商業区。
様々な店が並ぶ大きな商業区画。
賑わう街の真ん中に、大きく店舗を構えるとある専門店がある。
それは、
アダルトショップだ。
その店内の一部。AVコーナーにて、エクスとペルはパッケージを吟味していた。
何故、彼女と二人でAVを吟味する羽目になってしまったのか。
◇
「最近調子がよさそうだな。エネマの討伐数も順調そうだ。」
最初に彼らは機体整備用の備品を補充しに来ていた。
ペルは大体の目当ての買い物は終わったようで、もう特に用事はないらしい。
彼女の長い黒髪が昼の光を受けて輝いた。
エクスが入学した日の印象は、若干挙動不審な大人しい美少女と言った印象を受けたが、今の彼女はしっかりとしていて、可憐さよりも凛々しさが目立つ。
「まあね。今でも少しエネマは怖いけど、前ほどじゃないわ。」
実際、ペルの成長は素晴らしい。
あの日、エクスと一緒に行った校外学習から彼女の戦績はうなぎ上りで、エクスが入学してきた時点で学年最下位だった彼女も、今となっては上から数えて二番目の戦績だ。
成績優秀者として認められた彼女は、学園から専用機まで贈られている。
恐らくそのせいもあるだろう。今の彼女は自信に満ち溢れていて、頼りがいのある少女だ。ユリスと並んで同世代にとってリーダーのような存在となるに違いない。
「私は買い物終わったけど、エクスは何か買うものは無いの?」
ペルに尋ねられて、頭の中で考えを整理する。
一つだけ足りないものに心当たりがあったが、少し口に出すのは、はばかられた。
が、言う。
「AVかな……」
ペルは頬を少し赤く染めながら鼻を掻いた。
「なるほど、AVね……」
言葉に詰まるペル。気まずい空気が二人の間に流れた。
「その……」
少し間をおいてペルが話を切り出す。
「えっちな事が必要なら、私が手伝ってあげようか……なんて……」
ペルがぽつりぽつりと提案を出しながら、両手を体の下の方にやり、腕で胸を挟んで強調した。
魅力的な提案だ。だが、だが、AVとセックスは別腹なんだ。
例え目の前にすぐに手に入るセックスがあったとしても、AVは無くてはならない存在なんだ。
「それは……とても魅力的な提案だけど、AVも必要なものだからさ。ペルにはまた次の機会に手伝ってもらおうかな……」
と告げた。
「そっか……」
ペルは落ち込んだ様子だ。申し訳ない。
が、すぐにペルの様子が変わった。落ち込んでいたかと思うと、次は拗ねたように頬を少し膨らませる。
「じゃあ、私もAV買いに行く。」
エクスに電撃走る。
ペルと一緒に、AVを見ればいいんじゃね?と。
AVを見ながら、エッチすればいいんじゃね?と。
現在に至る。
興味津々と言った様子でAVのパッケージを次々と手に取っていくペルを他所に、エクスはオカズの予定表を頭の中で素早く組み立てていく。
エクスが現役で傭兵をしていた頃は、もっぱら電子データに頼っていた。
エネマ達に人類のデータベースが破壊され尽くした時。ネットショッピングはすべて壊滅し、殆どのエッチな電子媒体は死滅した。かに思われていた。
人類の叡智は、その程度の脅威には負けない。ネットから隔離し、個人で保有されていたエッチな記憶媒体が、人類がその多くを滅ぼされた後でも、廃墟から見つかることが多々あったのだ。
先人たちの叡智によって守られたその秘宝は、今も大地に眠り、人々に掘り起こされて、陽光を浴びる日を待ち望んでいる。
エクスも傭兵時代、いくつもの叡智なデータを発掘、所有し、売買、もしくは一切市場に流さないと言った様々な楽しみ方をしていた。
世界でたったひとり、自分だけがこのエロデータを持っている。そのバックボーンだけでヌける。データについた背景ですらまた、オカズになる。
希少価値の高いオカズはエクスの誇りだった。いわば彼ら、彼女らは戦友だったのだ。
しかし今となっては……
ぽたり。手に持ったAVのパッケージに、知らずのうちに大粒の涙が落ちた。
一度流れた事を皮切りに、エクスの目から次々と大粒の涙が落ちていく。ぱた、ぱたと次から次へと、包装紙を叩いて音を立てた。
消えちまったんだ……ッ!全部ッ……!!
