春休み終了間近に、なんとか無人島試験編を終わらせることができました。
去年から書き始めた無人島試験編で、まさかここまで時間を使ってしまうとは思ってもいませんでした。
ですが、これで一区切りついたので、次の21話からは船上試験編が始まりますので、これからも読んでくださる方はよろしくお願いします!
1
Dクラスのベースキャンプの方角から黒い煙が立ち昇っていた。
「あれは……まさか、火事……?」
「え、嘘?!火事って本当?」
隣にいる佐藤さんの表情は俺以上に動揺していた。
「向こうで……何が起こっているんだ……」
考えている暇はない。状況を確かめなければ。
「上條くん、早く行った方がいいよ!」
「う、うん!」
篠原さんの声で、俺たちは急いでベースキャンプへと駆け出した。
現場に向かうと、すでに多くのクラスメイトが集まっていた。
火元は仮設トイレの裏側。
何かの紙の束が燃えた形跡が残っているが、すでにほとんどが灰になっている。
燃やされたものが何かは判別できなかったが、微かに紙のようなものが見えた。
俺はすぐ近くにいた堀北さんに声をかけた。
「何があったの?」
「……マニュアルが燃やされたみたい」
「マニュアルが? どうして……」
「それはわからない。けど……」
堀北さんは視線をそっと横に向ける。
その視線の先には、伊吹さんがいた。
伊吹さんなら、Dクラスを混乱させるためにマニュアルを燃やして騒動を起こす可能性は高い。
だが、伊吹さんの表情を見た瞬間、確信が揺らいだ。
伊吹さんは明らかに動揺していた。
火事を起こした犯人とは思えない困惑した表情がそこにはあった。
「……」
堀北さんも、黙って伊吹さんの様子を観察している。
俺たちは、お互いに確信を持てずにいた。
「上條くん、ごめん……これは僕の責任だよ」
そこに平田くんがやってきて、申し訳なさそうに俺に謝った。
「マニュアルは鞄の中に保管していたんだ。テントの前に積んであったし、昼間だから……誰かに盗まれたりするなんて、思いもしなかったんだ」
「ううん、平田くんに非はまったくないよ。悪いのはマニュアルを燃やした犯人なんだから」
俺はそう言って彼を気遣うが、平田くんの表情は沈んだままだった。
「犯人……」
犯人という言葉を平田くんは曇った表情で呟いた。
「いや……まずは消火しないと」
平田くんが無理に話を切り替えようとする。
俺と堀北さんも、それ以上は何も言わず、川へと向かい水を汲み消火作業を始めた。
「……でも、伊吹さんが犯人じゃないとしたら、誰が……?」
俺が呟くと、堀北さんも険しい顔で答えた。
「わからないわ。けれど、彼女以外にこんなことをして利益のある人物がいるかしら?」
「そうだよね……でも、さっきの表情、やっぱり演技だったのかな?」
伊吹さんのあの戸惑った顔。
あまりにもリアルだった。
しかし、犯行の動機としては伊吹さんが最も自然。
矛盾がある。
俺たちは火の始末を終え、再びベースキャンプへと戻る。
しかし、戻った途端クラス全体が荒れていた。
「どういうこと?このクラスに裏切り者がいるってこと?」
「なんで俺たちが疑われなきゃいけねえんだよ!下着の件とこれは別問題だろ?」
「わかんないじゃない……!上條くんに罪を擦り付けた犯人が、また何かしたのかもしれないし……」
「はぁ?そもそも上條は白確定なのかよ?」
クラスの雰囲気は険悪さを増していた。
そして、火元の周囲にポツポツと水滴が落ちているのに気づき、俺と堀北さんは同時に空を見上げる。
「……雨」
「最悪のタイミングね」
黒い雲が空を覆い始め、今にも本格的な雨が降り出しそうだった。
そんな中でも、クラスメイトたちの口論は止まる気配がない。
「もう嫌……どうしてこんなことになったの……クラスに下着泥棒と放火魔がいるなんて……」
「だから俺らじゃないって言ってるだろ!」
叫ぶ男子、疑い不満をぶつける女子。
いつもならすぐに間に入るはずの平田くんも、なぜか呆然と立ち尽くしているだけだった。
そんな時、少し離れた場所で様子を見ていた千秋さんが、ふと口を開いた。
「そういえば……伊吹さん、どこ行ったのかな?」
何気ない千秋さんの一言に、クラスメイトたちが一斉に辺りを見回す。
「本当だ、さっきまで近くにいたのに……」
「もしかして、この火事の犯人って……」
「……怪しい、よな。火事を起こすとしたら、それってやっぱり……」
クラスメイトが伊吹さんの不在に気づいた瞬間、疑念の向く先が定まる。
「彼女……やっぱり」
堀北さんは何かを確信したように、足早にその場を離れた。
「堀北さん、俺も行くよ!」
俺も咄嗟に後を追おうとする。
だが、堀北さんは振り返りもせずに言い放った。
「あなたはここで待っていて。これは私の不始末よ」
「でも……」
俺は堀北さんの体調があまり良くないことを感じ取っていた。
堀北さん1人で伊吹さんを追わせるのは危険だと思った。
だが、俺を止めるのは堀北さんだけじゃなかった。
「堀北には1人で行かせた方がいい」
後ろから綾小路くんが静かに、俺を制止した。
「っ!でも……」
「上條は平田のことを気にかけてやってくれ」
綾小路くんの視線を追い、俺も平田くんの方を見た。
平田くんは雨にも気づかず、まったく動かない。
池くんの声にすら、反応しなかった。
「平田に寄り添えるのはお前が適任だ」
綾小路くんの言葉に、俺は頷いた。
