「歓迎パーティー?」
ツバサがプリキュアに覚醒してから数日が立った頃、ましろがそのようなことを言った。ましろ曰く、新たにプリキュアになったツバサとこれからいっしょにがんばっていこうというパーティーを開催したいらしい。
「僕の、ですか?」
「うわあっ!?」
巣から聞こえてきたツバサの声に、ましろが驚きの声をあげる。ずっと家にいた鳥がツバサと判明してからもうそれなりの日がたっているが、ましろは鳥がしゃべることにまだ慣れていない様子。もちろん、ツバサに彼女を驚かせる意図はなかったが、驚かせてしまったのは事実なので、“驚かせてしまってすみません”と謝罪してから人の姿になった。
「あの、僕に気を遣ってくれなくても大丈夫ですよ? そんなことしなくても、僕は全然……」
「気なんて遣ってない。やりたいからやるんだよ。そうだよね? ましろさん」
「そうだよ。ツバサ君は、イヤかな?」
「あ、いや……」
ツバサの視線がエルに向けられる。対するエルは両手を上げて、“エル、エル!”と笑顔をむけてきた。エルがまともに言葉を話せないため、これがどういう意味かはこちらで解釈するしかないが、ツバサには“やろうよ”と言っているように聞こえた。
「そんなことないです。嬉しいです」
エルに促され、ツバサは照れながら同意する。これにて歓迎パーティーの開催が決定し、4人は早速準備にとりかかることに。主役であるツバサには待ってもらおうとしたのだが、ジッとしてられないようなので手伝ってもらうことにした。それに、本人の意見を聞きながら準備を進めれば本人にとって一番喜んでくれる歓迎パーティーになるというましろが意見したのもあるが。
「……できました!」
スケッチブックに描きあがったものをヒカルたちに見せるツバサ。ツバサが描いたのはパーティーの飾り付けのイメージ図で、ツバサらしく飾り付けには飛行機や鳥のデザインがあしらわれていた。
「おおっ! いいじゃないですか!」
「うん、すごくいいと思う!」
「じゃあ、飾り付けはこんな感じでやるとして……あとは料理だね。ツバサ君、なにか食べたいものある?」
「そうですね……やっぱりパーティーといえば……ヤーキターイですかね?」
「ヤーキターイ?」
聞き覚えのない料理名にヒカルたちは首を傾げる。ソラ曰くヤーキターイはプニバード族が食べるお祝い料理らしいのだが、それ以上の情報は得られなかった。これでは作りようがないので、ヒカルたちはヤーキターイを知るべく、ヨヨの元へ向かった。事情を聞いたヨヨはミラーパッドですぐヤーキターイについて調べてくれた。
「これが、ヤーキターイ……?」
「でも、これどう見ても……」
「たい焼き……だよね?」
ヨヨさんが見せてくれたヤーキターイの画像はデザインこそスカイランド風にアレンジされているが、ヒカルやましろが知るたい焼きとそっくり―――というか、ほぼ同じだった。
「そうね。でも、材料はスカイランドのものを使うから、味はたい焼きと少し違うと思うわ」
「じゃあ、試しにこの世界の材料で作ってみるからツバサ君、食べてみてくれる?」
「わかりました!」
ということで、早速たい焼き作って試食してもらう。ツバサ曰く、“生地の味はほとんど同じだが、中の餡がヤーキターイと違う”とのことらしいので、今度は餡の材料を変えて作ることに。ピーナッツ、カレー、キャラメル、チョコ、さつまいも。いろんなものを試したが、結果は……。
「どれも違いますけど、美味しいです! すごく!」
再現はできなかったが、ツバサの顔は明るかった。それはヒカルたちを落ち込まないように言ってるのではなく、本心で言ってるのだとヒカルたちにはすぐ伝わった。
「よし! じゃあもっとチャレンジしよう!」
「じゃあ、買い出しに行かない? ここにある材料は出尽くしたし」
