日曜。ヒカルたちはらそ山に来ていた。そうなったのはあげはが今日突如……。
<今日はみんなで山に行こう!>
と言ったのがキッカケだ。まあ、思えばみんなでどこかに出かけることなんてこれまでなかったし、偶然みんなの予定も空いていたから、これはいい機会だと思い、みんなはそれを了承。あげはのマイカー(本人曰くピヨちゃんと言うらしい)で山に行くことに相成ったというわけだ。
ちなみになぜ山なのかというと、みんなで遠出したかったことと、あげはが少年ことツバサのことを知りたかったから。しかし、ツバサはこの少年という呼称はあまり気に入っていないようだが……。
もう1つちなむと、ヒカルのことは普通に君づけである。少年呼びが気に入らないのはそこが理由の1つでもあるのだろう。
「うわ~結構人来てるね」
今日は1日晴れ。山を登るには絶好の天候故、この機会に山登りに来たといったところだろうと推測しながら歩いていると、エルが鼻息を荒げて両手を伸ばした。どうしたのかと思い、彼女の視線の先を見ると看板があり、そこにはひげを生やした鳥とともに文章がつづられていた。
「らそ山クエスト……?」
「ソラ吾郎の出すなぞなぞを解きながら山登りに挑戦しよう……って書いてますね。エルちゃん、もしかしてソラ吾郎好きなの?」
「エル!」
エルが笑顔で答える。ソラ吾郎はこの山のマスコットキャラで、一部の人に人気があるとは聞いていたが、エルもこのキャラのファンのようだ。
「全てのなぞなぞをクリアすると非売品グッズというのをもらえるようですね。それになぞなぞを解きながら山登りするのは面白そうです!」
「そうだね。このソラ吾郎も少年に似てるし!」
「どこがですか!?全然似てないですよ!」
「じゃあ、挑戦してみようよ。クリアできたらグッズはエルちゃんにプレゼントするよ」
ということで、一行は山のふもとへ。そこには2つの道があるのだが……。
「1つは歩きやすくてゆったり楽々のんびりコース、もう1つは……登り甲斐のあるコース、かな……?」
のんびりコースは坂道が少ないのに対し、もう1つのコースは坂道が多く、いかにも上級者向けのコースといった感じだった。登り甲斐のあるコースを見て、スポーツ気質のソラの目が輝く。
「エルちゃんはこっちで見ておくから、ソラちゃんは好きなほうに行ってきなよ。ヒカル君もね」
「へ!?」
驚くヒカルにあげはは耳打ちする。
(なに驚いてんの?ソラちゃんと距離縮めるチャンスだよ?)
(ソラさんと……?)
(当たり前でしょ!好きなんでしょ?ソラちゃんのこと)
(なんであなたまで知ってるんですか!?まさか、ましろさんから聞いたんですか……?)
(ましろんから聞かなくても見ればわかるって。キミ、わかりやすいから。さあ、早く!)
(わ、わかりました……)
ソラと2人きりになれる機会はそうない。なのにせっかくあげはが作ってくれたチャンスを無駄にするなんてできない。
「ヒカル君が来てくれるなら嬉しいです!さあ!いっしょに登りましょう!」
早く登りたい気持ちが逸ったからか、ソラがヒカルの手を取って登り甲斐のあるコースに進んでいく。手を握られたことでヒカルの顔が上気するが、前しか見ていないソラはそれに気づいていない。
「いってらっしゃ~い。ふふっ、ヒカル君は可愛いね。恋してるって感じで」
「ソラちゃんは気づいてないけどね。私が見た感じでは、だけど」
「ソラちゃんはヒカル君のこと気に入ってるみたいだけど、それがまだ恋愛に結びついてないって感じだね。あれは」
「そうだね……」
(話についていけない……女の人ってこういう話好きだよな……)
恋愛話に花を咲かせるましろとあげはを見ながら、そんなことを思うツバサだった。
―――――
あげはの気遣いで登り甲斐のあるコースを登ることにしたヒカルとソラ。このコースはスタート地点からわかる通り、坂道が多く、その上距離も長いこのコースは登山初心者には厳しいものとなっていた。
しかし、普段から鍛えているソラは当然として、登山初心者であるヒカルはソラに出会う前だったらとっくに根を上げていたのが体を鍛える習慣がついた今ではそんなコースでも対応することができるようになっていた。初めてのことでも体を鍛えていれば、こういうところに来てもなんとかなるんだな、と思う今日この頃である。
