楽しい異世界ドスケベ牧場経営~ただし家畜は人間とする~ 作:ベリーナイスメル/靴下香
「――みなまで言わんでよい。とりあえず、先に風呂へ入ってこい。爺になったとはいえ流石にあてられてしまうわい」
「は、はい」
「はい~」
青を通り越して顔色を真っ白にしたカリスと、対照的につやつやもいいところなミーシャの背中を見送ったハーツは性臭漂う部屋でため息を一つ。
「どれ……」
サキュバスの血を引くヘルシアの男をそそのかせばこうなることはわかっていたし、わかった上でのことだ。
絞首台を昇る囚人かのような表情をしていたカリスには申し訳ないと思うが、確かめたいことが先にある。
「うむ、残っておるな」
ごろんと横になっている樽の中身、ミーシャのミルクをコップですくって口にすれば。
「……極上、どころじゃないのぅ」
ハーツは降参だと両手を上げたい気持ちになった。
「ここまでとは思わなんだ。やはり、カリスの血は濃いか」
目を閉じて自分はどうだったかと思い出す。
確かに自分も伴侶と初めて身体を重ねたときは中々の弾けぶりだった。
しかしながら、この部屋の惨状までではない。
至る所に飛び散ったミーシャのミルク、ベッドのシーツはかぴかぴもいいところだ。
見送ったミーシャの股座からはぼたぼたと白濁液がまだ零れ落ちていたし、一体何度カリスは吐精したのかと考えれば途方もない。
「身をもって知っているとはいえのぅ……これは予想以上じゃな」
間違いなく自分どころか、親も超える、あるいは遠い先祖に肉薄するほどの精力を持っているだろう。
いや、そもそも丸一日ミーシャの嬌声は家の中に響き渡っていたのだ。少なくとも一晩中、あるいは半日が限界だった自分とは比べようもないほどに精力は高いだろう。
「もちろん、意図的に抑えつけとったわしらという要因はあるじゃろうがここまで高まるものかの?」
抑えていた分反動は強くなるものだし、煮詰めれば煮詰めるほど濃くなっていくものだ。
ただ、そう言った面を加味したとしてもこれは少しどころか人間離れしすぎている。
「……まぁそれはよいか、ミーシャのこともあるしのぅ」
なんにせよカリスは女を知った。
表情を見るに責任を取って嫁にくらいは言い出すだろうが、受け止めるミーシャは紋様持ちとはいえ普通の女だ、一人ではどうしてもカリスの性欲を持て余す。
先祖代々、持て余した男がどういう手段を選ぶのかは様々だが、幸せな結果にたどり着いた例は数えるほどしかない。
「めぐり合わせ、か」
ターニングポイントは後悔と同じタイミングで自覚するものだとはこのことだ。
ミーシャという多くの意味で稀有な存在が潰れかけの牧場にいること、居るときにカリスを呼び寄せてしまったこと。
そんな二人の相性が極めて良すぎたこと。
やはり、誰が悪いのかと言えば、カリスならば乳詰まりを解消できるのではないかなんて考えて実行してしまった自分だろうと、罰として幾分かマシになった腰痛を堪えて部屋の掃除を始めた。
「予め言っておくか。わしはお前を責める気はない。無論、息子……いや、父親も同じことを言うじゃろう」
「出鼻を挫かれると何とも言えない気持ちになりますね……ですが」
「責任を取ると言える青年に育ってくれて何より、じゃがな」
風呂から上がったカリスは一直線にハーツの下へと向かった。
もちろん、責任を取りますと口にする覚悟を胸に宿してだったが、困ったように笑いながら言うハーツを前にどうしたらいいのかと困惑してしまう。
「ヘルシア家に生まれてくるものは代々性欲……というよりは、精が強く性に強い」
「そうなん、ですか?」
「そう。もう一つ特色があるが、それはミーシャが戻ってきたらわかる。だから先に今までお前に施してきた教えについて説明しようかの」
教えと言われて思いつくのは、やはり情操観念についてのものだろう。
性行為は将来を誓った相手とだけ。
端的に言えばそういったものだ。
だからこそカリスは教えに従い、責任を取ってミーシャを嫁にと口にするつもりだった。
「わしも、父親もそうじゃったが。生まれついて性的に強者であるわしらについてこられる女は少ない。それこそ、一歩間違えれば多くの意味で相手を抱き殺しかねんほどにの」
「……そこまで、なんですか? え? でも、実際父さんや爺ちゃんは」
「ばあさんも、お前の母親もじゃがな。禁忌とならん程度に遠く同じ血を引いておるんじゃ、源流をたどればな。故に、性欲が強いか、性的に強い女が多く、お互いに満足のいく営みを送ることができる」
「そんなに、その、夜の生活っていうのは大事、なんですか?」
「一族の中で伴侶を見つけあうという仕組みができるまでに生まれた悲恋の数々は記録に残っとる。興味があるなら見せてやろう」
