放課後。クリスから連絡があり、製作依頼を頼んでいた武装が完成した。
左腕にマンティスアームを装備する。
メカマンティス同様、緑色の輝きを放つパワードアーム。メカマンティスの体をそのまま腕の形にした装甲は硬く、同種のメカマンティスの鎌程度なら弾いてくれるだろう。
さらに、手の甲の辺りを始点にして、肘の辺りまで二本のメカマンティスの鎌が伸びている。手のひらを地面に向けた時、鎌の刃は空を向く。裏拳の要領で腕を叩き付ければ、鎌は敵を切り裂く。だが、それだけではない。
エクスはマンティスアームを構えて指を動かした。人差し指の延長線上にスイッチがある。
そのスイッチを押し込むと、マンティスアームの二つの鎌が手の甲辺りの付け根部分を起点にして、鎌の先が駆動音と共に起き上がり、宙を裂いて拳の先に伸びる。かつて、NINJAという古来の暗殺者が使ったとも言われている、手甲鉤のような形状に変化した。
手甲鉤とは。手の甲に装着する熊手のようなもので、この爪で敵を攻撃する他、刀を受けたりする防具としても使用することもできる。武器として使用される以外は爪を樹木や石垣に打ち込んで上り下りしたりする登器や堅い土を掘ったり、土塀に穴を空けたりする開器としても使用されたという。
普段は邪魔にならないように収納しているが、戦闘時にはこのように展開して戦えるようにエクスが頼んだものだ。まさに要望通りの出来栄え。
仕事は早く、完成度は高い。クリスに製作を依頼して正解だった。
「素材、流石にもらい過ぎで申し訳なかったのでこちらもおまけで作ってあります!」
クリスが台車と共に、何かを運んできた。
袋に包まれたそれを開封し、持ち上げる。
それはメカマンティスの鎌を使って造られた二本のダガーだった。
刀身は量産品の片手剣よりも短く軽い。機動性に優れたマンティスダガーは、切って良し投げて良しの優れものでサブウェポンとして十分な能力を発揮する。
メインウェポンが無かったのでかなり助かった。
「クリスの仕事は素晴らしいな。どれも一級品だ。」
エクスが仕事を褒めたたえると、クリスは鼻を擦りながら胸を張った。
「ええ、当然です。クリスちゃんは天才メカニックなので。120%の武装を作って見せます!」
喜ぶクリスを尻目に、マンティスアームとダガーの素振りをする。ふと、マンティスアームのコントローラーの中に、もう一つのスイッチがあることに気が付いた。人差し指で押した、スイッチの下にもう一個別のスイッチがあるのだ。
要望にはない機能が付いていることに疑問を感じたエクスが、そのスイッチを押す。
すると、マンティスアームが激しく振動し始めた。
一秒後、鎌を前方に構えたままのマンティスアームが、火を噴いて腕から射出され、轟音と共に地面に突き刺さる。残った腕には、グローブ上のコントローラーと、その周りを覆うマンティスアームの残りの装甲だけが付いていた。
呆気にとられたエクスが言葉を失う。
クリスは自慢げに鼻を膨らませて装備の解説をし始めた。
「おお!早くもその機能に気が付きましたかエクスさん!それは私が腕によりをかけて実装したロケットパンチで、凄まじい威力で交戦距離外の敵を粉砕します!……まあ腕を回収しないといけないという点と絶頂エネルギーをバカ食いするという難点がありますが、威力は折り紙つきですよ!」
クリスの解説を聞いたエクスがはっとしてオーガズムメーターを見る。メーターはごっそり減っていて、この減りならわざわざ不安定な遠距離攻撃をせずにあの距離まで進んで殴ったほうが効率的にも成果的にもいい。
しばらく、ポ〇キーのチョコのない部分だけが残ったような左腕を見つめていたが、ようやく正気に戻る。
「なんてことをしてくれたんだお前は!ロケットパンチして飛ばした後はどうやって戦うんだよ!無駄に分離機能なんか付けたら耐久性が落ちるだろ!間違ってスイッチを押して誤作動したらどうするんだ!」
と、言えたらどれほどよかっただろうか。
ちらりとクリスの方を見ると、クリスは目を輝かせながらエクスの方を見ている。
……言えねえ。
未熟だが、将来有望な天才メカニックの夢を潰すような事は、言えねえ……
エクスは喉の奥まで出かけた言葉を、ごくりと飲み込んで、クリスに笑顔で話しかけた。
「うん!とてもいい腕だ。次もお願いしようかな!次は確実に
「はい!次も120%、要望通り作って見せます!」
クリスはいつも通り、120%と答える。そこで気が付いた。
120%だと、20%余計なもの付けてるじゃねえか!
