※この作品はR-18です。

聖なる須臾は湯煙の奥に   作:くもたろー@溶脳炉


原作:ブルーアーカイブ
タグ:R-18 生塩ノア
 激務の果て、気が付けば新年を迎えていた先生。気が付かないうちにクリスマスというおいしいイベントを逃し慟哭するが、時間を巻き戻すことはできない……。
 と、思っていたのだが。やってきたノアが携えていたのは、タイムマシンの試供品。彼女の口車に乗せられた先生は、共にクリスマスの日へタイムトラベルを試みる。一方ノアは、心の中先生を篭絡する方法について考えを巡らせていた。
存分にイチャイチャしやがれっ!

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溶脳炉メンバーとのお題交換会の結果、ノアで混浴とサンタコス騎乗位叡智だそうです。出せるものは全部出し切りましたがR-18要素はおまけみたいなもんです。書きづらいからね仕方ないね……。参考にできるものがぬきたししかないのだからしょうがない。推しキャラは逆に書けないって言ってる人たちの気持ちがわかった気がします。


聖なる須臾は湯煙の奥に

 1月1日。

 除夜の鐘が鳴り終え、日付が変わるとともに新たな年が訪れる。きっと今頃、モモトークはあけおめの挨拶で混雑していることだろう。

 同時に、私の休みが始まった。……やっと休みだ、長かった。ほんっとうに、長かった。3が日の間だけの短い休みだが、どれほど待ちわびたことかわからない。目の前の、ようやく片付け終わった書類の山に火をつけてしまいたい衝動すら感じながらシッテムの箱兼タブレットを開く。

 

「アロナ~プラナ~、モモトーク開いて―」

『はい!新着メッセージがたくさん溜まってますよ!』

『その前に、少し寝た方がよいのではないでしょうか……』

「いーじゃないか私だってうら若い女の子と話せるのはうれしいんだよぉ!」

 

 どうせひとりなのだからとみっともなく駄々を捏ねてモモトークを開いてもらう。通知の数は……4桁。いますぐに全部は目は通せないから、少しだけ。

 

『もう、先生のフリして生徒さんのお誘い断り続けるの、結構心苦しいものがあったんですからね!お汁粉くらいプレゼントしてくれてもいいんじゃないですか?』

「あーうん、ありがとうね。明日外出した時にでもごちそうするよ……」

 

 半眼でかわいらしい要求をしてくるアロナの言い分はもっともだ。それというのも忙しさがMAXだったため、アロナとプラナにモモトークの内容をチェックしてもらっていたのだ。いくら書類仕事に追われていても、生徒たちの相談には可能な限り乗ってあげたい。それに、彼女たちは多感な年頃であるため、できるだけ早急に解決するべき案件も少なからず存在する。そのようなものは私に回してもらい、急ぐ必要のないと思われることに関しては年が明けるまで待ってほしいという旨のメッセージを代筆してもらっていたのだ。

 安請け合いにわーいわーいと喜んでいるアロナを傍目に、モモトークを流し読みしていく。まずはアロナにチェックしてもらっていた中で会いに行った生徒のその後の顛末について。……特に尾を引いていたり新たな面倒ごとにつながったりはしていないようだ。次に件数の多い生徒の分を……って、あれ、クリスマスのお誘い?

 ふとモモトークからカレンダーに画面を切り替えると、当たり前だがそこに表示されているのは1月1日の表記。超ハードスケジュールが始まったのが確か12月20日あたりだったから……。

 

「クリスマスとかいう超おいしいイベント逃してたああぁぁぁぁぁぁ!!!」

『うわっ、びっくりさせないでください先生!』

「あああああああミカからもノアからもお誘い来てるじゃねえかなんでいかなかったんだよ俺のバカあああぁぁぁ!!!!!」

『……お伝えするべきでしたでしょうか。気が回らず申し訳ございません』

「プラナは悪くないよただちょっと後悔というか残念な気持ちがねいや本当に責めてるわけじゃないから安心してほしいっていうかほらあれだよあれ」

『落ち着いてください先生。……というか寝てください!無理が祟ってのダメージは私たちでも防ぎようがないんですよ!』

 

 深夜のシャーレ、静まり返った中あまりのショックに大声で叫びまわる不審な男性が一人。もちろん私のことだ。

 先生として粉骨砕身の働きをしているんだからかわいい女の子に囲まれてクリスマスを過ごすくらいの役得はあってもいいだろう!というかかなり楽しみにしてたのに!仕事め……。

 

「ひとまず仕事終わりとB(旧モモッター)に投稿して……って、なんでこんな爆速でいいねRBされるんだよそしてリプが付くんだよ皆早く寝なさいよ」

『……そっくりそのままお返しします。先生には休息が必要です。』

『せ・ん・せ・い~!先生に万が一のことがあったらまたプラナちゃんが悲しんじゃいますよ!プラナちゃんだけじゃなく、私も、他の生徒さんたちも!それでいいんですか!』

「わかったわかった寝るから!」

 

 親に諭される子供のように渋々とモモトーク及びB(旧モモッター)を閉じ、スリープモードに移行させる。

 

『ソファーとかじゃなく、ちゃんとしたベッドで寝てくださいね!せめて仮眠室で!』

「ギクッ!……わ、わかったよ」

 

 なーんか最近生徒たちが読心術を心得てきたような気がするんだよな。気のせいかな……。

 半眼で呆れたまなざしを送ってくるアロナと、無表情だが異様に圧のあるプラナが画面越しに監視してくるため、何日ぶりかもわからない柔らかな布団でおとなしく眠ることにした。

 

 

―――――――――――――――

 

 

「…………生。先生。」

 

 透き通るような声がする。すべてを見透かし、許容し、抱擁する女神のような、そんな声が。

 

「うーん、あと5分……いや5時間……」

「睡眠は大切ですが、そんなに眠ってしまっては逆効果ですよ、先生」

「にゃーん……」

 

 全身を包み込む暖かい多幸感に身を任せ、ほとんど反射で何事か口にする。あぁ、今だけ猫になりたい……!

 そんなことを考えていると、耳のすぐそばで生暖かい吐息と共にぽしょりと声がする。

 

「あら、猫になってしまいました……。ふふ、猫さん、起きないとかわいらしい寝顔を『記録』しちゃいますよ?」

「やあおふぁようノアきゃうもいい天気だね」

「盛大に嚙んでますし外は雪がちらついてますが……大丈夫ですか?」

「HAHAHA、見ての通り完全にいつも通りの先生ジャマイカ」

 

 一瞬で跳ね起き爽やかな挨拶を交わす。これで大人としての体裁は守られた。なんかノアが困惑したような苦笑いを浮かべているがどうしたのだろうか。私はこんなにもいつも通りにかっこよくキまった大人だというのに。

 

「いつも通り、というには些か無理があるかと思いますよ、先生。いつもならかっこよく決まっている髪が寝ぐせだらけですし、顔色もあまりよろしくありません。あまり変なことを言う前に、鏡を見た方がいいですよ。……また食事を適当に済ませましたね?」

「うっ、それは……その」

「その、なんですか?」

「仕事が忙しすぎるから……」

 

 別に詰問されているわけでも責められているわけでもないとわかってはいるのだが、どうにも決まりが悪くて目を逸らす。……嘘は言っていない、うん。

 

「先生のお食事に関してはまた後日、ユウカちゃんも交えてじっくりとお話しするとしまして。……本日は、少々面白いものを持ってきたんです。」

「面白いもの?」

 

 そこで初めて、ノアがゆったりと羽織っているジャケットのポケットから、見慣れないものが飛び出ていることに気づいた。

 

「はい。しばらく前に、アリスちゃんが見つかった廃墟の調査を行う旨をお伝えしたと思いますが」

「あぁ、アリスが便利屋68にバイトに行ったときにそんなこと言ってたっけ」

 

 詳しくは過去作の「アウトロー勇者アリスです!」を参照してくれたまえ。(露骨な宣伝)

 

「それで、何か見つかったの?」

「ご明察です。なんと……」

 

 ノアが何事か言いかけたところで、急に視界が白く染まる。どうやら急激に部屋の中が明るくなったようだ。

 

「……」

「……」

 

 少し目が慣れてきて窓の外を見てみると、日中でもなお強く輝く青白い光が天へと伸びていた。やがて光は細くなっていき、何事もなかったかのように晴れ空が残った。

 

「えーっと、ノア、これは……」

「先生、少し失礼しますね」

「アッハイ」

 

 にっこり笑顔を張り付けたままスマホを取り出し、一言断りをいれて部屋を出るノア。何か言う間もなく踵を返した後ろ姿からは強烈な圧が放たれており、頷く以外の選択肢はなかった。

 でも今のノアの笑顔、まだ圧も怒りレベルも弱い方だったな。…………ノアが本当に最高にブチ切れたときの笑顔見てみてぇー。きっとすごくきれいなんだろうな、お花畑の幻覚が見えるくらいに。まあ、そのあと行われるであろう処刑に関しては致命的な部分を的確に突いてくることが容易に想像できるので考えたくないのだが。

 そんな不埒なことを考えていると、一度部屋を出たノアが戻ってきた。

 

「すみません先生、急に席を外してしまって。本来であれば、この後ユウカちゃんとも合流して一緒に発掘されたもののお披露目会をしたかったのですが、そうもいかなくなってしまいまして」

「さっきの光も、その発掘されたものの一つなの?」

「はい。ですが、それも今度のお楽しみということにしておきましょう」

 

 まだ内緒ですよ、と唇に人差し指を添えてウインクするノアの仕草に動悸が跳ねるのを感じた。頬に集まる熱を気取られないように、一つ咳払いをして少し上ずった声を出す。

 

「あー、ノア、大変みたいだしコーヒーでも飲まない?」

「いいですね、ではお言葉に甘えて」

 

 ノアの返事を聞くや否や、逃げるように給湯室へ駆け込む。ポットに水を入れてスイッチを入れしばらく待つと、カコンという軽い音とともにスイッチが切れ、水が沸騰したことを伝えてくれる。自分のカップと当番生徒用のカップにコーヒー粉末を投入し、やっとそこで自分で淹れるよりノアが淹れてくれたコーヒーのほうが好みであったと思い出す。

 私自身で豆を挽くことはないのだが、気が付けばシャーレにはコーヒー豆が何種類か置いてあるし、紅茶や緑茶といった茶に関しても結構充実している。おそらくノアは、私の反応を記録しながら、好みに合う豆のブレンドを作り上げたのだろう。だが、何度聞いてもその美味しさの秘密は教えてもらえずにいた。

 そのうち自分でも試してみようかな、などと考えながら二つのマグカップを持って執務室に戻る。ノアは既にソファに座っており、常に持ち歩いているノートに何事か記入していた。おそらくは何かの「記録」なのだろう。すでにノアの記録に関して足を突っ込んでもからかわれて終わることを学習した私は鎌首を持ち上げる好奇心を抑え込み、ノートを見ないようにそっとマグカップを置く。

 

「ありがとうございます、先生」

「インスタントのコーヒーだからノアの淹れるコーヒーと比べると味は劣るだろうけどね」

「多忙な先生が貴重なお休みを使ってまで淹れてくれたということに価値がありますから」

「そんな大それたものでもないんだけどなぁ」

 

 やけに大袈裟な礼を受けて少し困惑しつつ、コーヒーにミルクを溶かす。基本的に私はコーヒーに砂糖は入れない派だ。二人でコーヒーを啜り、一息つく。思えば、こうして静かに温かい飲み物を飲んでまったりするのも久しぶりだ。といってもこんなことばかりしていた暇な時期から半月も経ってはいないのだが。