「……わかった。堀北さんのことは任せていいんだよね?」
「ああ」
綾小路くんの言葉を聞き届け、俺は平田くんのもとへと歩き出した。
クラスの雰囲気は、依然として重く張り詰めたままだった。
「おい平田、何やってんだよ!」
池くんの叫び声が響く。
だが、平田くんはまるでその声が届いていないかのように、ただ雨に打たれながら立ち尽くしている。
平田くん……どうしたんだ。
いつもの平田くんなら、こんな非常事態には真っ先に動くはずなのに。
どうして……
「平田くん!」
俺も池くんに続いて声をかける。だが返事はなく、反応もない。
俺はそっと彼の肩に手を置いた。
濡れたジャージ越しに感じる冷たさ。肩を軽く押し、俺の方へと向かせる。
「……え?」
平田くんから、拍子抜けするような無防備な声が漏れる。
だがその表情は、青ざめていた。そこには、いつもの明るく頼れる平田くんの面影はなかった。
「平田くん! どうしちゃったの! 池くんも呼んでるよ」
俺の声で、ようやく平田くんの意識が俺に向く。
そしてようやく、降り続ける雨の存在に気づいたようだった。
「……雨……」
「平田くん、大丈夫? しっかりして」
「う、うん……大丈夫だよ」
平田くんはかすかに頷いたが、その声はどこか弱々しい。
とにかく、このままではまずい。
「取りあえず、濡れたものをなんとかしないと」
「そ、そうだね。すぐ片付けないと」
まだ本調子ではないみたいだけど、平田くんは自分の足で歩き、池くんたちのもとへ向かっていった。
その背中を見送る俺の隣で、須藤くんがぼそっと呟いた。
「平田の奴、大丈夫かよ……」
「この試験では、平田くんがクラスのみんなを支えてくれてたから……きっと色々抱え込んじゃったのかも」
俺がそう言うと、須藤くんは少し遠くを見ながら続けた。
「なるほどな。中学ン時、優等生の坊ちゃんがいたんだけどよ、重責っつーの?色々抱え込んでたせいである時爆発してよ。そっから一時クラスはめちゃくちゃになったんだよな」
「もしかして、平田くんがそういう風になるんじゃないかってこと?」
「まあ、似たようなもんを感じるっつーか。どっか危なっかしい気はするぜ」
須藤くんの言葉が胸に引っかかる。
いつもは頼りになる平田くん。でも、もしそんな彼が壊れてしまったら。
俺は平田くんにちゃんと寄り添えるんだろうか。
いや、そうならないために俺たちが支えなきゃいけない。
クラスのためにも、何より、平田くん自身のためにも。
2
私は重い体を無理やり動かし、伊吹さんを追いかける。
ベースキャンプから離れた彼女の消息はぬかるんだ地面の足跡のおかげで分かる。
これを辿れば彼女にたどり着くはずだ。
100メートルほど歩くと、伊吹さんはまるで私が来ることを期待しているかのように立ち止まっていた。
「どういうつもり?」
伊吹さんは振り返ることはせずに、声だけを掛けてきた。
「追って来てるのは気づいてる。出てきたら?」
「いつから気づいていたの」
「最初から」
短くそう答える彼女の様子は、今までとは何かが違う。
物静かなだけではない何かを今の彼女からは感じられた。
「それで私を追ってきた理由は?」
「直接言われなければ分からないのかしら」
「わからないな」
「追われる理由はあなたが一番よくわかっているんじゃないの?」
「本当に心当たりがないっていうか。なに、なんなわけ?」
ここまで言っても白を切るつもりなのか、それとも本当に彼女じゃないのか。
「嘘を言ったって仕方ないと思わない?」
私の迷いを瞬時に見抜いたのか、伊吹さんは追い打ちをかけるように言った。
「少なくとも私を追ってきた理由をあんたの口から説明受けたいな」
「下着が盗まれた件や火事の騒ぎ。Dクラスは災難続きだわ」
「それが?」
「一部からあなたが疑われていたことは理解してるわね?」
「ああ。私は部外者だから疑われるのは仕方ない」
「つまりそういうことよ」
「私が犯人だと?証拠でもあるわけ?」
「残念だけど下着の件に関しては何ひとつ証拠がない。でも私はあなただと思ってる」
「なかなかひどい話だな。証拠もないのに疑うなんて」
「あなたを疑う理由。それは今日の行動のせいよ。その説明は不要でしょう?」
どうにかして、伊吹さん側から証言を取りたい。
でも、ここで私がDクラスのリーダーだと告げることはできない。
万が一にも、彼女がカードキーを盗んでいなかった場合、自分から無意味に情報を曝け出すことになってしまうから。
「単刀直入に済ませましょう。私から取ったモノを返して」
「知らないな」
彼女はそう答えると足早に歩き出す。
私もその速度にあわせて追いかける。
伊吹さんは途中で進路を変えるように森の中へと足を向けた。
「どこに行くの」
「さあ、どこだろうな」
彼女の前では気丈に振る舞っているけれど、私の体力はかなり消耗していた。
早く言質を取らないと……
私の中で焦りが生まれる。
ミスを取り返さなければいけない。ミスを取り返さなければいけない。
私の頭の中で、同じ言葉が何度も何度も繰り返される。
始まったばかりの高校生活。
兄さんに認められるようなことは何もできていない。
須藤くんの暴力騒動の時も私が力になれたことはほとんどなかった。
上條くんが裏でBクラスの一之瀬さんと協力関係に持ち込んだことが大きいみたいだし、私は……
この学校に入学して何ができたのかしら。
今回の試験にしても、私は何ができたと言うの?