エクスが心の中で突っ込みを入れた事に気づくはずもなく、シリオは上機嫌で工場に戻っていった。
スキップ混じりに帰っていくクリスの後姿に、エクスは憂いを帯びたため息を混ぜた。
◇
「新しい腕の調子はどうかしら?」
「絶好調過ぎて飛ぶぞ。」
「あら、良かった。これからもクリスちゃんをよろしくね。」
ツバキの弟子捜索依頼の詳細を聞き、ツバキと合流したエクスは、出撃用ゲートで準備を進めていた。一週間分の食料と水を超硬度倉庫に詰め込み、万が一に備える。
ツバキは相変わらず目を細めて笑っている。機嫌がよさそうなツバキの様子を見て、エクスは確信した。
「ツバキ。お前、クリスが余計なギミックを付けるメカニックだって事知ってて俺に擦り付けたな?」
ツバキは頬に手を当てて「ご名答~~!」と返事をした。
「クリスちゃんは腕は確かだし、とっても良い子なんだけど、アレンジを加えないと武装を作れない子でねえ。あの子の腕を活かせる
どうやらツバキに上手く利用されたらしい。
エクスは歯噛みをしながらツバキを睨みつけて、出撃準備を済ませた。
依頼の情報を頭の中で整理する。
行先は古い町の廃墟。ツバキの弟子は物資調査の為に向かい、そのまま帰ってこなくなり、一週間が経過。
弟子の名前はシリオ。髪の色は金髪。眉毛は黒。顔はとても整っている。ツバキから映像媒体を通して容姿を教えてもらった。
遭難した辺りの地理を教えてもらったが、一週間も前の事なのでかなり遠い位置にある。往復するだけでもマグの外で一泊するのは間違いないだろう。
「それじゃあ行ってくる。もし見つからなかったら、一週間で一度帰ってくるから、その時にまた報告を入れる。」
マンティスアームを装備し、少しだけ見た目がマシになったTENBA機。エンジンを稼働し、燃料を注ぎ込む為に、装着したオナホエンジンを手でしごいた。
その様子を、隣でツバキが凝視している。
「み、見るな!」
エクスが声を荒げて追い払おうとしても、ツバキは意に介さず自慰を生暖かい目で見守っている。
羞恥に唇を震わせながらも、込み上げる射精感に身を任せて精子を吐き出す。
びゅるる!
TENBAは電子音と共に起動し、機体の隅々まで人工筋肉によってサポートされた怪力が行き渡る。
地面に置いた超高度倉庫の取っ手を掴み、片手で拾う。
そのままペダルを踏み込んで加速し、マグから飛び出した。
◇
焼けた肉から汁が零れ落ちる。
少女は兜の様な形状のヘルメットを外すと、焼いた肉を口に詰め込んだ。
閑散とした廃墟の街には、静かな風だけが吹いていて、人の気配どころか獣の気配すらない。
実際、少女がこの廃墟の探索を始めて一週間になるが、その間一度たりとも街中で生き物を見たことはなかった。
少し蒸れた短い金髪を冷たい風が撫でる。
少女の名前は、シリオと言う。
感情のない眠そうな顔をしながらシリオは、真昼間に似合わないおおきなあくびをした。せっかく整った顔立ちをしているというのに、彼女は常に生気のない冴えない表情をしている。
「何もない。帰る。」
シリオは、何度目になるかわからない帰投宣言をして身支度を始める。彼女が帰投宣言をしてから、三日が経とうとしていた。
身支度を済ませると、かつて戦国武将が着ていた甲冑によく似た
ツバキの一番弟子、シリオはかなりの凄腕の持ち主だ。卓越した剣術と機体操縦技術、戦況を判断する能力を持ち、齢十五にして
しかし、彼女は……単独出撃する傭兵として致命的な欠点が一つあった。
とてつもない、方向音痴なのである。