「カバトン……こんな方法で私たちをおびき寄せるなんて……」
街にむかう道中、スカイは眉間にシワを寄せていた。無関係な人を巻き込むカバトンのやりかたが許せないのだろう。かくいう僕も同じだ。
「とにかく、今は街にむかおう。そこでランボーグを―――」
「2人とも左!」
プリズムが声をあげたので左を見ると、黒色のエネルギー弾が飛んできていた。スカイはそれを蹴り飛ばすと地面に降り立ち、“何者ですか!?”と声を上げる。
「我の一撃に対応するとは、流石プリキュアといったところか」
威厳のある声とともに姿を現したのは牛。しかし、その風貌は僕が知っているものではなく、着崩した和服を着用し、2本の足で立っていた。
「あなたは誰なの!?」
「我が名はミノトン。武人である」
たしかに出で立ちは武人っぽいが、自分で言うんだ……。
「ミノトン……まさか、カバトンの仲間!?」
「あんなのといっしょにするでない!!!」
急に大声を上げられ、心臓が飛び跳ねる。なんかわからないが、彼の前ではカバトンは禁句のようだ。
「僕らになにか用かな? こっちは急いでるんだ。用があるなら後にしてくれないかな?」
「プリキュア、我と戦え。さもなくばここから先は行かせん」
ミノトンは足止めをするつもりらしい。だが、こうしてる間にも被害は拡大している。このままここで時間を取られるわけにはいかない。
「スカイ、プリズム、ここは僕にまかせてくれないかな?」
「ライトニング、まさか1人で戦う気ですか!?」
「3人いっしょに足止めを食うわけにはいかない。今ランボーグが優先だから」
できるだけランボーグに注ぐ戦力は残したほうがいい。本当は3人で行きたいところだが、それはミノトンが許してくれないだろう。
「……わかりました。くれぐれも気をつけてください」
「わかってる」
「行きましょう。プリズム」
「絶対追いついてきてね」
街にむかっていくスカイとプリズムを見送らず、ミノトンを見据える。止められると思って身構えていたが、ミノトンはそれをせず、僕を見据えていた。
「僕が言うのもナンだけど、止めないの?」
「我が仰せつかったのは足止め。1人足止めできている時点で既にそれはできている」
絶対そういうことじゃないと思うけど、こっちにとっては都合がいいから指摘しないでおこう。
「来い。貴様の実力、我に見せてみよ」
拳を構えながら言うミノトン。隙を見つけさせない無駄のない体制。そこからでもミノトンが歴戦を潜り抜けた猛者であることは容易に想像できた。
そんなやつ相手に駆け出しの僕が敵うのか、という不安はもちろんあるが、怖気づいてるヒマなんてない。スカイとプリズムは僕を信じてこの場をまかせてくれたのだから。
心の中で“よし!”と気合いを入れ、僕は拳を構えた。
「いくぞ!」
地を蹴り、僕はミノトンにむかっていった。
―――――
エルを連れ戻すべく、飛び立ったツバサ。しかし……。
「……いてて」
プニバード族は飛べない種族。なら飛ぼうとすれば落ちるのは必然なわけで……。
「やっぱり、ムリなのかな……いや、凹んでる場合じゃない」
傷ついた体にムチを撃ち、立ち上がる。
こうしてる間にもエルちゃんは危険な目に遭っている。最悪カバトンに捕まり、助けを求めているかもしれない。時は一刻を争う中、凹んでるヒマなどないのだ。
「待っててエルちゃん……必ず行くから!」
