「ソラさん、それは本当なの!?」
昼休み。天気がいいということで外で食べようという話になり、校庭で昼食をとっていると、ソラさんからとんでもないニュースが飛んできた。なんとエルちゃんがつかまり立ちしたというのだ。
「はい! その瞬間は見れなかったのですがエルちゃん、ベッドにあったおもちゃを自分で取ってたんですよ! これはつかまり立ちして取った以外に考えられません!」
たしかにそういうことならつかまり立ちした取った以外にありえない。あぁ……見たかったなぁ……。
「でも、少し不可解なこともありまして……」
「不可解なこと?」
「はい。その時、閉めていたはずの窓が開けられてたんです。エルちゃんが開けられるはずありませんし、誰かが開けたとしか考えられないのですが……部屋にはエルちゃん以外にいなくて……」
「ソラさん、それって……」
泥棒じゃないだろうか……? 見つけさえすればソラさんが撃退するだろうが、これは心配だ。
「なにか盗まれたりしてない?」
「盗まれてはいないんですけど……気になってしまって……鳥さんに聞いても答えは得られませんでしたし……」
「ん?」
今、鳥に聞いたって言ったのか? 鳥はしゃべれないからそもそも聞いても答えられないと思うけど……。
「もしかしてソラちゃんの世界の鳥って、しゃべれるの?」
「はい! なので、つい……」
ソラさんが苦笑しながら頬をかく。恐らくスカイランドでは鳥がしゃべることは当たり前なのだろう。それならつい鳥に話しかけるのにも合点がいくし。
「どんな鳥がいるの?」
「そうですね……背中に乗せて運んでくれる鳥に火を吐く鳥、あとモデルをやってる鳥、王様の城で働いてる鳥なんかもいますね。だからこの世界にそういう鳥がいないことを知った時はおどろいちゃいました」
自分にとって当たり前のものがなかったらそうだろう。外国の人が日本に来た時と同じ感覚だ。
「すごく今さらなんだけど……ソラちゃんって本当にファンタジー世界の住人なんだね……」
「いや、私からしたらここだって十分ファンタジーですよ! 温めるだけでできるハンバーグってなんですか!? お湯を注ぐだけでできるラーメンってなんですか!?」
逆に僕らにとって当たり前のことはソラさんにとっては新鮮に映ったらしい。これはいろんなところに連れて行ったら楽しくなりそうだ(ソラさんのリアクションが見れるという意味で)。
「中でもこれが美味しかったとかある?」
「辛いライスですね! アレが最高においしかったです!」
もしかして、カレーライスのことかな? 辛い米……まちがってはいない、のかな……?
「ソラちゃん、それを言うならカレーライスだよ」
「え? 辛いからカレーっていうんじゃないんですか?」
「辛くないのもあるよ。ちなみにカレイって魚もいる」
「それは、辛い魚ですか?」
本当にそういう魚がいるなら、逆に見てみたいな。
「たんぱくの中に上品な甘さがある魚だよ。煮つけにするとおいしいよ~」
「煮つけ……」
「唐揚げやムニエルとかもいいね」
「唐揚げ……ムニエル……」
想像しているのか、ソラさんからよだれが垂れている。あ、魚料理で思いだしたけど、うちの学食に……。
「うちの学食ってたしか、魚料理あったよね?」
「カレイの唐揚げだったかな。1回食べたことあるけど、おいしかったなぁ」
たしかに美味だった。グルメレポーターじゃないから上手いことは言えないけど、サクッジュワッて感じで……。
「本当ですか!? 私も食べたいです!」
「じゃあ、学食が再開したらみんなで食べに行こうか」
「はい! 楽しみです!」
笑顔で答えるソラさん。学食、早く再開できるといいな。
―――――
放課後。僕はいつものようにソラさんとましろさんと帰っていた。
「ヒカル君、この後時間あるかな?」
「あるけど、どうしたの?」
「先日、おいしい茶葉が手に入ったから、ヒカル君もどうかと思って」
茶葉か。この後は特に予定もないので、僕は二つ返事でOKした。おいしいお茶を飲みたいのももちろんあるが、なによりソラさんといられる時間が増えるし……。
「? ヒカル君、私を見てどうかしたんですか?」
「え? あ、いや、なんでもないよっ!」
無意識にソラさんに目線を送っていたようだ。危ない危ない。
「ん?」
ましろさんの家が見えてきたところで立ち止まる。
「どうしたのヒカル君?」
「いや、アレ……」
ましろさんの家を指さす。正確に言えば、ましろさんの家の屋根のほうで、見知らぬ人が窓から家に入ろうとしていたのだ。
「えっ!? アレって、泥棒!?」
「不届き者め! 捕まえないと!」
ソラさんが先陣を切り、素早い身のこなしで近くの木から屋根に飛び移る。相変わらずの身体能力の高さにおどろきつつ、僕とましろさんも後を追った。
「そこの泥棒、観念なさい!」
「え!?」
ソラさんに気づいた泥棒が“なんで僕が!?”、みたいな顔をしているが、はたから見れば100%泥棒に映る光景だ。
「なにが目的ですか? 金目のものですか? それとも、あなたもカバトンと同じくエルちゃんをさらいに来たのですか!?」
「ち、違っ……僕は泥棒でもカバトン?、の仲間なんかじゃ……!」
「窓から忍び込もうとしたくせになに言ってるんですか! 信用できません!」
ソラの言ってることはもっともだが、僕はあの子はウソを言っているようには思えなかった。これは根拠があるわけじゃなく、なんとなくのレベルだけど……。
「その子は泥棒じゃないわ」
家から出てきたヨヨさんが言う。
「ヨヨさん、説明してもらえますか?」
「そのつもりで出てきたの。みんな、中に入って」
