ホームルームが終わり、休み時間。みんなが思い思いの時間を過ごす中、僕たちは教室の窓際で話していた。
「ソラちゃんって恥ずかしがり屋だったの……? 私、ソラちゃんにそんなイメージなかったんだけど……」
それは僕もだ。距離感がバグってるから尚更。
「私も初めて言われました。自分ではそんなこと思わなかったので……」
「ソラさんってなんでも正直に話すとこあるよね。ウソつくのが苦手というか」
でも、それはソラさんのいいところでもある。まあ、こういうところで悪く作用することはあるけど……。
「そうなんです! だから早くクラスに馴染むにはこれ以上質問されないよう目立たないほうがいいと思うんです!」
「そうかな……? 僕はいつものソラさんのほうg―――」
「クラスに馴染むためです!」
「わ、わかったよ……」
ソラさんの決意の固さにそれ以上なにも言えず、結局ソラさんの案で学校生活を送ることになった。でも、本当にそれでいいのかな……?
―――――
2時限目、体育。今日はスポーツテストをやるのだが、ソラさんは……。
「ソラちゃんって鍛えてるから、すごい成績出せそうだよね」
「スポーツテストはあっちでもやってたので自信はありますが、目立たないよう真ん中の成績を狙いたいと思います!」
こんな感じである。
「いちについて……よーい、ドン!」
旗が上がったのを合図にソラさんを含めた走者が走りだす。ソラさんは真ん中の順位を狙ってか、真ん中の順位になるように走り、最後までその順位をキープした。
(ソラさんは、もっと速いのに……)
いっしょにランニングしてたからわかる。他の走ってる人には申し訳ないが、ソラさんが本気を出せば圧倒的スピードで1位になるのはまちがいない。
「ヒカル君……顔、ちょっと怖いよ……?」
そんな顔してたのか……僕はましろさんに“ごめん”と言って、スタート位置に着いた。しかし、ソラさんと並走してきたおかげで走力が上がった僕は相手走者をあっという間に抜き去り、1位になった。しかし、先生もクラスメートも僕が1位になるとは思わなかったのか、口をあんぐりさせている。まあ、ソラさんに会う前は真ん中くらいだったからな……。
「稲葉君、すごい……」
「あんなに速かったか……? 学園新記録だ……」
「新記録!? マジですごいじゃん!」
驚いているみんなをスルーして、次のスポーツテストへ。次は立ち幅跳びだ。
「はあっ!」
自分の番が来ると跳びあがるソラさん。記録は丁度真ん中。アレも意図的にあの位置に跳ぶようにジャンプ力を調整したのだろう。本当だったら空中回転しながらもっと向こうまで跳べるのに……。
「っ!」
地面を蹴り上げ、前方にジャンプ。でも、流石に向こう側一歩手前で足をついてしまった。跳躍力はまだまだか。
「次はボール投げですね。がんばって真ん中を狙います!」
気合いを入れ、ソラさんはボールを手に取る。ソラさんの手から離れたボールは舞い上がり、少し離れたところで地面に落ちた。近くも遠くもない距離……つまり、普通の記録だ。
(……違う)
ソラさんはあんなものじゃない。ソラさんならもっと遠くに投げられる。投げられるのに……。
「っ!」
苛立ちをぶつけるようにボールを投げる。ボールは空高く舞い上がり、学校の外までいってしまった。力を入れすぎた……これじゃ測定できないな。
(とりあえず、次に行こう)
気を取り直して次のテストに向かう。ソラさん、やっぱり僕は……。
―――――
スポーツテストが行われてる一方で、カバトンは河川敷に寝そべりながら空を眺めていた。
「今日もいい天気なのねん……」
このところカバトンはこんなことをして過ごしている。自分にはエルを捕まえて組織に持ち帰る任務があるのだが、どうも今はそんな気分になれなかった。その理由はただ1つ、腹が減っているからだ。腹が減っては戦はできぬということわざがあるが、カバトンはその傾向が特に強いようだ。
「あぁ……なんだかあの雲が食べ物に見えてきたのねん」
たこ焼き、メロンパン、アイスクリーム。人によって雲はいろんなものに見える時があるが、空腹状態のカバトンには食べ物に見えるらしい。
「いでぇ!?」
頭に激痛が走った後、丸い物体がカバトンの前を転がる。飛んできたボールがカバトンの頭にぶつかってきたのだ。しかもそのボールはヒカルが投げたボールだった。
「誰なのねん!? ボールをぶつけてきたのは! ん?」
文句を言ってやろうと振り返ると、学校が目に映る。ソラシド学園だ。
「学校……学校といえば……学食!!」
学校といえば授業だと思うが、お腹が減ってしかたないカバトンにはそれしか浮かばず、全力疾走でソラシド学園に向かうのだった。
―――――
スポーツテストも無事終わり、更衣室で着替えを済ませる。
(今日のヒカル君、すごかったな……でも)
なにか様子が変だった。スポーツテストの間、ずっと素っ気ない感じでしたし、苛立ってるような気もした。
(なにか、あったのでしょうか……?)
