メカエレファントの鼻に光が集約した。そして、五メートル程の砲身、鼻の穴から光の槍が打ち出される。
ユリスは、自身に向かって飛んでくる熱線に目を奪われたまま立ち尽くしていた。
極超音速の弾が、ゆっくりと目の前に迫る。ユリスは、このままでは死の槍に貫かれることを理解していたが、体は動かなかった。
槍はユリスの機体に被弾し、分厚い鉄の体を貫いた。
『ユリス!』
ユリスは死を感じた。しかし、死ぬことはなかった。
メカエレファントの狙いが、自分ではなくユリスに向いていた事を察知したエクスは、左腕からワイヤーを伸ばしてユリスの機体に杭を打ち込んでいた。
メカエレファントの砲身から弾が放たれるよりも先に、ユリスを機体ごと引っ張り、メカエレファントの一撃を逸らした。弾はユリスの機体に直撃したが、致命傷は避けたはずだ。
ユリスの機体から剝がされた牽引ボードが、メカエレファントの攻撃を食らって粉微塵になり、後方の荒野へ消え去っていった。
『ユリス!聞こえるか!?』
引き寄せたユリスを抱きかかえる。ユリスはエクスの腕の中でぐったりとしているが、機体を見る限り、弾は掠めただけで重要な機関やユリスの体に外傷は無いように見える。だが、ユリスから反応が返ってこない。攻撃の衝撃で気絶してしまったのか?
一撃を打ち終えたメカエレファントは、体から力を抜いて脱力している。再び弾を打ち出すにはそれなりの準備期間が必要だ。だが、メカエレファントはまだエクスたちを捕らえる事を諦めていない。準備を終え次第すぐに襲撃を続けるだろう。
『シリオ!ペル!ユリスに代わって俺が指揮をとる!メカエレファントを迎撃するぞ!』
シリオは短く了解、と返してボードから離脱した。
ペルの方へ視線をやると、ペルは落ち着いた様子でボードから離脱してエクスを見ていた。
シリオの事は心配ない。ペルも恐らく大丈夫だろう。
抱きかかえたユリスを地面に降ろし、エクスもボードから離れる。
マグと、付属したいくつかのボードたちはエクスたちを置き去りにして先に進んでいった。
『まだ奴は動けないはずだ!今のうちに畳みかけるぞ!』
指揮をとるという割には大雑把な指示だったが、それなりに経験が長いシリオ、成績優秀なペルは見事にエクスの意思を汲み取った。先導するエクスの動きを補佐する形で戦闘に加わる。
スパイダーガントレットからワイヤーを射出する。ワイヤーはメカエレファントの外装甲の隙間に挟まって固定された。ワイヤーの牽引力に、スラスターの噴出を合わせて加速する。真正面から突撃したエクスを追いかけるように、右後方からシリオ。左後方からペルが続く。
『うおおおお!!』
ワイヤーを手繰り寄せながら突進、右手に備わったパイルバンカーを用意する。
杭を固定するクランクが高速で展開、右腕は肘が伸びる形で轟音と共に膨れ上がった。
推進力を乗せて右腕をアッパー気味にメカエレファントの顔面に突き立てる。
瞬間、炸裂。右腕が弾けて杭が凄まじい威力を伴って打ち出された。
エネマの硬い外装甲同士が削り合う鈍い音と共に、エクスの右腕に衝撃が伝わる。
板状の鋼をいくつも重ねて覆ったような形のメカエレファントの顔面は、パイルバンカーの衝撃でひしゃげた。だが、頑丈な頭部は内部に備わった神経機構や臓器の役割を持つ重要な機関を守り抜いており、メカエレファントの動きは今までと変わらない。損傷は、表面的な部分だけだ。
『くッ……!』
続けさまにエクスは右腕から電磁パルスを放つ。その威力は身を持って受けたシリオの折り紙つきだ。
しかし、メカエレファントは相変わらず涼しい顔で次弾の用意をしている。
メカエレファントの扱うレールガンは、電磁力を用いて弾を打ち出す都合上、発射時に強力な電磁パルスが出る。その電磁パルスに耐えうる為の対策として体内の回路は殆ど電磁シールドで対策されている。
先ほどの攻撃で運よく電磁シールドが壊れている事を祈りながら電磁パルス攻撃を仕掛けたが、どうやら運はよくなかったようだ。
電磁パルス攻撃が効かない事を試したのち、エクスはうまく攻撃が通る事を祈りながらひたすら顔面にパイルバンカーを打ち込み続けた。
『我流一式――
シリオがエクスの右後方からメカエレファントの巨体に向かって跳んだ。
腰に佩いた大太刀を抜いて一閃。強烈な一撃の居合斬りを放つ。
メカエレファントの胴体は鈍い鉄の音を響かせて少し凹んだものの、やはり有効な一撃を入れるには敵わず。シリオは『硬ぃ~~……』と呟きながら反動で吹き飛んだ。
『ふッ!!』
鋭い気合と共に正拳を突いたのはペルだ。
シャコは、筋力を使ってパンチを出すのではなく捕脚の弾性を利用してパンチをする。パンチよりも弓が矢を放つようなものに近い。ペルの機体も腕部に特殊な機構が付いており、実際のシャコに似た形でパンチを打つことが出来る。打ち出された強力な正拳はメカエレファントの胴体に拳型の凹みを作った。まだ足りない。
エクスたちが分厚いメカエレファントの装甲に阻まれている間に、メカエレファントは次の攻撃への準備を終えた。エネルギーは十分な量溜まり、鼻が再び電磁力を帯び始める。
そして、メカエレファントはユリスに向かって歩き始めた。
『まずいぞ……』
メカエレファントの顔面に張り付いたままエクスは何とかしようと悪戦苦闘。
シリオやペルたちも攻撃を絶えず与え続けている。
だが、メカエレファントの歩みは止まらない。
エネマ達は常に深刻なエネルギー不足に悩まされている。特に、遠距離攻撃手段を持つ種はエネルギーが不足しがちだ。
メカエレファントは、いつまでも大したダメージを与えられずにいるエクス達を取るに足らないものとして無視し、エネルギー補給を優先したのだろう。
つまり、このままではエクス達からの攻撃を涼しい顔で受けながら、ユリスを乱暴に犯し続ける象さんの図が出来てしまう。
ぼろん。
ぞうさんのぞうさんがまろびでる。成人男性一人分ほどの大きさがあるぞうさんのぞうさんを目にしたシリオが、ぽつりとつぶやいた。
『すごい。エクスの十倍くらいある。』
『へ?』
驚いた声を上げたのはペルだ。何故シリオがエクスのぞうさんを知っているのかと、思った。
露出したメカエレファントの性器はユリスの身長よりも大きく、肩幅よりも太い。
その巨大なぞうさんがぐねぐねと蛇のように動いて、メカエレファントの腹にしがみついていたシリオをはたき落した。
ぞうさんのぞうさんは器用なのだ。
『ユリス!聞こえるか!?ユリス!!』
エクスの悲痛な叫び声は地面に横たわったままのユリスには届かず、メカエレファントとユリスの距離が、ゆっくりと縮まっていく。