廊下の掲示板。そこに集まる生徒たちは横に長い紙を眺めていた。
生徒の名前の上に順位が書かれたそれは中間テストの学年順位が示されたもので、結果を見た生徒たちは一喜一憂していた。
もちろん、生徒であるヒカルたちも中間テストを受けたのだが、結果は……。
「ヒカル君、どうだった?」
「上がってたよ。10位くらい。ましろさんは?」
ヒカルの問いにましろは“いつもどおりだよ”と答える。
といっても、ましろは勉強ができるほうなので、テストの順位は常に20位以内をキープしている。つまり、今回もその順位ということだ。
「みんなで勉強会を開いた甲斐がありましたね! 私もなんとか目標の30位以内に入れましたし」
スカイランドで受けた授業とこの世界で受けた授業では内容がまったく違うので、1から勉強することになったソラだが、真面目に予習復習した甲斐もあって、このような結果を生みだすこととなった。本当に努力を怠らないヒーローガールである。
「本当に安心しました。そうだ! 今日は午前中に学校終わりますし、みんなで遊びに行きませんか? ツバサ君とかも誘って!」
試験期間中は勉強づくしだったので、そういうので息抜きするのもいいだろう。だが、ましろはその提案を良しとはしなかった。遊びに行くこと自体は悪いことではない。良しとしないのは“みんなで”、のところだ。
「ごめんねソラちゃん、私学校が終わったら用事があって……ツバサ君も朝から出かけていなかったし」
「あれ? そうなんですか? それならしかたないですね……じゃあヒカル君、私と2人で遊び……行きますか?」
「ソラさんと、2人で?」
「思えばヒカル君と2人で出かけたことなかった気がしますし……もちろん、ヒカル君がよければになりますけど―――」
「行く!!!」
ソラと声を被らせ、行く意思を示す。好きな人と2人でお出かけ。そんな機会を逃すなどあってはいけない。
「よかったです。じゃあ放課後、楽しみにしてますね!」
「うん。僕も楽しみだよ」
まだ約束をしただけなのに胸がドキドキしている。ヒカルは心の中で機会を作ってくれたましろに感謝しつつ、今日の授業を終わらせた。そして、放課後……。
「じゃあ、行きましょうか」
2人並んで商店街に続く道を歩く。思えば放課後は大体ましろを加えた3人で帰っていたので、ソラと2人で放課後の道を歩くのも初めてになる。
しかし、ましろが作ってくれた機会を無駄にはできない。ここは男らしくリードせねばと、ヒカルは口を開いた。
「ソラさん、カラオケに興味ある?」
「からおけ? ああ、歌うお店のことですよね? この間ましろさんと行ったんですけど、すごく楽しくて、もう一度行きたいと思ってたんですよね!」
「なら、行く?」
「はい! 行きたいです! 行きましょう!」
ということで、カラオケ店へ。入室手続きを済ませ、指定された部屋に渡されたマイクを持って入室する。
歌うことを前提とした部屋なだけあって、モニターの台には曲を検索する機械、音量やキーを調整する機械、壁には大きなスピーカーが2つ設置されていた。
「じゃあまず、ソラさんからどうぞ」
そう言って、マイクを差しだす。
「私からでいいんですか?」
「うん。どうぞ」
「ありがとうございます! でははりきって歌います!」
検索した歌を転送すると、モニターから青空の映像と前奏が流れる。
そして、前奏が終わるとともに歌詞が表示されると、ソラはマイクを片手に立ち上がり、歌いはじめた。
「心の中で強く いつだって前へ、奮い立たせる思い
憧れは眩しいまま 正しさで光る道しるべになってる
かならず...!
なってみせるって決めた理想の自分
千里の道も今日の勇気がなくちゃ
まっすぐさあ一歩
ああ、もどかしい足取りで明日を切り拓く
出会ってしまった いちばんのキラメキ
育ってわかった 未完成わたしらしさ
無限にひろがる 可能性未来
もっともっと全力で前進!~♪」
全力ヒーローガール! ヒーローを目指して突き進むソラの心情が前面に出ているこの曲はまさにソラのためにあるような曲だと思わせた。しかも、歌い手のソラが力強く歌っているので、尚更だ。
「ふぅ……いつ聴いてもいいですねこの曲は!」
息を吐きながら、ソラは腰を落とす。
「じゃあ、次は僕が」
「なにを歌ってくれるんでしょう? 楽しみです!」
期待の眼差しをむけられながら、ヒカルは曲を転送する。ソラの時同様、前奏が終わるとともに歌詞が表示されると、マイクを片手に立ち上がり、歌いはじめた。
「明日、今日よりも好きになれる 溢れる想いが止まらない
今もこんなに好きでいるのに 言葉に出来ない
君のくれた日々が積み重なり 過ぎ去った日々2人歩いた『軌跡』
僕らの出逢いがもし偶然ならば? 運命ならば?