「付き合ってくれてありがとうございます。ああは言ったんですけど、話し相手がいないと退屈だったのでどうしようかと思ってたので」
「いや、今の自分の体力がどれくらいか試したいと思ってたから、このコースはちょうどよかったよ」
ソラと2人きりになりたかったのが一番の理由ではあるが、これはウソではない。今はダンベルにランニングをやるようになったとはいえ、いつも同じコースを回っていたから、この機会に違うコースに行ってみたいと思っていたのだ。
「ヒカル君、逞しくなりましたよね。1人でも自主的にトレーニングしてますし」
「三日坊主になりたくなかったから、よっぽどのことがない限り続けるようにしてるんだよ」
「三日坊主?」
「簡単に言うと、すぐやめてしまうことだよ。この世界には継続は力なりって言葉があるんだけど、どんなことでも続けると自分の力になるって僕は思ってるんだ」
「継続は力なり……いい言葉です。メモしないと」
ノートを取りだし、ヒカルがさっき言ったことをメモする。ソラはこうすることでこの世界の言葉をどんどん覚えていっている。継続は力なりのいい例だ。
「ん?アレは……」
しばらく歩いていると、看板を見つけた。それには“この先、アスレチックあり”の言葉と場所を示す矢印が書かれており、ソラの目をまた輝かせた。
「ヒカル君!アスレチックですって!やっていきましょうよ!」
「そうだね。まだ体力は有り余ってるし、やっていこうか」
矢印が示す方向に歩くと、いくつかのアスレチックが繋がったコースが2人分並んで設置されていた。それを見て、これは競うために用意されたものだと察したソラがこれをスルーするわけがなく……。
「ヒカル君、1つ勝負しませんか?」
「勝負?」
「はい。どっちが先にゴールできるか勝負して、負けた人は勝った人の言うことを1つ聞くんです」
王道な内容ではあるが、これはなにかあったほうがモチベーションになると思っての提案だろう。もちろん、勝ったとしても負けた人にさせるのは良識の範囲内に限定するのも暗黙の了解だ。
「わかった。その勝負、受けて立つよ」
「よし!じゃあ、早速始めましょう!」
ということで、アスレチックバトル開始。ヒカルは持てる力を出してアスレチックをクリアしていったが、ソラのクリア速度は尋常じゃないほど早く、大敗を喫してしまった。
「よし!私の勝ちです!」
「完敗だよ。やっぱりまだソラさんには敵わないな」
「じゃあ、命令―――という感じにするのはイヤなのでお願いになるんですけど……言いますね?」
「うん。僕ができることならするよ」
「ではヒカル君、これから私のこと……」
少し間を置いて、ソラは言葉を続けた。
「呼び捨てにしてもらえませんか?」
「…………え?」
思いも寄らぬ内容に思考が止まる。これまでのヒカルはソラのことをさんづけで呼んでいた。それはヒカルが異性であれば例外なく呼称していたが、ソラのお願いはそれをやめろと言うのだ。
「呼び、捨て……?」
「えっと、理由になっていなかったら申し訳ないんですけど……ヒカル君にだけはそう呼んでもらいたいというか……。前から思っていたんです。さんづけがちょっと距離を感じるなって……ダメ、でしょうか……?」
距離を縮めたいとは思っていたが、まさか相手からこんなことを言ってくるとは予想だにしていなかった。もちろん、ヒカルには断る理由はないのだが、いままで異性のことを呼び捨てにしたことがないため、少々慣れが必要にはなるが……。
「わかった……女の子を呼び捨てしたことないから、最初はギクシャクしちゃうかもしれないけど、それでもいいなら……」
「じゃあ、ヒカル君にとって私が初めて呼び捨てする女ってことに……?」
「そうなるね……」
「そうなんですね……なんでしょう、そう思うとなんか嬉しく感じてしまいます」
なぜそう思うかはソラ自身もわかっていない。わかるようになるにはまだ時間がかかるだろうが、呼称の変化は大きな進展と言っていいだろう。
「では、少し休憩したら先に進みましょう。まだ時間はありますし、ゆっくり行きましょう」
「うん、そうしようか。…………ソラ」
それからは近くの休憩所で体を休めた後、2人はふたたび合流地点にむかって歩きだすのだった。