合流地点に着くと、のんびりコースに進んだ組と鉢会った。のんびりコースにはましろ、ツバサ、あげはの3名で行ったはずなのだが、なぜかあげはの姿はなかった。
「あれ? あげはさんはどうしたんですか?」
「……それが」
首を傾げるヒカルとソラにましろは理由を説明した。それはさかのぼること数分前、合流地点までもうすぐというところまで来た時のことだった。
<かくれているきれいなものは?、か……。うーん……>
とりあえず見渡してみる。辺りには綺麗な花畑が広がっているが、それのことではないだろう。
<ん?>
よく見ると近くにはロープウェイが客を乗せて昇り降りを繰り返していた。それを見つめたまま動かないあげはにツバサは首を傾げる。
<あの……あげはさん?>
<少年、ましろん!アレに乗ろう!>
<え!?>
ロープウェイのほうに進んでいくあげはにツバサは“こいつ本気か!?”みたいな顔をする。ロープウェイに行くと、コースから外れてしまう。あげはがロープウェイに行こうと提案したのには理由があって、ましろはなんとなく察していたのだが、ツバサには理解できなかったようで……。
<待ってください!そこだとコースから外れちゃいますよ!?なぞなぞは!?>
<いいからいいから。少年、早く!>
<……>
ここに来る前から不満が溜まっていたツバサ。それがあげはのこの身勝手な行動(ツバサ視点)によってとうとう爆発した。
<ツバサ君……?>
<もういいです!僕はこっちを探しますから!ふんっ!>
ぷんすかと頭に湯気を絶たせながら、ツバサはコース通りの道を歩いていった。だんだん遠くなっていく背中を見送りながら、あげはは苦笑しながら頬を掻く。
<嫌われちゃった、かな……?>
<そこまでではないんじゃないかな?苦手意識があるだけで……>
<ツバサ君にも楽しんでもらおうと思ったんだけど……余計なお世話だったかな……?>
<私、ツバサ君に聞いてみるよ。あげはちゃんはどうする?>
<私は先に行ってるよ。私がいたら話してくれないと思うから>
と言った感じであげはと別れ、ツバサとともに合流地点に来たというわけだ。
「なるほど……そういうことだったのか」
「……僕、ああいう強引な人、ちょっと苦手です……」
どうやらましろの推察は当たっていたようだ。まあ、あんな態度を取れば誰にでもわかるかもしれないが。
「あげはちゃんは、わかってくれると思ったんじゃないかな?ツバサ君のこと、信じてたから」
「……僕のことを?」
「うん。この前エルちゃんを守った時、カバトンにすごく怒ってたでしょ?」
「あれは……あいつがプリンセスをバカにしたから……」
ここで思いだされるのは円盤型ランボーグとの戦い。ツバサはそしてその戦いでミラージュペンを出現させ、プリキュアに覚醒した。エルをバカにされたのには腹が立ったが、これはツバサがエルのナイトになるキッカケとなった大事なエピソードだ。
「その時ね、あげはちゃんも怒ってたの」
「あげはさんも?」
「うん。ツバサ君が言ったように強引なところはあるけど、エルちゃんを思うキモチはツバサ君もあげはちゃんもいっしょだよ」
「あげはさんはそんなツバサ君なら、言葉にしなくても気づいてくれると思ったのかもしれませんね」
「コースから外れたのだってなにかに気づいたからじゃないかな?あげはさんって周りのことよく見てるから」
思えばあげははツバサのことを常に気にしていた。大きなリュックを背負っているツバサに辛かったら自分が持つとか、疲れたらすぐ言ってとか、思いやりが常にあった。
(そういえば……)
ロープウェイの線路は山頂に繋がっていた。ということは、山頂に行けばあのなぞなぞの答えがわかるのでは?そう考えたツバサは石の椅子に下ろしていた腰を持ち上げ、ふたたびリュックを背負った。
「ましろさん、ソラさん、ヒカルさん、僕は山頂にむかいます。きっとあげはさんはなぞなぞの答えがわかったからそこにむかったと思うので」
「うん。僕らも後からむかうよ」
山頂への道を走っていくツバサをヒカルたちは見送る。ここからは2人次第となるが、ツバサのあの様子ならもう大丈夫だろう。
「ここを登れば山頂ですね」
しばらく話してからヒカルたちも山頂に続く道にむかう。階段かロープウェイで行けるが、選んだのは当然……。
「階段で行きましょう!」
「え!?ロープウェイで行こうよ~!」
「この階段の長さ……運動するのにちょうどいいね」
「ヒカル君もすっかりスポーツ脳になったね……」
ということで、ましろを巻き込み、ヒカルとソラは山頂へと歩を進めるのだった。
―――――
一方、ツバサは山頂を目指して長い階段を走っていた。
(もう、すぐだっ……!)
