ヨヨさんから許可をもらい、今夜は泊めてもらうことになった。ということで、早速今はエルちゃんの警護にあたっている。
当のエルちゃんはいうと、ご飯を食べて満腹になったからか、すやすやと眠っている。
「ヒカル君、今日は付き合ってくれて本当にありがとうございます」
「いいんだよ。僕が好きでやってることだし」
「それでもいてくれることはありがたいんです。1人だと、いろいろ考えてしまうので……」
それは責任感が強い故にだろうが、、1人で抱え込むようなことはさせたくなかった。エルちゃんになにかあったら、責任を取るべきはソラさんだけではないのだから。
「ソラさんは1人で悩みすぎなんだよ。1人じゃないんだしさ、もっと周りを頼ってもいいんじゃないかな?」
「多分、それができないのは……私がそういう性分だからでしょうね……。“なんとかしないと!”って思うと、つい1人で悩んでしまって……」
ソラさんも直さないといけないのはわかっているのだろう。しかし、昔からの性分ならすぐ直すのは不可能だ。でも……。
「なら、できるところから始めたらいいんじゃないかな?」
「できること?」
「そう。まずは僕に頼ってみるとか」
「でも、ヒカル君は十分頼りにしてますし、これ以上頼るのは……」
あらかさまな困り顔。それは気を使ってるのではなく、ソラさんの本音だろうが、できることはまだある。
「ソラさん、見張りはなにも2人いっしょにやる必要はないんだよ。どちらかが起きてればいいんだから」
「と、いうと……?」
「仮眠を取りなよ。それで1時間たったら僕が仮眠する。という感じで交代で見張れば、睡眠もとりながらエルちゃんを見張れるでしょ?」
それに睡眠不足だと本当にエルちゃんをさらうやつが出てきた時に思うように動けない可能性だってある。
万が一、その可能性を引き当てようものなら、エルちゃんは悪しき者の手に渡ってしまう。そうなれば、ソラさんが今以上に自分を責めることは火を見るよりも明らかだ。エルちゃんがさらわれるのはもちろん避けたいが、ソラさんが自分を責める種を撒くのは同じくらい避けたい。
「その発想はありませんでした……。では、1時間おまかせします」
「うん。1時間たったら起こすから安心して寝ていいよ」
「では、お言葉に甘えて……」
ゆっくりと目を閉じ、ソラさんは夢の世界へ……まではよかったが、その時問題が発生。なんと、ソラさんが寄りかかってきたのだ!
「zzz」
ソラさんの体温、ソラさんの息遣い、ソラさんの寝顔。それらがすぐ近くにあると思うと、胸の鼓動がアクセルを踏みだしたかのように速くなる。
でも、ソラが頼ってくれたんだ。ちゃんと見張らないと……! そう言って、自分を鼓舞したはいいものの、僕は朝まで自分の番になるたびにドキドキするハメになるのだった。
―――――
「ソラさん、ソラさん」
ヒカル君に揺さぶられ、夢の世界から抜け出る。
「どうしたんですかヒカルk―――っ!?」
寝起きでハッキリしていなかった意識がエルちゃんのベッドを見た時に覚醒する。エルちゃんがどこにもいないのだ。
寝ていたはずなのになぜだと困惑する私に1つの答えはよぎる。それは考えうる中で一番最悪な答え……そう、エルちゃんが誘拐されることだ。
「ヒカ―――!」
声をあげようとしたらヒカル君に口を手で塞がれ、人差し指を口の前にやる。静かにして、と言わんばかりに。
「エルちゃんは無事だよ。それより、廊下に出てみて。静かにね」
小声で話すヒカル君に言われるまま、そっと廊下に出る。そこではエルちゃんが今まさにつかまり立ちをしようとしていて、ツバサ君がそれを見守っているところだった。
どうやら昨日のことで神経質になっていたようだ。いなくなっただけで誘拐されたと思うようになるなんて……。
(エルちゃん……)
壁につかまりながら、エルちゃんはゆっくりと身体を持ち上げていく。
それはおぼつかず、今にも倒れてしまいそうでハラハラしてしまいそうになるが、私は見守り続けた。一瞬、手助けしたいと思わなくはなかったが、これは自分の力でやらないと意味がない。人はこういうことを乗り越えて成長していくのだから。
「エル!」
つかまっていた壁から手を放すエルちゃん。そこから見せたのは2本の足で立つエルちゃんの姿。エルちゃんも“私、自分でやれたよ!”と言わんばかりにこちらに笑顔を向けてきている。
しかし、喜んだのもつかの間、エルちゃんはバランスを崩し、後ろから倒れそうになる。すかさず私は助けようと前に出ようとするが、その前にツバサ君とヒカル君が滑りこみ、手をクッション代わりにして救助した。ケガがなくてよかったことに胸を撫で下ろし、私はエルちゃんに近づき、そっと抱きしめた。
「よくやったね……あきらめなかったね……偉いねっ……!」