体を丸め、坂道を転がっていく。飛べない以上、街には走ってむかうことになるだろうが、それでは時間がかかる。そこでツバサは丸みのある自身の身体を利用し、坂を転がれば時短できると考えたのだ。
「カバトン!!!」
大声でカバトンを呼ぶと、ランボーグがこちらに視線をむける。
「あぁ? なんだおまえ?」
ドスの利いた声に怯みそうになる。怖い、逃げだしたい。そんなキモチを押し殺し、ツバサは指もとい翼を指した。
「これ以上、お前の好きにはさせない! 僕が相手になってやる!」
とカッコつけて言った後、ツバサは重大なことに気づく。
プニバード族にはランボーグを浄化する力はおろか秀でた戦闘能力もない。それはつまり、ツバサにはランボーグと戦う術がないということで……。
「脇役はすっこんでろ!」
ランボーグから閃光の雨が降り注ぐ。
ツバサは逃げまどいながら、それらを避けていくが、これではあまりにも不甲斐ないと自身でも思った。
「エル~!」
聞き覚えのある声に視線をむけると、ここに来た目的であるエルが来ていた。
彼女はスカイとプリズムのところにむかっている道中、襲われているツバサを発見し、助けに来たのだ。
「エルちゃん危ないよ! 逃げて!」
「エル~!」
首を横に振り、拒絶するエル。
言葉はしゃべれないが、真っ直ぐツバサを見据える彼女の瞳からは”あなたを置いて逃げるなんてできない”という意思が感じ取れた。
「ありがとう。エルちゃん!」
ゆりかごに飛び乗る……まではよかったのだが、重量オーバーだったようで、浮かんでいたゆりかごはスピードを落とし、地に落ちていった。
「重量オーバーなのねん! 掃除機光線発射ぁ!」
カバトンが赤いボタンを押すと、ランボーグから円錐状の光線が飛ばされる。
エルは逃げようとゆりかごを動かずが、スピードが落ちている状態ではどうすることもできず、抵抗も空しいまま吸い上げられるのだった。
―――――
「……イ! スカイ!」
ランボーグの光線を喰らったことで沈んでいた意識が聞き馴染みのある声で目覚める。目を開くと私は路地裏にいて、目の前には心配そうに私を見るあげはさんとプリズムの姿があった。
「あげはさん……どうして……?」
「2人を追ってここに来たエルちゃんを連れ戻しに来たの」
「エルちゃんが!?」
ガバッと飛び起きる。それが本当だとしたら大変だ。ここにはカバトンがいる。もし万が一カバトンがエルちゃんを見つけでもしたら……。
「ねぇ! アレエルちゃんとツバサ君じゃない!?」
プリズムが指さしたほうを見ると、ランボーグがエルちゃんとツバサ君を取りこんでいるところだった。なぜ2人がここにいるのかという疑問はあるが、それよりも今は2人を助けないと。
(でも……)
カバトンを乗せたランボーグはUFOという飛行物体を素体にしてるだけあって、常に浮かんでいる。さっきまではプリズムとどうにかしてランボーグの元に行けないかと跳んだりしていたが、こちらが距離を詰めればあちらは上昇するだけじゃなく、反撃のおまけまでくれるという始末だ。
(2人を助ける前に、ランボーグに近づく方法を考えないと……)
翼があれば楽に飛んでいけるだろうが、私もプリズムもそのようなものはない。プリズムやプリズムの作るエネルギー弾を足場にして距離を稼ぐ方法もランボーグには通用しなかった。どうすれば……。
「……スカイ、プリズム、私に作戦があるの。聞いてくれる?」
「作戦?」
「うん。まずね……」
あげさんの言う作戦を聞くと、私とプリズムは頷く。よし、作戦開始です!
