったのだ。エリクを恋愛感情で見る事はなかった。
いや、なかった筈だった——。
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お仕事回終了
次はえっちです
拳銃は適当です……許し亭許して……