 もうちょっと0か100かみたいな仕事の割り振りじゃなく全体的に50くらいの均等な仕事量であってくれたら助かるんだけどなぁ。でもこの割り振りのおかげで暇な時期に生徒たちのもとへ赴いて色々な手伝いをできているのも事実だし……。

 悶々とした思いをコーヒーの苦みと共に飲み込む。同時にノアもコーヒーを飲み干したのか、楚々とした動作でマグカップを置く。

 

「……そういえば、さっきの光?のせいで発掘されたものを見に行くのはできなくなったって話だったけど。ノアは戻らなくても大丈夫なの?」

「向こうのことはユウカちゃんが一人で大丈夫だと言っていましたし大丈夫だと思います。それに、私には発掘されたものとは別に、一つ先生にご協力いただきたいこともありますから。」

 

 そう言ってノアが取り出したのは、先ほどジャケットのポケットから顔をのぞかせていたバーのようなものだった。長さ20㎝ほどのグリップにいくつかのボタンがついているような外見のそれは、言うなれば。

 

「操縦桿……?」

「流石ですね。おおよそそんな感じです」

 

 口をついて出た推測にそう答えたノアは、未だに疑問の表情を浮かべる私にくすりと笑みを浮かべた。そのまま「ついてきてください」とだけ言って執務室の外へ歩いて行ってしまう。

 慌ててソファから立ち上がってノアの後を追う。元旦ということもあってか外は静かで、いつも常にどこからか響いてくる銃声も鳴りを潜めていた。コツ、コツという硬質でリズミカルなノアの足音と、それより重いトフ、トフという私の足音が廊下に染みこんでいく。

 ようやっとノアが足を止めたのは、シャーレ一階のエントランスだった。毎日のように通っている道ではあるが、いつもの見慣れた光景というには些か無理がある。それというのも、普段であれば飾り気のない無機質なエントランスに、誰がやったのかところどころ正月飾りがあるから……では、ない。

 主張の控えめな正月飾りが見守る中、エントランスのど真ん中に鎮座ましましてる一枚の畳とその上に乗った座布団付きの座椅子、そして畳に似つかわしくない近未来的なコンソールを備えたゲーム筐体のようなものこそが、この異様な光景の主人公であった。座椅子の背もたれ部分と筐体の側面にはミレニアムの紋章が刻まれており、ノアの要件と関連があるのは一目瞭然だ。一目瞭然なのだが、これは先ほどの操縦桿モドキと異なり一体何なのか皆目見当もつかない。

 こちらを振り返り、目線で私の回答を促すノアに、お手上げといわんばかりに肩をすくめて問いかける。

 

「ノア、これは?」

「タイムマシンです」

「…………なんて?」

「タイムマシンです」

 

 一瞬聞き間違いかと思って問い直してみるが、返ってくるのは一言一句同じ言葉。

 タイムマシンってこんなポンと出てきていい代物じゃないだろう。というか、なんで畳なんだ。そこは青っぽい板じゃないのか、ドラなんとかもんが使うような。

 疑問が氷解するどころかさらなる疑問を呼んで混乱状態にある私を傍目に、ノアはタイムマシンとやらに近づいていく。

 

「最も、タイムマシンといっても先生が想像するようなものとは少し異なるでしょう。」

「というと?」

「このタイムマシンは、予め決められた時間に使用者の精神を飛ばし、飛ばした先で24時間以内で決められた時間が経過すると同時に元の時間へと精神を返却する、というものだそうです。ただし、このタイムマシンは過去、現在、そして未来への物質的影響を及ぼすことはできません。ウタハ先輩の言葉を借りるのであれば、この世界そっくりな平行世界の該当する時間に少しだけお邪魔するようなもの、といったところでしょうか」

 

 滔々と語るノアの説明は、最期の例え以外よくわからなかったが。

 

「つまり、ある意味VRゲームとかに近い感じ?」

「ゲームというのが適切かは判断しかねますが、凡そその理解で問題ないと思います」

 

 なぞなぞを解いた子供を褒めるかのように、微笑みながら私の解釈に頷くノア。大人の、それも先生という立場で褒められるような扱いを受けるのは少し面映ゆくて、つい頬をかいてしまう。

 

「あー、その、なんだ。……そもそも、どうしてタイムマシンなんか持ってきたの?」

「やっぱり気になりますか?……いえ、ここでこの問いは少し意地悪でしたね。エンジニア部の皆さんに、テストをお願いされたのです。」

「テスト?道理でさっきウタハの名前が出てきたのか」

「そういうことです。これでも私、ミレニアムではモニターとして人気なんですよ?」

 

 白いスーツのような服の下からでも激しく自己主張してくる胸をはり、誇らしげに言うノア。言われてみれば、ノアは書記として記録に長けているし、中立な立場を保つべき時には保つことができる。モニターとしては最適かもしれない。それに、ミレニアムの特許の申請について処理している生徒でもあるし、実物を見せるという側面も兼ねているのかもしれない。

 

「ふふ、大体そんなところです」

「前々から思ってたんだけど勝手に思考読むのやめない?というかどうやってるのそれ」

「それに関しては守秘義務がありますのでお答えすることはできませんね♪」

「私のプライバシーどこ……ここ……?」

 

 一部の生徒っていつもそうですよね!私のことなんだと思ってるんですか!

 もしかして、ミレニアムの誰かが思考を読む道具でも作ったんだろうか。いつぞやの私の位置を予測する装置みたいに……。

 

「それで、先生。一緒にテストに付き合ってはいただけませんか?」

「え、私も乗るの?」

「先生さえよろしければ、ですが。もちろんエンジニア部の皆さんには先生を乗せても大丈夫だとお墨付きをいただいています。情報面でも、安全面でも」

「ふむ……」

 

 タイムマシンに興味がないのかと言われたらめちゃくちゃあるし、安全性も確保されているというのであれば断る理由もない、か。しいて言えば、貴重な正月休みが一日潰れてしまうことぐらいだが……別にこの世界に顔を出すべき実家もないし、会っておきたい友人のようなものもいない。どうせゲマトリアの連中は一本メール入れときゃいつでも会えるのだ。アイツらヒマだし。

 それに、貴重な休日とはいえ、ノアと過ごせるのならば悪くない。いやむしろ、僥倖というべきかもしれない。ここだけの話、私はノアのことを……。

 

「それ、私に言っても大丈夫なやつですか?」

「言ってないんだよなぁ……」

 

 うかつに考え事もできねえじゃねえかチクショウ……。

 少しの怨めしい気持ちも込めて半眼でノアを見つめるも、彼女は先ほどまでよりも上機嫌に微笑むばかり。睨んでも意味がないと判断し、ため息を一つついてから両手を上げ降参の意を示す。

 

「わかった、タイムマシンの旅にご一緒させてもらうことにするよ。」

「ふふ、先生ならそう言ってくださると思っていました」

 

 半ばノアにそう言わされたところがある気がしないでもないが、ノアは気にした様子もなく私の手を取りタイムマシンへと歩み寄る。

 

「あ、タイムマシンは土足禁止とのことなので靴は脱いでくださいね」

「タイムマシンなのに!?」

 

 確かに見た目は畳だし、日本人として靴を履いたまま乗ることに違和感を覚えないでもないが、それにしても土足禁止のタイムマシンとは……。非常に複雑な気分だ。

 足袋が欲しいところではあるが、ないものは仕方がない。靴と靴下を脱ぎ、素足でタイムマシンに乗り込むと、足の裏からはまさしく畳そのものの感触が返ってくる。石材や木材とは違い、真冬の中でも冷たすぎない特性は指先が痛くなりづらいため非常に助かる。……しかし、本当にイグサにしか思えないが、どうしてこれがタイムマシンに使われているのだろうか。

 本日何度目かも知れぬ疑問の渦に飲み込まれている私を他所に、ノアもブーツを脱いでタイムマシンに乗り込んできた。そのまま、中央に備えられている座椅子に腰を下ろす。そして、筐体の中央にポケットから取り出した操縦桿をはめ込んだ。

 

「それ、そこに繋げるためのものだったのか」

「車などの鍵のようなものです。行先の時間などもこの操縦桿側に入力するそうですよ」

「なるほど」

「ちなみに販売する際は別売りだそうです」

「それはまた商魂たくましいというかなんというか……」

 

 エンジニア部をはじめとしたミレニアムの生徒たちは金銭目的というよりも作ることそのものが目的という印象なので、こういったことをするのは少々意外である。だが、研究や開発といった営みには金がかかると聞くし、ゲーム部を含め様々な部活が部費に関してユウカと言い合っているのはよく聞くので、案外死活問題なのかもしれない。

 筐体に浮かぶホロウインドウタイプのキーボードに慣れた手つきで入力を済ませていくノア。少しして、操作する手を止めてこちらに振り返った。

 

「さて、それではそろそろ出発しましょうか。先生は、この座椅子の背もたれに掴まっていてくださいね」

「了解、立っていればいいのかな?」

「えぇ、すぐに着きますのでそうしていただければ」

 

 私が言われた通り背もたれに掴まって立ったのを確認して、ノアは正面に向き直る。そして、大きく息を吸って左腕を突き上げた。同時に、右手で操縦桿を思いっきり引く。

 

「それでは、タイムマシンによる時間の旅へ、しゅっぱ~つ!……クリスマスデート、楽しみましょうね、先生?」

 

 今何て?

 そう思ったのも束の間。聞き返す前に、周囲にモノクロの畳が一畳、また一畳と増えていきあっという間に周囲を埋め尽くす。かと思えば、それらが回転しどんどん速度を上げていき……やがて、視界が真っ白に染まった。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 雑踏特有の足音に人々の楽しげな声、そしてリンリンという軽やかな鐘の音が耳朶を打つ。いつの間にか閉じていた目を開くと、目の前には電飾をはじめとした飾りを纏った背の低い針葉樹が一本。そして、それを囲むように赤と白の装飾品をつけた店の数々が左右に伸びていた。

 何度か歩いたことのあるそこは、ミレニアムサイエンススクール近郊の商店街、その大通りだった。

特徴的な飾りつけと聞き覚えのあるメロディが、今がクリスマスであることを主張している。行き交う人々が楽しげなのにも納得だ。

陽はまだ高く、随所に取り付けられている電飾が幻想的な風景を映し出すのはしばらく先になりそうだ。時折子供たちの笑い声が響いている。

 

「微笑ましいなぁ」

 

 ふと、そんな声が漏れる。子供たちがのびのびと楽しめることよりも良いことなどない。そのためにこそ、「先生」として粉骨砕身しているのだから。

 ……まあそれはそれとして。

 一人寂しく仕事に追われてクリスマスをやり過ごした私への当てつけかのように、そこら中にカップルがいることについてはどうしてくれようか。手榴弾を持ち歩いているわけでもないから何もできないが、それでもモテた経験すらない独り身としては怨めしいものである。目の前で派手に爆発でもしてくれればすっきりするだろうか。

 人知れず奥歯を噛み締めていると、ふと視界の両脇から指が伸びてきて、すぐに目の前を覆われてしまう。ひんやりとした指先は、冬の寒さの中にあっても冷たさを主張していた。

 

「先生、せっかくのデートなのに他の子に目移りするのはダメですよ。それに、なんだか怖い目をしていませんでしたか?」

「ごめんごめん、ノア。ところで、いつからデートしてるの私たち」

「細かいことを気にしていてはモテませんよ、先生。クリスマスに慕いあう男女が逢瀬を楽しむんですよ?デートでいいじゃないですか」

 