動悸が激しくなる。
場合によっては、無理やりキーカードを取り戻すことも視野に入れないと。
大丈夫、私なら上手くやれる。上手くやれる。上手くやれる。上手くやれる。
冷静じゃないことは自分でもよくわかってる。
でも、これ以上の失敗は許されない。
こんなところで終わるわけにはいかない。
「どこまで追ってくんだよ。いい加減にしてくれない?」
伊吹さんは突然立ち止まると、ふと一本の木を見上げた。
その視線の先には雨で濡れた一枚のハンカチがくくりつけられていた。
なにかの目印のようだけれど、そこに何があるのかはわからなかった。
「私から盗んだものをあなたから取り返すまでよ」
「落ち着いて考えてみて貰えない?もし私がキーカードを盗んだんだとしたら、いつまでもそんな危ないもの持ってるわけないだろ。そんなところを誰かに見られたら即失格。私自身ポイントを失うだけじゃ済まなくなるんだけど?」
「キーカード……」
盗まれたものを返してと言っていただけで、私は一度もキーカードとは口にしていない。
つまり、今彼女は自白した。
だが、当の本人である伊吹さんは白い歯を見せて薄く笑った。
「私が自白した。なんて思ったか? 残念だけど違う」
「なら、どういうことなのかしら……」
「あんたとのお喋りにも飽きたってことさ」
伊吹さんはしゃがみ込み、両手を使って地面を掘り始める。
「は、くっ……」
それとほぼ同時に私は強烈な眩暈と吐き気に襲われ、傍にあった大木に背中を預ける。
「随分体調が悪そうじゃない」
「はあ……はあ……っ……」
もう駄目、雨の影響もあって私の体温は奪われていく。
このままじゃ、何もできないまま終わってしまう。
そうなるくらいなら……
「伊吹さん。力ずくで調べさせてもらうことになるわ。それで構わない?」
「力ずく? もっと具体的に言ってくれない?暴力振るうってこと?」
「……最後の警告よ。素直に、返しなさい……」
「最後の警告か……分かった分かった。だったら好きにすれば?」
伊吹さんは、肩をすくめながら両手を軽く上げ、降参のポーズをとってみせた。
でも、彼女が観念したようにも見えない。
ただこの機会を逃すわけには行かない。
私は、鞄の中身を確認するために手を伸ばした。
その時だった。
鋭い風を切る音と共に、彼女のしなやかな脚が一直線に私の顔面を狙って放たれた。
私は咄嗟に地面を蹴り、伊吹さんの蹴りを間一髪でかわす。
「へえ。やるじゃん」
「暴力行為は即失格よ……」
「こんな場所で誰が見てるって言うんだか。それにおまえもやる気だったろ?」
彼女がニヤリと口角を上げた、その瞬間。
肩を強く掴まれ、体が跳ねる。
私は反応する間もなく、ぬかるんだ地面に押し倒される。
「ちょっとの間寝ててもらえる?」
真上から見下ろす彼女の顔は、泥のせいで霞んで見える。
そして伊吹さんの手が私の胸倉を掴み、勢いよく私の身体を引き起こす。
そして彼女の拳が顔面に振りかぶられる。
これを受けたらまずい。
私は瞬時に片腕をねじり込み、伊吹さんの拳を流すように払った。
そして身体を地面に滑らせ、伊吹さんから距離を取った。
泥で滑る手を地面につき、ゆっくりと立ち上がる。
正直言って満身創痍。
けれど、まだやれる。
やらなきゃ駄目なのよ。
「へえ? 意外と動けるじゃない。何かやってた?」
初めて、武道をやっていてよかったと思った。
それでも慌てることもなく、伊吹さんは感心したような目で見つめていた。
伊吹さんのその余裕、こちらに武術の心得があると見抜いたうえでの対応のようね。
つまり、彼女もまた並の使い手ではないということ。
この状況を最悪と言わずして、何と言えばいいのか。
「全く……この試験、私は失態ばかりね」
私は何一つ、Dクラスに貢献できていない。
むしろ、体調が悪いくせにしゃしゃり出たことで、クラスの足を引っ張ろうとしている。
この学校に来てからというもの、無力さを思い知らされる場面ばかり。
1人で大丈夫。そう思い込みたかった。
でも、本当は気づいていた。私は1人では何もできない。
それを認めるのが怖くて、プライドが邪魔して許さなかった。
上條くんが手を差し伸べてくれたのに、それすら拒んでしまった。
私って、本当に馬鹿ね。
「あなたでしょう……? キーカードを盗んだの」
その瞬間、伊吹さんの動きがピタリと止まる。
けれど、彼女のためらいは一瞬だった。
次の瞬間には、踏み込みと同時に間合いを詰めてきた。
右の拳が鋭く軌道を描く、しかしそれは囮。
私が体勢をずらすのと同時に、回し蹴りのような鋭い蹴りが頭部を狙ってくる。
私はわずかに身を沈めてそれをかわし、反撃に転じて腕を伸ばす。
でも、伊吹さんは即座にそれを察知し、体をひねってその手を躱した。
そして、すぐさま重心を移して間髪入れずに次の攻撃へ繋げていく。
ぬかるんだ地面でも足を取られず、動く彼女の足運びは、熟練者のそれだった。
私の隙を見つけるたび、ためらいなく打ち込んでくるその鋭さ。
むしろこの状況を楽しんでいるかのように、彼女は白い歯を見せて笑っていた。
こんな形で彼女の笑顔を見ることになるなんてね。
体を動かし続けたせいで、全身を襲う寒気と吐き気が増してくる。
視界が揺れ、意識がぼやけていく。
立っているのもやっとの状況だ。
「ここまで頑張ったご褒美に真実を教えてやるよ。カードを盗んだのは私だ」
伊吹さんはポケットに手を突っ込み、ゆっくりとカードを取り出した。
そのカードの表面には、しっかりと私の名前が刻印されている。
「……ここに来て、あっさり認めるなんてね」
「認めても認めなくても関係ないところまで来たからな。私から暴力を振るった証拠はない。学校側に正しいジャッジを下すことなんて絶対に出来ない。そうだろ?」
確かに彼女の読みは正しい。
もし私が一方的にやられたとしても、伊吹さんには言い逃れの余地がある。
訴えたところで、結果は両成敗。
