それからは一瞬だった。生活の多くをインターネットに預けていた人類は、急激に衰退し、国家は滅亡した。
人々は孤立を余儀なくされ、世界の片隅に追いやられた。だが、人類はなかなかしぶとかった。
その数を減らしながらも、人類は滅亡しなかった。やがて、
科学技術の発展において、
が、
実際のところ、正しく処理を行い、誤った方法で運用さえしなければ
長い年月を経る過程で、正しい知識は薄まり、
「はあ……」
エクスはため息を吐きながら、専用スーツに足を突っ込んだ。
スーツを手で持ち上げ、身にまとっていく。
一見、ウェットスーツのようにも見える滑らかなスーツは、
スーツが体を滑ってエクスの体になじむ。足にぴったりとくっつき、股間にがっぽりとオナホールをはめ込み、腕をすっぽりと覆い、首元までしっかりカバーする。
専用スーツが首元までしっかり覆ったのを確認したエクスは、流線型のデザインのヘルメットを被った。
さらに、頻繁に取り換える機会が多くあり、ずっと決まった手足や武装でいることは少ない。
そんな
それは、スーツの部分だ。
オナホールやバイブと一体型のスーツは、エンジンと骨組みの部分を兼ねており、性能よりも
機体には、識別するための機体名称がある。
例えば臨時のパーティを組んだ時。例えば野外でほかの
外見で判断したとき、一番に目につくのは手足や場合によっては胸や背中の装甲だろう。しかし、それらは換装が激しく、一週間で変化したり、場合によっては戦闘中でも全く別の姿に変わることがある。そのたびにいちいち各部位の名称を指定して判断したり、呼んでいては不便だ。
なので、機体名称は主にオナホールエンジン、バイブエンジンのメーカーやシリーズ、型番で決まる。
例えば、エクスが着用するオナホエンジンは天羽シリーズが開発した標準的なオナホエンジン――
『TENBA ORIGINAL BOOSTCUP』
遥か昔から存在している老舗の大手メーカー天羽社が手掛ける、原点にして最高傑作のTENBAオリジナルだ。
オナホと言えば、コレと思っている人も多い。むしろ、オナホとTENBAは別物だと思っている人もいるほど別格のオナホだ。
圧倒的に万人受けする、男ならだれもが一度はお世話になると言われているそのオナホールは、余りにも知名度が高く、社名や商品名を出さずとも、イメージカラーである赤と白のストライプを見ただけでそれとわかる。
一口にTENBAオリジナルと言っても、いくつかのパターンに分かれており、目的や手段に応じて気軽に型を変えられることもその魅力の一つである。
例えば、エクスの愛用する『TENBA ORIGINAL BOOSTCUP』は高機動戦闘を得意とする
余りの快感に、ヌきたくないときでもヌけてしまうような出来栄えだが、決してそのカップから男根を抜き落してしまうようなヘマはしない。また、高速戦闘でありがちな高いGにも耐えるために、非常に柔らかい構造をしている。硬いと男根を折ってしまう恐れがあるためだ。実際何度かそういった事故も起こっている。メーカーの企業努力により、近年は戦闘中の生殖器損害事故は減ったが、未だ自身のイチモツがダメージを受けることに一抹の不安を抱える
以上の事から、エクスが現在纏っている
どれだけ立派な四肢を付けていても、どれだけ粗末な四肢をぶら下げていても、そうだ。
スーツで覆われた義手を動かす。指の先までしっかりと覆われたスーツには、体の線に沿うように光のラインが通っている。そのラインは、首元から手へ、指へ、足へ、足の指まで、まるで体の上から体の先に流れていくように通っている。
これは脳から出た電気信号を読み取って各種外骨格に指示を伝えるための人工機械神経である。
この神経のラインを通って体の先にある外骨格型のアームや、レッグに指示を伝えて動く。
エクスは股間にはめ込んだオナホで勃起した男根をしごいた。
「ぐっ……んあっ……」
オナホールはエクスの股間を刺激して強引に汁を搾り取る。
びゅるる!