 軽く謝ったことで視界が解放されたので、振り返ってノアの方を向く。

 天使がいた。いや、天使というのはいささか不適当かもしれない。

タートルネックで縦にゆるく編み目の入った白いセーターがバランスの取れた肢体を太腿のあたりまで包んでおり、そこからはいつもより少しデニールが少ないタイツで引き締められた脚がすらりと伸びている。足元は口がもこもことした毛皮に覆われた上げ底のブーツとなっており、もとよりきれいなシルエットをさらにすらりとした印象に仕立て上げている。セーターの上には薄いベージュのコートを羽織っており、肩には少し大きめのハンドバッグのスリングをかけていた。

雪のように透き通る髪はハーフアップにまとめられ、全体的に奇麗な印象でまとまりつつもちらりと色気が香る出で立ちとなっていた。その表情は少し拗ねているようにむくれており、コーディネートとのギャップで動悸が跳ねるのがわかる。

 頬に熱が集まるのを感じながら、しかし固まることしかできずにいる私を見て、ノアはこらえきれないように噴き出した。

 

「ふふふっ。ごめんなさい先生。本日は、タイムマシンのテストなのは間違いないのですが……ここのところ働きづめだった先生に羽を伸ばしてもらいたいんです」

「あ、あぁ……ありがとう?」

 

 上擦った声で返事をし、ようやっと硬直が解ける。ノアの言ったことを理解するのにも普段の数倍の時間を要したが、労わってくれるというのならばありがたく言葉に甘えさせてもらおうか。

 しかし、生徒にこうも気を使わせてしまうのは先生としては望ましくないな。生徒たちにヘンな負い目を感じてほしくはない。そのせいで激務になっていることは否定できないし、私のエゴに過ぎないかもしれないが、生徒たちが子供であり、庇護されるべき対象であるうちから遠慮する必要はないのだ。

 そんな私の内心を見透かしたのかどうか定かではないが、ノアは片手をこちらに差し出す。

 

「さて、それではクリスマスの街へ行きましょうか。ところで、手が冷えてしまって困っているのですが、温めてもらえますか?」

「仰せのままに、ノアお嬢様」

 

 ここまで来てしまった以上帰ることもできないし、せっかくの機会とおもって楽しんでやることにしよう。そう腹を括って、差し出された手を恭しく取る。

 ノアは一瞬面食らったように目を見開いたが、すぐに微笑み、こちらの手を握り返してきた。指先は冷え切ってかなり冷たいが、それでも柔らかい感触と確かな鼓動が掌を介してこちらに伝わってくる。

 

「さて、まずはどこへ行きましょうか。先生は覗いてみたいお店はありますか?」

「うーん、ミレニアムのお店ってなんやかんやで門外漢の私にはよさがわかりにくいものが多いからなぁ。ノアのおすすめのところとかがあったら連れて行ってよ」

「わかりました、では私のお気に入りの文房具店などどうでしょう。実用性に重点を置きながらデザインもシックでいいんですよ」

「それじゃあそこをのぞいてみようかな」

 

 足取りの軽いノアに手を引かれながら、商店街を二人で歩き始める。もしかしたら、今の自分たちはカップルのように見えなくもないのではないか……などという思考が脳裏をよぎり、頭を振って追い払う。いぶかし気にこちらを見るノアになんでもない、と返して歩を進めていく。

 そうして、ノアとのショッピングやランチを楽しんだ。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、やがて陽が傾いて空を茜色に染め上げる。いつの間にか片手に持つ戦利品の重さは結構なものになっていた。束の間の絶景を目に焼き付けながら歩いていくと、やがて周囲の光景が商店街から町のはずれとでもいうようなものに変わっていく。ミレニアムらしからず、森や小高い丘などが目立つようになってきた。

 ミレニアムには度々来ているが、生徒の要請にこたえる形で来ているため、こういった場所には足を運んだことはなかった。物珍しさにきょろきょろしながら先導するノアについていくと、やがて一つの建物の前にたどり着いた。

 

「本日はお付き合いいただきありがとうございました、先生。この旅館の部屋を取ってあるので、こちらで休みましょうか。……結構な時間歩きましたし、運動不足の先生はお疲れでしょうから」

「お礼を言うのはこっちだよ、久しぶりに楽しませてもらったしね。それにしても、予約なんてどうやったの?まさか、本当はクリスマスに予約していたけど私がいけなかったからキャンセルしたとか?」

「いえ、そういうわけではありませんので安心してください。元々、ここには目をつけてましたから……クリスマス当日に空室があったことを予め確認しておいたんです。空きがあれば当日であってもすぐに対応してくれるところだと知っていましたし、ちょっとした隙に電話させていただきました。」

 

 さすが抜かりがないというかなんというか。

 ノアの指摘通り、もとより運動不足な上にここ数日は激務でほとんど出歩いてすらいなかったこともあって脚は悲鳴を上げている。疲労コンバインというやつだ。……あれなんか違うな。

 いずれにせよ、ここにきて別の場所に泊まるという選択肢はなかった。服に関しては……先ほどのショッピングで買ったものから使えばいいだろう。

 敷地内へ足を踏み入れると、エントランスの自動ドアが開いて中からギガンのような上半身が人型で下半身が車体となっている白と墨色のカラーリングが施された3輪のロボットがゆっくりと出てくる。当然のようにミレニアムの校章が入っており、ミレニアムサイエンススクール製であることがうかがえた。

 

『いらっしゃいませ。お名前をお伺いさせていただきます。』

 

 ロボットは合成音声という先入観を破壊するように、流暢な若い男性の声をロボットが発する。しかし、ノアは驚いた様子もなく自然に対応し始めた。頻度こそ減ってきたものの、依然折に触れて元の世界とキヴォトスとの差に戸惑ってしまう。

 

「生塩ノアです。」

『ウシオ様ですね。指紋認証を行います。発光部に人差し指をあて、数秒お待ちください。……確認いたしました。ご案内します。どうぞ、お荷物をお預けください』

 

 そういうと、背中の一部が展開し、トランクケースを複数個入れるのにも十分なサイズのカゴになる。脚のみならず結構な長時間思い戦利品を支え続けた腕も限界に近かったので、ノアと一緒にありがたくバッグや戦利品の詰まった袋を置かせてもらう。

 ロボットはそれ以上荷物がないことをどうやってか認識したようで、反転して建物の中へと動き出す。私もノアも、それに続いて歩き出す。花の模様が入ったガラス扉の自動ドアが開くと、派手さはあまりないものの非常に丁寧に調和のとれた空間が広がっていた。

 絢爛というのとはまた違う、しかし非常に手間と金のかかっていることがわかる内装に目を取られ、思わず声が漏れた。

 

「これは……すごいな」

「本当ですね。ミレニアムにはこういった建築様式はありませんでしたから、百鬼夜行の方々を招いて協力してもらったのですが、その甲斐がありました」

「確かにこれはミレニアムというよりは百鬼夜行ってイメージだけど……どうしてまた百鬼夜行の人に頼んでまで作ったの?」

「話すと長くなってしまうのですが……」

 

 百鬼夜行風、もとい和風な建物ではあるが、そこはミレニアムらしく多くが機械化されているようで、チェックインなどは先の指紋認証で処理されているらしい。エントランスで待つ必要もなく荷物を載せたロボットが部屋まで案内してくれる間に、この旅館の成り立ちをノアからざっくりと聞く。

 まとめれば、数代前に当時のゲヘナの温泉開発部がミレニアムでいつもの開発騒ぎをしていたところ、運よく使われていない土地で源泉に当たってしまった。当然ミレニアムとしてはゲヘナに抗議したのだが、調査してみると水質水温湧出量ともにそのまま温泉として十分利用可能であり、さらにミレニアムサイエンススクールの有する土地でありながら使い道がなくたまに実験に使われていた程度の空き地だったことなどから、セミナー内で観光資源として利用する案が出た。当時のセミナー内部に百鬼夜行オタクの生徒がおり、温泉といえば百鬼夜行でしょう!と張り切った彼女はせっかくならばと本格的なプロデュースを行い、そしてできたのがこの旅館であった、ということだった。

 なんともまぁ、奇妙な縁が重なったものだ。話を聞くに、当時の温泉開発部も今と同じようなテロ紛いのことを平然とやっている部活だったようだし、それがこうしてミレニアム近郊に源泉かけ流しの温泉旅館を作るに至るとは。

 なお、最終的にこうして温泉旅館としての体を成すに至ったため、ゲヘナへの抗議は金銭的措置などはなかったらしい。

 そんな話をしていると、やがて前を走るロボットがゆっくりと減速し、一つの扉の前で停止する。カチ、とロックの外れる軽い音がして、ロボットがマニュピレーターで扉を開く。

 

『こちらがお部屋となります』

 

 無機質なモノアイがまっすぐこちらを向いているだけなのに、中に入るように促されているように感じるのは少し不思議な気もするが、ノアにも入るよう促されたことだしこんなところで長々と突っ立っている意味もないので早速部屋に上がらせてもらう。

 靴を脱ぎ、揃えて木板張りの床に乗り上げる。目の前の障子を開ければ、12畳の畳張りの部屋が広がっていた。中央には畳に置く都合上そこまで重くはないのだろうが重厚感のある机が鎮座しており、その奥の窓からは、よくある大浴場のそれほどは大きくないものの2、3人で利用するには十分なサイズの木製浴槽が備え付けられているのが見えていた。もうもうと湯気が立ち上がる浴槽は竹を束ねた衝立で外から見えないようになっている。

個室露天風呂というやつだろう。……実際に見るのは初めてだが。この豪華さから言って、まず間違いなくノアの泊まる部屋だろう。というか私がこんな部屋あてがわれてもミレニアムに作る借りが大きすぎて心苦しいのでそうであってほしい。

テレビ越しの映像でしか見たことのない光景に唖然として振り返れば、してやったりと言わんばかりのノアの得意顔が目に映る。なんともまぁ小憎たらしくも美しい顔である。可愛いなチクショウ。

その後ろでは、ここまで案内してくれたロボットが器用にも丁重に荷物を置いてくれている。

しかし、なぜか私の荷物まで一緒に置いているのはどういうことだろうか。AIの問題でどれが私のでどれがノアの荷物か判断できないのかもしれない。そろそろノアの邪魔になるだろうし、自分の部屋に行った方がいいだろう。

 

「さて、ノアの泊まる部屋は十分見せてもらったし私の泊まる部屋に案内してもらおうかな」

『「えっ?」』

「えっ?」

「…………」

『…………』

「…………」

 

 想定外のリアクションに困惑するも、困惑しているのは向こうも同じようで気まずい沈黙が流れる。あれ、私何か変なこと言ったかな……?

 というか、このロボット、あまりに人間臭くないか。遠隔操作なだけで人間が操作しているとかそういうパターンなのだろうか。

 

『その……生塩様のご予約は1部屋2名で承っておりますが』

「えっ…………」

 

 つまりなんだ、このままだと今夜私はノアと同じ部屋で過ごすことになるのか?……激務続きで溜まっている状況で……?

 ギギギ、と油が切れた壊れかけの機械のようにゆっくりとノアのほうを見ると、ノアは珍しく目を潤ませてしおらしい表情をしていた。

 

「先生は、私と同じ部屋は嫌、ですか……?」

「そういうことじゃないんだけど、その、私の体裁とかなんとか……イエ、ナンデモナイデス」

 

 い、言えない……!おずおずと上目遣いしつつ不安に揺れる声で問いかけてくるノアにNOとは言えない……っ!