損をするのは、ポイントを多く持つDクラスだ。
伊吹さんにとって都合の良い状況が出来てしまっている。
でも、希望がないわけじゃない。
キーカードさえ取り戻せれば、まだ勝機は残っている。カードには指紋が残っているはず。
盗まれたと正当に主張できれば、学校側も調査に動いてくれるかもしれない。
その望みを、今ここで捨てるわけにはいかない
だけど、次の一手で伊吹さんを制圧できなければ、キーカードは取り返せない。
あれだけ大胆に動ける彼女が、何も考えていないとは思えない。
持ち去られたら最後、カードは二度と見つからないだろう。
そうなれば、盗られたと言ってもその言葉に信憑性は生まれない。
……それだけは避けたいのに。
でも、私にはもう走る力も、派手に攻撃を仕掛ける力すら残っていなかった。
伊吹さんが一歩、そしてもう一歩。
まるで狩りを楽しむハンターのような足取りで地を駆けてくる。
その目には、完全に私を獲物として捉えた光が宿っていた。
視線が一瞬、私の足元を掠める。
でもそれはフェイント。
下半身を狙うと見せかけて、その意識を逸らし、
彼女はわずかなタメもなく、一直線に右拳を私の顔へと突き出してきた。
髪を掠めるほどの至近距離。
私は身体をひねってぎりぎりでかわすと、その勢いを利用して背中にごく僅かな力を加えた。
バランスを崩した伊吹さんの体が一瞬だけ泳ぐ。
今だ。
私は彼女の腕を取ろうと手を伸ばしたが、彼女もまた瞬時に反応して身体をすり抜けるように逃れた。
見抜かれていた。
でもそれでも、私は最後の力を振り絞り、渾身の拳を彼女のみぞおちに叩き込んだ。
「は――!」
鈍い音とともに拳が沈み込み、伊吹さんが息を詰まらせて膝をつく。
けれどそれと同時に、私の視界がぐにゃりと歪む。
もう、追撃する力も残っていなかった。
「最悪……もう、限界ね……」
呼吸が浅く、身体は冷え切り、頭は割れるように痛む。
それでも、まだ終われない。
さっきの一撃は浅い。伊吹さんを止めるには至らなかった。
「分からないな……。私はてっきり、おまえが一枚噛んでると思ったんだけどな」
伊吹さんは泥を拭いながら、ふらつく足で立ち上がった。
「噛んでる? 何のこと……?」
話すかどうか一瞬迷った様子を見せた伊吹さんだったが、やがてポツリと漏らした。
「マニュアルを燃やしたのは私じゃないってことだ」
「…………ここに来てまだ嘘を重ねるつもり?」
「あんなものを燃やして私に何の得があるって言うんだ?あの火事の騒ぎで再び犯人探しが始まることは必至。いずれ私を強く疑いだす。百害あって一利なしだろ」
「それは……」
彼女の言葉は、確かに一理ある。
伊吹さんは火事が起こる前にキーカードを盗んでいた。
わざわざマニュアルを燃やす理由などない。
じゃあ、誰が、何のために?
あれは伊吹さんの計画にはないことだと言うの?
「私が回りくどくおまえと話してたのも、それを確かめるためだったんだけどな。どうもおまえは違うみたいね。でも、それはそれで腑に落ちないっていうか。Dクラスにいると思う?おまえよりも先に、私の犯行だって気づけそうなヤツ」
彼女はため息をつき、わかるわけないか、と呟いた。
「つ……まさか……」
そのとき、私の脳裏にある人物の顔が浮かんだ。
けれど、次の瞬間、ドン、と鈍い衝撃が頭を叩きつけ、私は地面へと叩き倒された。
「お喋りは終わりだ」
無意識に手をついて起き上がろうとするも、伊吹さんの足がその手を軽く払っただけで、私はあっさり崩れ落ちる。
そして彼女が私の前髪を掴み、ぐいっと顔を持ち上げる。
「は、離しなさい……」
「悪いな。私も色々立て込んでるんだ」
軽く息を吐くと、彼女の右手が振りかぶられる。
正直もう限界だった。
それでも、このままでは終われない。
私は掴まれた前髪を振り払って、ゆっくりと体を起こし、距離を取ろうとする。
けれど足がもつれ、再び地面に崩れ落ちる。
「こんな強引な方法が、許されると思っているわけ……?」
「さあ。答える気は無いな」
伊吹さんがすっと距離を詰める。
そして高く足を振り上げ、顔面めがけて蹴りを放ってくる。
何度、自分に言い聞かせただろう。
私は……大きな過ちを犯した。
誰にも頼らず、1人で失態を取り返そうとして、
取り返しのつかない状況にしてしまったんだ。
綾小路くん、上條くん。
ごめんなさい……私はもう……
3
平田くんの様子は完全に戻ったとは言い難かったが、ひとまず安心できる程度には落ち着いていた。
俺はもう一つの心配だった堀北さんの様子を見に行くことにした。
綾小路くんには止められていたが、それでも今の堀北さんを一人にするのはどうしても気が引けた。
俺は足早に彼女の足取りを追う。雨でぬかるんだ地面には、うっすらと足跡が残っていた。
3つの足跡。堀北さんと伊吹さん、そしてもう1つは……綾小路くんのものだろうか。
綾小路くんが、結局一緒に来てくれてたのか。
そんなことを思っていた矢先、目の前に映ったのは大木の前で倒れ込み、意識を失っている堀北さんを抱きかかえる綾小路くんの姿だった。
「ん……っ」
抱かれていた堀北さんが、小さく呻くように声を漏らし、ゆっくりと目を開ける。
「気がついたか?」
「……あやの、こうじくん……?」
普段の堀北さんとは違い、どこか幼げで頼りない声だった。
「堀北さん、それに綾小路くん……いったいここで何があったの?」
俺は思わず2人に駆け寄る。
「かみ……じょうくん……あなたまで……」
俺の名前を呼びながら視線を向けてくるが、すぐに頭痛に襲われたのか、堀北さんは頭を押さえる。
「っ……頭、痛い……」
「相当熱が出てるからな。無理しないほうがいいぞ」
綾小路くんが、落ち着いた声でそう言った。
「で、でも……ごめんなさい綾小路くん、それに上條くん……私」
「無理に喋らなくてもいい。お前はもう充分頑張った」
「綾小路くんの言う通りだよ。堀北さんは体調も悪かったんだし、これは仕方のないことだよ」
