「んっ……はぅぁ……っ……」
まどろみの中、苦しげな声が聞こえた気がした。ぼやけた頭がおもむろに覚醒していくにつれ状況を理解していく。
そうだ、おれは保健室に来ていたんだった。
元気だけが取り柄だと言われるおれだが、今日はどうにも頭が痛くて昼休みになると保健室を訪れた。
養護教諭の先生に言われるがままにベッドに横になり、そのまま寝入ってしまっていたらしい。
間仕切りカーテンが引かれていて周りの様子を目で確認することはできないが、先ほどの息切れしたような声──たぶん女の子の──は続いている。というか、聞き覚えのある声だった。
ベッドから降り、静かにカーテンを開けた。声は隣のベッドからしている。そっちもカーテンに遮られていた。
「おい、大丈夫か? 先生呼んでくるか?」
カーテン越しに尋ねた。染みのある布の向こうでびくりと震える気配がした。そうとう具合が悪いのかもしれない。息切れ、震え……ただの風邪ならいいが。
「だ、誰」おびえるように少女の声が聞いてきた。
「
今は中二だが、中学に上がってからはずっと別々のクラスになってしまっている。
「お前、
「う、うん、大丈夫」
雪はそう言うが、これは酔っぱらいが、「らいじょーぶらいじょーぶ、まりゃよっへないよ~」とのたまうのと同じだろう。だって、声の感じが記憶にあるそれと何か違うし。
「わかった」俺は首肯し、「じゃあすぐ呼んでくるから」と走り出そうとした。が、
「ま、待って!」
雪の必死な声に止められた。ごそごそと音がしてカーテンが開けられた。色素の薄いボブカットを寝癖のように乱して頬を紅潮させた彼女が現れた。若干涙ぐんでいるようにも見える。
「無理すんなよ、横になって待ってろって」再び背を向けようとすると、
「駄目!」
と雪に手首を掴まれた──わずかだが、ぬるりとした感触があった。
「お前の手、何かぬるぬるしてないか……」
雪は、「ひゃ」と控えめに悲鳴を上げて手を引っ込めた。その右手を隠すように左手で包んだ。「き、ききき気のせいだよ嫌だなぁもう柏谷君は昔から馬鹿なんだからぁ」などと言ってナチュラルにディスってくる。
「……」無言でおれは、まじまじと雪を見つめた。彼女は恥ずかしそうにもじもじしている。「──ああ、そういうことか」おれは察した。
「ぅぅ」雪はうつむいてしまった。耳まで赤くなっている。「何でよりにもよって柏谷君がいるのよぅ」
「雪って意外と大胆なやつだったんだな」
「言わないでぇ」
「どうしてこんなことをしたんだ?」
「ど、どうしてって……」雪の含羞に当惑と、そしてなぜか期待のようなものがまじった。ように感じた。「それはその」とごにょごにょ。
「何? 聞こえない」
「……らむらしてたから」雪は早口に答えた。
「ラムラ? どこの国のお菓子だそれ」そう聞き返すと、
「ムラムラ!」自棄っぱちな語勢で雪は言った。「朝からムラムラしてて我慢できなかったの! わたし性欲が強くてときどきこうなるの!」それから、「もうっ、言わせないでよぅ」と甘えるような声音。
「え……」今度はこちらが困惑する番だった。つまり、オナニーしてたってことか? じゃああの声は……。
おれの反応が予想外だったのか、雪も、「……え?」と困惑している。
「いやあのよ」おれはいたたまれなくなり頭を掻いた。「おれはさ、お前が授業サボってお菓子食ってたと思ってたんだけど」手のぬるぬるは油か何かで、苦しそうな声は喉に詰まらせたからだと。
「ぇ、嘘……じゃあ気づいてなかったの」
うん、と大きくうなずいた。「まさか学校でオナニーする非常識な変態だなんてまったく思ってなかった」
「ぁ、え、ぁぅ、あ、ぁ」雪はかわいそうなくらい朱に染まっていく。ぷるぷると震えてもいる。「……ぅぅ、最悪……ぅく、非常識な変態って言われた……ひく、もう何もかもおしまい……ぅぅ、ひっく」
雪の目尻に涙が溜まっていくのに気づき、おれは慌てた。彼女を泣かせたいわけではない。
「お、おい、泣くなよ」
しかし、雪の嗚咽はやまない。とうとう顔を手で覆ってしまった。
目の前で女子に泣かれた経験なんてほとんどないおれは、更に動揺した。脳味噌がぐるんぐるんだった。「わ、わかった!」だからおれが、「おれが手伝ってやるから! だから泣くなって」と、こう口走ったのは特別何か下心のようなものがあったわけじゃない。
言った後で吐いた言葉の意味を理解したくらいだ。それくらい何も考えていなかった。
何言ってんだおれは? とあきれる自分の声が脳内に現れた。普通に嫌がられるだろ、と。
しかし、
「? ……ぅぇ……?」雪の空模様は変化した。「ほんとに?」
あれ? 意外と乗り気?
