人々が賑う昼下がり。ヨヨからの頼まれた材料を買うべく、行きつけの店へとむかっていた。
「おばあちゃんからのプリホリのカフェでお茶していこうよ」
「いいですね!あそこのスイーツは絶品ですし!」
ヒカルも勧められて食べたことあるが、本当に美味しかった。特にショートケーキはクリームは甘くて、スポンジはふわふわでヒカルもお気に入りのスイーツとなっている。
「そんな店があるんですね。行きましょう!」
「うん。ツバサ君もきっと気に入ると思うよ」
「おいおまえら!!」
背後から聞き覚えのある声がしたので、振り返る。カバトンだ。
「カバトン!?」
「ムカつくぜ……こっちはもう後がないってのに呑気におしゃべりしやがって……!」
青筋を立てて苛立ちを見せているカバトン。もちろん、ヒカルたちに非はないのだが、それほどまでにカバトンは追い込まれているのだ。自分の命が危ういほどに。
「後がないというのは、どういうことですか?」
「うるせぇ!そもそも俺がこうなってるのはおまえのせいなのねん!」
そう言って、ソラを指さす。ソラはこの世界に来る前、エルをさらおうとしたカバトンから救ったことがあった。それさえなければ自分は今のように追い込まれることなく、待遇も今以上によくなっていたと言いたいのだろう。ようは逆恨みである。
「おまえさえ倒せばすべてが上手くいく!だから、俺と1対1で勝負しろ!」
「勝負?」
「そうだ!勝負は3日後!最強にTUEEE奥の手で、おまえを倒してやるのねん!」
一方的に言ってくるカバトンだが、こちらがそれを受ける理由はない。ただ、今回のカバトンはいつも以上に真剣だった。
「じゃあソラが勝ったら、キミはどうするの?」
「今後一切、プリンセスには手を出さない。これは最終決戦だ!イヤとは言わせねぇ!」
「あなたのその言葉に、ウソはありませんね?」
「ああ。約束する」
どうせ負けたら自分は始末されるのだ。たとえ約束を守らなかったとしても、自分がエルに手を出すなんてできやしない。
「わかりました。その勝負、受けましょう」
「必ず倒してやる……首を洗って待ってろ!」
カバトンはそう言って去っていった。次の戦いはいままでのようにはいかないだろう。カバトンからはそんな気迫が感じられた。
「ソラちゃん……」
「大丈夫ですましろさん。エルちゃんのためにも、必ず勝ちます」
「まだミノトンがいるけど、不安要素は1つでも減ったほうがいいからね」
カバトンはさっき奥の手で倒すと言っていた。それがなんなのかはわからないが、どのようなものだったとしても、ソラがやるべきことは変わらない。
「猶予は3日。その間にもっと強くなっておかないと……」
「なら、修行しないとね。それなら私にいい考えがあるよ」
「ましろさん、それって……?」
「それは明日のお楽しみ」
もったいつけた言い方をするましろにヒカルたちは疑問符を浮かべるのだった。
―――――
「特訓特訓♪楽しい特訓♪」
車を運転しながら自作の歌を歌うあげは。今ヒカルたちは特訓のために車で山にむかっているのだ。しかもありがたいことに今日から3連休なので、特訓の時間はたっぷり取れる。
「ごめんねあげはちゃん、急に頼んじゃって……」
「平気平気!ちょっとレポートヤバいけどソラちゃんの大勝負のためだもん!」
小声ながら不穏なセリフが聞こえてきたが、大丈夫だろうか、と心配になるヒカル。どこかのタイミングであげはにはレポートに集中してもらおうと思いつつ、ヒカルは特訓の内容について聞くことに。
「ましろさん、そろそろ話してくれてもいいんじゃない?特訓ってなにするの?」
「やっぱ滝に打たれたり山の主と戦ったり、山の頂上で必殺技の修行とかする感じ!?」
あげはが言ったことは王道ではあるのだが、それはあくまでマンガの中での話だ。そんなの本当にやるわけ―――。
「そう!まさにそんな感じの特訓なの!」
ないと思ったが、ましろは本気でやるつもりだったらしい。あげはが調べたところ、これから行く山には滝があるらしいから滝に打たれる修業はできる。必殺技の修行もまあ、人目が少ない山ならできなくはないだろう。しかし、山の主と戦うのはそもそもそこに山の主がいるかわからないので、できるかどうかは行ってみないとわからないのが現状だろう。
