楽しい異世界ドスケベ牧場経営~ただし家畜は人間とする~ 作:ベリーナイスメル/靴下香
「ごめんなさいぃ~」
「いや、構わん。元を考えればわしのミスじゃ。普段搾り切れなかったということは、それだけ溜まっていたということ。初めからもっと大きいものか、いくつか数を用意しておくべきじゃったよ」
涙目でぺこぺこと謝るミーシャの胸がぶるんぶるんと。
なんとも眼福な光景ではあるが、一先ず掃除が終わったカリスたちはリビングで夕食を囲んでいる。
食卓の上に広げられた料理は、ミーシャのミルクで作られたグラタン。
一口食べてみれば濃厚なミルクの味が口に広がり、ここまで違うものなんだと改めてミノタウロスのミルクが希少である理由をカリスは実感した。
「え、えっと~。カリス、さんにもご迷惑を~」
「うん? いや、全然迷惑とか思ってないですよ。というか、オチはついたけどこれでミーシャさんの乳詰まりも解消できたんだし、喜ばしい事ですよ」
素人の自分がまさか上手くやれるなんて思ってもみなかったが、何にせよ問題は解決したんだしとカリスは笑顔を浮かべた。
「は、うぅ……でも、その、恥ずかしくて」
「恥ずかしいって」
ミーシャとしては何と言ったやらというものではあるが。
初対面の、それも畜産の資格も持っていない人間に、こうも派手に乳吹きを披露してしまった恥ずかしさが今は一番強いらしい。
生乳を躊躇なく披露して揉まれることに羞恥を覚えない人間が何をと思うカリスが実に正しく、一般的な感性を持っていると言える。
「まぁ、やはりわしの目に狂いはなかったということじゃな」
「狂いはなかったって……もしかして昔ここを継ぐかどうかなんて言ったやつです?」
「流石に潰す寸前の今どうじゃとは言わんがな」
試しだなんだと言っていた割に確信に近い何かはあったらしいハーツが呵々と笑う。
「はい~。その、凄く、お上手でした~」
「ありがとう、で良いのかな?」
「もちろんですぅ。でもでも~お礼はわたしがいう言葉です~。ありがとうございますぅ、カリスさん。お胸、とっても軽いですぅ」
「えぇと、そのお胸軽いアピールは勘弁してほしいかな。でも、何よりです」
見て下さいと言わんばかりに自分の胸を揺さぶるミーシャから目を逸らしながらカリスは言う。
本当に調子が良いのだろう、相変わらず間延びした話し方ではあるがミーシャの声は随分と明るい。
実際、乳詰まりが解消され、これだけ美味しいミルクを出せるのならどんな牧場に行っても必ず大切に扱ってくれる。
彼女の未来は確かに明るくなったのだから。
「そう言えばカリス。いつまでこっちの手伝いができるんじゃ?」
「あ、はい。向こうの雨期が終わるまでですから……一か月は大丈夫です」
カリスは丁寧な仕事をモットーにしている。
その丁寧な仕事を期待して多くの人から指名依頼を受けられるほどに人気の大工だが、相手が天気ではどうしようもない。
多少の雨なら大きな影響は出ないが、今勤めているギルドがある街の雨期は激しい雨が降りやすい。
ならばいっそ事情をギルドに説明したうえで一時的にお休みをと申し出た上で、カリスは今ここにいる。
「そうか。大工という造る人間に壊すことを頼むのは気が引けるが、明日から頼むぞ」
「ええ、大丈夫です。お任せあれ、ですよ」
「じゃあ~明日に向けて、ミルクで乾杯ですぅ」
「ははは、そうじゃな、ミーシャももう少しの間、よろしく頼むぞ」
笑いながら、三人は明日に向けて食卓を囲んだ。
のは、良かったのだが。
「はうぅ……ごめん、なさいぃ」
「……いや、まさか、のぅ」
翌朝。
ミーシャが半べそをかきながら作業着に着替えたカリスとハーツの下にやって来てはすぐに自分の生乳を披露した。
唐突な御開帳へと当たり前に狼狽したカリスとは対照的に、ハーツは冷静にミーシャの胸を確かめるよう触り、その硬さに目を丸くした。
「ミーシャ、自分では?」
「も、もちろんやりましたぁ~。けど、やっぱり上手く、だせなくてぇ」
「じいちゃん?」
「……また乳詰まりしてしもうてる理由として考えられるのは二つじゃ。あれだけ昨日搾ったはいいが、まだ全部出ていなかったか。一晩で乳詰まりしてしまうほど多量に作る才能に振り回されているかじゃろう」