かなり早く射精してしまったが、エクスが早漏というわけではない。
特に
むしろ、装着したその瞬間からエンジンを起動させることができるその手腕こそが、凄腕の
エクスは、胸部の装甲を頭から被って装着した。装着されたことを認識した胸部装甲が変形して、エクスの体に沿って密着し、接合部にロックをかける。
続いてエクスは地面に拳を突き立てて立っているパワードアームに右手を差し込んだ。
アームの中には、まるでいくつかの緩んだ鋼線をグローブのような形にまとめた特殊な形状のハンドルがある。このハンドルを握った形に合わせて、パワードアームも動く。
肩まで覆う形のアームは、エクスの右手をすっぽりと飲み込んだ。
アームがエクスの手を認識して、音を立てて機構を動かし、外れないように肩付近にある接合部にロックをかける。さらに、鋼線のハンドルも緩みがなくなり、エクスの手の形に締まり、密着する。しかし、それは決してきつく縛り上げるようなものではなく、優しく包み込むような形でだ。
エクスは右手を動かしてパワードアームを持ち上げる。
スーツは的確に意思をアームに伝え、アームは指示に従って動く。
グーとパーを交互に出して手の動きを確認する。
相変わらず義手に触覚はないが、問題はない。
同じ形で左のアームも装着する。こちらも特に問題がなく終わった。
次は靴みたいな顔をして待っているパワードレッグを履いた。
レッグ内部にも足の形に鋼線をまとめ上げたようなハンドルがあり、内部での足の動きを認識してレッグも連動して動く。しかし、レッグにはアームにない操作機構が一つある。
つま先の部分に一つ、ペダルがあるのだ。これはスラスター用のアクセルペダルであり、これを踏み込むことでスラスターが開き、ジェットが噴射される。
エクスはレッグを装着し、つま先のペダルを弱く押し込んで動作を確認した。
「おっ、とっと。」
半年ぶりのブースト移動は、少しバランスを崩したが問題ない。
十年近く
足や移動はそこまで問題にならないだろう。しかし、腕の方は今までとは全く別物の腕が付いている。これをどう扱っていくかは大きな課題になりそうだ。
エクスはブースト移動をやめて、立ち止まり、自身の装備を点検した。
おっと、攻撃用武装を忘れていた。
慌てて自分に割り当てられていた格納用スペースに戻り、ボロボロの片手剣を取り出す。
片手剣とは言うが、
「はあ……」
思わずため息が漏れる。
長年の傭兵稼業で揃えた装備はすべて消えた。
前線で扱っていたお気に入りの漆黒の装備はすべて木っ端微塵になり、倉庫で眠っていた二軍、三軍、倉庫番兵装も軒並み借金で消えた。
エクスに残ったのはこの、ツバキの同情で譲られた訓練機の型落ち四肢。量産型の廉価版の中古品だ。
ボロボロで傷が目立つパワードアームは、派手な雑音を立てながら動き、長年手入れされていないせいで泥の跡がしみ込んだ汚くて臭いレッグはスラスターの出力が不安定だ。備え付けの片手剣は、錆だらけで刀身が見えない。
幸い、動きはするが、いつまで保つのか……
「早いとこ傭兵稼業に戻って装備を整えないと……とほほ。」
ツバキに泣きつくのはごめんだ。土下座して買ってもらう装備はこの『TENBA ORIGINAL BOOSTCUP』スーツだけでいい。
エクスは俯きながら
◇
ヒソヒソヒソ。
「あれって、何年前のレッグ?めちゃくちゃぼろっちいんですけど……」
「お、男の
「なんでスーツだけ立派なの?」
陰口がエクスの傷心に塩を塗る。
全てが心を傷つける。
ちなみに男性用
「こりゃまた、凄い装備ですな。」
陰口ではなく、堂々と声をかけてきたのはクレアだ。
彼女が乗っていたのはなんと、専用機だ。
型番は『ニンファ』。こちらは超大手のバイブメーカーニンファ社が開発した、超王道のスタンダードタイプ。
ニンファは非挿入型のバイブで、局部を振動させるタイプのバイブだ。
非挿入型タイプは、性器損害事故が起こりにくく、かと言って挿入型に劣るわけでもない優秀な性能で、その中でも特にニンファシリーズは人気が高い。こちらも圧倒的知名度と、歴史で他の追随を許さない王道バイブで、性的ではない用途で使われることもしばしばある。電動マッサージ機として。
四肢には
オバケコロギスとも呼ばれるリオックは、巨大なコオロギのような見た目をしていて凶悪な戦闘力を誇る。メカマンティスよりも上位の
エクスの記憶では、メカリオックの体長は平均十メートル程とかなり巨大である。
メカリオックの残忍な棘が付いた前足をアームに使用しており、彼女の装備しているアームはまるでメカリオックそのもののような極太の恐ろしい見た目をしている。あの腕で殴られたら痛そうだ。
「事故の時に装備を全部失ってしまってな。」
悲しそうに笑うエクスをクレアは「へえ、どんまい」と雑に慰めた。
エクスはクレアの専用機を見て気が付いた。
ツバキの経営するこの学園は
成績が上位であればあるほど、
ならば早めに自分用の装備を持った方がいいという判断を、ツバキは下している。
なので学園においてクラス成績上位三名には専用機を配布しているのだ。
つまりクレアはかなりのやり手という事なのだろう。
「おはよう。」
クレアと雑談をしていたところにペルがやってきた。
ペルに挨拶を返そうと顔を見た時、昨晩の事を思い出して顔が赤くなるのを感じた。
それはペルも同じなようで、彼女も顔を赤くして目線を逸らした。
「ん?んん?」
妙な反応を示すエクスとペルの様子を見たクレアは何事かと頭をひねった。
だが、すぐに興味を失ったようでペルに話しかけ始める。
ペルの装備は、学生らしい訓練機。
学生らしいと言えば学生らしいが、ペルにしては少し変だ。
彼女は確か、メカマンティスをお世辞にもいいとは言えないような性能の訓練機を使って、単独で撃破していたはずだ。十五歳にしてその才覚は目を見張るものがある。……エクスは例外として。
そんな彼女に専用機がないのは少しおかしい。
クレアと会話を交わし終えたペルは、校外学習に備えて移動をし始める。
そのあとを追うようにその場から離れようとしたクレアを呼び止めた。
「なあ、なんでペルは訓練機なんだ?ペルの強さなら上位に入ると思うのだが。」
クレアは言葉を濁しながら顔をしかめた。
「あー、ちょっと今ペルはスランプでねえ。まああの子ならそのうち専用機をもらえるさ。」
話を素早く切り上げたクレアがスラスターを起動してその場から離れた。
訓練機を付けたまま装備の点検を行うペルの後姿は、いつもより少し小さく見えた。