「ヒカル君」
昼休みになると、ましろさんが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「話したいことがあるの。今時間いい?」
なんだろうと思いながら、僕はましろさんと屋上へ。
「ましろさん、話ってなに?」
「うん。ヒカル君、今日授業に集中できてなかったよね? なにかあったの?」
どうやらましろさんは僕を心配してくれてたらしい。友だち思いな人だ。
「……実は、ソラさんのことを考えてたんだ」
「ソラちゃんのことを?」
「うん……春休みの間、ソラさんといつもいっしょにいたでしょ? 僕たち」
「そうだね。ヒカル君も毎日うちに来てたし」
そう。特に用のない時でも僕はソラさんに会いに行っていた。普段は別々で暮らしているから、少しでも同じ時をソラさんと過ごしたかったのだ。
「ソラちゃんもヒカル君が来るたびにうれしそうにしてた。いつも2人を見てて思うよ。仲いいなって」
「そうかな……?」
「誰が見てもそう思うよ。まあ、距離感はバグってるけど……」
たしかにそれは言えてる。同性ならまだいいが、異性にあんな接し方をすれば勘違いする人も出てくるだろう。でも、それは構わない。誰がソラさんを好きになっても、負けるつもりはないし、そもそも誰を好きになるかはその人の自由だ。
「ヒカル君、ソラちゃんに会えなくて……寂しい?」
「……うん。寂しい」
素直に答える。ここまで話してウソなんて言えない。
「やっぱりそうなんだ。じゃあ、それをソラちゃんに言ってみたらいいんじゃないかな?」
「僕は、ソラさんともっといっしょにいたい……。でも、気持ち悪いって思われないかな……? 男にこんなこと言われて……」
「ヒカル君もソラちゃんのことはそれなりに知ってるでしょ? だったら、わかるでしょ? ソラちゃんがそんなこと言わないってこと」
そうだ。ソラさんは友だちになってからずっと僕を知ろうと踏みこんでくれている。なら、僕も踏みこむべきなのかな……?
「ヒカル君」
「なに……?」
「勇気出そ? ね?」
ふわりとした優しい笑顔。見た人を癒してくれるようなそれは、僕に勇気をわきあがらせた。
「わかった。出してみるよ。勇気」
「約束だよ?」
「もちろん」
予定変更。学校が終わったら直でソラさんに会いに行こう。俺の気持ちを、ソラさんに伝えるために。
―――――
学校が終わると、僕はましろさんの家を目指して疾走していた。本当はましろさんと行く予定だったのだが、ましろさんが“2人で話したほうがいい”と言って同行を断った。終わったら連絡しないとな。
「ヒカル君!」
ソラさんが前方から走ってくる。ちょうどいいタイミングだったけど、なにかあったのかな?
「ソラさん、どうしたの?」
「話したいことがあって……ましろさんは?」
「ましろさんはちょっと、用事でね……ましろさんに用事?」
「ましろさんもですけど、ヒカル君にも話したいことなので……先にヒカル君に話しておきますね。私……」
しばらく間を置いた後、ソラさんは俯いていた顔を勢いよく上げた。
「来週から、ソラシド学園に通うことになったんです!」
「…………え?」
ソラさんが、ソラシド学園に? え、なんで? 学校に通うには手続きがいるよね? そんなの誰が―――。
(あ……)
こんなことできるのは1人しかいない。ヨヨさんだ。
「今日ましろさんのお見送りをした時、思ったんです。すごく楽しそうだなって。それに、今日ヒカル君やましろさん抜きで過ごして……寂しかったんです。すごく……」
そう言って、ソラさんは両手を胸に当てる。
「だから、ヨヨさんからソラシド学園に通えるって聞いた時、すごくうれしかったんです。えへへ……」
照れくさそうに笑うソラさん。ソラさんがソラシド学園に通えるようになったのは喜ばしいことだ。でも、僕は僕でやるべきことをやらなければ。
「僕も……寂しかったよ」
「え?」
「ソラさんに会えなくて、授業中もずっとソラさんのこと考えてた。まあ、先生には怒られちゃったけど」
重症だと言われてもしかたない。でも、寂しかったものは寂しかったのだ。
「ヒカル君も……私と同じだったんですね」
「うん。同じだね……」
好きな人といっしょ……考えただけで胸がポカポカしてくる。どうしよう……顔にやけてないかな……ソラさんは笑ってるけど。
「朝待ち合わせしていっしょに登校して、授業を受けて、ご飯を食べて、学校が終わったらいっしょに帰る。それを3人でしたら楽しいんじゃないかな?」
「はい! だから今から楽しみなんです!」
僕もそうだ。ましろさんもこのことを知ったら間違いなく喜んでくれるだろう。ヨヨさん、ありがとうございます。
―――――
時がたち、いよいよソラさんがソラシド学園に編入する日がやってきた。ということで僕は今、ましろさんの家に来ている。理由はもちろん、いっしょに登校するためだ。
「ヒカル君、ちょっと待っててね。ソラちゃんの支度がまだすんでないから」
時間に遅れまいと早めに来たが、ましろさんは既に制服に鞄を背負って準備万端といった感じだった。ましろさんもソラさんと学校に行くことを楽しみにしていたから、それが要因として準備を早めたのだろう。
「でもまさか、おばあちゃんが転入の手続きをしてくれてたとは思わなかったよ」