どちらかと可能性を示しつつ、ハーツの内心では後者だろうという予感がある。
カリスが蓋を開いた。
いや、むしろカリスだからこそ蓋を開けられたというべきか。
貞操観念について厳しく躾をしていた理由がそこにはあるが、なんにせよ今まで閉じられた蓋の隙間から漏れ出ているような状態だったミーシャのミルクを正常に搾られるようにできたのは、他ならぬカリスだからこそだとハーツは知っている。
「このままにはしておけん、一度しっかり出すことを覚えた身体じゃ。以前のようにわしが多少搾ったところでどうにもならんじゃろう」
故に、どうするべきか。
背景をカリスに伝えたのなら問題は簡単に解決するだろう、しかしまだ知るには早いという思いがある。
結局、時期尚早と思いながらも、手伝いをと牧場にミーシャという家畜がいる状態で招いてしまった自分の迂闊さや浅慮を責めるべきで、こうなってしまったのなら導く方向を変えるしかないとハーツは顔を上げて。
「カリス」
「はい?」
「昨日の件も踏まえてじゃがな。わしは事務的な手続きを進めておくから、まずはミーシャの乳しぼりを頼んで良いかの」
「えっ!? い、いやだから俺は資格だって持ってないですし……それに、その」
ちらりとシャツに収まりつつあるミーシャの胸へと注がれたカリスの視線が言っている。
次は我慢できないかもしれない、襲ってしまいかねないと。
「わかっておる。じゃが、事実を言うがわしは昨日ほどの量をミーシャの乳から搾れんかった。にもかかわらず、素人のお前があれだけ搾った。少なくとも相性が良いのは疑えん」
「そういうことではなく――」
「なぁに、ミーシャは搾られることには慣れておるしの。カリス、お前が我慢したのならいい話じゃ。のぅ、ミーシャ?」
「がまん、ですかぁ? えぇと、嫌な気持ちにさせてしまうのなら~わたしが我慢しますぅ」
ミーシャの言葉にカリスの思考が固まった。
一言で言うならこの人マジで言ってるのかといった驚きによってだが、探るようにミーシャの顔を伺ってみても、純粋にカリスが嫌なら自分が我慢するといった申し訳なさそうな表情に変わりはない。
「ミーシャさん? 嫌な気持ちになるなんてとんでもない。その、恥ずかしながらって言うべきなのか……俺一人で魅力的な女の人を前にして、それも乳搾りなんて、過ちを犯してしまいかねない。我慢できる自信が、ないんですよ」
「あやまち、ですかぁ?」
ここまで言っても性的な、いわば貞操の危機といった部分にはピンと来ていない様子。
性に無知なのか、それとも今更見知らぬ男にどうにかされたところで何とも思わないくらいに経験豊富なのか、あるいは別の何かか。
「……いや、うん、わかった。努力するよ、ミーシャさんも、本当に嫌じゃない?」
「もちろんですぅ。むしろ、こちらこそごめんなさいぃ」
深く頭を下げるミーシャの頭を見て、一つ大きくカリスは深呼吸をした。
どうにも本当にそういうことに対して理解を及ぼせないらしい。
根本的な部分で普通、あるいは一般的な価値観を有していないというのなら、言葉を尽くしても理解を得られるかは微妙なところだ。
ならばなに、自分が我慢すればいい話だと。
どういう理由があるにしても、過ちを犯さなければ何も問題ない。
己を律する理性の裏で、最悪余計ことをしてしまったとしても、本人は嫌がっていないのだから、と。
「話はまとまったようじゃな。部屋は昨日のところを使うといい。本当に何か困ったことがあれば呼んでくれ」
「……わかりました」
何を考えているのかと、カリスは訝しむような視線をハーツへと投げかけるがやはり反応はない。
今まで親から受けてきた教育を考えるとあり得ない状況に違いないが、その親を教育した人間がやれと言うんだ、少なくとも間違いはない。
「とりあえず、俺は昨日よりも大きな樽を持って行くから、先に部屋に行っておいてもらってもいいかな?」
「はいぃ、わかりましたぁ~。よろしくおねがいしますぅ」
その場を離れて行った二人を見送ったハーツは。
「……年老いて枯れた今で良かったと思うべきじゃろうなぁ」
家に響くだろう嬌声を、ただの騒音として思えることが不幸中の幸いだと小さく笑った。