俺たちの言葉に、堀北さんはかぶりを振る。
「やっぱり……キーカードを盗んだのは伊吹さんだったわ。でも私は何もできなかった」
自責の言葉を、ぽつりと零す。
「私がもっとあなたたちのことを頼っていたら、こんなことにはならなかったかもしれないのに……」
「お前がそう思えるようになったのなら、それは良いことなんじゃないか?今後は信頼できる友達を作ること。まずはそこからだ」
「それは難しい相談ね。……誰も私のことなんて相手にしないもの」
自嘲気味な堀北さんの言葉に、綾小路くんが静かに笑う。
「笑われても仕方ないけれど、バカにされるのは不愉快ね……」
「いや、そうじゃない。お前の中でも仲間が必要だと感じ始めてるんだと思ってな」
「誰も、そんなこと言ってないわ……」
否定するものの、それ以上の言葉は出てこなかった。
「さっき、堀北さんは自分を相手にしてくれる人なんていないって言ってたけど、俺はそうは思わないよ」
「え?」
「櫛田さんや、平田くん。須藤くんに池くんに山内くん。そして俺と綾小路くん。堀北さんが考えを変えるだけで、仲間はたくさんいると思うけどな?」
俺はそのまま言葉を続けた。
「信頼できる仲間……そんな大それたものに急になれるとは思ってないけどさ。俺がその前例になるから。堀北さんも俺のことを頼ってよ。綾小路くんも俺も、堀北さんの力になるから」
「上條くん……あなた、なんだかクサいわよ」
堀北さんはそう言って、少しだけ笑った。
「お、俺は結構真面目に言ったつもりなのに!綾小路くんもなんとか言ってよ!」
「悪いな、上條。オレも堀北と同意見だ」
「うそっ、綾小路くんまで?」
「でも、上條の言った通りだ。堀北、お前が1人で戦えないなら、2人で……3人で戦えばいい。オレが手を貸してやる」
「どうして……?あなたは、そんなこと、言う人じゃない……」
「さあ、どうしてだろうな」
堀北さんはそのまま、静かに目を閉じ再び意識を失った。
意識を失った堀北さんを、綾小路くんは静かに見つめた。
やがて、俺の方へと顔を向けると、綾小路くんは落ち着いた声で言った。
「堀北はここでリタイアさせる」
「え?」
思わず声が漏れる。だけど、それが当然の判断だということは俺にも理解できる。
堀北さんの容態は、どう見ても試験の継続に耐えられるようなものではない。
無理をさせれば、身体に深刻な影響を及ぼしかねない。
だが、それでも、この試験においてリタイアの意味は重かった。
この選択によってDクラスが被るペナルティは、たった1人分でもマイナス30ポイント。既に高円寺くんのリタイアで同じく30ポイントの損失が生じている。
食糧面では上手く節約してきたが、それでも物資の購入で約70ポイントを使用しており、現時点での失点は合計マイナス130ポイントにまで達していた。
さらに、堀北さんのキーカードは一度、伊吹さんによって奪われた。その結果、他クラスにリーダーを的中されるという最悪の展開。
これによるマイナスは50ポイント。しかも、それに付随して得られるはずだったスポット占有の追加ポイントまで無効となってしまう。
計算すれば、この試験中にDクラスに残されるポイントはわずか120ポイント程度になる。
厳しい状況だ。だが、それでも堀北さんの体調が悪くなるのは見過ごせない。
「確かにそうだね。堀北さん、体調が悪そうだしこのまま試験を続行させるわけにはいかないよね」
素直に、そう答えた。
だが綾小路くんは、それに頷いたあとでこちらに近づき、静かに言った。
「ああ、だがその前に1つ上條に言っておくことがある」
「なに?」
俺が問うと、綾小路くんは間を置かず、まっすぐに俺を見据えて口を開いた。
「堀北をリタイアさせた後、お前が――」
俺が綾小路くんに伝えられた言葉、それは俺の頭で一瞬で理解できるようなものではなかった。
ただ、ひとつだけ確かに感じたことがある。
綾小路くんは、この事態を最初から予測していた。
いや、それだけじゃない。まるで、自分自身の手でここまで導いてきたかのようにすら思える。
そう錯覚してしまうほど、綾小路くんの言動には一切の迷いがなかった。
そのとき、俺の胸の奥にぞくりと冷たいものが走った。
綾小路くんの中にある何か知らない一面を感じ取ってしまったような、そんな静かな恐怖だった。
4
俺は綾小路くんに対して、ほんの僅かに、だが確かに恐怖に似た感情を抱いていた。
でも、それを押し込めるようにして、意識を切り替える。
今は、堀北さんを無事に引き渡すため、教員が待つ浜辺へと向かう必要がある。
「上條、浜辺への道はわかるか?」
綾小路くんが俺に確認してくる。
この試験が始まってから、俺は島中を駆け回っていたため、主要なルートは頭に入っているし、危険な地形もある程度把握している。
「うん、任せて。ただ、もう6時近いから安全な道から行った方が良いかも?」
「そうだな、そこは上條に任せる」
俺は頷くと、なるべく傾斜の緩い道を選んで歩き出した。
雨でぬかるんだ地面を避けつつ、確実な道を選び、2人で静かに歩を進めていく。
そして、しばらく無言の時間が続いた後、ふと俺は気になっていたことを口にした。
「ねえ、綾小路くん」
「なんだ?」
歩みを止めずに返ってくる静かな声。
「さっきのことなんだけど、あれっていつから考えてたの?」
「いつから、というと?」
「堀北さんのリタイアは、さっきの思いつきなのかな?」
俺の問いに、綾小路くんの足取りは変わらない。
だが、俺の心には、ほんの少し緊張が走った。
あの瞬間、綾小路くんが口にしたその後の策。
それは、堀北さんのリタイアによる失点、さらにはキーカードを奪われたことによる損失までもを帳消しにするような内容だった。
あれほどの計画と決断を、あの一瞬で出せるとは到底思えなかった。
なら、綾小路くんはあらかじめ、この未来を予想していたのか?