目から熱いものがこぼれ出てくる。親ではないにしろ、見守り続けた赤ちゃんが成長した瞬間を見るのは感動を覚える。エルちゃんと過ごす間にいつの間にか親心というものが私の中で芽生えたのかもしれない。
「ツバサさん、そろそろ……いいんじゃないかしら?」
いつの間にか来ていたヨヨさんがツバサ君に言う。私はどういうことなのかと首をかしげたが、ツバサ君は理解したようで“そうですね”とうなずいた。
「ソラさん、ヒカルさん、来てほしいところがあるんです。少し時間をくれませんか?」
よっぽど大事な話なのか、ツバサ君の顔は真剣だった。そういえば、ツバサ君が帰るチャンスがあったにも関わらず、ここに残っている理由がまだわかっていない。もしかしたら、それと関係あることなのかもしれないと悟った私はツバサ君の頼みを了承。ヒカル君も悟ったのか了承し、ツバサ君に導かれるままに廊下を歩く。
しばらくしてたどり着いたのは飛行機の模型や多くの本が収納された部屋なのだが、そこはずっと鍵がかかっていた部屋だった。私がここに来てから今日までずっとそうだったので、空き部屋だと思っていたが、どうやら違ったようだ。
「ヨヨさん、ここって……?」
「私がツバサさんに用意した研究室よ」
「本棚には飛行機に関する本がたくさんあるけど、研究してることって……飛行機?」
「はい。僕がスカイランドに帰らなかったのはこの研究をしていたからなんです」
理由はわかった。でも、また新たな疑問が生まれた。ツバサ君がなぜその研究をしているのかについてだ。
「ソラさん、ヒカルさん、僕がなぜ飛行機の研究をしているか、わかりますか?」
見当もつかないので、私もヒカル君も首を横に振る。
「……話す前に、約束してほしいんです。今から言うことを聞いても、絶対笑わないって」
真剣な顔つきで言うツバサ君に私とヒカル君はうなずく。理由がどうであれ、こんな顔で言うということはよっぽどの理由があるはず。それを笑うなんてできるわけない。
「空を、飛びたいんです」
「空を?」
「ソラさんは知ってますよね? 僕らプニバード族が飛べないってこと」
「はい。人になる能力と引き換えに飛べなくなったと……」
これはスカイランド人ならみんな認知していることだ。じゃあ、ツバサ君が飛行機の研究をしているのは……。
「僕は飛ぶためにずっと練習してきました。でも、やっぱりダメで……それで嵐の日に崖から飛ぼうとしたんです。嵐による強い風なら飛べると思って……でも」
「落っこちてこの世界に来た、と?」
ヒカル君の返しにツバサ君はうなずく。
「最初はダメだと思ったけど、ムダじゃなかった。この世界に来たおかげで僕は空を飛べる学問に出会った。それを学んで風の流れを正しく読めれば、僕もいつか飛べるようになる。だから、スカイランドに帰らず、ここで飛行機の研究をしていたんです」
「……」
自分がはずかしい。こんな子を少しでも誘拐犯と疑っていたことに。
ツバサ君は自分の夢のために努力ができる人だ。たとえ今がダメでもあきらめない強い精神を持っている人だ。そんな人が誘拐なんてするわけない。
「これが、僕がスカイランドに帰らなかった理由です」
「話してくれてありがとう。自分の夢にむかってがんばり続けることってそうできることじゃないと思う」
「といっても、まだ全然ですけどね……」
ツバサ君はそう言うが、ヒカル君の言ってることには同意だ。たとえ志したとしても、途中で挫折する人は多くいる。いや、それがほとんどと言っていいかもしれない。
だから、たとえ今がダメだとしても、私もツバサ君はすごいと断言できる。だからこそ、ツバサ君の前に立ち、深々と頭を下げた。
「ソラさん、どうしたんですか……?」
「疑ってごめんなさい! あなたは道は違ってもあきらめないキモチは私と同じでした! だから……!」
「えっと……どういうことでしょう……?」
「ソラさんはヒーローを目指してるんだ。ヒーローをあきらめないキモチ、空を飛ぶことをあきらめないキモチ。同じなんじゃないかな?」
ヒカル君がそう言って、補足してくれる。そう、だから共感できた。笑うなんてもってのほかだ。
「ツバサ君、私はそんなあなたと友だちになりたいです。いい、でしょうか……?」
おずおずと手を差しだす。ツバサ君は少し迷い、ヨヨさんにうなずかれた後、ほほ笑んでその手を取ってくれた。
「よかったら僕とも友だちになってくれるかな? ツバサ君の話聞いてたら、飛行機に興味湧いちゃって」
「飛行機に!? もちろんです! 飛行機には魅力的なところがたくさんありますから!」
こうしてまた1人友だちが増えたのだった。ただ仲良さげにヒカル君と話すツバサ君が少し羨ましいと思った。なぜでしょう……?
