エルとともにランボーグに取りこまれたツバサ。
今いる部屋はなにもなく銀色の壁が広がっているだった。さっきまでツバサを助けるために奮闘していたエルもここはどこなのかという不安と自分はこれからなにをされるのだろうという恐怖から、泣きじゃくっていた。
ツバサはさっきから“大丈夫だよ”となだめてはいるものの、今のエルにとって根拠のないその言葉はなんの慰めにもならなかった。
(なにをやってるんだ僕は……これじゃあ足を引っ張ってるだけじゃないか……)
こんな時、なにもできない自分がイヤになってくる。助けるはずだった人に助けられて、逃げられたかもしれないのに自分のせいで敵に捕らわれて。いったい自分はなにをしに来たのだろうと腹正しくなる。
そんな時、自動ドアが開けられ、この事件を引き起こした張本人カバトンが入ってきた。呑気にバナナを食べながら。
ツバサはカバトンが入ってくるとエルを守るように小さな翼を広げた。
「おまえ、プニバード族だろう?」
「それがどうした?」
「ぷぷっ、聞いたことあるぞ。たしか~鳥のくせに飛べないダッサダサの種族だろ~?」
あざ笑うように言われるが、否定はしない。それはまぎれもない事実なのもあるが、今は反論するよりやるべきことがあるとツバサにはわかっているからだ。
「エルちゃんは渡さない。どうしてもと言うなら……この僕を倒していけ!」
「じゃあ、そうさせてもらうわ」
「ぐふっ!」
カバトンより振り抜かれた拳の一撃。結果は見事なまでのワンパンKOだった。
ツバサとカバトンでは力の差は一目瞭然ではあったのだが、やるべきことすらできないとは本当に情けない。ツバサは倒れながら、自分の無力さを再認識した。
「おまえさ、なにをそんなにがんばっちゃってんの? あ~アレか? プリンセスに恩を売っときゃ王様からご褒美がもらえるかも~とか?」
「そんなんじゃない……」
傷ついた体にムチを撃ち、立ち上がる。
「こんな小さな子が知らない世界に放り出されてるんだ。助けたいと思うのは当たり前じゃないか!」
「わからん」
カバトンは半目になりながらつまらなそうに言うと、ツバサの顔面にバナナを投げ捨てる。それから目的のエルを捕まえ、自動ドアにむかって歩きだす。
「待て!」
「おまえ、なんか嫌い」
追ってくるツバサを一瞥すると、床が開く。カバトンの目的はあくまでエルであり、ツバサはおまけでくっついてきたにすぎない。ということで、カバトンはこの部屋に来る前にあらかじめ、こちらがエルを回収して部屋を出たら不要なツバサを放りだすよう指示していたのだ。しかし……。
「ふぅ……このゆりかごがなかったら地面に真っ逆さまだったよ……」
ツバサは地上に落とされることなく浮遊していた。
しかし、それはツバサ自身が飛んでいるわけではなく、エルのゆりかごに乗って生みだした状況である。ツバサを圧倒的な力差で沈め、外へ追いだしたカバトンだったが、そこまで頭が回らなかったのか、はたまたツバサを侮っていたのかは不明だが、飛行能力を持つエルのゆりかごを壊さずに外に落とすというミスを犯していたのだ。もし、追いだす前にゆりかごを壊していれば、飛べないツバサは地上に落とされ、短い人生の幕を下ろすことになっていたのは想像に難くない。
ツバサはカバトンの詰めの甘さに感謝しつつ、ランボーグから背を向けた。
(でも、僕じゃダメだ……あとはスカイたちに―――)
まかせようと思いかけたところで、泣いているエルの顔がフラッシュバックされる。
こうしている間にも、エルは危険な目に遭っている。そんな1分1秒でも助け出さなきゃいけない状況の中で最短でエルを助けに行けるのは誰か。そう、それはスカイでもプリズムでもはたまたライトニングでもなく、ツバサだ。
今のツバサならゆりかごでランボーグの内部に忍び込める。カバトンとは圧倒的な力差があることは先ほどイヤというほど痛感したツバサだが、今しなきゃいけないのは敵を倒すことではなく、エルを奪還すること。もちろん、圧倒的な力差があちらにある以上、危険を伴うことになるが、それはここに来る前から覚悟していたことなので、否定材料にはならない。
「……よし」
ゆりかごを操作してランボーグ内部に入りこむ。
しばらく探索した後に見つけたカバトンはゲートを開き、エルを捕らえたことを報告していた。人間体になったツバサは壁に耳を当て、カバトンの会話に耳を立てる。
「仰せの通り、プリンセスエルを捕らえました。なので……約束通りも~っとTUEEEパワーをくださいなのね~ん♡」
猫撫で声でねだるカバトン。美少女が言えばかわいく思えるこれも、ガニ股豚顔出っ歯の男が言っても気味が悪いだけである。
(ちょっと寒気がしたけど……今ならこっそりエルちゃんを助けられるかも)
ねだることに夢中なカバトンからそう判断したツバサは抜き足差し足で部屋に入る。
その際、エルがこちらに気づいて喜びの声をあげるが、ツバサがシーッと言いながら立てた人差し指を口の前にやると、慌てて口を手でふさいだ。エルはカバトンが作ったであろう玉の中に閉じこめられているが、それは連れ帰ればどうにかなるだろう。
