ましろさんの家にお世話になって数週間が経過した頃、ましろさんがいつもとは違う服装で部屋から出てきた。肩にはバッグをかけ、いかにもこれから出かけるという出で立ちだ。
「ましろさん、その格好は……?」
水色の襟に黄色のリボン、そして青を基調としたセーラー服。初めて見る服装ですけど、どこに行くんでしょう……?
「これ? 学校の制服だよ。今日から学校が始まるから」
「学校? ああ! この世界にも学校があるんですね!」
「も、ってことはソラちゃんの国にも学校あるの?」
「もちろんです! 私も通ってましたから!」
でも、そこで過ごした時間の中に友だちはいなかった。その時の私はヒーローになるためのトレーニングに必死で、そこまで考えることができなかったからだ。
(でも、今は……)
今の私にはましろさん、そしてヒカル君がいる。ここに来たのは意図的なものではないが、私はこの世界に来てよかったと心から思っている。はずかしいから、直接は言えませんが……。
「ソラちゃん?」
ましろさんが顔を覗きこんでくる。急にましろさんの顔が視界に映ったことで、私はつい”ひゃいっ!?”と甲高い声をあげてしまった。
「どうしたの? 急に黙りこんじゃったけど……」
「いえ! なんでもありません! それより学校に行きましょう!」
「あ、うん。そうだね」
ごまかすように私はましろさんを学校まで見送った。それにしても、この世界の学校は部外者以外立ち入り禁止なんですね……。知らなかったとはいえごめんなさい……ましろさん!
―――――
新学期。新しいクラスに行くと、ましろさんがいた。
「今年も同じクラスだね。よろしく、ヒカル君」
そう、ましろさんとは去年も同じクラスだった。ましろさんが言ってた通り、去年は関わってなかったけど、今は友だちでプリキュア仲間でもあるから、同じクラスになれたのはうれしい。
「うん、こちらこそよろしく。ましろさん」
笑顔であいさつしてくるましろさんに同じく笑顔で返す。知ってる人がクラスにいるのはいいものだ。ソラさんがいたらもっといいけど、流石にそれはムリだよな……。
「あれ? あなたたち、そんなに仲良かったっけ?」
「春休みになにかあった?」
「まさか、付き合ってるとか!?」
僕とましろさんを交互に見ながら三者三様のリアクションを見せているのは仲田つむぎさん、吉井るいさん、軽井沢あさひ君。3人も去年からのクラスメートで、僕はそれほどかかわりがあるわけではないが、ましろさんとよく話してるところをよく見かける。
「春休みに仲良くなったのは事実だけど、付き合ってはいないよ」
ましろさんとは友だちになったばかりだし、なにより僕には好きな人がいる。ただ、それを言うとからわれるので、言わないことにした。
「ましろん、どうなの!?」
「ヒカル君が言ったとおりだよ。ヒカル君は友だち。それ以上のことはなにもないよ」
ましろさんが苦笑しながら言うと、仲田さんは“なんだぁ……”と肩を落とす。そこまでガッカリする……?
【キーンコーンカーンコーン~♪】
ホームルーム開始を告げるチャイムが鳴り、みんながそれぞれの席に着く。ソラさん、今頃なにしてるかな……?