「街にならまだ試してない材料がたくさんありますからね。行きましょう!」
ツバサにとってモチベーションを上げたヒカルたちは意気揚々と街へと繰りだすのだった。
―――――
日も沈みかけた頃、買い出しを終えたヒカルたちは帰路をたどりながら入れる材料について話し合っていた。
「はちみつにカスタード、オレンジにリンゴ……あとは……」
「シャケ! 思いつくものは全部買いましょう!」
絶対合わないと思いながら、苦笑するヒカルたち。しかし、時間ももうないし、一見合わないものでも試せるものは試してもいいかもしれない。もしかしたら、という一筋の可能性の話になるが……。
「ましろさん、ありがとうございます」
「え?」
礼を言うツバサに視線をむける。
「ソラさんとヒカルさんといっしょに、こんなにがんばってくれて……すごく、嬉しいです」
「そんなっ、お礼なんていいよ。私はただ、ツバサ君にヤーキターイを食べて喜んでもらいたいだけで……それに、ヒカル君が料理得意なのも知れたし」
照れくささの余りか、話題をヒカルに向けさせる。
「僕の両親、仕事がいそがしくていつも帰りが遅いから、少しでも負担を減らしたくて、家事とか料理のしかたを勉強したんだよ」
「じゃあ、家でそういうのは全部ヒカル君がやってるんですか?」
「そうだね。父さんも母さんも仕事から帰った後はそれをする気力もないくらい疲れ切ってるから」
「お父さんとお母さんのためにそこまでできるなんて……ヒカル君はやっぱりすごいです!」
ソラに褒められ、今度はヒカルが照れ顔になる。意中の相手に思いもよらぬところで褒められ、心臓の鼓動が速くなるが、それをソラが知る由はない。無自覚とは罪深いものだ。
(ましろさん、ヒカルさんってソラさんのこと……)
(見ての通りだよ。わかりやすいでしょ?)
(はい。すごく)
先日ソラとヒカルが遊びに行った時、ツバサにはましろの口裏を合わせるよう言われたが、これでその理由がわかったようだ。恋愛ごとにはどちらかというと鈍いツバサだが、こうもあからさまなリアクションを見ればイヤでも察しがつく。まあ、当のソラはツバサ以上の鈍感故、ヒカルの好意には気づいていないのだが……。
「2人とも、なにこそこそ話してるんですか?」
「いや、なんでもないから気にしないで!」
「は、はい! 全然大した話ではないので!」
「そ、そうですか……」
ソラには怪訝な表情をされたが、それ以上は言及されなかった。いくら鈍いと言っても、これに関しては本人が気づかないと意味がないので、ヒカルの好意をこちらが伝えるのはご法度だ。
「そういえばみんなと料理してたら、思いだしたよ。初めて料理した時のこと」
「ましろさんの初料理話か。なにを作ったの?」
「おにぎりだよ。お仕事で疲れてるパパとママに作ってあげたくて。でも、その時は上手くできなくてさ……」
料理経験がなかったのだから、それは当然のことだろう。かくいう今でこそ料理ができるヒカルも最初からそれができたわけではないのだから。
「でも、それに気づいたパパとママがいっしょに作ってくれてね、その時食べたおにぎりが本当に美味しくて、みんな笑顔で、今でも忘れられない味なんだ」
「もしかしたら、それがましろさんにとってのヤーキターイなのかもしれないね」
「!?」
ハッと目を見開いたツバサの足が止まると、ヒカルたちも足を止めた。
「ツバサ君、どうしたんですか?」
「……僕、気づきました。僕は……ヤーキターイを食べたかったんじゃなくて、本当は―――」
ツバサの声が突如遮られる。メガホン越しに聞き覚えのある声によって。ヒカルたちは声の主が分かると、スルーしてツバサに続けるよう促した。
「おいこら! 無視するな!」
「今大事なところなので、後にしてください! ツバサ君、カバトンのことは気にせず、続きを―――」