「僕もだよ。ヨヨさんもソラさんの気持ちに気づいてたんだと思う」
「お待たせしました!」
ソラさんが階段から降りてきた。服装はもちろんましろさんと同じ制服だ。ここに来る前にソラさんの制服姿をイメージしてみたが、やっぱりソラさんにうちの制服はよく似合う。イメージピッタリだ。
「ヒカル君、どうですか? おかしくないでしょうか……?」
「そんなことない。とても似合ってるよ」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
不安げな顔から笑顔に変わるソラさん。自分が異世界人故に不安になったんだろうが、見た目は普通の人と変わらないから問題ないだろう。
「ありがとうございます。お世話になってるだけじゃなく、転入の手続きまで……」
「いいのよ。学校、楽しんできてね」
「ソラさんがスカイランド人だってバレないよう、僕とましろさんでフォローするよ」
「うん。だから安心して」
「みなさん……ありがとうございます!」
異世界人とバレれば周りが大騒ぎするのもそうだが、なによりソラさんが変な目で見られてしまう。そうなれば、ソラさんが楽しみにしていた学園生活は楽しいものじゃなくなってしまう。それだけは、絶対に避けないと。
「ではヨヨさん、いってきます!」
「ええ、気をつけてね」
ヨヨさんに見送られ、僕たちはソラシド学園にむかうのだった。
―――――
ホームルームが始まり、生徒が席に着くと、先生が“ホームルームの前に”と言って話を切りだした。
「今日はこのクラスに新しい仲間が加わることになった」
新しい仲間―――つまり、転校生が来ることに騒ぎだすクラスメート。僕とましろさんは誰が来るか知っているのでノーリアクションだが、転校生が来ると聞けばクラスメートのリアクションは当然と言えるだろう。
「では、入ってきなさい」
「は、はい!」
聞き馴染みのある声とともにソラさんが教室に入ってくる。でも、緊張してるのか声は上ずってるし、歩き方もぎこちない。大丈夫かな……?
「じゃあ、黒板に名前を書いて自己紹介してくれるかな?」
「はい!」
黒板に名前を書くと、ソラさんは振り返る。次は自己紹介だ。がんばれソラさん!
「ソラ・ハレワタ―ルです! ましろさんの家でお世話になっています! よろしくお願いします!」
大きな声で自己紹介した後、深々とお辞儀。ソラさんはいいスタートダッシュが切れるよう、事前に自己紹介の練習をしていた。内容は当たり障りのないものだが、ヘタになにかを言ってスカイランド人だとバレるのはマズいので、この内容にしたのだ。
「ハレワタ―ルさんは海外からの転校生だ。日本には来たばかりなので不慣れなことも多いだろうが、そこはみんなでフォローしてほしい」
先生からのお願いに“はい!”と元気な声で返すクラスメートたち。いいぞ、今のところは順調だ。
「ふぅ……こんな大勢の前であいさつするのは初めてなので、緊張しちゃいました」
脱力するように席に着くソラさん。ちなみに位置はましろさんの隣で僕の後ろだ。
「でも、ちゃんと自己紹介はできてたよ。練習しておいてよかったね」
「はい! ヒカル君が練習に付き合ってくれたおかげです!」
ソラさんが楽しい学校生活を送るためなら、それくらいお安い御用だ。
「あれ? 稲葉君、ソラちゃんと知り合いなの?」
「うん。春休みに知り合って友だちになったんだ」
「ソラちゃんってましろんの家に住んでるんだよね? どこの国から来たの?」
「はい! 私はスカ―――!」
「ンジナビア半島から来たんだよね? ソラさん」
スライランドと言いそうになったので、すかさず割って入る。本当の出身国を言うわけにはいかないので、学校側にはヨヨさんからそう伝えていたのを先日聞いた。調べたらスカンジナビア半島はスカイランドと名前が似てるうえに実在する国なので、ごまかすには最適の国だ。ヨヨさんって本当有能だよね。
「そ、そうです! そのスカ、スカイランジーナビア?、のほうの国です!」
「発音が本場っぽい!」
「他の言葉も言って!」
「ああ、えっと……」
スカンジナビア半島の出身でないソラさんが知ってるわけもなく、言葉を詰まらせる。ましろさんもどうフォローすればいいかわからないのか、あわあわしている。ここは僕がなんとかしないと。
「みんな、いろいろ知りたいことはあるだろうけど、質問はそれぐらいにしてくれないかな? ほら、ソラさんも困ってるし」
「あ、はい! あまり質問されるとついスッカイ―――じゃなくて! 困ってしまいます……」
「それにこれから同じ教室で過ごすんだから、今聞かなくてもこれから少しずつ知っていけばいいと思うんだ」
「それもそうだね。ごめんねソラちゃん」
納得してくれたのか、みんなは謝ってくれた。でも、転入生に質問したくなる気持ちはわかるし、悪気もないのでこの話はこれで終わりだ。
「もしかしてソラちゃんって、恥ずかしがり屋さんなのかな?」
…………え? ソラさんが、恥ずかしがり屋? 距離感バグってるソラさんが? よく知ってる僕からしたら全然そんなイメージないんだけど……。
「そうです! 私はめちゃくちゃ、恥ずかしがり屋なのです!!」
訂正しようとした頃にはもう遅く、ソラさんは高らかにそう言った。恥ずかしがり屋のセリフじゃないよ……それ。