ヨヨさんに促され、虹ヶ丘宅のリビングへ。ソラさんはまだ疑っているのか、エルちゃんを抱えながら男の子をにらみつけている。
「いろいろ聞く前にまず、君の名前を教えてくれるかな?」
「……僕はツバサ。1年とちょっと前にスカイランドからこの世界に落ちてきたんです」
つまり、この子もスライランドの住人ということか。でも、ソラさんと同じ経緯で来たなら、スライランドに帰る方法は知らなそうだな。大体知ってたらとっくに帰ってるだろうからね。
「落ちてきたってことは、事故でここに来たってこと?」
「はい……大きな嵐によってこの世界とスライランドの繋ぎ目にヒビが入って……僕はその中に落ちてこの世界に……」
「そして、倒れているところを私が拾って、今日まで世話をしていたのよ」
倒れているところ拾ってところまでは理解できた。優しいヨヨさんなら十分ありえることだから。でも、だとしたら不可解なところが1つある。それは昨日までこの子の姿を僕はおろか、ソラさんもましろさんも知らなかったということ。もし、今日までここに厄介になっていたとしたらこの家に住んでいるソラさんとましろさんが会っていないわけないし、度々この家に来ている僕だって見かける機会はいくらでもあったはずだからだ。
「おばあちゃんの言ってることを信じないわけじゃないんだけど……私もソラちゃんもこの子とは初めて会ったんだけど……」
「でも、この子なら見たことあるんじゃない? ツバサさん、見せてあげて」
「わかりました……」
ツバサ君が頷くと、彼は人から小さなオレンジ色の鳥の姿に変わった。これまでランボーグやカバトンのような異質なものを何度も見てきたせいで僕はノーリアクションだったが、ましろさんはおどろいたようだ。
「しゃべれて人の姿になれる鳥さん……あなたまさか、プニバート族ですか!?」
「はい、そうです……」
まだ泥棒だと思われるからか、ツバサ君は目をそらしながら肯定する。ヨヨさんがウソを言っていることにウソはなさそうだし、ツバサ君自体も悪い人―――いや、鳥ではなさそうだから僕は泥棒とは思ってないけど、ソラさんはまだ疑ってるだろうからな……。
「隠していたことについては謝ります。でも、この世界では鳥はしゃべらないみたいですし、話しても信じてもらえないと思ったんです……だから」
「今日までこの世界にいる鳥のフリをしていた、ということ?」
「はい……」
たしかに“僕はしゃべる鳥です。人の姿になれます”と言っても普通は信じないだろう。僕もツバサ君と同じ立場だったら、きっと同じことをしてただろうし。
「でも! 私とエルちゃんが来た後なら隠す必要はないはずです! なのにあなたは今日まで黙ってた! どうしてですか!?」
「それは……」
翼さんが言いにくそうにしている。思えばヨヨさんにトンネルを作ってもらえばとっくにスカイランドに帰れてるはず。なのにツバサ君は今もここに残っている。なにか理由がありそうだが、当のツバサ君がこれでは聞けそうにない。
「なんで言えないんですか!? やましいことがないなら話せるはずです!」
「……」
無言を貫くツバサ君。それに痺れを切らしてか、ソラさんがツバサ君につかみかかろうとしたので、僕は手で阻む。
「ヒカル君、どうして……?」
「冷静になろうソラさん。エルちゃん、怖がってるよ?」
エルちゃんを見ると、今にも泣きだしそうになっていた。ソラさんの気持ちもわかるが、エルちゃんを泣かせるのはダメだ。
「ツバサ君はカバトンの仲間じゃない。それが知れただけでもいいんじゃないかな?」
「……よくありませんよ」
流石にそこら辺はもう疑っていないと思うが、ソラさんにはまだ懸念してるところがあるようだ。今日はもう帰ろうと思ったが、ソラさんをこのままにはしておけない。
「ヨヨさん、少しソラさんをお借りしますね?」
「え、ええ……どうぞ」
「行こうソラさん」
「え? どこにですか?」
「いいから」
ソラさんの手を引きながら、僕はリビングを後にする。そしてやってきたのは裏庭。ソラさんがよくトレーニングで使っている場所だ。
「ヒカル君、ありがとうございます……。危うくエルちゃんを泣かせてしまうところでした」
「ソラさんは、まだ心配してることがあるんだよね? よかったら話してくれないかな?」
黙りこむソラさん。ツバサ君と同じで言いたくないのかな……?
「……私、未熟でした」
「え?」
「私は、見ず知らずの人の接近を許してしまいました……。今回はまだよかったかもしれません。でも、あの子がもしカバトンの仲間だったら……今ごろ」
連れ去られていた……と言いたいのだろう。ソラさんはプリキュアになった日、エルちゃんを無事に両親の元に送り届けるまで守り抜くと固く決めている。加えて責任感が強いとなければ自分を責める要因としては十分だろう。
「私……今日は寝ずにエルちゃんのそばにいようと思うんです」
「エルちゃんの?」
「はい。本当にカバトンの仲間が来たらと思うと、心配で……」
ソラさんのことだ。きっとダメだと言っても聞かないだろう。ならせめて……。
「僕も付き合うよ」
「でも、そしたらご両親が……」
「今日は帰ってこないから大丈夫だよ。それにエルちゃんが心配なのは僕も同じだし」
「そう、ですか……」
うれしそうに笑うソラさん。1人より2人のほうがエルちゃんを守れる。それに2人いれば交代で睡眠も取れるし、明日は学校休みだから夜更かししても問題ないしね。
「それでしたら、よろしくお願いします!」
「うん。早速ヨヨさんに泊めてもらうようお願いしてくるよ」
ヨヨさんのいるリビングにもどる。それから事情を説明して、今日は泊めてもらえることになったのだった。