冗談を言っている表情ではない。
大人になってから、もっと言えば今になって明かさなくてもと思うカリスだが。
「お前にこの牧場を継がせようと思っていたとは言ったな?」
「あれが本気だったというなら、ですけど」
「半ば本気じゃったよ、わしら、というより本家は、じゃがな。わしらは一族の中から伴侶を見つける。見つけるが、遠くとも同じ血を引いているからか子宝になかなか恵まれないこともあって相手を探すのが難しくなってきての。そこでヘルシアの血を強く継いでいるお前が種馬となり、子を多く作らせヘルシア家の将来の伴侶を作るなどと、ここを人間牧場と変えて継がせるという案があった」
「人間牧場っ!?」
とんでもな言葉に思わず驚くカリスだが、さっき以上に冗談ではないとハーツの顔が言っている。
「まぁ、案は案で終わってしまった。というか、家畜扱いできる人間なんぞそうそう見つけられんよ、人道的にも物理的にも、の」
「そりゃ、そうですよね」
遠い祖先の血を紋様に表すことができる人間はそれなりに多い。
ミーシャのように牛より多くの量のミルクを生むことができる人間もいれば、体液が優れた肥料になる人間だっている。
だからこそ畜産農家には厳しい試験をパスする義務が課せられていた。
それは偏に先祖返りしてしまった人間の権利を守るために。
そんな中、孕み袋という意味で紋様持ちを家畜にするなんてしてしまえばどうなるのか、想像するまでもないだろう。
「戻りました~」
「うむ」
「あ、ミーシャさん。その……え?」
「はい~どうしましたかぁ?」
戻ってきたミーシャが自然とカリスの隣へ。いや、身体を重ねたとは言え近すぎる場所へと自然に座った。
「……爺ちゃん、もしかして」
「魅せられた本人の前で言うことではないがな。まぁ当の本人は無自覚のようじゃし、よい。そう、わしらの性行為は相手を魅了する」
中でも先祖返りの色が濃いカリスは特に、とまでは言わなかった。
そもそも先祖返りの証である紋様は男には浮かばない。
浮かばずとも自然と何らかの特性のようなものが発揮されるものだ。
「もちろん、そこらを歩いてる女子を襲ったところで憎まれて終わるぞ? ある程度相性があった上でのことじゃ。わしがミーシャの乳をよう搾れんかったにもかかわらず、なんの知識もないお前がただ欲望のままに揉んだだけで搾られたのは、お前の血とミーシャとの相性。その二つが大きな理由じゃろうて」
「……」
あぁ、だからか、と。
躾とも思える教育に不思議と反発する気持ちがわかなかったのは、こうなることを本能で理解していたからかと妙に納得してしまうカリスだが。
「無理やり心を奪ってしまったなんて顔をするな。ミーシャ、おぬしはカリスにあぁされて嫌じゃったか?」
「そんなことありません~。とっても気持ちよかったですし~、おっぱいごくごくって、たくさん飲んでくれて、嬉しかったです~」
「ミーシャさん……」
「ほんとです~。いまだって、またして欲しいなって思ってます~」
性に魅了されたとて、人に魅了されるわけではない。
確かにミーシャは性的な知識に疎く、未だにあれが子作りと呼ばれる行為であったことすら理解に及んでいないほど無知であり無垢だが、それだけに自分にとって危険な人物かどうかを嗅ぎ分ける能力は高い。
「自分でやらかしたことですけど、納得できないと言うか、複雑です」
「重ねてそう考えるようにしてしまったのはわしらの責任じゃ。ただ、ミーシャは生い立ちのせいもあるが、色々な方面に無知じゃ。おぬしが責任を取ってどうのと言ったところで理解されんじゃろう」
「生い立ち、ですか」
「わしから直接言うことじゃないがの、ミーシャは親を知らんし家族の営みも知らん。責任を取るというのなら、そこからになるじゃろう」
文字通りミーシャは大きな子供だった。
それこそ、そんな状態でこれまで生きてこられたのが奇跡と思えるくらいに。
「じゃから、この牧場を片付けた後ミーシャをお前が連れて行くと言っても止めはせんし、一夜限りの逢瀬としても責めん。何、長いのか短いのかはわからんが一か月あるんじゃ、手伝いをしながら考えてみるとよいわ。重ねてどんな決断をしようと応援すると約束する」
「……はい」
急に背景を語られても考えがまとまらない。
事実だけを見ればただ単に童貞を捨てただけではあるのだが、これまでの教育からそれだけとも思えない。
どうするべきか。
「カリスさん~?」
「うん?」
「これから、よろしくおねがいしますぅ~」
「う……こ、こちらこそ」
隣で浮かべられた無垢な笑顔を曇らせないようにしようとだけ、カリスは決意した。