「あ、ああ」ビビりつつうなずいた。
指を広げて目だけを覗かせて雪は、「こんなど変態のどスケベ淫乱女でも嫌じゃない?」と窺うように尋ねてきた。
「いやそこまでは言ってない」
雪は、「入って」とベッドのほうへ促した。
従って入ると、カーテンが引かれた。シャーという音が鼓動を煽る。
ふわりと甘い香りがした。柔軟剤とも違う、花のような、生々しくて柔らかい女の子のにおいだ。
ベッドに腰掛けた雪は、上目遣いにおれを見上げた。「座らないの?」
あ、ああ、とどもりながら答え──口が乾いていた──隣に腰を下ろした。ぎし、とベッドが小さく軋んだ。
セーラー服のスカートの端が左手に触れていることに気づき、とっさに、「あ、わりぃ」と手を引いた。
くすくすと雪は笑った。「謝らなくていいのに」
小学生のような幼い顔立ちなのに不思議と色っぽさを感じた。股関に熱が集まっていくのがわかる。敏感な部分が下着にこすれてもどかしい快感がちんこをくすぐった。思わず身じろぎしてしまった。
不意に沈黙が訪れた。心臓だけがうるさく存在を主張している。
ちらと横目で雪を見ると、目が合った。気恥ずかしくて視線を逸らした。
手伝うと言ったはいいものの、そんな経験はない。どうすればいいかなんてわからない。
「柏谷君は」雪が口を切った。「女の子とそういうことしたことあるの?」
「ないけど……お前はあんのか?」
「ないよ」
おれはこっそりと胸を撫で下ろした。
しかし、このままだんまりを決め込んでいては何も始まらない。ので、おれは尋ねた。「いつもはどうやってシてるんだ?」
「え、それは」と雪は一瞬困ったように口ごもったが、「あの、お股の所を指で」と恥ずかしそうに答えた。
「お、おう」
具体的に想像してしまい、頭がくらくらした。ちんこは痛いくらいに勃起してるし、もうこれバレてるよな。
またこそばゆい静けさが訪れるかと思ったが、そうはならなかった。
「さ、触る?」
雪がおずおずと聞いてきたのだ。見れば、スカートをめくってパンツをさらしていた。白地に黒いリボンがついているかわいらしいパンツだった。
彼女の瞳はひどく潤んでいた。
おれはそこへ右手を伸ばした。あと数センチのところで、「いいのか」と尋ねた。
雪は小さく顎を引いた。「あ、でも、優しく、して、少し、怖いから」
途切れ途切れの言葉におれはうなずき、股関の中心の辺り、恥丘と呼ばれる部分に布の上から触れた──息を呑む気配がした。
指先に柔らく湿った熱の感触があった。
もっと触りたい。雪の全部に触れたい。こんな布切れはすべて取っ払って全部をおれのものにしたい。
そんな原始的な情動が込み上げてくるも、先ほどの雪の言葉をかろうじて忘れていなかったおれは、何とかこらえ、努めてゆっくりと下のほうへ、雪の秘密の割れ目をなぞるように指を動かす。すると、何か小さくて硬いもの──これがクリトリスだろうか──に指先が当たった。
「んっ」
雪の声が鼓膜を撫でた。普段、というよりさっきまでの声とは明らかに違っていた。妙に細くて甲高い、そしておれの理性を激しく揺さぶる、そんな甘い声だった。
この声をもっと聞きたい。
その一心でおれは、こりこりとしたそこを小さく円を描くように優しくさすり、時には軽く押したりもする。
「ぁ……んっ……ぁん……」指の動きに合わせて雪が嬌声を洩らす。
おれは視界がチカチカするような興奮を覚えていた。じくじくとした射精感がちんこに溜まっていく。油断すると出てしまいそうだ。
しばらくそれを続けていると、雪がおれにしがみついてきて、そして、
「んんんっっ」と切なげな声を上げて身体を硬くした。
数拍の後、雪の身体がぐったりと弛緩した。
はぁはぁ──息が荒いのは二人とも同じだった。
おれに抱きついたまま雪は、はにかむように言う。
「イっちゃった」
その艶かしさとかわいらしさに理性が悲鳴を上げた。ちんこの先は我慢汁でどろどろだし、もういろいろと限界だった。
それを見透かしたのか、
「ごめんね、わたしばっかり」雪は言った。
「だ、大丈夫だ」まさしく震え声だった。お手本のような痩せ我慢。けど、かっこつけたかった。余裕があると思われたかった。「気持ちよかったか?」
「うん」雪の腕がぎゅっとおれを締めつけた。
うおっ、と内心で悶えた。破裂しそうなほど膨張したちんこは、衣擦れだけで多大なダメージを負う。本当に危なかった。
「柏谷君」
「な、何だ」
すっと雪は身体を離した。残念なような、ほっとしたような不思議な心持ちだった。
「その、それ、大丈夫?」雪の視線の先には激しく屹立したおれのちんこがあった。
「だ、だだだ大丈夫だっ」嘘です全然大丈夫じゃないです。
「あの、その」ためらうように雪はそれを言葉にした。「次はわたしがシよっか?」
「は? あ、え、はぇ?」頭が真っ白になっていた。する? 何を?