「あとおいしい食べ物100年分も欲しいのねん♡約束は10年分でしたけど、そこはまぁ俺のがんばりを評価してほしくってぇ♡」
そろりそろりとエル入りの玉に触れる。そこで安心したのもつかの間、玉は音を立てて消えた。
ツバサはエルを抱えると、その場から一目散に逃げだした。
音でようやくツバサに気づいたカバトンは“また性懲りもなく”と愚痴をこぼしながら後を追う。
「止まれ! 赤ちゃん泥棒!」
と、カバトンは言うが、ここまでの経緯を説明すれば赤ちゃん泥棒はカバトンだろうとツバサは走りながら確信した。
有名な言葉で“おまえが言うな”があるが、今繰り広げられているシチュエーションはまさにその言葉を使うのに相応しい場面と言えるだろう。
「さあエルちゃん、行って!」
侵入する際に窓に開けた穴から外に出ると、エルを乗せたゆりかごを放す。
だが、エルは逃げようとしない。あの時もそうだったが、ツバサを置いて自分だけ逃げるなんてエルにはできないのだ。
かといって、ツバサを担いだ状態ではスピードを出せなくなるのも事実。なにかエルも自分も逃げられる方法はないかとツバサは考えるが、それを待ってくれるほど相手は甘くなかった。
「こんなところから入ってきたのか。だが、もう逃げ場はないのねん!」
穴に体を通してこちらに来ようとするカバトンだったが、それはできなかった。
太い体が穴のサイズに合わなかったため、つっかえてしまったのだ。
「エルちゃん! 今のうちに!」
「エ~ル!」
首を左右に振って拒否の意を示すエル。
このまま言い合っていたら捕まる。そう考えたツバサは苦肉の策としてゆりかごに捕まった。
するとゆりかごは前進を始めるが、やはりスピードは出ない。
一方、窓から外に出るのはムリだと判断したカバトンは半分外に出た体を中に引っ込め、操縦室にむかった。
「……エルちゃん」
このままではまた捕まってしまう。
なら、そうならないためにはどうすればいいか。考えに考えた結果、ツバサはゆりかごをつかんでいた手を放した。
「必ず、逃げきって」
自分を下ろすことでゆりかごを軽くし、エルが逃げられる可能性を高める。これがツバサが思考の海を泳いだ末にたどりついた答えだった。
跳ぶ術を失ったツバサの体が下へと落ちていく。
こちらに気づいたエルが叫び声をあげているが、その子も遠ざかることでだんだん聞こえなくなってくる。
エルはきっと怒っているだろう。ツバサはもちろんそうなることはわかっていた。しかし、それを構わないと結論づけたのは彼女に逃げ切ってほしかったから。
逃げ切って、スカイたちと合流できればあとは彼女たちがエルを守ってくれる。自分と違って、彼女たちにはその力があるのだから。
それに比べて自分は助けるどころか逆に助けられ、最後まで足を引っ張ることしかできなかった。本当に自分は無力な男だと痛感する。でも、そんな自分でもできることはある。それはエルが無事にスカイたちと合流できるよう祈ること。その祈りが届けば、自分がやってきたことも少しは報われる。と思ったツバサだったが、心残りが1つだけあった。先日ソラとヒカルに語った夢のことだ。
(結局、飛べなかったな……)
昔から見ていた夢。どんなに笑われても、バカにされても、あきらめることなく走り続けてきた道しるべ。それを半ばにして断念するなんてこと、本当はしたくなかった。もっと走り続けたかった。と思ったら、目から透明色の液体が流れてきた。それを指ですくうと、ツバサは自分が泣いていることに気づいた。自分はここまで必死だったのかと内診驚く。でも、それももう終わりだ。ツバサはエルに“さよなら”と告げると、静かに目を閉じ―――。
「…………え?」
ようとしたところで体の動きが止まった。まさかと思いエルを見ると、淡い光を発しながら両手を前に差しだしていた。ツバサが犠牲になることをよしとしなかったエルは力を解放し、ツバサを浮かせたのだ。
「エルちゃんダメだ! 僕のことはいいから逃げて!!」
「エル~!」
首を横に振って拒絶。そこから徐々にツバサを自分のほうに引き寄せようとするが、それを黙って見ているカバトンではなく、掃除機光線を発射してエルを吸い寄せた。
「1人で逃げときゃ助かったかもしれないのに、バカなヤツだ。まあ、そんなことになったら困るんだけどなギャハハハハッ!」
徐々に近づいてくるエルにカバトンから送られたのは嘲笑。お前の行動は無駄だ、メリットがないどころか自身を危険に追いやる愚かな行為だと嘲る声だった。
「赤ちゃん風情が身の丈に合わないことするからこうなる。赤ちゃんは赤ちゃんらしく泣きわめいてろ! ギャハハハハハハハッ!」
「っ……」
エルから涙がこぼれる。それはカバトンからバカにされて傷ついたからか、ツバサを助けられない無力さを感じなのかは定かではないが、エルの行いを否定するカバトンにツバサは眉間にシワを寄せた。
(エルちゃんは危険を冒してまで僕を助けてくれた。それはエルちゃんに優しさがあるからだ。それを……)
カバトンは嘲た。許せなかった。エルを嘲たカバトンが。そして、傷つく彼女を傍観することしかできない自分が。
(僕も……いや、僕が!)