「ここが……」
山に着き、早速例の滝の前に来た一行。そこにはアニメの修行シーンで見るような長い滝が轟々と流れていた。
「どう!?ここが私が調べたアゲアゲのパワースポットだよ!」
「見て!あそこで滝に打たれているおじいさんがいるよ!あの人も修行してるのかな!?」
よく見るとたしかに白い浴衣を着た老人が座禅を組みながら滝に打たれている。そんな彼を見て、ソラは思った。この人はタダものではない―――。
「肩こり、解消おぉおおおおおぉおおおおぉおお!!!!!」
目を開けるなり、叫ぶ老人。どうやらこの人は修行をしていたわけではなく、肩こりのために滝に打たれていただけだったようだ。
「……ここ、肩こり解消に効くパワースポットみたいだね」
ヒカルがこの滝について掲載されているサイトをスマホ越しにソラたちに見せる。
「全然修行の場じゃないじゃないですか……しっかりしてくださいよもう……」
「ごめんごめん、滝を見たらつい修行するとこだと思っちゃって……。そ、それより次は!山の主だっけ?ここにいるか調べて―――」
「しかたないですね……僕がここにいる鳥たちに聞いてきますよ」
そう言うと、ツバサは鳥の姿にもどる。
「ツバサ君、鳥と話せるの!?」
「そりゃ僕も鳥ですから。山の主のことは僕にまかせて、ソラさんは特訓しててください」
「ありがとうございます!じゃあ、私は滝に打たれて精神統一してきます!」
「キャンプの準備は私のほうでしておくね。夕ご飯期待してて!」
キャンプの準備をするなら人手がいる。なので、自分はましろの手伝いをするべきだろう。それは承知しているヒカルだが、山で修行する機会なんて滅多にない。
「ましろさん、僕もここで修行していいかな?僕もこの機会に強くなりたいんだ」
「なに言ってるんですか?カバトンと戦うのはソラさんですよ?ヒカルさんが修行する必要は……」
「うん。それはカバトンと1対1での勝負になるから、僕は介入できない。でも、強くならないといけない理由が僕にはあるんだ」
「……ミノトンだね?」
ヒカルがましろにうなずく。
「カバトンを倒したら、多分次の相手はミノトンになる。ミノトンの言う通りにするわけじゃないけど、そのミノトンとの戦いに備えて、今のうちに力をつけておいてほうがいいと思うんだ」
「たしかに……ヒカル君から話を聞く限り、ミノトンはカバトン以上の強敵になります。それにヒカル君は、ミノトンとは1対1で決着をつけたいんですよね?」
「あっちがどう思ってるかはわからないけど、少なくとも僕はそのつもりだよ」
もちろん、これはあっちが1人で挑んでくるならの話になるが。
「それなら、ソラちゃんといっしょに特訓するのがいいかもしれないね。2人いればやれることも増えるでしょ?」
「そうですね!ヒカル君、いっしょに特訓しましょう!まずは精神統一です!」
「いい感じに盛り上がってきたね。じゃあ、私は―――」
『学校のレポートを終わらせて(ください)!』
「りょ、了解……」
こうして、ヒカルとソラの修業は幕を開けた。ツバサの尽力もあって、山の主(リス)はすぐに見つかり、彼の元で修行させてもらうことに。
追いかけっこ、木登り、山の頂上で正拳突きetc.を繰り返し、時はあっという間に過ぎていった。そして、カバトンの決戦も明日に迫った修業最終日……。
「先生!今日までありがとうございました。先生のおかげでもっと強くなれた気がします!」
「これならカバトンにも問題なく挑めそうだね。先生、本当にありがとうございます」
礼を言うヒカルたちだったが、先生こと山の主は首を横に振る。まるでまだ終わってないとでも言うかのように。
「先生、まだなにかあるんですか?」
山の主はソラとヒカルを順番に指さした後、拳と拳をぶつけるジェスチャーを取った。山の主はしゃべれない故、このような伝え方となったが、ともに彼と過ごしたソラとヒカルはすぐにその意味を理解した。果たして、このジェスチャーの意味とは……?