「あ、でも、男の子は出ちゃうのか……証拠が残っちゃうね……」雪は考える表情になった。
こういう顔もかわいいな、なんて呑気なことを思っていると、
「あ、そうだ」
雪は何かを思いついたようにそう発した。「あの、柏谷君が嫌じゃなければでいいんだけど」と、わざとなのでは? と勘繰りたくなるかわいすぎる上目遣いで彼女は言った。「あの、お口でシてもいいかな?」
「お、おくち?」
「うん、わたしのお口の中に出してくれれば痕跡は残らないし」
おれは呆然としていた。それはつまり、フェラチオをするということだろうか。そうだよな。しかも、飲み干す気満々だと……。
「あ、あのっ」雪は急に焦った様子を見せた。「違うからね? わたしは、あの、人よりだいぶえっちな子だけど、その、誰にでもこういうことするわけじゃないからっ! スるのは柏谷君が初めてだし」柏谷君以外にはシたくないし──最後のほうは消え入りそうな声だった。
はぁはぁ。自分の息遣いがやかましい。どくんどくんと脈打つたびに微弱な快感が全身を駆け抜けていく。
雪を見つめておれはうなずいた。
雪の、透き通るように白くて細い指がおれのベルトに触れた。カチャカチャという何てことのない音さえもエロく聞こえる。ベルトが緩められ、ズボンのボタンも外された。
そして雪はトランクスに手を掛け、勃起したちんこに引っかからないように広げながら下ろした。
「すごい……」感動したように雪はつぶやいた。「てらてらしててすごくえっち……」
ごくり、と生唾を飲み込んだ。おれも雪も。
「痛かったら言って」
そう言うと雪は、髪を耳に掛け、上半身を屈めておれのそれを小さな口に含んだ。
──その瞬間、強烈な快感が脳を揺さぶった。生温かい粘膜に包まれ、ぬるぬるとした刺激がちんこを射精させようとしてくる。ぐっとケツに力を入れてこらえる。こんなすぐに終わらせたくない。
何とか射精感が落ち着いたと思ったら、
「んんんんん?」
雪がくぐもった声を発した。その振動さえも致命的に気持ちいい。
と、今度は雪は口内全体を竿に密着させるようにした。頬の肉が、舌が、ちんこを抱きすくめる。ふわふわぬるぬるの圧迫感が加わってちんこが溶けるかのような錯覚が起こる。
はぁはぁ、はぁはぁ、と興奮がそのまま吐息に表れていた。もうギブアップしようかな、と思いはじめた。もういいかな。いやでも、もうちょっと雪の口を堪能したい。我慢しないと、いやでも──。
しかし、そんなおれを嘲笑うかのように雪は、がちがちになったちんこを搾り上げるようにゆっくりと顔を引いた。
「うっ、ヤッバ、それヤバい」あまりの気持ちよさにそう洩らした。
「んんんんん?」
雪は咥えたまま、また何かを言った。そして、おもむろにそれ──ピストン運動を開始した。
「あっ、ちょっ、と、待って、いったん、止まってっ──」
しかし、おれの切羽詰まった制止も虚しく、雪に手心を加える気はないようだった。彼女は無慈悲に官能的な上下運動を続ける。おれの視点からでは表情は見えないが、どこか楽しげにしているように感じるのは気のせいだろうか。
その時は間もなく訪れた。
「あ、やば、イくっ!」
──ちんこが、ぐっと、これでもかというほど膨らみ、焦らしに焦らされた精液が痺れるような快楽と共に鈴口から飛び出した。
「んっ」雪が声を上げた。
しかし、射精を止めることなんてできない。びゅるびゅる、と獣欲を雪の中にぶちまけつづける。
最後の瞬間、今まで味わったことのない甘美に満ち満ちた快感が股関から全身に広がり、身体を震わせた。
「はぁはぁはぁ」心地よい疲労感があった。
「んんっん?」
おそらく雪は、射精は終わったか、と尋ねているのだろう。今のおれはスーパー賢者タイムなので、この程度の解読は難なくこなせるのだ。
「ああ、もう離しても大丈夫だ」
すると、雪は吸い上げるようにしながら慎重に口を離した。そして、目元を緩めてエロチックなのにどこか母性的な不思議な視線を寄越してから、ごくりと喉を鳴らした。
「──にっがぁぁ」
事が終わって最初の一言がこれである。「ぅぅ、喉に引っついててエグいにおいが鼻に上ってくる」
「わりぃ」パンツを上げながらおれは言った。
「──なんてね」雪は、ふふ、と小悪魔めいた笑みを浮かべた。「おいしくはないけど、嫌じゃないよ。本当においしくないけど」
「とりあえず、べらぼうにまずかったってことは伝わった」
雪がカーテンを開け、壁の時計を見た。釣られるようにおれも視線をやった。もう六時間目が終わろうというところだった。
「戻ろっか」雪が少しだけ寂しそうに言った──そう感じるのはおれの願望ゆえだろうか。
おれは一組で雪は三組だ。別れ際、一度振り返って小さく手を振る彼女は、やっぱり世界一かわいかった。