抑えた胸が熱くなるのを感じる。助けられるだけはイヤだ。見ているだけはイヤだ。その感情がさらに胸を熱くし、光へと変えた。
「エルちゃんを、守る!!!!!」
呼応するようにヒカルの胸から出現した光は輝きを増し、ペンへと姿を変える。ツバサの手に握られたそれは発現させた者をプリキュアへと変えるミラージュペンだった。
「あれは!?」
「プリキュアの、輝き!?」
「ウソだろ!? あんなやつまでプリキュアになるってのか!?」
三者三様のリアクションを見せるスカイ、プリズム、カバトンの3人。そんな中、ミノトンとの戦闘を終えたライトニングが合流してきた。
「ライトニング! 無事でよかったです!」
「まあ、なんとかね。それよりまずはランボーグの動きを止めないと。カバトンがあのままツバサ君が変身するのを見届けるとは思えないから」
ライトニングの推測どおり、カバトンは光線の出力を上げてエルを吸いこもうとしている。あれではスカイトーンをツバサに渡すことができない。
「せめて、ランボーグに攻撃を当てられれば……」
「それならいい方法がある。遠くから見えてたけど、キミたちはさっきまで2段ジャンプでランボーグに近づこうとしてたよね?」
それはあげはが考案した作戦で、普通にジャンプした後、スカイとプリズムが足を合わせることで足場を作り、距離を稼ぐというものだ。しかし、それでも距離が足りていないのが現状だが……。
「その作戦に僕を入れればランボーグに攻撃が当てられるかもしれない」
「どういうこと?」
「簡単だよ。その2段ジャンプに僕を加えて3段ジャンプにするんだ。ジャンプする回数を増やせるから、距離は確実に伸びるはずだよ」
「たしかにそれならいけるかもしれません。やりましょう!」
あとは攻撃役を誰にするかだが、それは既に決まっていた。
「それと攻撃役は僕にまかせてほしい。相手が機械を素体にしてるなら、僕の能力が役に立つかもしれないから」
「なるほど。たしかに電気なら……わかりました! 攻撃はライトニングにまかせます!」
「よし。じゃあ、始めよう」
3人いっしょに跳びあがった後、スカイとライトニングは順番にプリズムと足を合わせ、2段ジャンプ。その後、今度はスカイとライトニングが足を合わせ、ライトニングをさらに跳んだ。ライトニングは掃除機光線でエルを吸い寄せようとするランボーグに狙いを定め、握りしめた拳に雷をまとわせた。
「いけぇええぇえええぇえええぇえ!」
ライトニングの拳がランボーグに炸裂し、穴を空ける。
その衝撃でランボーグは揺れるが、もたらされたのはそれだけじゃなかった。
「掃除機光線が使えねぇ!? どうなってんだ!?」
何度スイッチを押しても反応がないランボーグに戸惑うカバトン。
そうなった原因はライトニングがパンチを当てた際、ランボーグに強めの電流を流し込んだことで内部を故障させたから。いくら電気で動くものといっても、限界以上の電気を与えられたら故障するのは当たり前である。
「エルちゃん、今だ!」
「ぷいきゅあ~!」
エルから飛ばされたスカイトーンを空中でキャッチする。オレンジを基調に翼の意匠があしらわれたそれを見て察したツバサはミラージュペンとスカイトーンを構えた。
「ライトニング、エルちゃんありがとう。今度が僕が、あなたたちを助ける番です!」
ペンからマイクに変化したミラージュペンにスカイトーンを装着。すると夕空色の光がツバサを包み、その色の髪と衣装に身を包んだ戦士に変貌させた。
「天高くひろがる勇気! キュアウィング!」
変身を完了させたツバサことキュアウィング。
4人目のプリキュア誕生の瞬間であるが、驚くべきところはそこだけはなかった。なんとウィングはエルの力を受けていないにもかかわらず、空に浮いていたのだ。
「ツバサ君、やっと……報われたね……」
ずっと夢見ていた空への飛翔。それがプリキュアに選ばれたことによって成就したと思うと、ライトニングは感涙せずにはいられなかった。