君に巡り合えた それって『奇跡』
2人寄り添って歩いて 永久の愛を形にして
いつまでも君の横で 笑っていたくて
アリガトウや Ah 愛してるじゃまだ足りないけど
せめて言わせて 「幸せです」と~♪」
キセキ。歌詞の内容からわかるとおり、ゴッリゴリのラブソングだ。ヒカルはこの曲と出会った時、自分のソラに対する恋心とリンクしたらしく、今ではラブソングにおいてお気に入りの曲となっている。
「……」
ソラが目をそらしている。よく見ると、頬が赤くなっていたので、ヒカルは“どうしたのか”と聞くと、ソラは目をそらしたまま “自分が言われてるみたいではずかしくなりました”と答えた。正解である。
「これがボウリングですか……話には聞いていましたが、来るのは初めてです」
あれから2時間歌った後、やってきたのはボウリング場。しかし、ただやるだけでは面白くないので、ヒカルはソラに勝負を持ちかけた。そうしたほうが盛り上がって楽しめると思ったからだ。
「ヒカル君のおかげでルールはバッチリです! いきますよ~!」
ボウリングを持った腕を後ろに引いた後、勢いよく押しだすように前に振る。
振り切った直前に放されたボールは真っ直ぐ飛んでいき、ピンの群れに突っこんでいった。
ピンが吸いこまれると、天井に設置されているモニターからファンファーレが流れ、倒されたピンのイラストとともに“STRIKE!”の文字が中央にデカデカと表示された。
「やりました! ストライクですよストライク!」
本来ならボールがレールの上を転がらずに飛んでいったことにツッコミを入れたいところだが、それを飛び跳ねながらはしゃぐソラに言うのは野暮だと思い、代わりに拍手で祝福することにした。
「ヒカル君、がんばってください!」
ソラさんからエールを受けながら、ボウリングを構える。
勢いよく投げたボールはレーンを転がり、群れのド真ん中に突っこんだ。群れはすべて倒れ、ソラと同様にモニターに“STRIKE!”の文字が中央にデカデカと表示される。
ストライクを取ったのは初めてなので、本当はソラみたいにはしゃぎたいところだが、ソラの前なので小さくガッツポーズする程度に留めた。
「ヒカル君もストライク! これはいい勝負ができそうです!」
「あと4ゲーム。負けないよ!」
それから2人はゲームが終了するまでボールを投げ続けた。ヒカルは負けじとストライクを取り続けたが、ラストゲームで1本倒し損ねてしまい、勝敗はソラの勝ちで幕を閉じた。
ヒカルは負けはしたものの、楽しむという目的は果たせた。ヒカルにとってもソラにとっても、勝ち負けよりもそっちのほうが大事なのだ。
「あ……」
ゲーセン内でなにをやるか考えながら歩いていると、ソラの足が止まる。
彼女の視線の先にあるのはクレーンゲームがあり、中には多くのぬいぐるみが入れられていた。中でもソラの視線をつかんで離さないのは青い犬のぬいぐるみだった。
「欲しいの?」
「あ、でも私やったことないので……お金無駄になっちゃいますよ」
苦笑しながら言うソラ。このままここを通り過ぎては男が廃る。ヒカルはそう思い、100円玉を投入口に入れた。
「ヒカル君?」
「いいから見てて」
ソラを一瞥せずに言うと、ぬいぐるみの頭についているヒモにアームを引っかける。
そのまま上昇したクレーンは取り出し口の真上まで来ると、アームを左右に開き、ぬいぐるみを取り出し口の中に落とした。
ヒカルは取り出し口からぬいぐるみを出すと、ソラに差しだす。ソラはぬいぐるみを受け取ると、“ありがとうございます”と言ってヒカルに笑顔をむけた。
「上手なんですね……ましろさんからは難しいって聞いてたんですけど」
「慣れるまではね。僕もそうなるまで時間かかったし」
「そうなんですね。ふふっ、ヒカル君が取ってくれたこれ、やっぱりかわいいですね」
そう言って、ぬいぐるみに微笑む。こういう顔を見ると出しゃばった甲斐があったというものだ。
「今日は本当に楽しかったです。カラオケもボウリングもゲーセンも、全部」
「そっか。ソラさんがそう思ってくれたなら、よかったよ」
「ヒカル君のおかげですよ。ヒカル君が取ってくれたぬいぐるみ、私ずっと大事にします。それと……」
「それと?」
「最後に1つお願い、いいですか?」
はにかみながら言うソラにヒカルは首をかしげた。
―――――
ましろが自分の部屋で宿題をしていると、スマホから着信が鳴った。
「誰からだろう? あ、ソラちゃんからだ」
画面を見ると、送られていたのは1通のメール。内容は”おでかけ、楽しかったです!”という一文だけだったが、その下にはソラとヒカルが寄り添いながらピースしている画像が添付されていた。
ソラがヒカルの肩を抱きながらウィンクしてのピースに対し、ヒカルは照れ顔になりながら控えめにピース。ヒカルについてはソラと距離が近い故だろうが、笑っていることから満更でもないなとましろはすぐに察した。
「これで少しは進展したかな」
ソラが遊びに行こうと言った時、ましろは用事があると断っていたが、それはヒカルと2人で出かけさせるためのウソだ。
みんなで出かけるのもそれはそれで悪くないが、これはチャンスだと思ったましろは2人で出かけるよう誘導したのだ。
「ソラちゃんが帰ってきたら、なにしたか聞かせてもらお」
そう言って微笑むと、ましろはスマホの電源を切った。