「おーいーしーいやきいもなのね―――――――――――――――――ん!!!!!」
声のボリュームを上げて是が非でもこちらに注目させようとするカバトン。これではおちおち話も聞けない。
「もう! ジャマしないでください!」
「無視するそっちが悪いのねん! 焼き芋屋に化けてお前らを油断させようと思ったが、こうなったら予定変更なのねん!」
そう言うと、いつものようにランボーグを召喚する。今回は焼き芋を媒体にした焼き芋ランボーグだ。
「みんな!」
『うん(はい)!』
ヒカルのかけ声で、ソラたちはミラージュペンを構え、プリキュアに変身した。
「無限に広がる青い空! キュアスカイ!」
「ふわりひろがる優しい光! キュアプリズム!」
「大空にひろがる稲光! キュアライトニング!」
「天高くひろがる勇気! キュアウィング!」
「レディー―――」
『ゴー! ひろがるスカイ! プリキュア!』
プリキュアたちが名乗りを上げると、カバトンはランボーグに指示を飛ばす。指示を受けたランボーグは筒状の腕からミサイルを連射。対するスカイは次々と放たれるミサイルを避けつつ、ランボーグに接近し、キックを当てた。
「はぁぁあああぁあああっ!」
プリズムの光弾、ランボーグのミサイルによる撃ち合い合戦。最初こそ拮抗していたが、カバトンの声かけによってランボーグ側の勢いが強まり、プリズムが押され始める。
「させるか!」
押し切られる寸前、急降下してきたウィングがランボーグにパンチを叩きこむ。ランボーグがそれを弾くと、入れ替わるようにライトニングとスカイによるダブルキックが背後から放たれ、ランボーグは地に伏した。
「ウィング、スカイ、ライトニング、すごいよ!」
立ち上がるランボーグを囲む。カバトンは周囲を見渡し、自分らが追い込まれていることを認識すると切り札と言わんばかりに焼き芋を取りだす。
「焼き芋!?」
「それをどうする気だ!?」
「こうするのねん!」
焼き芋を頬張り、尻を突きだすと、放屁。ソラはスカイランドで体験済みだが、カバトンの放屁は(臭いという意味で)強力で、それが焼き芋を食べたことで更に強力になり、プリキュアたちの鼻を曲がらせた。
「うわ、くっさ!!」
「うぅ……臭いよぉ……」
「隙ができた! やれ! ランボーグ!」
「ランボーグ!」
カバトンの指示で、プリキュアそれぞれにミサイルを飛ばす。プリキュアはそれぞれ避けたり弾いたりして対処する。
「キャアッ!」
一方、光弾で相殺しようとしたプリズムはその際に発生した煙で視界を奪われ、それに乗じて接近してきたランボーグにパンチを喰らい、河原の傾斜に背中をたたきつけられた。
「ランボーグ!」
そこからさらにパンチの追撃。その衝撃で周囲に煙が蔓延する。
「ギャハハハハハハハッ! どうしたプリキュアさんよぉ? 数は増えたが、全然YOEEE! まずは1匹撃破―――!」
「してないよ」
「なに!?」
煙が晴れて見えたのはプリズムを抱えているライトニングの姿。しかし、そのライトニングは風貌が普段のものと違うものになっていた。電気が迸ることで身体は光り輝き、瞳には稲妻のシンボルマークが宿ってきたのだ。
「ライトニング……?」
「実戦で使えるか不安だったけど、成功してよかったよ」
言いながら、プリズムを下ろしてまとっていた電気を散らせる。
「ライトニング、さっきのはまさか……」
「ミノトンとの戦いでキッカケをつかんで、密かに練習してたんだ。全身に電気をまとうことでスピードとパワーを底上げする。名付けるなら、ボルテックモードかな」
ボルテックモード。全身に電気をまとうことでスピードとパワーを上昇させるこの技は出力を上げることで上昇幅を広げることが可能となっている。ただし、全身に電気をまとわせる行為は身体に負担がかかるようで、この技を使っている間は体力を消耗するデメリットがあるが、解除はいつでもできるため、使い勝手はいいほうだと言えるだろう。
