選抜トーナメントが開催されてから一週間。ついに学年対抗
学園長室でツバキは、小さなスケジュール帳を眺めている。
スケジュール帳には、わずかな要件しか書かれておらず、初めて書き込まれたのが六日前、計六日の内容しか書かれていない。
それもそのはず、このスケジュール帳はエクスとシリオの朝の練習試合の内容だけが書き込まれたものだからだ。
合計六日の練習試合。内容はエクスの六連敗。どうしようもないほどボロ負けだ。しかし、ツバキもエクスもシリオまでもが、これをエクスが弱いという認識で見てはいない。
日に日に、エクスの動きには工夫が凝らされ、動きはより精密になり、確実にシリオに追いついている。
練習試合を始めてから最初の六日間はすべてKO負けだったが、今朝は遂に制限時間の五分を耐えきり、判定負けにまで持ち込んだ。この成長を偶然だと思う
そしてエクスの新武装、シリオの新武装も完成した。今が好機なのだ。
◇
選抜トーナメントを勝ち抜いた猛者たちはすべて運動場に集められた。
各学年から四人づつ、合計十二名の生徒がエクスタGに乗り込み、準備を進めている。
十二の生徒たちはみな専用機を持っており、その姿は多種多様であった。
『さあ、皆さま。今日のリーダーはわたくし、ユリスですわ!皆、わたくしの指示に従うように。』
選抜トーナメントを二位でおさめたユリスが高らかに指揮を執る。外部スピーカーを通して大きな声がやってくる。
纏った機体は校外学習の時と同じ『DPLL』。燃え上がるように真っ赤なスーツと四肢、背中に背負った巨大な収納式ツインエネルギーカノンが特徴的だ。校外学習の日にはあのツインエネルギーカノンをぶっぱなし、一撃の元多量の
一応腰にサブウェポンとしてシンプルな造りのレイピアを携行しているようだ。
『よろしく、リーダー。』
応えたのはシリオだ。学年対抗
先日、任務の最中に遭難してしまい、その際の戦闘で機体を大きく破損してしまったので装備した四肢は変わっている。機体は変わらず『居浪刃』。四肢は
腰にはメカスコーピオンのハサミ部分、触肢から作り出された大太刀を佩いている。
『よろしく、リーダー。』
シリオと同じ内容のセリフだが、シリオよりも優しい声音で語りかけたのはペル。選抜トーナメントでは三位の結果をおさめている。
少し前まで学年内の成績順では、下から数えたほうが早かったペルだが、校外学習中に
目覚ましい成長ぶりに学園も一目置いており、最近特別に学園から専用機を進呈された。
機体は『ドルフィン』。挿入型のバイブエンジンであり、長さは二十センチにもなる。ペルの強い希望により、挿入型のバイブエンジンが選ばれた。
四肢はメカシャコを用いられている。
『よろしく、リーダー。』
既に二人の美少女が同じセリフを使っているというのに、飽きずに同じ言葉を使ったのはエクスだ。
当たり障りのない言葉を選んだはずなのに、何故かユリスに睨まれた。
機体は変わらず『TENBA』。四肢は
パイルバンカーは取り外しができなく、右腕と完全に一体型になっている。右手で武器を持つことは出来ないので、空いた左手でマンティスダガーを使うことを考慮して、左手側の腰に二本のマンティスダガーを提げている。
以上四名が一年生代表の選手だ。戦力的には申し分ない。傭兵としての経験が長いエクスやシリオの顔に緊張は無く、対してペルとユリスの顔には少々の重苦しさが見える。
唇を白くなるまで噛みしめたペルの様子に気が付いたエクスが優しく肩を叩く。
「大丈夫だ。ペルの実力ならうまくやれる。それに俺たちもいる。仲間を信じろ。」
ペルは少しだけ驚き、続けて笑顔になった。
「エクス……ありがと。」
ペルの表情から緊張が抜けきることはなかったが、少しだけエクスの目を見つめた後、恥ずかしそうにごにょごにょと耳打ちをする。
「その……しばらく手をつないでてもいいかな。」
ペルの凛々しい眉毛が少しだけ不安げに揺れるのを見た。彼女の手を取る。
エクスが優しく手を取ると、ペルは微笑みながら握り返す。これで少しでも彼女の不安が和らぐといいが。
と、ペルと手をつないでいると、何故か近くにいたシリオが寄ってきてペルとつないでいる手とは反対の手をつなぎ始めた。どうしたというのだろうか。
そうこうしているうちに、学年対抗
参加者はみな、一人一台ずつ、滑車式牽引ボードを渡された。
それは巨大な三角形の形をしたボードで、上部にはボードとエクスタGの足を固定できるビンディングが付いている。ボード下部には八つタイヤが付いており、このボードをロープを通してマグでけん引する。これに乗ることにより、エクスタGの移動のコストを和らげる目的がある。
マグを中心にし、三方向に分かれ、学年ごとに小隊を組みマグの周りで
いよいよ祭りが始まる。
マグの最後方を任された一年生組は、皆ボードに乗り込み、祭りの開始を待った。
アナウンスが入り、祭りの開催が宣言される。
開始の合図を聞いたシリオとエクスが素早くボードに乗ったまま、エクスタGのスラスターを起動させてマグの外に躍り出た。遅れて、ペルとユリスも出撃する。
巨大なボードに跨った機体が四機、マグの最後方から飛び出して宙を舞う。
空気抵抗を大きく受けやすい形状のボードは、激しく風の影響を受けて荒ぶりながらも無事に地上に着地。荒野の大地を滑って走る。
マグとボードを結んだロープは音を立てながら伸び、マグからおよそ二百メートル程離れた地点で伸びきり、ボードの牽引を始めた。