―――――
「はぁぁあああぁあっ!」
パンチを連続でくりだす。対するミノトンはそれを片手でさばいている。
「ふんっ!」
ミノトンから繰りだされたパンチをクロスさせた両腕で防ぐ。
だが、ミノトンのパンチは重く、腕では衝撃を完全に吸収しきれなかった。吸収しきれなかった身体は吹き飛び、地面を転がった。
(いった……プリキュアじゃなかったら骨折ものだな……)
腕を見ると、しびれて震えていた。見た目どおりのパワーの持ち主だなあの牛……。
「どうした? こんなものか? おまえの力は」
涼しい顔で言ってくるミノトン。
ハンパな攻撃はミノトンには通用しない。だったら……。
「ひろがる! ライトニングキック!」
雷をまとわせた跳び蹴りをくりだす。しかし……。
「!?」
ミノトンはそれを片手で受け止めた。
ライトニングキックは今ある中で最大威力を持つ技。それをミノトンは片手で完全に防いだのだ。
「これが貴様のとっておきか? 随分弱い蹴りだ」
「うわぁぁぁああっ!」
ミノトンが腕を振り抜くと、また吹き飛ばされる。
「弱い、弱すぎる。我らに抵抗するというから多少は期待したが、見当違いだったか?」
「……」
僕が弱いのは事実だ。格闘戦はスカイに及ばないし、プリズムみたいな特殊能力だってない。でも……。
「では、そろそろトドメをさしてやろう。ここで1人消せば今後プリンセスを奪うことも容易になるだろうからな」
「……」
「プリンセスも奪われ、仲間も倒れる。おまえが弱いせいで、な」
僕が倒れれば、ミノトンは街へ行き、スカイとプリズムを倒しにかかるだろう。そして、2人を倒せば次はプリンセスもといエルちゃんをさらう。僕が、弱いせいで……。
「弱い者は強い者に淘汰され、蹂躙される。それが世の理だ」
ミノトンが生きてきたのがそういう世界だったのか、僕にはわからない。
でも、そんなことは今関係ない。僕はただ、今やるべきことをやるだけなのだから。
「弱い者はそこでおとなしく倒れていろ。我はその間にプリンセスを―――」
「……エルちゃんは」
倒れるわけにはいかない。この場をまかせてくれたスカイやプリズムのためにも。自分たちを信じてくれたエルちゃんのためにも。
「なに?」
「エルちゃんは絶対に、渡すかぁあぁああぁあああぁあああぁああああぁ!!!!!」
全身にまとわれた雷が荒々しく轟音を響かせる。
全身に力がみなぎってくる。これならいけるかもしれない。
「うおぉおおおおおおおおおおおぉおおおおおぉおおおっ!」
この勢いに乗って、ミノトンに力いっぱいパンチをくりだす。ミノトンは腕でガードするが、衝撃を完全には抑えきれず、地面を滑っていった。く……これでもダメか……。
「……くく、くっくっくっくっく……」
ノドを鳴らしてミノトンが笑う。
「まさかまだこれほどの力を残していたとは……。やはり我らに抵抗してるだけある」
そう言って、ガードを解く。
「おまえはもっと強くなれ。我と張り合えるようにな」
「なに……?」
強くなることに関しては異論はない。ただ、強くなりたいのはエルちゃんを守るためであって、ミノトンと張り合うためじゃない。
「期待している。ミノトントン」
異議を申し立てる前にミノトンは消えてしまった。一方的に言ってきて……なんなんだあの牛は……。
「とにかく、街に急ごう」
そう言って、僕は街にむかうのだった。
―――――
「……」
ソラシド市近くの山から、ミノトンは街に浮かぶランボーグをミノトンはジッと眺めている。
「あの様子だとプリンセスは捕らえたようだな。だが、プリキュアはまだ生き残っている。それにやつがどう対処するのか」
同僚であるカバトンとは昔から反りが合わなかった。己を過信するわ盗み食いはするわ屁はこくわで、男の風上にも置けないと思っていたのだ。
「……」
腕に目をむけると、それにはわずかな電流がバチバチとノイズのような雑音を奏でていた。先ほどライトニングのパンチを喰らったことによってまとわりついたものだ。
「まだしびれているな……。まさか我の腕をここまでにするとは……」
そう言って、拳を握り締める。
「キュアライトニング……やつのこれからが楽しみだ」
電流が迸る腕を見ながら、ミノトンは1人笑い声をあげるのだった。