 好きな相手にこんな形でこんなこと聞かれてNOと言える奴は男じゃない。一瞬脳内の黒服が「私なら言えますが」とか語り掛けてきたけどやっぱりあいつは男じゃないどころか人間かどうかも怪しい。というかせっかくのデートに首突っ込んでくるな無粋な奴め。

 邪魔するどころかこの場に居すらしない黒服に濡れ衣を被せつつ、おろおろしているように見えなくもないロボットにやっぱり大丈夫だと伝える。一方ノアは、先ほどまでの不安げな表情はどこへやら、いつも通りにこにことしていた。これは……ハメられたか。

 

『承知いたしました、それではご予約通りに対応させていただきます。お部屋のキーは机の上にあるカードキーとなっております。扉はオートロックですのでお部屋から出られる際にはご注意ください。晩御飯はお部屋にお持ちいたしますが、ご希望のお時間などありますでしょうか』

 

 安心したように通常通りの説明を始めるロボットに聞かれ、再びノアと顔を見合わせる。私としてはランチの後もちょいちょいスイーツをつまんではいたのだが、結構な時間寒空の下を歩いていたせいか割と空腹を感じているが。

 

「ノアの希望に合わせるよ、育ち盛りだし」

「ありがとうございます、先生。では、一番早い時間でお願いします」

『承知いたしました。それでは、一時間ほど後にお持ちいたします。』

 

 そのまま、大浴場の利用時間やフロントコールの番号など、基本的な案内をしてロボットは退出していった。……さて。

 

「ノア。言いたいことはわかるね?」

「そんなに心配しなくても、頼めば夕食時にお酒も持ってきてもらえますよ?」

「違うそこじゃない」

「あら、違いましたか……」

 

 驚いた風なことを言っているが、口元が緩んでいる。わかっていてからかっているのだ。

 

「どうして同じ部屋にしちゃったのさ。ノアなら私の立場の繊細さがわからないなんてことないでしょう?」

「理由はいくつかありますけど……前提として、先生は私と同じ部屋なのは嫌ですか?」

 

 ノアは先ほどとは違ってまっすぐ聞いてくる。こういう時は変に取り繕っても見透かされるだけだろう。

 

「嫌というわけじゃないよ。ただ、先生という立場もあるし、何よりこんな私でも男の端くれなわけでね?」

「嫌じゃないのなら良かったです。……本当は、嫌だと言われたらどうしようかと不安でしたが。……ふふっ」

「いや、ふふ、じゃないのよ、結構大事な話なのよ」

「私がそうしたかったから、ではダメですか?先生」

 

 すっと一歩近寄って蠱惑的な笑顔を浮かべるノア。ふわりと漂ってきた、甘く少しの清涼感が混じった香りで改めて狭い部屋にノアと二人きりである事実を認識してしまう。にわかに頬が熱を帯びるのを自覚して目をそらす。

 

「ダメ、ではないけれど……連勤明けで疲れてるし、我慢できるとは限らないし。自分の言ってることの危うさわかってる?」

「心配してくださるんですね。ですが、ちゃんとわかってますよ。そのうえで、こうしているんです」

「で、でもやっぱり世間の目もあるし……」

 

 暴れまわる心臓の音がひどく大きく聞こえて、ノアに聞こえていないか心配になる。だがノアはそんな事お構いなしに手を伸ばし、人差し指を私の唇にあてがう。

 

「先生、お忘れですか。ここは元の世界になんら影響を及ぼさない、タイムマシンで体験しているだけの時間ですよ?極論を言えば、今から万魔殿とティーパーティーに巡航ミサイルを撃ち込んでも大丈夫です。誰も、私ですら、記録できない空間……何も気にする必要はありません」

 

 すっかり忘れていた事実を思い出して、口をパクパクとさえる以外にできることがない。そういやそうだったワ……。

 それを見たノアはそれ以上私が何かを言うことはないと悟ったようで、私の唇を指を離し、その手を今度は自分の口元へ持っていく。そして、内緒話をするように囁いた。

 

「ですから、先生?今夜は、何でもお好きなようにしていただいていいんですよ?そう、なんでも」

 

 あまりに官能的な言葉に一瞬自らの欲求が理性を打ち壊して雄叫びを上げそうになったが、すんでのところで我に返る。慌てて飛びずさり、ノアと距離を取る。頬だけでなく、顔全体が発火しそうなほどに熱いが、隠す余裕は既になかった。

 できたのは、タオルを引っ掴んで部屋から飛び出すことぐらい。

 

「お、温泉入ってくるね!」

「あら、それでしたら私も行きたいのでカードキーを忘れないでくださいね」

「……ハイ」

 

 完全に忘れてた……。

 そうしてくすくすと笑うノアから逃げるように大浴場へと向かい、かけ湯で汗を軽く流してから水風呂に飛び込んだ。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 何度か水風呂で心を鎮めたおかげか、しばらく大浴場でまったりし、部屋に戻るころには心身共にだいぶ落ち着いていた。これが大浴場ではなく通常の風呂であれば、まず間違いなくのぼせていたことだろう。水風呂万歳。サウナに足を踏み入れることもなく定期的に水風呂で深呼吸をする成人男性はまず間違いなく周囲から奇異の目で見られただろうが、気にしてはいけない。

 部屋に戻る前に着替えを持っていく判断をするだけの余裕はなかったので、個室露天風呂用の簡易的な脱衣所で部屋に用意されていた浴衣に着替える。帯の結び方はわからないので適当に。何回か貝ノ口とかいう結び方を教えられた記憶はあるのだが、そのたびに忘れてしまうし調べなおすのも面倒だ。

 着替え終わってもノアは戻ってきていなかったので、タブレットを取り出しモモトークを確認する。しかし、未読メッセージを開いても表示されるのは見覚えのある内容ばかり。タイムマシンに乗る前に確認したのだから当たり前か。

 ちょっとした好奇心に駆られて、これまでのトークも含めて記憶と違うところを探していると、どうやら気づかないうちに相当集中してしまっていたらしい。いつ戻ってきたのか、後ろからノアに声をかけられて飛び上がってしまう。

 

「……先生?せっかく私とデートしているのですから、他の子とのメッセージを見るのは少し無粋ではありませんか?ましてや今は急いで確認するべき内容もないとわかっているのですし。」

「うわぁっ、ノア!?いつの間に……?」

 

振り返れば、浴衣の上に羽織をきたラフな格好のノアがいた。風呂上り故に水を含んで艶やかに輝く髪や上気した肌が目に眩しい。幸いというべきか、ノアは私のどぎまぎとしている様子を見て満足したようで、フフっと笑ってそれ以上の言及はしてこなかった。

 そのまま隣に腰を下ろしたノアと取り留めのないことを話していると、やがて夕食の時間となった。チェックインの時に案内してくれたのとはまた別の、配膳用と思われるロボットが器用に二人分の食事を運んでくる。こんなところまで機械化されているのがミレニアムらしい。

 内容は割烹料理となっていて、非常に手の込んだ盛り付けは見ているだけでも満足しそうなほどだ。ノアと二人、席について夕餉を楽しむ。手間と食材を惜しみなく使った料理は故郷懐かしさもあって涙が出そうなほどにおいしかった。

 食事を終え、満たされた腹をさすりながら一息つく。しばらくすると先ほどの配膳用ロボットが再びやってきて、食器の類を下げていった。同時に、別のロボットも一機ついてきていて、布団を敷いてくれる。……布団を敷くのくらい自分でやるのにな。というか、ロボットとはいえそんなことすらやらせてしまうと少し申し訳なさを感じてしまって少しばかり居心地が悪い。おそらく性根が貧民なのだろう。

 この旅館はサービスのほとんどが機械化されている上、見た限りでは問題なく回っているようでそのハイテクぶりは凄まじいものがある。さすがにフロントには人がいたが、それ以外は今のところすべてロボットだ。しかも、駆動音らしい駆動音もせず、非常に静かで仕事の質も高い。ミレニアム驚異のメカニズムといったところだろうか。

 ものの2,3分でロボットたちの職務は完了し、再び部屋には二人きり。心地よい静寂が空間を支配する。

 

「ごはん美味しかったね。私の故郷の高級料理もあんな感じだったから懐かしくなっちゃったよ」

「百鬼夜行にかなり似ているんでしたよね。そういえば、お酒はよかったんですか?」

「あー、まあ、うん。大丈夫だよ」

 

 すっとノアから顔を背けながら答える。正直、日本酒があれば最高においしかっただろうことは想像に難くない。だが、これからノアと二人きりで同じ部屋で寝ることになるのだ。ただでさえ理性が持つかどうか危ういというのに、自ら危うい橋を渡るほどの度胸は私にはなかった。

 私が言葉を濁らせたので不思議そうにしているノアには悪いが、この理由はさすがに言えない。

 

「先生がいいと仰るならいいですが……私としては、お酌してもいいんですよ?代わりに、一口だけ私にも飲ませてくだされば」

「私が先生である以上未成年飲酒を許すわけないでしょうよ……」

 

 この際シグレのことは考えないものとする。

 

「いいじゃないですか、私たちの体含めて影響は残らないんですから。お酒自体飲みたいというよりも、大人たちがこぞって好む飲料そのものに興味があるんです。ですから一口くらい……」

「だめですー、どのみち私は今日はお酒飲まないのでそのチャンスはありませんー」

「ぶーぶー」

 

 わざとらしく唇を尖らせて拗ねてますよとアピールするノアは、いつもの隙のない立ち振る舞いからは考えられないほどゆるい雰囲気を纏っており、年相応、あるいはそれよりも幼い少女といった感じだ。もしこちらの態度のほうが素なのであれば、ありのままの自分をさらけ出せる場があるということなので非常に喜ばしい。その反面、普段とのギャップと、見たことがないほど警戒心の薄れたノアの姿に私の初心な心は陥落寸前なのでやめてほしくもある。

 え?とっくに堕ちているだろって?……うるさいよ。

 

「ところで先生、せっかく露天風呂があるんですし、入ってみてはいかがでしょう?ついでに、後で帯を正しく結んであげますよ?」

「あ、適当なのバレてた?でも帯の結び方なんてよく知ってるね。ミレニアムじゃこういう服は滅多に着ないでしょう?」

「確かにミレニアムではこういった服を着る機会は多くはありませんが、それでもないわけではないんですよ?去年もユウカちゃんと二人で浴衣を着て夏祭りに行きましたし」

「こっちでも夏祭りがあるんだね」

 

 ユウカとノアが二人仲良く夏祭りの屋台を練り歩いているところは容易に想像できる。きっと二人とも浴衣が似合っていたことだろう。

 

「ところで、ノアが覚えてる帯の巻き方、女性用の結び方だったりしない?男女で違ったと思うんだけど」

「女性用の結び方を調べる時に男性用の物も見たので大丈夫ですよ。私の記憶力に関しては先生もよくご存じでしょうし」

「さすがだね。それじゃあお言葉に甘えて……って、ノアは先入らなくていいの?」

「えぇ。少しやりたいこともありますし、少ししてから入らせていただこうと思ってます。ですから、お先に入ってください」

「そういうことなら遠慮なく」

 

 食後の余韻から脱するべく立ち上がり、まずは動かせるようになっている衝立を浴槽と部屋の窓との間に動かすべく外に出…………さっっっむ!!!