エクスはその貴重な電子媒体を、肌身離さず持っていた。機体に内蔵した独自AIに管理を任せ、その宝たちと共に命を懸けて戦っていた。死ぬときは一緒だと、誓った。
あの日。エクスが両手と右目、内臓をいくつか失ったあの日に、戦友たちもまた、全ていなくなった。
大切なものを全部、失った。
全て失って、それでもおめおめと生きながらえてしまった自分の不甲斐なさに何度腹を立てた事か。
それからと言うもの、借金苦やら学生生活やらで忙しくしており、ついぞ今日までオカズ集めに精を出す暇はなかった。
やっと触れられたドスケベパッケージに心を震わせながらオカズを吟味していく。
今度こそは二度と、オカズ達を失ったりはしない。
ちゃんと、使用用と保管用でデータを管理しよう。
そうやって次代に命を遺してくれた、先人たちに学び、最上の敬意と感謝を。
品定めも終わったので、顔を赤くし、鼻息も荒くAVを見比べているペルに声をかけて帰ろうかと思った時だった。
通路の奥から二人を見つめる一人の少女と目が合う。
その少女はエクスたちと同じ、
「あっ」
エクスが思わず声を上げる。そんなエクスの様子に気付き、顔を上げて視線の先を追ったペルもまた、こちらを見つめる少女の存在に気が付いた。
「あっ」
目が合ったのは、同じクラスメイトの少女だった。
なんとも言えない空気が辺りに流れる。
店内に流れる陽気なBGMだけが嫌に明るく、鳴っていた。
「……こんなところで奇遇だね。クレア。」
沈黙を先に破ったのはペルだった。
ペルに言われたことで、エクスもようやく少女の名前を思い出した。
男子かと見間違うほど短く切り揃えられた茶髪。明るく大きく元気な声で会話をする活発な少女、クレアだ。
エクス達と同じく
彼女は大戦時に、エクスに助けを求めてきたこともあり、言ってしまえば一番最初に話したクラスメイトでもある。しかし、振り返ってみれば入学初日に話して以来殆ど会話をしていなかったような気がする。
「えっと、こっそり見ててごめんね。二人がここに入っていくのが見えたから、ついてきたんだけど……二人とも、何してるの?」
クレアは単刀直入に話を切り出した。正直に言うのは若干恥ずかしいが、もはや決定的な場面を見られているので言い訳などするだけ無駄だ。
「その……AVを探しに……」
「AV……?って何?」
なんと。
クレアはAVを知らなかった。
かくかくしかじか。
AVの事を詳しく教えると、クレアは顔を真っ赤にしながら頭から湯気を出していた。
どうやら、クレアには殆ど性的な知識がないらしい。
「クレアは結構色んな女の子にセクハラしてるから、てっきり詳しいものだと思ってたんだけど……まさかAVを知らないとはね。」
「たはは、恥ずかし……」
クレアは苦笑いをしながら後頭部を掻いた。
デリケートな話題の為、こういった話を共有することは確かに少ない。
水泳の授業をするときに、泳ぎ方は教えても、素晴らしいチンポジのアドバイスや勃起時の誤魔化し方などは共有しない、みたいなものだ。
殆ど性的な事を知らないクレアとの会話中に、ふとエクスは疑問を感じた。
「クレアは……スーツやエンジンはオーダーメイドにしていないのか?」
彼女は専用機を持っていたはずだ。現在の学年成績順では三位の位置にいる。エクスとシリオはまだ戦績が反映されていない。
学園において専用機持ちと言うことは、いわゆる特待生に値する。
学園が優秀な成績を認め、高額な費用を負担し、訓練機以上の機体を一生徒が保有することが出来るという割と破格な特別待遇制度なのだ。
「あ、実はそうなんだ。スーツやエンジンはどれを使っても性能差が出ないって言うから、なんでもいいやって思って人気のメーカーの一番評判が良い物を使ってるよ。」
確かに、スーツやエンジンそのものの性能差は出ないが、自分に合ったものを使うのと使わないのでは明らかにパフォーマンスが違う。全く同じ自転車でも、サドルの位置が変わるだけで扱いやすさが全然変わるように。
女性の体も人それぞれで快感の感じ方が全然違う。だからこそ
「そういえば、クレアはまだオーバードライヴも使えなかったわね。」
ペルの言葉に、エクスは内心驚く。
オーバードライヴが使えない事は珍しい事ではない。
性のメカニズムは複雑で、絶頂するためには一種の才能のようなものが求められる。
オーバードライヴが使えない事は珍しい事ではない。しかし、エクスたちのクラスでは半数がオーバードライヴを使える。
そんな中。クレアはオーバードライヴを使う事無く、エクスが入学してくるまで学年で二位の成績を保ち続けていた事になる。力は上手く使えていないのに、強さはトップクラス――とても異様な存在だ。
だとしたら、彼女は――
「クレア、こっちにおいで。」
エクスは店の奥の方へクレアを呼んだ。
クレアを連れてきた場所には、大量のディルドやバイブ、大人のおもちゃが陳列されていた。
僅かな記憶を頼りに彼女の専用機を思い出す。
確か、人気の非挿入型のバイブ――ニンファシリーズの最も知名度のあるものだったはずだ。
……そういえば、入学時だけではなく校外学習の時も少し会話をしていたな……
何とか思い出して陳列されている商品の中から一つ手に取った。
電動マッサージ機。いわゆる電マだ。
「クレアが使っている専用機のエンジンはこんな感じだったよな。クレアはどう思う?もっと大きいほうがいいか?小さいほうがいいか?非挿入型だけじゃなくて挿入型のものもあるぞ。吸引型のものだってあるし。」
「え、えっと……」
エクスの発言にクレアは顔を赤くして俯く。
「大丈夫だ。どんな風に感じててもいいんだぞ。ペルなんかこの、大きな――」
「エクスっ!!」
ペルが使っている規格の物を探して例に挙げようとしたところ、真っ赤な顔のペルに怒られてしまった。
苦笑いをしながらも、少し心を開いてくれた様子のクレアが事細かく感想を伝えてくれる。
「その、あたし……訓練機用のエンジンと今使っている専用機のエンジンしか知らないから、どれが好きかとかも分からなくて……」
顔を赤くして目を伏せながら、たどたどしくクレアは語る。
「二人がよかったら、その……」
エクスとペルは、クレアが言葉を終えるのを静かに待った。店内に流れる陽気なBGMだけが、沈黙の中鳴り続けている。
「使い方を教えてくれないかな……」