―――――
ソラたちに友情が芽生えたころ、公園では子どもたちがUFO型のラジコンで遊んでいた。
「カッコいいなー。おい、そろそろ変われよ!」
「待て、もうちょっと……」
「それなら」
子どもたちに歩み寄る影が1つ。カバトンだ。
「強い者順で、どうよ!」
ドスの利いた声で言うと、子どもたちは逃げだす。その時、反射的に落としてしまったリモコンを拾う。あくどい笑みを浮かべながら。
「弱いやつは強ぇやつに従う。常識なのねん。さて……」
カバトンがラジコンを奪ったのはこれで遊ぶためではない。ランボーグの素体にするためだ。
「カモン! アンダーグエナジー!」
アンダーグエナジーを注ぎこみ、ラジコンをランボーグに変える。カバトンはその中に乗ると、ランボーグを操作し、街にむかって前進を始める。
「今日こそ思い知らせてやる。覚悟しろ、プリキュア!」
その言葉を合図に、赤い閃光がランボーグから放たれた。
―――――
何気なくテレビをつけたところ、ニュースが舞い込んできた。普段ニュースは積極的には見ないのだが、今回見ないわけにはいかなかった。なぜなら今やっているニュースはランボーグが街を襲っているという内容だったからだ。
「カバトン、また無関係の人たちを……」
「これも僕らをおびき寄せるためだろうね。それでも許しがたいことだけど」
これは早く行かないと被害者が増えてしまう。そう思い、僕らは外へ出た。
「ツバサ君はおばあちゃんといっしょにエルちゃんをお願いしてもいいかな?」
「それは構いませんけど……本当にアレと戦いに行くんですか?」
「カバトンはエルちゃんを狙っています。そんなやつらからエルちゃんを守るために私たちは戦ってるんです」
「守るために……」
ツバサ君が思案顔になりながら俯く。どうしたんだろう?
「みんな、気をつけてね? ムリだけはしないように」
「わかっています。あげはさんも避難できてるといいんですけど……」
聖あげは。ましろさんの友人で、最強の保育士を目指している大学生だ。僕はましろさん経由で知り合ったが、とても気さくで明るい印象を受けた。
ちなみにあげはさんも僕らがプリキュアであることは知っている。ましろさんがプリキュアに覚醒した場面にも遭遇してるとか。
「そうね……あげはさんからは私から連絡してみるわ」
「お願いします。ではましろさん、ヒカル君、行きましょう!」
「うん。ここからは、ヒーロータイムだ!」
その言葉を皮切りに僕らは変身し、カバトンの元にむかうのだった。
―――――
カバトンの元にむかうソラさんたちを見送るヨヨとツバサ。ツバサに抱えられているエルもいっしょに行きたいのか、鳴き声を発しながら暴れている。でも、当然ながら危険とわかっている場所に彼女を連れていくわけにはいかない。
「ツバサさん、中に入りましょう」
「はい。行こうエルちゃん」
「エルー!」
暴れるエルちゃんを抑えながら、家にむかっていくツバサたち。だがその道中、アクシデントが発生。なんとエル愛用のゆりかごがひとりでに動きだし、エルを乗せたのだ。まるで、エルに協力でもするかのように。
ゆりかごはそのまま街へとむかっていった。これはマズいことになったとヨヨが思った時、スマホから着信音が鳴った。あげはからだ。
「あげはさん、ちょうど連絡しようと思ってたの。今どこ?」
【街の中です。それより大変なんです! ランボーグが暴れて街中パニック状態なんです!】
「ええ。今ソラさんたちがそっちにむかってるわ。……エルちゃんもね」
【エルちゃんもですか!? わかりました。エルちゃんは私にまかせてください。必ず連れ戻します】
本当ならプリキュアじゃない彼女には避難してほしいところだが、効率を考えればそのほうがいいだろう。そう判断したヨヨは“お願い”と言って、あげはにエルのことをまかせることにした。
「エルちゃんの場所はミラーパッドで探して連絡するわ。でも、ムリはしないで。先にプリキュアに会えたらエルちゃんのことは彼女たちにまかせて、あなたは安全な場所に避難して」
【わかりました。ヨヨさんも気をつけてください】
と言って、通話を切る。ヨヨは視線をツバサにもどして中に戻るようにと言おうとしたが、ツバサの姿はそこにはなかった。
「ツバサさん、まさか……」
ヨヨは察した。ツバサはエルを助けに行ったのだと。だが、それはあまりにも危険すぎる。プニバード族はプリキュアと違って戦闘能力は備わっていないのだから。
「……」
一方、ツバサは崖の前にいた。そこからは街全体が見渡せ、夜になると一面のライトの海が広がるデートスポットとなっている。
だが、ランボーグが暴れ回ってることでいたるところで煙が上がり、とても景色を眺める状況ではなかった。そして、街の中心にはこの事態を招いた張本人ランボーグが浮遊していた。
(風だ……風の流れを読むんだ)
目を閉じ、開いた後、本来の鳥の姿にもどる。そして駆けだす。混乱と破壊をもたらす、ランボーグにむかって。