 いつの間にか外は雪がちらついており、暖房がガンガンに効いた室内用の浴衣では防ぎきれないほどの冷気が全身を襲う。浴槽に張られたお湯からは変わらず湯気が立ち上がっており、入ってしまえば暖かいことはわかるのだが……。このあとなけなしの浴衣すら脱いでこの冷気に曝されることを考えると少し気後れしてしまう。

 だが、薄着なのは私だけではなく、部屋でくつろいでいるノアも同じだ。女の子は体を冷やすのは好くないと聞くし、覚悟を決めて素早く外に出て扉を閉める。そのままそそくさと衝立を動かし、室内に戻る。

 このまま室内でぬくぬくしているともう二度と外に出る気力は湧かなくなる気がしたので、タオルだけもって簡易脱衣所に戻り、服を脱ぐ。一度大きく深呼吸して、開門。

 容赦なく体温を奪う寒さから逃れるように小走りで浴槽へと向かい、足先から少しずつ浸かる。急に全身浸かると心臓に悪いって話があった気がするし。そろりそろりと肩まで浸かると、自然と息が漏れる。

 独特の香りから、この浴槽に使われている木材がヒノキであると察せられる。大浴場では結構熱めの温度に設定されていたが、ここでは外気に曝されているためかそれより少し低く、ちょうどいい温度になっていた。温泉は熱くなくては、という人もいるらしいが、私はこれぐらいのほうが好みだ。

 体の末端からじんわりと温められていく感覚に酔いしれながら、牡丹雪の舞う空を見上げる。ここ数日の疲労がお湯に溶け出していくような快感。やはり、年に1,2回は温泉に入れると満足感が違う。これはもはや日本人の本能といってもいいかもしれない。

 そんなことを思いながら浴槽の縁に頭をもたれて脱力していると、満腹も相まってうとうととしてくる。徐々に瞼が重くなり、閉じたり開いたりを繰り返す。しんしんと降る雪も風呂の熱気に当てられて私自身までは落ちてこない。

 ガクン、ガクンと落ちては浮上する意識に翻弄されていると、不意に遠くからガラガラという何かを動かす音が聞こえた気がした。浴槽にお湯が流れ込むジャバジャバという水音に交じり、ぺたぺたと張りのある音が近づいてくる。そして、ざぶんという、それまでとは違う水音がしたところで再び水が継ぎ足される音が響く。

 

「先生、気持ちよさそうですね」

「んー、そだねー……」

 

 ほとんど機能していない脳で半自動的にそう返す。自分で何を言っているのかすら把握できていないし、そもそも幻聴に何か返した気になっているだけで何も喋っていないのかもしれない。

 

「リラックスしていらっしゃるのを邪魔してしまうのは心苦しいですが、お風呂で寝てしまうのは危ないですよ?」

「おー…………」

 

 再び銀鈴のような心地よい声が耳をくすぐる。どうやら幻聴ではないらしい。だとしたらこの奇麗な声は何だろうか。

 

「これはちょっとやそっとでは起きそうにないですね……。仕方ありません。えいっ」

 

 かわいらしい掛け声とともに、あばらの下あたりを両脇から掴まれ、そのまま体を持ち上げられる。結果、心地よい暖かさの湯の中から一転氷点下の空気が私を包み込んだ。

 

「……ヒュッ!さっむ!?」

 

 一瞬にして目が覚め、慌てて湯船の中に身を沈める。一体何が起こったんだ!?

 

「フフ、フフフフ……ッ。先生、目は覚めましたか?」

「あ、うん目は覚めた………ってなんでノアがいるの!?」

 

 堪え切れないといった様子の笑い声に振り返ると、申し訳程度にバスタオルを巻いてはいるもののほぼ裸と言っていいノアが湯に浸かっていた。だが、私の混乱を見てノアはさらに肩を震わせる。

 

「ふふふ……っ!す、すみません、思った以上に反応がいいものですから………っ!」

「いや笑ってる場合じゃないんだけど……!?え!?え、なんで!?わかってると思うけど私男だよ!?見てみるまで分からないとかそんなシュレーディンガーなレベルじゃなくどっからどう見ても男だよ!?」

 

 先ほどまでの夢現の状態とは違い、今度は混乱で自分が何を言っているのかわからなくなってくる。ついにノアは声を上げてケラケラと笑い出し、しばらくお互いにまともに会話ができない状況が続いた。

 

「……ふぅ、ふぅー。さて、ふふ、……失礼しました。なぜいるのか、でしたね。ですが私、言ったじゃありませんか、『少ししてから入らせて』いただくって」

「普通私が出た後じゃない?確かに寝落ちして長時間占拠していたのは悪いけどさ」

「あら、別にそんなに時間は立っていませんよ?」

「じゃあなおさらなんで入ってきてるのさ!?」

「私が先生と一緒に温泉に入りたかったからです。……少なくとも、先生は嫌がっているわけではなさそうですが?」

 

 ノアが視線を落としながらそう言う。つられて私も視線を落とせば、元気に自己主張する愚息が目に映る。……そういえば、ノアが入ってくるなんて想定していなかったからせっかく持ってきたタオルは今私の頭に乗っているのだった。

 …………………………。

 

「いっそのこと殺してください……」

 

 今更ではあるがスッとノアに背を向けて腰にタオルを巻く。仕方ないじゃない、好きな相手がすぐ横でタオル一枚で混浴している状況でイチモツが起立してしまうのはもう生理現象なのよ……。

 

「私は気にしていませんから大丈夫ですよ。しかし、思っていたより大きいんですね、先生♪」

「やめてっ、これ以上追い打ちをかけないで!憐みでサイズに言及しないでぇ!」

 

 別に小さいわけじゃないけど!一連のやってることがもうアウトなの!いつぞや全裸で生徒に駆け寄ったこともあるけどあの時とは違ってビンビンになってるから言い訳の余地がないの!!

 

「本当に、嫌ではありませんよ。先生は、いつも私たちを守ってくださっています。銃弾一発で容易く命が奪われてしまう、このキヴォトスにおいてはあまりに危うい体でありながら、それでも。そんな先生のことが、その大きな体が、嫌な訳ないじゃないですか」

 

 つい先ほどまでのからかうようなトーンではなく、真面目な声音でそう語りかけてくるノア。同時に、つぅと彼女の指先がいつかの銃創、その貫通した背中側をなぞる。

 

「ノア……」

「なんて、少し感傷的になりすぎてしまったでしょうか。せっかくの温泉なんですし、楽しまなくちゃもったいないですよね」

 

 ぱっと声のトーンを上げて、明るく振る舞うノア。装備が完了したため体ごと向き直り、その顔を見て私は遅ればせながらあることに気づいた。

 

「そういえば、いつものヘッドセットはしてないんだね」

「あぁ、あれですか?さすがに温泉に電子機器を持ち込むわけにはいきませんし」

「あれ電子機器だったの!?一体何の機械なんだ……」

「それはまだ秘密です」

 

 人差し指を唇に当ててウインクする様子は既に何度も見ているものではあるが、何度見ても様になっていると思わされる。あとかわいい。

 

「でも、ノアがあのヘッドギア外しているところは初めて見たなぁ。……ノアの耳、初めて見るかもしれない」

「……普段見られないからでしょうか、少し恥ずかしいですね」

 

 今の格好はもっと恥ずかしいんじゃないのかというツッコミは野暮というものだろう。少し顔を赤くしてノアが身を捩る。……だが、それがよくなかったらしい。

 ノアが体を捻った拍子に、ノアの体を包んでいたバスタオルの結び目がはらり、と解ける。固定から解き放たれた布は、そのまま抵抗なく水に押され、体を包み隠すという役割を終えた。

 

「「…………あっ」」

 

 お互いに想定外の出来事に硬直してしまう。その隙に、バスタオルの抑圧から解放されたたわわな果実がふわりと浮かび上がる。服の上からでも確かな主張をしていた実りは想像よりも立派で、しかし下品に体のバランスを崩すことはない奇跡的な大きさとなっていた。わずかに喫水線のその下にある先端には桜色の頂がツンと存在しており、芸術品のような美しさを醸し出している。

 徐々に顔を先ほどとは比にならないほど真っ赤に染め上げて行ったノアは、やがてキッと唇を結んでこちらに抱き着いてきた。

 

「うぇっ!?ノア!?」

「こ、こうすれば見えないでしょう!?見えないですよね!?」

 

 目の中がぐるぐるしているような気もするが、確かにノアはそれ以上その肢体を私の視界に晒さずにいることには成功している。問題は、その代わりに柔らかい体が私に密着していることなのだが。特に鳩尾のあたりには、砲弾のごとく二つの膨らみが押し付けられ、そのなかでわずかに硬い感触が存在しているため非常に心臓に悪い。

 慌てて手を伸ばして、ノアのバスタオルを捕まえる。そのまま、ノアのほうを見ないようにしてバスタオルを手渡し、再び背を向ける。だが、その甲斐もなく先ほどの光景が目に焼き付いていた。乳房に隠れて股間が見えなかったのは不幸中の幸いだった。

 そこまで考えたところで、すぐ後ろにその肢体の持ち主が未だあられもない格好をしている事実に思い至る。背中を向けて直視していないからこそ、ノアの裸体に妄想が膨らんでしまい、頭が茹で上がりそうになる。このままいたら、本格的にのぼせてしまいそうだ。

 

「ご、ごめん、先上がるね!」

「わ、わかりました!ごゆっくり!」

 

 お互いぎこちない動きな中、浴槽から飛び出す。凍えそうなくらい冷たい空気が、今だけはありがたかった。どうやら今日はゆっくり温泉に浸かることはできない日らしい。生きていればそんな日もあるだろうか。

 脱衣所でクールダウンしながらも、頭の中を駆け巡るのは乳房って本当に浮くんだなとか、乳首って小さいんだなとか、そういったどこか実感に欠ける印象だった。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 脱衣所から出て、洗面所で冷たい水を呷る。未だ先ほどの光景と感触が脳裏に焼き付いて離れないが、それでも思考ができるほどには落ち着いてきた気がする。

 それにしても、これはよくない。非常に良くない。すでに如意棒は雄々しく猛っており、伴って脳内もギンギンにキマりつつある。このままノアと同じ部屋で一晩過ごす?……冗談でしょう?

 普段の私が絶望的にモテないために、あまりに現実離れしているこの状況は一周回って手を出すとかそういう次元の話ではなくなっている。自戒の念と本能と経験不足が悪魔合体してどこかふわふわと地に足つかない感覚をもたらしていた。

 一つ大きく息を吐いて、その分の空気を吸い込みなおす。風呂上りだけが理由ではない火照った体には、暖房の効いたぬるく乾燥した空気は少しばかりの不快感をもたらす。ぼうっとした感覚が抜けないのがどことなく気持ちわるい。露天風呂に入る前よりも温度が上がっているようにも思えるが気のせいだろうか?

 本格的にのぼせているのかもしれないと思いつつ、目の前の鏡を見る。少し涼みたかったということもあって帯を締めずに開け放っている浴衣からは、お世辞にも引き締まっているとは言えない体がのぞいている。どうしても運動不足が否めない以上当然ではあるのだが。

 いつまでもここにいても仕方がないし、そろそろ部屋に戻るとしようか。

 最後にもう一度冷たい水で喉を潤し、軽く帯を巻き付けて部屋に戻る。

 

「あら先生、遅かったですね?」

「ブッ!!」

 

 部屋には私がクールダウンしている間に上がったのであろうノアがいた。……なぜか、非常に際どいサンタコスチュームに身を包んで。

 あまりの衝撃に思わず吹き出し、むせてしまう。水を飲み込む前に扉を開けていたら危なかった。

 ノアのコスプレはサンタがモチーフであることはかろうじてわかるものの、どう考えても健全に楽しむ目的に作られているようには思えない。生地が薄いわけではなく、むしろしっかりしているのだが、その形状が問題だ。

 上下で分かれた赤い生地は、上は胸の上半分を大胆に露出し、かろうじて下乳が見えないほどの範囲を覆う帯のよう。首筋から肩にかけて紐の類もなく、どうやって固定しているのか不思議なほどだ。下はこれまたギリギリまで切り詰められたミニスカートが放射状に広がるようになっており、健康的なへその下でバックルを留めた黒いベルトがコントラストを演出している。脚はうっすらと黒掛かりつつも肌がよく透ける20デニールほどのパンストを着用しており、引き締まった美脚という印象を強く与えてくる。二の腕の半ばあたりからも真っ赤なイブニンググローブに覆われており、服ともども端に白いもこもことした飾りがついているのがサンタの記号としての役目を果たしていた。

 申し訳程度に頭の上に乗せられた普通のサンタ帽が、逆に背徳的な雰囲気を醸し出す。全体的にキレイかつ煽情的でありながら不思議とはしたなさを感じさせにくい格好になっていた。ノアって何を着てもきれいな印象になってしまうのだろうか。

 

「ゲホッ、ゲホッ……ノア、その恰好は?」

「昼の買い物で、先生が少し外した時に買ってみたんです。似合ってますか?」

 

 くるりと回ってアピールするノア。その折に、遠心力でスカートの端が持ち上がってちらりとストッキング越しの白いショーツが目に飛び込んでくる。

 これは……なんというか……。

 

「えっちだ……」

「…………似合っているという意味で受け取っておきますね」

 

 思わず口をついて出てしまった言葉にノアが固まり、次いでボッと顔を赤らめる。だが今度は、真っ赤なままでも笑顔を崩さずにそう返してきた。

 理由はわからないが、その笑顔を見た私の本能が警鐘を鳴らし始めた。これはさっさと離脱するのが吉か。

 

「……ごめん今のなし。似合ってるよ。でも風邪ひかないように着替えたほうがいいんじゃないかな。じゃあ私はこれで」

 

 爽やかにそう言って片手をあげ、速やかに回れ右。もう一度洗面所に戻るべく一歩踏み出そうとして。

 ガッ。

 ………『ガッ』?