「勘ぐりすぎだ。と言いたいところだが、お前には話しておくべきかもしれない」
綾小路くんの口から静かに漏れたその言葉は、俺の予感を裏付けるには十分だった。
つまり、堀北さんのリタイアは、綾小路くんの中ではすでに想定内だったということだ。
「だが、今それを話すつもりはない。この試験が終わったら、船上で話す」
「う、うん……」
俺は思わず息を飲むように返事をした。
「心配はするな。この試験はDクラスが勝つ」
その言葉には、これまでの綾小路くんからは感じ取れなかった自信が滲んでいた。
俺は思わず綾小路くんの横顔を見る。
そこには、いつもと何も変わらない静かな瞳があった。
でも、今はその瞳に恐れを抱いた。
何を考えているのかわからない、感じさせない綾小路くんの瞳。
俺は、なにか恐ろしいものと対話をしているのではないか。
そう思わずにはいられなかった。
5
俺たちは浜辺に到達し、堀北さんを無事にリタイアさせることができた。
堀北さんの同意を直接得られたわけではないが、あの体調では試験の続行は不可能だっただろう。
おそらく説得しようとしても納得してくれなかっただろうし、それに、綾小路くんの策を聞いた今となっては、それがDクラスにとって最善であることが解った。
だから、俺と綾小路くんは少し無理をしてでも堀北さんをリタイアさせなければいけない。
そして、俺と綾小路くんは8時の点呼前にはDクラスのベースキャンプへと戻ってくることができた。
時間に余裕があったとは言えないが、無駄のないルートを選び、7時50分ごろには到着できた。
ベースキャンプに戻り、点呼を終えると堀北さんのリタイアは段々とクラス内に知れ渡っていく。
「堀北さんリタイアしたってマジ?」
「リーダーがリタイアしたってヤバくない?」
「それに伊吹さんもいなくなっちゃったし、何がどうなってるの?」
生徒たちの間に不安と動揺が広がっていく。
平田くんがなんとかフォローを入れて場をまとめてくれたが、クラスの雰囲気は明らかに重苦しくなっていた。
その後、クラスの誰もいない場所で、平田くんが俺たちに小さくこぼした。
「Dクラスは終わりかもしれない」
普段なら弱音を吐かない平田くんの言葉に、胸が締めつけられるようだった。
だが、綾小路くんはそこで一歩前に出て口を開く。
「そうかもしれない、だが堀北から1つ伝言がある」
綾小路くんは俺に語った内容よりも概要をぼかし、平田くんにあることを告げた。
平田くんはしばらく黙っていたが、やがて静かに頷いた。
「わかった、僕は堀北さんを信じるよ。堀北さんのリタイアを無駄にしないためにもね」
「ああ、だがクラス全員に知らせるのは試験後の方がいいだろう。情報を知るものが多ければリスクも増えるからな」
そのやり取りから、堀北さんのリタイアに関する真相は3人だけの秘密として処理された。
その夜。
クラスの全員が眠りに就く中、俺は自分の持つ隠密性と身体能力を活かして、1人で行動を始めた。
島の地形を熟知していたこともあり、誰にも気づかれずに目的を果たすことができた。
そして、俺は静かに1人寝床に戻る。
俺の、俺1人の最後の戦いを始めるために。
静かに目を閉じ、夢の中に意識が落ちていく……
6
夢の中。
何も存在しない空間。
色も音も匂いもない、ただただ広がる虚無の世界。
俺は再び、そこに身を投じていた。
「起きんかい!」
耳に残る、あの嫌な声。
強制的に夢の世界で目覚めさせられる。
この空間に現れるのは、俺をこの世界に転生させた神を自称するロリババア。
言葉遣いは年老いた老婆そのもの。
だが、その外見はどう見ても幼児。
見た目と中身が真逆すぎて、何度会っても慣れる気がしない。
「もうとっくに起きている」
俺がここにいるのも、俺が奇妙な能力を手にしたのも、そして今こうして苦しんでいるのも全部、こいつのせいだ。
確かに、俺はこのロリ神の与えた能力に救われた部分がある。
千秋さんと今の関係になれたのも、こいつの能力のおかげだろう。
でも、だからといって許せるわけじゃない。
こいつは俺の人生を娯楽のように弄び、好き勝手に振り回してきた。
どんな理由があろうとも、こいつに支配されるような人生だけはごめんだ。
与えられた力なら、それを超えてやる。それが俺の意地でもある。
このロリ神が与えた能力で、俺はこいつを見返す。
お前が与えた力で、お前自身に後悔を味あわせてやる。
それが、今の俺の原動力だ。
「なんじゃ、起きておったのか」
相変わらず気さくな調子で、こいつは俺に話しかけてくる。
「覚えておるじゃろうな?ペナルティのことは?」
「ああ、嫌という程な」
ペナルティ。
俺はこの試験中に10人以上とセックスをしなけれなならない。
これを達成しなければ、俺は何らかの罰を受けるらしい。
「お主は今、この試験で9人の女子とセックスをしたようじゃが、まだ足りないぞ?わかっているのか?」
「試験はまだ終わってない。あと1日残ってる」
「じゃが、明日は試験の結果の発表でほとんど時間はないぞ?もうこれでお主の負けは決まったようなもの」
鼻で笑うようなその言い方に、俺の怒りが高まっていく。
だが、俺はこのまま黙って終わらない。
「なあ、お前は俺にどうして欲しいんだ?」
俺は静かに、しかし鋭く問いかけた。
「どうとは?」
こいつは首を傾げ、いつもの調子で問い返してくる。
「そのままの意味だ。お前は俺に何を求めてる?何を期待してる?」
俺の言葉に、神は小さく口元を緩めた。
そして、面白がるようにクスリと笑う。
「そうじゃな、お主の悩む姿?苦しむ姿?自分の理性と本能、それに葛藤するお主の姿は実に面白い」
まったくもって、ふざけた野郎だ。
俺という人間を、感情を、意思を持った存在を、こいつはただの娯楽として見ている。