青空と荒野が視界いっぱいに広がる。そして、荒々しい荒野の地表が、前から後ろへと次々流れて行った。
『周囲に
ユリスから通信が入る。辺りを警戒してみるが、どうやらまだこの辺りにはいないようだ。
三人からの報告を受けたユリスは了解、と短く返して言葉を返した。
沈黙が続き、地表をいくつかのタイヤが転がる音だけが響いていた。
しばらくして、マグから追加のボードがやってくる。直径五十メートルの巨大な円形ボードだ。これは上に戦利品を乗せるための素材回収ボード。埋まり次第、回収することになっている。
太い矢じりのような形をしたマグが三つの小隊を牽引する。流線型の前方に対し、後方に伸びるのは三つの頂点、その頂点それぞれにひとつづつ、合計三つの小隊だ。この作戦は、ツバキが二週間くらいで考えたこともあり少々雑である。
学年対抗
今回の作戦は、どちらかと言えば漁に近い。移動都市マグにとっての初漁なのだ。
『なんだか……マグの速度、遅いね。』
ペルが通信を入れた。ユリスは『確かに』と答え、シリオとエクスは黙った。
人間が走ってでも追いつける速度。それが今のマグが出している速度だ。
本来のマグの速度は速い。わざわざ移動都市なんて厄介な代物にしているのは、
捕食者はのんびりと歩いている獲物を見た時、何を思うのだろうか。
その答えはいずれやってくる。
草むらに身を隠し、土の色に肌を似せて、息を殺し、時間をかけてゆっくりと。
『……来ましたわね。』
一番最初に敵の存在に気が付いたのは金髪眼帯女ことユリスだ。やはり彼女は索敵能力が高い。
マグの進行方向を零時と定め、十一時の水平方向にそいつは現れた。
ハリネズミ型の
三体、モーニングスターの球体の部分のように丸くなりながら、こちら目掛けて転がってくる。
彼らが転がって突撃してくる速度は速い。が、余り小回りは利かない。回避するのは簡単だ。
メカヘッジホッグは直径一メートルの体に対し、長さが伸縮するまっすぐな針を体に生やしている。
数分後には彼らと接敵するだろう。
こちらの陣形はユリスを先頭にし、左にシリオ、右にペル、後ろにエクスのひし形だ。
ユリスとシリオの間を横切るようにメカヘッジホッグが進行方向が重なった。
ユリスはレイピアを構え、接敵に備える。ここでエネルギーカノンを温存するのは正しい判断だ。
シリオはいつも通り腰の大太刀に手をやって機を待った。知らない人から見れば、やる気のないように見えるシリオだが、その実力を疑うものはここにはいない。
二十メートル、十五メートル、十メートル……
メカヘッジホッグとの距離が縮まる。ユリスがレイピアを握る手に力を籠める。シリオは体から力を抜いた。
三体はそれぞれ順調に転がりながら、ユリスに一匹、シリオに一匹、舵を切って向かう。残った一匹は、ペルに照準を定めた。
シリオの大太刀が届かない距離、ユリスのレイピアが届かない距離で二体のメカヘッジホッグは転がるのをやめ、その場で跳躍する。
特徴的なメカヘッジホッグの予備動作を知っていたユリスは、スラスターを吹かして大きく横に移動し、回避行動を取った。シリオは動かない。
メカヘッジホッグは大きく体を広げて、針だらけの背中を彼女たちに向ける。そして、背中の針を飛ばして遠距離攻撃。
先ほどまでユリスがいたところには大量の二メートル長の針が刺さる。ユリスはそのまま旋回してメカヘッジホッグを仕留め、絶命したメカヘッジホッグの死体を回収、素材回収用ボードに積載した。
一切動かなかったシリオはと言うと、メカヘッジホッグの針攻撃は強固な
シリオはそのまま交戦距離に入ったメカヘッジホッグを一撃の元綺麗に首だけを落とし、死体を回収して素材回収用ボードに投げ込んだ。
残った一体のメカヘッジホッグも、目を離した隙にペルが仕留めていた。
ペルが回収したメカヘッジホッグの死体は三体の中でも一番損傷が酷く、とてもボロボロだった。
『ご、ごめん。手加減したつもりなんだけど……』
『あら?良くってよ。素材を回収することは二の次。わたくしたちがやるべきことは、
『そ、そっか。ありがとう。』
前回の校外学習にて、
エクス達の狩りは順調だった。少しの気の緩みもあったのかもしれない。
積み上がっていく戦果。
メカヘッジホッグ三機、メカダンゴムシ二機。メカスパイダー
特に苦戦することもなく、勝利を重ねていく。
そして、そいつはやってきた。
『あら?』
先に気が付いたのはユリスだ。
前方に、小さな
その存在を知っているのはエクスだけだった。戦闘の経歴が浅い学生陣、記憶力の乏しいシリオは知らない。特別等級の
『待て!そいつに触るな!』
ユリスはエクスの静止を聞かず小さな
その存在を目視したペルとシリオも、ユリスの元に近付いた。
『『かわいい~~!』』
『……かわいい。』
三人の声が重なる。触れてしまった……
三人の女子たちが興味を持った
その名もメカクオッカ。体長五十センチ。重量は十キロにも満たない。
顔の構造上、常に笑っているように見えるカワイイ生き物だ。カンガルー科の有袋類であるクアッカワラビーを真似た
彼らは
等級は、
恐ろしい
また、とある傭兵の話では「ケガを負って動けなくなったところに歩いてきて、傷口を舐めて気遣ってくれた」という話もあるほどだ。
三人ともメカクオッカの虜になってしまったようだ。代わりばんこに抱っこをしてはメカクオッカを抱き上げて可愛がり、赤ちゃん言葉のような謎言語を話してデレデレしている。
「まずい……!主人公の座を、奪われる!」