「ふんふんふ~ん♪」
エクスは鼻歌交じりに制服を着る。えらく上機嫌だった。
それもそのはず。
傭兵ライセンスが手に入ったことにより金を稼ぐ目途が立ったのだ。
つまり、自由を手に入れたも同義だ。
学生寮の自室。始業の時間が近づいていることも忘れて優雅に朝の時間を過ごしていた。
「はっはっは、はーっはっは!!っしゃあっ!今日も元気に登校だぜ!!」
「エクス。着替えるの遅い。急いで、遅刻する。」
「悪い悪い。よし行くか――って、なんでシリオが俺の部屋にいるの?」
私物がほとんどない、質素なエクスの部屋にいつの間にか闖入者。金髪黒目黒眉毛。先日迷子中のところをエクスに拾われた少女、シリオだ。
シリオは眠そうに目を擦りながらエクスのベッドに潜り込んでいた。
「あれ……鍵かけてたよな?俺。」
「ん。」
シリオが指をさす。部屋の入口にあるカギは、見事に破壊されており、ドアはオールオープン状態だ。
「何やってんだお前ェ!」
エクスの怒りも意に介さずシリオはベッドから起き上がり、エクスの手を取って部屋の外に連れ出す。
「早く。遅刻。」
「あ、ああ。ってあれ、シリオ……なんでお前制服着て……」
◇
「はい皆、注目。今日からクラスメイトになった転校生のシリオちゃんだ。仲良くしてやってくれ~~。」
「よろしく。」
雑な教師の紹介に、雑な自己紹介を終えたシリオはさっさと教師の傍を離れて自分の席に着席した。
どうやらシリオも、エクスと同じように傭兵から学生にジョブチェンジしたようだ。
突然の転校生に教室が少しざわめいたが、ほどなくしておさまった。
滞りなくホームルームが終わって休憩時間が始まる。一時限目の授業が始まる前にシリオがエクスの元にやってきた。
「ツバキが学園長室に来いって言ってた。先生にも話は通してあるから授業は受けなくてもいいって。」
「ツバキが?」
シリオを無事にマグに連れて帰ってから、一度学園長室に顔を出した。
その時、ツバキは留守にしておりメイドから依頼の報酬を受け取った。
何か他にも用があったのだろうか。
シリオに連れられて教室を出る。
そんなエクスの後姿をペルは見つめていた。
「おやおやおや?」
エクスの後頭部を穴が開くほど見つめていたペルにクレアが声をかける。
ペルは慌てて視線をエクスから反らした。
声を頼りにクレアの方を見ると、彼女はにやにやしながらペルを見ていた。
「恋のライバルの予感?」
「ち、違う!」
茶化すクレアに顔を赤くしながら否定するペル。しつこくからかうクレアの相手をしながら、頭の中ではエクスとシリオがどういう関係なのか、仲がいいのか、二人の事ばかり考えていた。
◇
「二人とも気が付いていると思うけど、今の一年生は数が少なくてね~。」
ツバキの一言目。
「知らなかった。」
シリオの返事。
「何となくそうだろうとは思っていたよ。」
エクスの雑な返事に頷いたツバキはしれっとシリオの返事を無視して会話を続けた。
「半年前……今の新入生の子たちがまだ中等部の三年生だった頃。高等部への進学に必要な遠征演習の日があってね。その日はちょうど大きな
エクスはよく知っている。その日はそう、第三次
「被害は大きかったわ……マグの外で遠征演習を行っていた中等部の
ツバキのいつになく真剣な表情を目にしたせいか、シリオの表情も普段より硬くなった。
「あの日から妙な
ステルス機能を搭載した
だが、第三次
特殊なメカマンティスは現在三件目撃されている。第三次
このことから、特殊なメカマンティスは若く、まだ戦闘経験が浅い
「そこで」
つらつらと考えを述べたツバキは言葉を切って少し貯めた。
「学年対抗
いえーい!ぱちぱち!とツバキが手を叩く。シリオも合わせてぱちぱち~と言いながら手を叩いた。顔は変わらず無表情だが。
「……なんでだ?危ないだろ。」
「そうね~。でも何か手を打たないと、このまま新人たちが育たなくなってマグの戦力が落ちたら、どちらにせよ終わりだもの。だから、あえて餌をぶら下げて出方を見るわ。」
と言うことで、色々スケジュールを調整して一か月後に学年対抗
詳しくはまだ未定のようだが、その祭りに参加するのは一部の生徒たちだけらしい。
学年対抗トーナメントを行い勝ち残った生徒たちで選抜メンバーを決め、その選抜メンバーたちで出撃し
それが大まかな流れだ。
ちなみにシリオとエクスはシード枠なので殆ど出番はない。
それからしばらくツバキと殲滅祭の会議をして、解放されたころにはとっくに一時限目の授業が終わっていた。
◇
放課後。
工学部に足を運ぶ。
事前に連絡を取っていたクリスと合流して、開発工場にやってきた。
尾節を含むメカスコーピオンの後体……切断されて、真っ二つになった後ろ半分の部分が、広い作業場に無理やり押し込まれている。
クリスはもちろん、普段は作業に没頭している他の工学部の生徒もまた、そのデカさに驚き、ざわめいていた。
「
クリスは青い目をキラキラ輝かせながらメカスコーピオンの胴体に顔を埋めた。
数日ぶりに見た彼女は相変わらず奇妙な格好をしていた。
長い金髪をお団子状に短く丸め、大きく胸元の空いた白いチャイナ服を纏っている。目の位置に困る。
「マンティスアームの出来、すごくよかったぞ。あの腕のおかげでコイツも倒せたようなもんだ。今回はお金をちゃんと持っているから報酬は金で払うよ。」
「お金……ですか……」
エクスが報酬の話を出すと、クリスは少し落ち込んだ様子で目を伏せた。メカスコーピオンの装甲に手のひらを押し付けて、何やら残念そうにしている。
「もしかして、メカスコーピオンの素材の方が良かったか?」
「はい!!」
若干食い気味で、元気よくクリスは答えた。エクスは一度苦笑をして、詳しく装備の要望と、端材の取り分の交渉をする。
エクスが要望を伝え終わると、クリスはすぐに作業に取り組み始めた。
その背中には元気よく左右に振られる犬の尻尾の幻影が見える。
……新装備にはまた要望にない妙なギミックが付けられているのだろうか。
エクスは少しの不安を感じながらも工学部を後にした。