俺が必死に積み上げてきたものを、試行錯誤の先で流した汗と涙を、すべて面白いの一言で片づけるつもりか。
こいつは、俺のことを本当に、何だと思っているんだ。
「俺は今、お前にすごくムカついてるんだ」
「そうかそうか、まったく……わしが色々と世話してやったと言うのに恩知らずな奴じゃな」
神は呆れたと、ため息をつき肩をすくめる。
「でも、今からお前のその表情が歪んでいくと思うと、興奮はするけどな」
「はぁ?お主は何を言っておるんじゃ?」
理解できないというように、神は鼻で笑う。
だが、俺の言葉の通り、神の表情は段々と変化していく。
「な? なにが……」
神の目がわずかに揺れ、笑みが徐々に引きつり始める。
表情に、変化の兆しが現れ始めていた。
「こんな……これは、なんじゃ……」
ロリ神の顔は紅潮し、息が荒くなり始める。
「お主は……わしに何をしたんじゃ……」
神は自分の身体を抱きしめるように腕を回し、後ずさりをする。
「なにを……何をしたんじゃ!」
神が初めて見せる、その表情の変化。
俺は思わず笑みがこぼれるのを抑えきれなかった。
「何って?お前が1番よくわかってるはずだろ?」
そう、これはこのロリ神が俺に与えた『発情』のスキル。
効果は説明するまでもない。
「くっ……こんなもの!わしに通用するはずが!……ないはずなのにっ!」
神は必死に自分の身体を抱きしめるが、その行為に意味などない。
「はぁ……はぁ……」
神の顔は紅潮し、息も荒くなっていた。
「あっ……っはぁっ!……な、なぜじゃ!そんなバカなことがっ」
神は自分の身体の変化に困惑していた。
「お前がこの前の夢でご丁寧に『発情』のスキルの発動条件を説明してくれたからな」
「きっ、きさまぁっ!」
俺が対象にセックスをしたいと思いさえすれば、誰であっても発情させることができる。
もちろん、この発動条件には対象の同意は必要ない。
それは、相手がお前であっても変わらないはずだ。
「はぁ……はぁっ……」
「どうした?自分が与えたスキルに苦しめられる気分ってのは?」
「きさまっ!わしをどうするつもりじゃ!」
神が俺に向かって叫ぶ。
そんな神に対して、俺はゆっくりと口を開いた。
「決まってるだろ?お前を犯すんだよ」
「なっ!や、やめるんじゃっ!」
神は後ずさる。
だが呼吸は荒く、足元もふらついている。
俺はその隙を逃さず、一気に間合いを詰めた。
神は必死に手を振り上げ、抵抗の構えを見せるが、それはもはや無駄な足掻きだ。
「やめろっ!来るでないっ!」
叫び声など関係ない。
俺は躊躇なく、前蹴りを放つ。
「ぐふっ……!」
俺の一撃で神は地面に崩れ落ちた。
俺はそのまま勢いを殺さず、倒れた神の上に跨る。
「や、やめっ……ろ……」
神は弱々しく抵抗しようとするが、俺は構わずに神の身体に触れる。
「くっ……やめろと言っておるじゃろっ!」
神は抵抗し、俺を振り払おうと手を伸ばしてくる。
その手首を即座に捕らえ、動きを封じた。
「離せっ!離さんかぁっ!!」
叫びと同時に、神の拳が俺の顔面を直撃する。
「ぐはぁっ!」
視界が揺れ、重い衝撃が走る。
俺の体は弾かれるように後方へ吹き飛ぶ。
やはり、こいつの一撃は重い。
力は俺とは比べ物にならないほど桁違いだ。
攻撃を受け続ければ、こちらが先に潰れる。
反撃を警戒しつつ、一気に決めなければならない。
俺は地面を強く蹴り、一気に間合いを詰める。
「俺はお前の思い通りにはならない!」
叫びと共に拳を振りかぶり、神へと突進する。
「お主はわしに弄ばれるべきなんじゃあっ!!」
神も即座に構え、反撃の体勢を取る。
だが、俺の動きのほうがわずかに速かった。
「――っ!」
俺の拳が神の腹部に突き刺さる。
「ぐふっ……!」
神は声にならない声を上げ、身体をくの字に折り曲げた。
しかしまだ終わりじゃない。
俺はそのまま追撃の回し蹴りを放つ。
「がはぁっ!」
神の身体は大きく吹き飛び、地面に転がった。
「はぁ……はぁ……」
荒い呼吸を繰り返しながら、俺はゆっくりと立ち上がる。
倒れた神に向かって、無言のまま歩を進める。
「さて、腕は封じさせてもらうぞ」
俺は倒れ込んでいる神の傍に立ち、がっしりと、その細い腕を膝で踏みつけた。
「くっ……!」
「さて、これで容赦なくお前を犯せるな」
「お主……本気なのか?」
神の声は震え、怯えているように見える。
「ああ、本気だよ。何のために嫌いな奴とセックスしたいと考えたと思ってるんだ?」
俺はゆっくりと神の服に手をかける。
そしてそのまま、一気に引き裂いた。
「きゃあっ!」
神が悲鳴を上げる。だが、そんな声など関係ない。
俺は露になった神の秘部をなぞる。
「やめんかっ!変態!」
神は必死に足を閉じようとするが、俺はそれを許さない。
強引に足を押し開き、指を膣内へと挿入した。
「ひっ……や、やめっ」
神が初めて見せる恐怖の表情。
だが、俺はそれを無視して指を動かし続ける。
「あっ!ああっ!やぁっ……!」
神は必死に抵抗しようとするが、その身体は痙攣し、上手く力が入っていないようだ。
「どうした?さっきまでの威勢は?らしくないな?」
「ぐっ……こんのっ……!」
神は歯を食いしばり、抵抗の意思を見せようとする。
だが、その態度とは裏腹に、神の身体はわずかに湿り気を帯び始めていた。
「んっ……くっ……」
神の口からは、時折甘い声が漏れる。
俺はその様子を見て、さらに激しく指を動かした。
「はぁっ!あんっ!」
神は身体を震わせながら、快感に悶えている。
その顔はすでに紅潮し、呼吸も荒くなってきていた。
「なんだ?もう感じてるのか?」
俺がそう言うと、神はキッと睨みつけてきた。
だが、その瞳には涙が浮かび上がり、いつもの迫力はない。
俺はそんな神を嘲笑いながら、さらに強く指を動かした。
「ああんっ!だ、ダメっ……だ!」