が……そんなライトニングにアクシデントが発生する。ライトニングはパンチした腕がランボーグに刺さっていることでぶら下がっていたわけだが、その腕が重力によって抜け、落下していったのだ。
この時ライトニングは初めて攻撃した後のことを考えていなかったことに気づくが、ライトニングが地面に叩きつけられることはなかった。なぜならウィングがライトニングの元まで飛行し、手を掴んだからだ。ウィングはその後エルを回収すると、スカイたちのいるビルの屋上にむかう。しかし、そうはさせまいとランボーグからレーザーの雨が降り注がれるが、ウィングはそれらを全て回避してビルに降り立った。
「ツバサ君もプリキュアになれたんですね! しかも空まで飛べて!」
「やるじゃん少年! カッコよかったぞ!」
「……」
駆け寄ったスカイたちが褒めたたえるが、当のウィングは口を開けてぽかんとしていた。まるで、今起こったことが認識できていないような……そんな感じだった。
「どうしたの?」
「飛べた……空を……僕が……」
ようやく認識できたようで、ウィングは笑みを浮かべた。想定外の出来事を経ての成就とはなったが、経緯がどうであれ、夢をかなえたことには変わりない。
スカイたちはウィングことツバサが夢をかなえたことを喜ぶが、それに納得できない者が1人いた。そう、カバトンだ。
「空が飛べたからってなんだってんだ! TUEEEのはこの、俺だぁ!」
そう言って、スイッチに拳を叩きつけると、ランボーグは球状のエネルギーを形成しはじめる。とっておきの大技といったところだろうが、うろたえはしない。なぜなら、スカイたちはこの状況を打開する術を既に持っているからだ。
「エル!」
あげはに抱えられているエルがウィングにガッツポーズを送る。
ウィングはエールを送ってくれたエルに“いってきます”と微笑むと、足に力を入れ、ふたたび空に舞い上がった。
「一度やると心に決めたことは絶対にあきらめない! それがヒーロー! そう、僕は決めた! エルちゃんを―――プリンセスを守るのは僕、キュアウィングだぁぁあああぁあ!!」
夕空色の羽を舞い上がらせながら、ウィングは夕空色のオーラをまとい、ランボーグにつっこんでいく。
「ひろがる! ウィングアタック!」
ウィングの特攻がランボーグを貫き、飛び散ったエネルギーが一対の翼を描く。
一方、内部では警告を告げるアラームが大きく鳴り響き、点滅しているランプの色によって赤一色に染まっていた。
「くぅ……なんであんなヤツにまで負けるのねん! くそ~カバトントン!」
よっぽど悔しいのか、カバトンは暴れまわりながら霧散した。
操縦手のカバトンはいなくなったものの、ランボーグはまだ残っている。このままではランボーグは地上に墜落し、街にさらなる被害が出てしまうが、プリキュアがいるのは空だけじゃない。
「プリズム!」
「うん!」
『プリキュア・アップドラフト・シャイニング!』
スカイとプリズムによって形成された円盤がランボーグを持ち上げる。その後、ランボーグを吸いこんだ円盤は内部爆発を起こし、煙が内部から激しく噴き出した。
それによって、ランボーグは“スミキッター”という言葉とともに浄化。被害を被った街も不思議な力で元にもどった。
「ふぅ……ようやく終わったね」
「はい! ライトニングもプリズムもお疲れ様です!」
「もう1人いるでしょ? ほら、もどってきた」
ウィングが空からもどってくる。
「ありがとうウィング。今回勝てたのはキミのおかげだ」
「僕、決めたんです。この先どんなやつが現れてもプリンセスを守るって」
「それはつまり、ウィングはエルちゃんのナイトになるってこと?」
あげはの言葉にウィングは“そうなりますね”と返して微笑む。
「だからこれからは僕もいっしょに戦わせてください。プリキュアになった以上、見てるだけなんてできませんから」
「僕らも同じことを言おうとしてたよ。あらためてよろしくツバサ君―――いや、キュアウィング」
「はい!」
ライトニングから差しだされた手をウィングは笑って取る。こうして、プリキュアは4人になったと同時にエルを守るナイトが誕生したのだった。