 

「先生。私の記録の前に『待った』ができると思ったら大間違いですよ?」

 

 後ろから肩をがっちり掴まれており、痛くこそないが動けない。なんだこのパワーは……!?

 

「今日はクリスマスですよ?サンタクロースのすることと言ったら一つしかないじゃないですか。ほら、逃げないでください」

「私はもう立派な大人なんだけど!?」

「キヴォトスのサンタは大人にもプレゼントを配るものかもしれないじゃないですか」

「そうなの!?」

「ふふ、どうでしょうね?」

 

 そんな問答をしている間にも、じりじりと体を引っ張られて部屋の中へ連れ戻されていく。私よりも頭半分くらい低いはずの体のどこにこんな力が秘められているというのだろうか。

 

「放してノア!何をする気なのかは知らないけどこれ以上はまずい!」

「あら、何がまずいんですか?」

 

 変わらず私を引っ張りながらもくすくすと笑うノア。果たして状況がわかっているのかわかっていないのか、その余裕たっぷりの笑みからは計り知れない。あるいは、私はそれほどまでに男として認識されていないのだろうか。確かに膂力では遠く及ばないけれども。

 

「このままだと本当にノアを襲いかねないから!ね!?」

「先生から私を襲うのですか?」

 

 恥や体裁やその他諸々を投げ捨てての白状に、さすがのノアも少し驚いたのかもしれない。不思議そうな色を含んだ声で問い返してくる。……これは、行けるか?

 

「そう、ほら、私も男だからさ?そういう欲求は持ち合わせているわけで。いくらノアが私よりも力が強いといっても、寝込みを襲われたらどうしようもないだろうし、そんなことになったらノアも困るでしょう?だから、その……放していただけませんかねぇ?」

 

 私の必死の説得に目を閉じて思案するノア。手ごたえありだ。

 

「ふふ、それは確かに困りますね」

「だったら……」

「えぇ、ですから」

 

 ノアはそこで言葉を一度区切って、再び目を開く。その目を見て、私は己が盛大なミスをしたことを悟った。ミスの内容まではわからないが。

 ノアの整った顔立ちは見惚れるほどの笑顔で彩られているものの、その瞳は笑っていない。これは捕食者の目だ。今すぐにでも哀れな獲物に喰らいつこうとしている目だ。

 

「先生に襲われないように、先生を襲いますね♪」

 

 えいっというかわいらしい掛け声とともに掴まれていた肩を勢いよく引っ張られて、布団の上に倒れ込む。そのまま起き上がる隙を与えずに、ノアが私の上に馬乗りになった。

 

「ノアッ!?何を……!?」

「何って、いつも私たちのために頑張ってくださる先生に、ノアサンタからのプレゼントですよ?プレゼントはワタシ、というやつです」

「いやっ、えっと、……そう!帯!プレゼントなら、帯の結び方教えてくれればいいから!ね!?」

「それは約束しましたからもちろん教えますが……今から脱ぐのに帯を締める必要はありませんし、後にしましょう」

 

 こちらの言葉に聞く耳を持たず、嬉々として雑に結んでいた帯をあっという間に解くノア。

 止めるのならば、今が最後のチャンスだろう。

 

「ノア!本当に、ストップ!」

「……なんですか、先生」

 

 ノアの腕を捕まえて、軽く押しのけるようにしながらそういうと、やっとノアは止まってくれた。

 

「こういうことは、軽々しくやるべきじゃないんだ。ノアの労ってくれようとする気持ちは嬉しいけど、それは気持ちだけで十分だよ。無理してこんな真似をする必要はないんだ」

 

 真摯にノアの目を見つめて説得する。状況こそ女の子に馬乗りになられて服を剥がれかけているという情けないものだが、それでもノアであれば真剣な話には真剣に答えてくれると信じて。

 

「こういうことは、ノアに想い人ができたときに、その相手にしてあげればいい。間違っても、たかが私への感謝のためにやることじゃない。わかるね?」

「先生……」

 

 きょとんとした顔で私の話を聞いているノア。……本当に伝わっているのだろうか、かなり心配になってきたな。

 だが、賢いノアならわかってくれると信じて見つめ続けていると、やがて心底不思議そうにノアが口を開いた。

 

「先生は、何をそんなに怖がっているのですか?」

 

 ……えっ?

 

「怖がってる?私が?」

「はい。だって、先生は私を襲ってしまいかねないくらいには、私とそういうことがしたいんですよね?」

「えーっと、まぁ、そうだね?」

 

 ……まぁ、これはさっきも口に出してしまったことだし、嘘でもないので認めてしまおう。変に嘘をついて話をややこしくするのも望ましくない。

 

「それに、タイムマシンの性質上、ここで行う一切は体裁的に問題にはなりませんよね?」

「うん、そうだね?」

「つまり問題になりうるのは私と先生の二人のはなしですよね?」

「うん」

 

 ……あれ、なんだかノアのペースに乗せられてきた気がするな?ノアは記憶力がいいだけでなく頭も切れるからちょっとまずいかもしれない。

 

「先生としては、激務の影響もあってえっちな欲求が溜まっているんですよね?」

「そう、だね?だからまずいんだけどね?」

「それに先生、私のこと好きですよね?」

「そうだね?」

 

…………。……あれ?私今何か変なこと言わなかった?

 

「ふふ、それならよかったです。それなら、私も先生のことが好きですからお互い問題はありませんね?」

「……えっ?」

「拒む理由、なくないですか?」

「……あれ??」

 

 確かに、別にここでノアと何をしても問題ない、のか……?

 さらりと流された発言の数々に脳の処理が追い付かず、その状態で話が進んだためさらに混乱が加速する。いったん落ち着こう。

 

「ごめんなさい、先生。まだ頭の整理ができていないみたいですが、ちょっと我慢できそうにありません」

 

 時系列順に発言を並べて、考えをまとめようとした矢先、ノアがそう言って上体を倒してくる。次の瞬間、視界がノアの端正な顔で埋め尽くされ、唇に暖かく柔らかいものが触れた。

 ノアにキスされているのだ、と理解するのに数秒を要し、理解した瞬間に幸福感と羞恥とで脳が沸騰する。わけもわからず逃げようとするが、いつの間にか両の頬をノアの手によって押さえつけられており、致死量の幸福を正面から浴び続ける羽目になった。

 

「ん……んちゅ……」

 

 最初は触れるだけ、やがて唇を食むように。互いの熱っぽい吐息が一点を介して溶け合う感覚。

ついばむような口付けは、やがてどちらからともなく舌を絡める深いものとなっていく。甘く、熱く、わずかにほろ苦いファーストキスの味。

長いまつ毛に飾りつけられたノアの瞳は潤んでおり、その淫靡な表情にゾクリと未知の衝動が背筋を駆け巡る。

 

「……ぷはっ」

 

 混ざりあうようなキスも一区切りし、互いの顔が離れる。二人の口を一本の唾液の線が繋ぎ、ぬらりと妖しく光を反射していた。

 

「ふふっ、先生、とってもかわいいですよ」

「ノア、本気なの?」

「本気じゃなきゃこんなことしませんよ、先生。それと、記録に残らない空間というのも、背中を押してくれているのかもしれませんね」

 

 その言葉に、ノアとの過去の会話が思い出される。曇りガラスに、やがて消える文字を書いた思い出が。

 

「先生のここも、もう元気ですね」

 

 ノアが跨っている下で、陰茎が再び硬く鎌首をもたげる。先ほどから意識的にか無意識にか、ノアがわずかに腰を動かしてスリスリと刺激してくるため、すでにかなりの快感が押し寄せていた。

 

「少し苦しそうな表情ですね、先生?」

「そういうノアも、だいぶ息が荒いんじゃない?」

 

 挑発するように言葉を交わす。しかしその実情欲が内で燃え盛っているのは双方一目瞭然だった。

 ノアが体をずらし、私の下着を下げる。薄い下着の下でも怒張していたそれは、トランクスの抑圧から解放されて大きく跳ね上がった。

 

「わっ。……先生に似て、立派ですね♡」

 

ノアはそういって、片方のイブニンググローブを外して肉棒に手を添える。興味深そうにペタペタと触った後、優しく包み込んでゆっくりと扱き始めた。

 

「これでいいんでしょうか。気持ちいいですか、先生?」

「うっ、あぁ、気持ちいよ。自分で触るのとは大違いだ……っ」

 

 私の角ばってごつい手とは違い、ほっそりとしなやかで柔らかい手は、これまでに感じたことのない快感をもたらす。だが、どことなく不慣れで遠慮がちな力加減は射精に至るような激しさを持たず、きもちはいいものの焦らされているようなもどかしさが全身を支配する。

 

「あら、何か液体が分泌され始めましたね。これがカウパー腺液ですか?」

「あぁ、カウパーってカウパー腺から出るからそんな名前だったの……?」

「発見者の名前が使われる、よくある命名ですね。男性の場合、性的興奮に伴って分泌されるという話でしたから……ふふ、ではこういうのはどうでしょう」

 

 イチモツを扱いていたのとは逆の手で垂れ下がった前髪をかきあげ、耳に掛ける。そのしぐさも色っぽくて、血液がさらにイチモツへと集まっていくのを感じる。

 んぁー、と声とも息ともつかない音を漏らしながら、ノアは口を開いて舌を伸ばす。その先端から唾液がつぅと垂れ下がり、亀頭を濡らしていく。

 

「うぁっ、ノア、どこでこんな……っ!」

「ふふ、気持ちよさそうで何よりです」

 

 力加減や手の動きは変わらないものの、唾液がローションのような働きをしてより滑らかでとろけるような感覚をもたらす。依然射精に至るような感覚ではなく、しかし快楽としては確実にワンランク上がった状態で焦らし続けられる。

 ふぅふぅと息が荒くなるのを自覚しながら、生殺しのような快感に耐える。こんなものが長時間続いたら、頭がおかしくなりそうだ。ぬち、ぬちと控えめながらも淫らな音が響くたび、皮膚が総毛立つような波が押し寄せてくる。歯を食いしばるようにして堪えるも、時折苦悶の声が漏れる。快楽から苦悶の声を漏らすなど、初めての体験だった。