一度やると決めたら最後までやる。これは空を飛ぶ夢を志した時と同じこと。それにあのなぞなぞはこれが達成できない者にこの先にあるものを見る資格はないと言っているのかと思うと、ここで諦める選択肢は自然と潰されるというものだ。
「少年!」
階段の先であげはが手を伸ばしている。力を振りしぼるようにツバサはその手を取り、山頂に足を踏み入れた。ようやく着いたことに安堵しつつ、ツバサは両手を膝につけながら荒くなった息を整える。
「少年、見て」
あげはが指したほうを見ると、そこには虹色の花畑が広がっていた。中心に描かれた翼のシンボルはツバサに親近感を与え、彼の視線を掴んで離さなかった。
「もしかして、これが……?」
「うん。ここに来ないと見れないようになってたみたい。ここに来れた人へのご褒美って感じかな?」
上から見る虹色の花畑は本当に綺麗だった。ここまで来るのに使った体力に見合う―――いや、それ以上の褒美だと思うほどに。
「……あげはさん」
「ん?」
「どうして、わかったんですか? 僕がここに来るって」
「ロープウェイから少年が走ってくるのが見えたから。走るの速いんだね」
「なっ!?」
そう。あげはが乗ってきたロープウェイは山頂へと続いていたのだ。さっきここから見える花畑はここに来れた者への褒美と言ったが、ロープウェイで来れるならわざわざ走ってくる必要はないので、ツバサからしたら骨折り損のくたびれ儲けである。
「もう!わかってたなら先に言ってくださいよぉ!」
ぷんすかと怒るツバサにあげはは苦笑しながら“ごめんごめん”と返す。それからタイミングを見計らったようにヒカルたちが階段から山頂へとやってきた。日ごろから鍛えているソラとヒカルは息が乱れてなく、余裕がありそうだったが、ましろは息切れを起こしている。
「ちょっとましろん、大丈夫?」
「見ての、通りだよ……なんでこんなに長いの階段……」
「ましろさんヒカル君、見てください!すごい綺麗な花畑ですよ!花畑はここに来るまでもありましたけど、上から見るとこうなってるんですね!」
「そういえば、これで全てのなぞなぞを解いたから、グッズがもらえるね。よかったねエルちゃん。これから家でもソラ吾郎といっしょだよ」
「エルぅ!」
ソラ吾郎といっしょにいられることに、エルは笑顔で答えた。
―――――
皆が寝静まった夜。カバトンはビルの屋上で藁に包まれながら震えていた。
(や、ヤバいのねん。プリキュアも倒せてない。プリンセスも手に入れられてない……。このままじゃ―――)
「ここにいたか。カバトン」
「誰だ!?」
闇の中から抜け出るように現れたのはミノトン。カバトンと同じく、アンダーグ帝国に所属する構成員だ。
「ミノトン……なにしにきたのねん……?」
「上からの通達だ。次しくじったらお前の命はない……とな」
そんなことわかっている。今しがたそれについて考えていたのだから。
「やるべきことをやれ。生き残りたくばな」
そう言うと、ミノトンは闇の中に溶けていった。上からの最終通達が出た以上、もう自分に後はない。手段だってもう選んでられない。後に引けないこの状況がミノトンの闘志を燃え上がらせる。これぞまさに、背水の陣だ。
「次こそやりとげる。俺の、全てを使って」
決意を胸に秘め、カバトンは眠りに就いた。