そういえばヒカル君はホームルームの後の休み時間、なにかを言いかけていた。あの時はさえぎってしまったが、きっとアレは“いつものソラさんのほうがいい”と言おうしたのだろう。
(でも、そんなことしたら……)
変な目で見られる。そうなったら、きっと友だちにはなってくれない。私はヒカル君やましろさんだけじゃなく、クラスのみんなとも友だちになりたい。そうするためには目立ってはいけない。でも……。
(ほんとは思いきり、やりたかったな……)
私は身体を動かすのが好きだ。なので、いままでのトレーニングだって全力でやってきた。でも、変に目立って浮いてしまうのはイヤだから……。
(こうするのがいい、よね……?)
そうだ。これがいいんです。みんなと友だちになるには、これで……。
「ソラちゃん、教室もどろ?」
「あ、はい! そうですね」
同じく着替えを済ませたましろさんに声をかけられ、私は教室にもどるのだった。
―――――
「……」
スポーツテストも無事終わり、ソラさんとましろさんは楽しそうにスポーツテストのことを話していた。僕はというとなんか加わる気になれず、少し離れたところに2人を見ている。
「今日のヒカル君、すごかったですね! 全部のテストで新記録だしたんですから!」
そう、ソラさんに鍛えられたおかげで僕はすべてのテストで新記録を出せた。でも、そんなの僕にとってはどうでもいいし、うれしくもなかった。
「うん。先生もみんなもビックリしてたね」
去年まで真ん中の成績だった人が新記録を出せばそうだろう。今回のスポーツテストで、僕の身体能力は上がってることをたしかめられたまではいい。でも、もやもやする。自分でも原因はわかっている。ソラさんだ。ソラさんは結局あれから方針を変えず、全てのテストで真ん中程度の成績を修めた。そう、全てのテストを手加減して臨んだのだ。
(やっぱり、このままじゃダメだ)
余計なお世話かもしれない。嫌われてしまうかもしれない。それでも、これ以上ソラさんに自分を偽らせるなんてガマンできない。
「トレーニングの成果ってやつでしょうか? ねぇ、ヒカルk―――」
「ソラさん」
言葉を遮ってソラさんを呼ぶ。
「なんですかヒカル君……? 顔が少し、怖いですよ……?」
「それはごめん。でも、もうガマンできなくてさ……」
「ガマンできない……? どういうことですか……?」
「ソラさん、もう自分を偽るのはやめにしない? 僕はやっぱり、学校でもいつものソラさんが見たいんだ」
「……」
ソラさんが黙りこむ。それでも僕は言葉を続けた。
「そばでいつもトレーニングしてきたから、わかるんだ。ソラさんはあんなものじゃないって。そもそも今日、ソラさんはスポーツテスト楽しめた?」
「……それは」
言いにくそうに目をそらすソラさん。本当に楽しめていたなら、ソラさんの性格上、“楽しめました!”と即答するはず。つまり、それができてないってことは楽しめてない、ということだ。
「本当は思いきりやりたかったんじゃない? スポーツが好きなら、尚更」
「ソラちゃん、そうなの?」
「……はい」
ソラさんが目をそらしながら答える。変な目か……本気出してそうなるなら、僕なんてとっくに……。
「ソラさん、僕は今日、全部のテストで学園新記録を出したよね? その時みんなはどんな反応してた? 変な目で見てた?」
「……いいえ」
「ヒカル君は去年まで真ん中くらいの成績だったんだよ。そんなヒカル君が新記録を出した時、みんな驚いてたけど、すごいって言ってた。変な目で見るどころか称賛したんだよ。ヒカル君のことを」
ソラさんはソラさんなりに考えて目立たないようにしてたのかわかる。でも、それは自分に蓋をしてしまうこと。仮にそれで友だちができたとしても、今のままではソラさんはその友だちの前では偽りの自分を演じないといけなくなる。そんなの、本当に友だちとは言えない。
「でも、スポーツテストは終わってしまいました……今さら」
「それは僕が先生に頼んでみるよ。あとはソラさんがやるかやらないかだよ」
「ソラちゃん、どうする?」
「……」
しばらく考え込んだ後、ソラさんは真っ直ぐな目で僕らを見た。
「みなさんには、本当の私を知ってもらいたい。だから、やります!」
「よし、じゃあ早速先生に頼んでくるよ」
「私も行きます! これは私に関係あることですから」
「わかった。いっしょに行こう」
ということで、僕とソラさんは先生のいる職員室に向かうのだった。