 

「気持ちいいどころか、だいぶ苦しそうですが……。そういえば、口淫なんていうのもありましたね」

 

 好奇心が少なからず混じった声で、そんなことを言い出すノア。次の瞬間、チロリと鈴口をノアの舌先が撫でた。

 

「くっ、それ……っ」

「ふふ、正解のようですね。んちゅ、れろ……」

「あっ、かはっ」

 

 私の反応を愉しむように、亀頭に舌を這わせていくノア。手とは違い、暖かくもすこしザラリとした感覚が脳の奥まで痺れさせていく。

 やがて、ノアは口を大きく開いて、その口いっぱいに肉傘を咥え込んだ。先ほどまでの部分的な刺激とは違い、イチモツの先のほうが丸ごと溶けるかのような熱感に包まれる。そのまま、器用に舌をイチモツに絡めつつ、ゆっくりと抽送を開始する。

 

「ぐぁっ、それ、やばい……っ!」

「んむ、えろ、ふぉんなに、んっ、ひひんれふは?むちゅっ」

 

 片手で横髪を抑えながら、もう一方の手で竿の付け根辺りを扱きつつ懸命に抽送を続けるノア。普段は楚々とした振る舞いの彼女が煽情的な格好で自分のイチモツを咥えているというギャップに倒錯的な悦びが腹の底から湧き上がってくる。

 焦らされていたこともあって、フェラの快感が白い欲求を呼び寄せるのにそう時間はかからなかった。卑猥な水音がだんだんと加速していき、押し寄せる衝動もどんどんと強くなっていく。

 

「うっ、ごめんノア、そろそろ出そう!」

 

 限界の近づいたイチモツが痛いほどに怒張し、硬く反り返ったところで―――――ぷはっと息を吐く声とともに、ノアはイチモツを手放した。

 

「え……?」

「なるほど、こんな感じなんですね。それにしても、なんとも不思議な味でした」

 

 ぴく、ぴくとむなしく震えるイチモツを他所に、口に手を当て、唾液と先走り汁の混合物をちろちろと舐めとるノア。射精寸前にまで至っていた昂ぶりは最高の解放を見失い、行き場を失って脈動するのみ。

 

「ノ、ノア……?」

 

 熱に浮かされたまま着地地点を見失った私が出す声は、情けなく縋るような声音であった。その声に、ノアは舌を指に這わせたまま視線だけこちらに向ける。

 

「ふふ、そんな切なさそうな表情をしなくても、ちゃんと最後までシてあげますから安心してください。ですがその前に、次は先生が私を気持ちよくしていただけませんか?」

 

 そういって、サンタコスチュームの上の布を大きく持ち上げる。必然、その下に隠れていた胸がぶるんと振動しながら露わになる。さきほど露天風呂でも一瞬見たが、その時とは違い湯に遮られていない果実は、思わず息をのむほどに美しかった。

 

「……先生?何も言わずに血走った目で凝視されると、さすがに少々恥ずかしいと言いますか、怖いのですけれど」

「あ、あぁ、ごめん。えっと、触っていいの?」

「えぇ、お好きにどうぞ」

「それじゃあ失礼して……」

 

 恐る恐る手を伸ばしてたわわに触れると、ノアの体がピクリと震え、これまで触ったことのない感覚が返ってくる。確かに柔らかく、男性の体とは全く違う感触ではあるが、無限に指が沈み込んでいくかと言われるとそうでもない。意外とハリがあり、確かな弾力を備えた不思議な感覚。

 

「んっ……」

 

 感動を覚えながら巨大な毬をひと揉みすれば、ノアが漏れ出るような声を上げる。彼女自身その声に驚いたのか、手の甲で口元を隠してわずかに顔をそらしてしまう。

 …………。

 もみ。もみもみ。

 

「あっ、んっ、んぅっ……♡」

 

 優しく胸を揉むたび、ノアがぴくりぴくりと体を震わせ、甘い嬌声をもらす。羞恥で上気した頬には小粒の汗が浮かんでおり、その様子が仄暗い嗜虐心を刺激する。

 先端でぷっくらと膨らんでいる蕾を指先ではじいてやると、ひときわ強くノアが反応する。ゆっくりと果実を揉みしだきながら、アクセントをつけるように時折乳首をはじいたりつまんだりすると、それに合わせてノアの体もびくびくと揺れる。

 片手でノアの胸をいじり続けながら、片手でノアの口をふさぐ邪魔な腕をつかむ。そのままどかして、顔をそらしているノアに口付けをすると、羞恥に目を閉じたままではあるがノアは応えてくれた。互いに口を開き、舌だけを伸ばして絡めあうようなキス。時折ノアの体が跳ねて舌も逃げようとするが、その都度追いかけて離さない。

 しばらくして口を離すと、蕩けきった顔のノアがどうしてやめるのかと言わんばかりに潤んだ瞳を向けてくる。その表情に、自分でも怖いほどのゾクゾクした感覚が全身を駆け巡った。

 答え合わせをしてやると言わんばかりに、空いた口で果実の先端、その桜色の実にキスをする。続いて、吸いついて舌先で転がす。

 

「あんっ、先生、んふぅっ、それは……っ!」

 

 ノアの声が、一気に余裕の色を失う。先ほど寸止めされた仕返しだ、いっきに責め立ててやろう。

 揉むより先端を責めることに重点を置いて、ノアの胸を堪能する。びくびくという痙攣が徐々に強く、間隔が短くなってきた。そろそろだろう。舌先でつついていた乳首を、軽く前歯で甘噛みする。同時に、手の方でもそれまでより少し強めにぎゅっとつねる。

 

「んぅーーーっ!!!」

 

 ノアが体を一際大きく跳ねさせ、そのまま脱力する。肩で息をしながら、濡れた瞳が前髪越しに上目遣いでこちらを覗く。そのあまりに官能的な光景に、生唾を飲み込んだ。

 

「ノア、もしかして胸だけでイッちゃった?」

「えぇ、すこし……先生があんなにも情熱的に求めてきましたから。次は、また私が先生を気持ちよくする番ですね」

 

 そういいながら、ずっとパンパンに膨らんだままの肉棒の先を指でチョンと突く。それだけの刺激で、イチモツは意志を持っているのようにぴくぴくと震えた。

 

「ですが、これだとあんまり刺激の強いことをしたらすぐに果ててしまいそうですね。どうしましょうか……」

 

 汗で髪が張り付き、乱れた状態でもいつもの余裕の笑みを張りなおすノア。目尻に涙が浮かんでいるが、それでもこちらを見透かすような不思議な視線は健在だった。

 

「そういえば、先生はいつも見てましたよね、私のあ・し。少なくとも私に関しては、胸よりも見ていた回数は多いですよ?」

「なんだと……バレていたのか」

「バレバレです。ふふ、ですからお次は、先生の大好きな脚でいじめてあげます♪」

 

 そういってノアは私の足の間に腰を下ろすと、おもむろに片方の足でイチモツを優しく踏みつけた。

 

「ぐぁっ……これもかなり……!」

 

 足の裏で私の腹に押し付けるような、まだまだやさしい刺激。だが、寸止めされた上にノアの胸の感触と淫れた姿のせいでで絶えず興奮の絶頂にいたため、それだけでも強烈な快感の波が押し寄せてくる。加えて、ただでさえ長くきれいなノアの足がストッキングに強く透けて独特の色を形成し、引き締まった美脚の奥には黒網に透ける純白のショーツがはっきりと見えている。この絶景も、普段ならばそれ単品で自慰が十分にできるものだ。視覚的にも強烈な刺激が注ぎ込まれ、すでに脳はパンク寸前となっている。

 すり、すりとノアの足がゆっくり上下するたび、ストッキングが裏筋を撫でて独特の快感を奏でる。

 

「ふふ、こんなので射精しちゃだめですよ、先生?ちゃーんと我慢出来たら、私とえっちできるんですから。先生も、私の膣内でいーっぱい射精したいでしょう?」

 

 もう片方の足も添えて裏筋をなぞりつつ、そんなことを言うノア。その言葉とは裏腹に、言い方は非常に煽情的で、否が応でもその状況が脳裏に浮かんでしまう。

 

「あら?ダメだって言ったのに、おちんちんピクピクしてますよ?」

「ノアッ!わかってて言って……うぐっ」

「はて、何のことでしょうか」

 

 クスクスと、いつも通りであるはずなのにいつもよりも親愛の感じられる邪悪な笑みを漏らす。言葉遣いもいつもとは違い、あえて直接的な表現を選んでいるのだろう。今にも射精してしまいそうな快感を、息を荒くして必死に堪えるが、どれほど持つものかわからない。

 

「随分と苦しそうですね、先生。もうイッちゃいそうなんですか?仕方ありません。あと10秒我慢出来たら、許してあげます♡」

「じゅ、10秒……?」

 

 息も絶え絶えに聞き返した私に返事へせず、ノアは上体を起こし、脚の配置を変える。大きく足を広げ、両横から肉棒を挟み込むようにして、ぎゅうぎゅうと締め付けてくる。

 

「じゅーう、きゅーう、はーち……」

 

 左右の脚を交互に動かし、ゆっくりとカウントが開始される。我慢汁が染みたストッキングはテカテカと光沢をもっており、滑らかで淫靡な印象がさらに強くなっている。

 

「ろーく、ごーぉ、よーん……」

 

 今度は両足揃えて締め付けを強くしながらイチモツ全体を扱く。繊細な繊維と滑らかな脚の感触が急速に射精感を促し始め、絶頂がどんどんと近づいてくるのがわかる。歯を食いしばって狂いそうな快楽に抵抗するが、これは本当にまずい。

 

「さーん、にーぃ、いーち……」

 

 精液が尿道にまでせりあがり、最大限に硬くなったイチモツが限界を迎えるまさにその直前。

 

「はいっ、よく我慢できました♪」

 

 ぱっとノアの両足が離れ、恐怖すら覚えそうな快感から解放される。

 

「……ハッ、ハァーッ、ハァーッ」

 

 この数秒で吐き出した空気を求めて、激しく呼吸を繰り返す。今なら、イチモツに軽く息を吹きかけられただけで絶頂を迎えるだろうと思えるほどのぎりぎりの勝利。

 

「それじゃあ、お約束通り一番気持ちいいところで先生を迎えてあげなくてはいけませんね」

 

 そう言ってノアは私の腕を片方持ち上げ、自らの下腹部へと動かす。スカートの上から指先を服の下に潜り込ませ、最奥に到達すると、熱いほどの粘度を持った液体が指にかかる。びっくりして反射的に指先を跳ね上げると、ノアがあんっとこれを漏らして体を跳ねさせた。指先には、ひくひくと開閉する肉の感触が伝わってくる。……これは、まさか。

 

「ふふ、わかりますか、先生?先生の愛おしい姿を見ていたせいで、もうこんなに濡れちゃってるんです。ですから、もう、いいですよね?」

 

 それは確認の形式を取ってはいるが、確認ではなく予告であった。私の回答如何によらず、実行する、ただその内容を強調するためだけの発言。

 

「ゴ、ゴムとかは……」

「ここまで来てそんなことを気にするんですか?先生は、したくないんですか、私の生えっち♡」

「……したいです」

「よく言えました」

 

 事ここに至っては、先生としての立場も良識ある大人というポジションも、意味も価値もないものに変わり果てていた。そうだ、どうせタイムマシンの効果で全部なかったことになるんだから、気にするだけ損だ。今はただ、ノアへの愛と、猛り狂う性愛さえあればいい。