―――――
ましろさんは学校に送り届けた私は特にやることがないので、掃除をしていた。しかし……。
「終わってしまいました……」
時計を見ると、時刻は11時30分を差していた。ヒカル君も今頃学校で勉強してるのでしょうか? ましろさんと同じ学校に通ってるとは聞いていますが……。
「ヒカル君がいたら、組手ができるのにな……」
いままでは1人でトレーニングしていたのだが、ヒカル君が来てからは彼と組手をすることが多くなった。なんでそうなったかというと……。
<ちょっとヒカル君!? なぜ急に頭を下げるのですか!?>
数日前、ヒカル君は私の元にやってくるなり、頭を下げてきたのだ。本当にいきなりだったので、驚いた。頭を下げられるようなことをされた覚えはなかったから、尚更に……。
<ソラさん、僕に……格闘技を教えてください!>
ヒカル君はプリキュアになってから、これまでやってなかったトレーニングを自主的に始めた。それだけでもすごいことなのに、わざわざ私に格闘技を教わりにまでくるとまでは思っていなかった。
(でも……)
最初に変身した時に見せた身のこなしとパンチ力。私はそこから彼には格闘技の資質のようなものを感じた。彼を鍛えればきっとすごいヒーローになる。そう思った私が彼の頼みを断るわけなかった。
<わかりました! 私が格闘技のいろはを手取り足取り教えます!>
<はい! お願いします師匠!>
<し、師匠……!?>
そう呼ばれてうれしくなった私は指導に一層力を入れた。ヒカル君は私が教えたことを次々と吸収していった。これはヒカル君の吸収力がすごいのもあるが、一番大きいのは真剣に取り組んでいることだろう。ヒカル君はランニングの時に中途半端なことは嫌いだと言っていたが、指導をするようになってそれがよくわかった。
「学校はいつ終わるのでしょう……? 1人だとやっぱり退屈です……」
ソラシド学園……そこに通えばヒカル君やましろさんともっといられでしょうか……? そんな考えがよぎったが、学園に通うには手続きが必要になる。通いたい気持はあるけど、ご厄介になってるうえにそこまでしてもらうのは流石に図々しいですよね……。
「……ヨヨさんのとこ行こう」
本当にヒマでしかたなかった私はヨヨさんの元へ。ゲート作りでなにか手伝えることはないかと思ったからだ。
「じゃあ、これとこれをすりつぶしてくれる?」
「わかりました! まかせてください!」
材料を鉢に入れ、すり鉢ですりつぶしていく。しかし、これが中々大変だ。かなり力を入れないとつぶれない。ヨヨさんはこんな大変なことを毎日……?
「あっ……」
上手くすりつぶせず、材料の一部が鉢から飛びだしてしまった。うぅ……やっぱり難しいです……。
「そういえば今日、ソラシド学園までましろを送ったのよね? どうだった?」
にこやかな笑顔で聞いてくるヨヨさん。あそこには私と同じくらいの歳の子がいっぱいて、なによりヒカル君とましろさんがいる。楽しくないわけない。私はそれを笑顔で伝えると、ヨヨさんは“通ってみたい?”と聞いてきたが、流石にそこまでしてもらうのは申し訳ないので、遠慮した。本当は、通いたいけど……。
「そう……あ、そうだわ。ソラちゃん、申し訳ないけど、買い物を頼ませてくれるかしら? 必要な材料を切らしてて……」
「わかりました! いってきます!」
財布と材料が書かれたメモを携え、私は街へと繰りだした。
「もしもし、少しお尋ねしたいことがあるのですが……」
どこかに電話をかけるヨヨ。しかし、家を出たソラはもちろんそんなこと知る由もないのであった。
―――――
3時限目、数学。みんなが授業に取り組む中、僕は空を眺めていた。
(ソラさん、今頃なにしてるかな……?)
ホームルームが始まってからずっとそればかり考えている。本当は授業に集中しないといけないのだが、どうしてもソラさんのことを考えてしまうのだ。
(ソラさんとここに通えたら、きっと楽しいだろうな……)
叶わないことだとわかっているが、やっぱり想像してしまう。いっしょに登校して、授業受けて、ご飯を食べて、いっしょに帰って……。あぁ~想像しただけで最高すぎる!!
「……はぁ」
小さなため息を吐く。所詮は夢物語。叶うことは決してない。そう思うと、自然とため息が出てしまうのだ。
(学校、早く終わらないかな……)
学校が終わって着替えたら、ソラさんに会いに行こう。学校で会えないなら、せめて会える時間は会いに行きたい。でも、許されるならもっといっしょにいたい……って言ったらソラさんはどう思うかな……? 言いたい……言いたいけど、もし……。
<えっ……ヒカル君そんなこと思ってたんですか……? 気持ち悪いです。二度と私に近づかないでください>
って言われたら……。
「ぁあぁああぁああぁぁぁあぁあああぁあぁあぁあぁあぁあああぁっ!!!!!」
頭を抱えて立ち上がり、絶叫。しかし、授業中にそんなことしたら当然迷惑になるわけで、僕はその後先生に注意され、廊下に立たされるのだった。