「あのランボーグは強敵だけど、僕らが力を合わせれば勝てない相手じゃない。ここから巻き返そう!」
「力を合わせればだとぉ? ふんっ!」
ライトニングを鼻で笑うカバトン。
「笑わせるなよ! 足手まといがいてなにが力を合わせるだ!」
「足手まとい……?」
「だってそうだろ? 身軽でもない空も飛べない形勢逆転できるほどの技もない。そんなやつを足手まといと言ってなにが悪いのねん?」
反論できず、口をつぐんでしまうプリズム。実際、自分は今回の戦いで自分は助けられてばかりで、活躍なんてこれっぽちもできてない。悔しいが、カバトンの言う通り―――。
「キミは間違ってるよ。カバトン」
だと思おうとしたところで、ライトニングが否定する。
「はぁ? なにが間違ってるってんだ?」
「プリズムには誰にも負けない優しさがある。その優しさが、みんなを照らしてくれるんだ」
「そうです! 私はその優しさに何度も助けられたんです!」
「カバトン! お前はプリズムのことを、なにもわかってない!」
プリズムの―――ましろのことはライトニングたちはよく知っている。少なくとも、カバトンよりは。
「そんなものがなんになるってんだ! 世の中TUEEEのが一番なのねん! ランボーグ!」
カバトンの指示で今までよりも大きなミサイルを飛ばすランボーグ。だが、それがライトニングたちに当たることはなかった。前に出てきたプリズムがプリズムショットでミサイルを相殺させたからだ。
「なぁにぃ!?」
「私の大事な友だちに、手出しはさせないよ!」
「足手まといがいまさら……ランボーグ!」
「ひろがるウィングアタック!」
カバトンの指示でこちらにむかってきたランボーグを突進で迎撃したウィングだったが、ランボーグは腕でガード。これでは地面を滑らせた程度で大したダメージにはなっていないが、問題ない。なぜなら……。
「ひろがるライトニングキック!」
ライトニングが横から電気をまとった空中蹴りを繰りだし、ガードを崩したからだ。先ほどのウィングはライトニングから注意をそらすための囮だったのだ。
「プリズム、スカイ! 今だ!」
『プリキュア! アップ・ドラフト・シャイニング!』
ライトニングの合図でスカイとプリズムがランボーグを浄化。それを見たカバトンは“今日はこのぐらいで勘弁してやる!”という捨て台詞を吐いて去っていった。
「これでやっと落ち着けるね。ツバサ君、続き聞かせてくれる? ヤーキターイを食べたかったんじゃないって辺りまで話してたよね?」
買い出しを終え、河原に戻ってきたヒカルたち。そこの傾斜に座り、カバトンのせいで途絶えていた話の続きをすることに。
「……僕、気づいたんです。僕はただヤーキターイが食べたかったんじゃなくて、父さんと母さんと食べた、あの楽しい時間を過ごしたかったんだって」
ツバサの視線をましろにむく。
「それに気づけたのはましろさんのおかげです」
「私……?」
「だって今日、ソラさんとヒカルさんとヤーキターイを作ろうとして、それがすごく楽しくて、できあがったものを食べてみたら、あの時と同じくらい美味しかったんです。だから……」
間を置いて、ツバサは言葉を続けた。
「味は違っても、今日作った料理は僕らの……ヤーキターイです!」
予定と違ったが、思えばそういうことなのかもしれない。問題なのは料理ではなく、家族や友人と過ごす時間。それがそれぞれのヤーキターイになるのだ、と。
「よし、じゃあ帰って歓迎パーティーです! 今日は私たちのヤーキターイをたくさん作りましょう!」
立ち上がって拳を高く掲げるソラに続き、ヒカルたちも立ち上がり“おー!”と言って拳を高く掲げるのだった。