 ノアは上手におねだりできたご褒美と言わんばかりに口づけを一つして、再び私の下腹部に跨る。そのままパンストの股間部分を手で破って穴をあけ、ショーツをずらしてその肉裂を露わにした。きれいなピンク色の花園はしとどに濡れそぼってぬらぬらと淫靡に光を反射しており、その情景だけでもとうになくなった理性を打ち壊すのには十分だっただろう。

 イチモツを手に持ち、まるで蜜を塗るように2度、3度と秘裂に沿わせたノアは、肉棒を固定してゆっくりと腰を下ろし始めた。

 

「んっ……あっ……先生のが、入ってきて……っ」

 

 ゆっくりと隘路を穿とうとする凶器を押し返さんと強く反発するのを押し切って少しずつ、すこしずつノアの中に肉棒が入っていく。トロトロになるほど愛液の分泌された膣内は、しかししっかりとイチモツを締め付け、ヒダ一つを押し通るたびにカリに擦れて強烈な快感をもたらす。

 やがて、なにかを突き破るような感覚とともに、ノアが顔をしかめる。驚いて見てみると、結合部からは粘り気のある透明な液体に交じって鉄の匂いのする真っ赤な液体が流れ出ていた。

 

「ノア、初めてだったの!?……大丈夫?痛くない?」

「ふふ、初めてではないように見えましたか?……大丈夫です。少し痛みましたが、生涯一度きりの感覚ですので。先生と繋がれたこの幸せと一緒に、決して忘れぬよう記憶しようと思います。……あぁ、いえ、今回はタイムマシンでズルをしているので、もう一回味わえるかもしれませんね」

 

 わずかに痛みをこらえるように、笑いながら言うノア。そのまま腰を下ろし切り、イチモツを根元まで咥え込む。

 

「んっ……全部、入りましたか?」

「うん、入ったよ」

 

 深くつながった状態で動かずに数秒見つめあう。それでも、お互いの性器は鼓動に合わせて脈動しており、十分すぎるほどの快感と幸福が下腹部から全身に広がっていく。

 やがて、どちらからともなく何度目かもしれない口づけを交わす。十秒にも満たない、未軸も深いキス。口づけを終えて、互いの顔には幸せな微笑みが浮かんでいた。

 

「それじゃあ先生、動きますね」

 

 そういって、ノアはゆっくりと腰をグラインドさせ始める。敏感なのか、体をびくびく震わせながら、それでも懸命に。そのたびに、ヒダの一つ一つがイチモツを擦り上げ、呻きそうなほどの快感が押し寄せてくる。

 

「んっ、ふっ、あっ、んんっ……」

 

 ノアの方も、喉を鳴らすような、漏れ出るような嬌声を奏でる。徐々にグラインドの速度は上がり、一定のリズムで落ち着く。目の前では縛るもののなくなった風船が動きに合わせて暴れており、非常に目が幸せだ。

 ノアの嬌声とぬちゅぬちゅと卑猥な水音が広い部屋を満たし、肉襞が独立した生きもののようににゅるにゅるイチモツに絡み付き、扱き上げていく。

 

「あっ、はっ、先生っ、きもちいい、ですかっ!?」

「あぁ、人生最高に気持ちいいよ……っ!」

「ふふっ、それは、あんっ、よかったですっ」

 

 だんだんとノアの声がはっきりとしたものになっていき、反対に余裕が薄れていく。いつの間にかイチモツの先端はコリコリした硬いものをたたくようになっており、きつく締めつけられた膣内からはさらに複雑な快感が撃ち込まれていた。

 健気に動きながら、息をどんどんと荒げていくノアにちょっとした意地悪な心が働いて、彼女の果実を片方わしづかみにする。

 

「先生っ!?そこは今、ああっ!」

 

 ノアが動いているおかげで、彼女は今抵抗できない。乳首をキュッとつまむと、それまでよりも大きな嬌声とともに体が跳ねる。

 

「あんっ、先生っ、ダメ、ダメですっ!今そこをいじられたら、私、イクッ、イッちゃいますっ!」

 

 グラインドの動きが乱れつつ、大きく息を荒げるノアがあまりに妖艶で、なおのこと激しく胸を責め立てる。呼応するようにノアの締め付けも強くなるため、私もいつ果ててもおかしくない状況になっていた。

 

「ダメって、言ってるのにっ!イク、ダメッ、イッちゃいます―――!」

 

 ノアが一際大きく跳ね、びくびくと痙攣する。淫肉がイチモツをキュウキュウと締め付け、一斉に射精を促す。焦らしに焦らされた欲求が、ついに出番とこれまで以上に膨れ上がるのを感じる。最後のスパートを寄越せと咆哮する。

 その本能に待ったをかける理性はすでに崩壊して久しく、私はだらんと脱力したノアの腰を掴み、持ち上げた。

 

「先生?何、おっーーー!?」

 

 そのまま、一気に奥まで肉棒を突き立てる。これまでよりも数段強い快感が脳内を吹き荒れ、視界が明滅するような感覚さえある。

 そのまま、もう一度、またもう一度と腰を打ちつける。

 

「先生っ!待って!待ってください!今イッたばかり、でっ―――!」

「ごめんノア、抑えられそうにない……っ!」

 

 パン、パンと肉がぶつかり合う音が響く。ここまでいろいろとしてくれた最愛の少女を、この瞬間だけは肉欲の受け皿のように扱っている事実に、もはや何周廻っているのかわからない歪んだ興奮を覚える。

 

「あっ、だめっ、こんなっ、こんなのっ!おかしくなるっ!いく、またいく、またイッちゃうっ!」

 

 余裕の一切ないノアの喘ぎ声に、私が、私のイチモツこそが彼女をそうさせているのだという支配欲が頭を満たす。微細な肉襞に締め上げられ、感覚のある場所すべてを限界以上の快感に支配されたイチモツは、硬く硬く反り返っておりノアの中にその形を刻み込まんとしていた。

 恐ろしいほどの快感が全身を埋め尽くし、ただひたすら射精することしか考えられなくなる。

 

「ノア、ごめん、でるっ―――!」

「出してっ、私の膣内にくださいっ!全部っ!イクッ!イクイクイク、イックウウゥゥゥ――――ッ!!!」

 

 ノアの一番奥まで腰を打ちつけ、ついに限界を迎える。

 溜まりに溜まった快楽が堰を切り、破壊力すら持つのではないかという勢いで精液を吐き出していく。その快感はこれまで感じたどんなものも足下に及ばないほどで、視界はほとんど白く染まっていた。

 

「あ、熱い……先生の……たくさん……」

 

 ノアも体を大きく逸らしてがくがくと痙攣しており、天を向いている顔は私の位置からでは表情がうかがい知れない。

 人間とはこれほどまでに長く射精できるのかと感動できるほどの長い長い吐精の後、ようやっと一連の欲求が収まりを見せる。ノアも海老反り状態を脱し、今度は操り糸の切れた人形のように脱力して私の体にもたれかかってきた。

 

「先生、すこし激しすぎませんか……?私、気がおかしくなるかと思いましたよ」

「ごめん、どうしても腰が止まらなかった……」

「そんなお猿さんじゃないんですから」

 

 力のない笑みを浮かべて、そこでようやくイチモツをノアから引き出す。同時に、ゴポッと音を立てて子宮に入りきらなかった塊状の精液があふれ出てきた。

 

「本当にたくさん出ましたね。それもすごく濃厚……タイムマシンの庇護下でなければ、妊娠していたでしょうね」

「うっ、本当に申し訳ない……」

「ふふ、構いませんよ。言ったじゃないですか。『何でもお好きなようにしていただいて構わない』って」

「本当に『なんでも』だとは思わないでしょうよ。その、ノアが私のことを好きでいてくれてるなんて、本当に思いもよらなかったんだから……」

「先生は鈍感ですね。ですが、そのおかげで私はこうして想いを伝えられたので、悪いことばかりではないかもしれません」

「仕方ないじゃないか、これまでの人生で一切モテてこなかったんだから」

「それ本気で言ってますか?」

 

 激しい行為の後始末をしながら、心地よい倦怠感に包まれてそんなやりとりを繰り広げる。

 この仮初の聖夜が終われば、私は再びみんなの先生とならなくてはいけない。それはノアもわかってくれるだろう。先生としての職務はすべての生徒に必要な手を差し伸べること。だが同時に、各校のパワーバランスを崩しかねない情報を抱える可能性だってあるということだ。現にそういった例はすでにいくつかある。そんな存在が、特定の生徒、ひいては特定の学校と特別な関係を結ぶことは、様々な問題を引き起こす。

 記憶にしか残らない須臾の間の、本音の関わり。

 やがて、世界のすべてが畳に埋め尽くされ、再び意識は途絶えた。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 目を開けると、見慣れた、いや見慣れているはずのシャーレのエントランスだった。タイムマシンを起動したとき同様、正月飾りに異様なタイムマシンという組み合わせが見知った空間を異質な雰囲気に仕立て上げていた。スマホを開くと、時刻も日付も記憶にあるタイムマシンに乗ったその直後。違うのは、頭のクリアさと体の軽さくらいだろうか。

 

「先生、ご協力ありがとうございました。これにてテストは終了となります。いかがでしたか?」

 

 タイムマシンに乗った時の状況そのままということは、当然真横にはノアがいる。あの時空のことを思い出させてどうだったかとはずいぶんと危うい質問だが、普通に試すだけであれば感想を聞くのは至極当然か。

 

「結構面白かったよ。ただ、こっちじゃ時間すら経ってないのは驚いたな」

「一切の物質的影響を及ぼさないといった通りでしょう?」

「それならそれで記憶が残っていることとか、そもそも時間は物質的影響なのかとか疑問は出てくるんだけどね」

 

 そこで一呼吸おいて、そっとノアのほうをうかがう。

 

「……本当に、一切影響は残ってないんだよね?」

「えぇ。向こうで買ったものなども、一切残っていません。……それとも、『確認』してみますか?」

 

 スカートの端をちょこんとつまんでわずかに持ち上げるノアに、ぶんぶんと首を横に振る。今ここでそんなことをやったらどんな「記録」が残るか分かったものじゃない。

 そんな私を見てノアは可笑しそうにくすくすと笑い、冗談です、とはぐらかした。

 ノアがタイムマシンに近づいていくつか操作をすると、ガシャガシャと座椅子や筐体の部分が小さくなっていき、次いで畳が重なるように収納されていく。最終的に、四畳半の部屋を上から見たような模様のPS4ほどの大きさの板になってしまった。一体どういう技術なのか、全くわからない。

 

「それでは、私が本日シャーレに出向いた用事は、不慮の事故でできなくなってしまった分を除いて終わりましたのでお暇させていただこうと思います。先生、貴重な休日、楽しんでくださいね」

「うん、ありがとう。最近は寒いから風邪ひかないようにね。セミナーのみんなにもそう伝えておいて」

「わかりました」

 

 そうして、ノアはシャーレの外へ向けて歩き出す。スマホを取り出して、通話しつつシャーレの自動ドアを抜けていった。

 

「ユウカちゃん、こちらは終わりましたので今から向かいますね。例のタイムマシンですが、問題なさそうです。えぇ。今度はちゃんと、先生とセミナー全員でクリスマスパーティーしましょうね」

 

 聞こえてきた内容に慌ててノアの方を向けば、ノアは意味ありげな流し目でこちらに妖しい微笑みを向け、路地を曲がって見えなくなってしまった。……また近々何かが起こるのだろうか。




四畳半タイムマシンブルース面白かったよねって。森見登美彦先生の作品はいいぞ
初の試みであるR18でしたがいかがでしたでしょうか。個人的にはまだ上を目指せる気はするのですが、個人的に好きなキャラのエロは作りづらいし見づらいという抵抗があるので今後またつくるかはわかりません。あまり期待しないでもらえると……。
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