神の秘部からは愛液が流れ出し、太ももを伝っている。
俺は指を引き抜くと、今度は直接そこに触れた。
「ひっ……やっ!」
神の身体に力が入るが、お構いなしに手を動かし続ける。
「あっ!ああっ!やだっ!やめっ……!」
「そろそろいいか」
俺は神の両足を開かせ、その間に自分の身体を入れる。
そして、自分のモノを取り出し、神にあてがった。
「やだっ……それだけは……」
神が必死に抵抗するが、もう遅い。
俺は一気に腰を突き出した。
「いやああああっ!!」
神の叫び声が虚無の空間に響き渡る。
俺はそのまま、容赦なく突き続けた。
「んっ!あっ!あんっ!」
神の声は次第に甘い色を帯び始める。
俺もそれに合わせてピストン運動を速めた。
「ああっ!いやぁっ!!」
「ふふっ、はははははっ!これはもうセックスだよな?」
俺は神を見下ろし、笑いながら言った。
「お前は俺に言った。この試験で10人以上とセックスをしろ。確かにそう言ったよな?」
「そ、そうじゃっ……あんっ!」
神は喘ぎ声交じりに答える。
俺はさらに激しく腰を動かした。
「お前が記念すべき10人目だ。喜べよ!この淫乱ロリババア!」
俺は神を罵り、一気に奥まで突き入れる。
「ひあっ!あんっ……そ、そこぉっ……!」
神は身体を仰け反らせながら喘いでいる。
俺はラストスパートをかけるため、ピストン運動の速度を上げる。
「だめぇっ……!おかしくなるぅっ!!」
神は身体を大きく震わせ、絶頂を迎えたようだった。
だが俺は構わずにピストン運動を続ける。
「ああぁっ!イクっ!またイッちゃうぅぅ!!」
神が一際大きな声で叫んだ直後、膣内が強く締め付けられた。
俺もそれに合わせるように射精する。
「ああぁっ!熱いぃっ!」
神は大きく身体を痙攣させ、そのまま意識を失ったようだった。
俺はゆっくりと自分のモノを引き抜くと、神の拘束を解いた。
神は地面に倒れ込み、ぐったりとしている。
「はぁ……はぁ……」
「これで10人。俺の勝ちだ」
俺は神を見下ろし、ニヤリと笑った。
「自分は神だから10人に入らないとか、夢の中だからなんていうつまらないことは言うなよ?」
「はぁ……はぁ……」
神は荒く呼吸をするだけで、何も答えない。
「もし、お前がそれを認めないと言うなら、俺はお前を何度だって犯す。忘れられないくらいにな」
俺にできる最大の脅し。
それを聞いて神はゆっくりと身体を起こし、こちらを見た。
「お、お主の勝ちじゃ」
神は弱々しく答えた。
「じゃあ、これ以上は何もないってことでいいんだよな?」
俺が問いかけると神は静かに頷き、敗北を認めた。
「じゃ、じゃが……お主、自分でも気づかないうちに随分と凶暴な面が表に出てくるようになったな」
確かにこの夢の中でこいつと向き合い続けるうちに、俺は変わっていった。
必要以上に攻撃的で、支配的で、怒りをぶつけることに迷いがなくなっていた。
普段の俺なら、きっとこんな風にはならなかった。
「お主も変わり始めたということじゃ……前のように平穏な生活ができるとは思わないことじゃ……わしから言えるのはそれだけじゃ」
神の言葉。
それは捨て台詞とも忠告とも取れるものだった。
重く沈むような感覚に包まれながら、俺は深い眠りへと落ちていった。
7
翌朝、俺は静かな陽射しの下、目を覚ました。
昨夜の激動が嘘のように、朝の空気は穏やかだった。
「終わった、全てが終わったんだ」
思わず漏れた言葉は、今の俺の心情そのものだった。
長く、苦しい時間だった。自分との戦い、葛藤、選択。
すべてに終止符が打たれたのだ。
これで、俺だけの戦いは幕を閉じた。
あとは、Dクラスの勝利を見届けるだけ。
朝の支度を進め、Dクラスはテントや荷物を丁寧に畳み、全員が浜辺へと向かう準備を進めていた。
俺は、整列するクラスメイトの中に千秋さんの姿を見つけた。
話しかけようかとも思ったが、止めることにした。
この試験が終わったら、ちゃんとゆっくり話そう。
気持ちを胸の奥に押し込めて、俺も列に加わる。
だが突然、高圧的な声がDクラスに投げかけられた。
「おい、Dクラスの不良品ども。鈴音はいないようだが……どうしたんだ?」
姿を見せたのは、Cクラスの龍園翔。
その余裕に満ちた口調と挑発的な態度に、Dクラスの何人かが小さく息を呑む。
「どうして、龍園が――」
数人の生徒が動揺する。
試験が始まってすぐにリタイアしたと思われていた彼が、島内に残っていたなど誰も予想していなかった。
しかもその姿は、不衛生な格好に加え、野生にまみれたような雰囲気すら漂っている。
だが平田くんは、臆することなく一歩前に出て、静かに返した。
「堀北さんなら、リタイアしたよ」
その一言に、龍園の表情が一瞬揺れる。
「……リタイア?鈴音が?あいつはリタイアするような女じゃないだろ」
まるで信じられないといった様子で、龍園は問い詰めてくる。
だがその時、拡声器から真嶋先生の声が全島に響き渡った。
「そのままリラックスしていて構わない。既に試験は終了している。今は夏休みの一部のようなものだ。つかの間ではあるが、自由にしていて構わない」
それに続いて、特別試験の結果が告げられる。
龍園がニヤリと笑いながら俺たちに言った。
「これから起きる現実を、しっかり受け止めろよ?」
だが、すぐに須藤くんが言い返す。
「それはCクラスの方だろ?おまえら全部ポイント使い切ったんだろ?笑わせんな」
須藤くんの反論にも、龍園は動じなかった。
不気味な笑みを浮かべながら言い放つ。
「ク、クク。俺たちCクラスは確かにポイントを全て使い切った。だがな、この試験の追加ルールを忘れたわけじゃないだろ?」
龍園くんは続ける。
「そうだ。俺は紙に書いたぜ? おまえらDクラスのリーダーの名前をな」
その発言に、須藤くんが動揺する。
「ちょっと待てよ。どういうことだよそれ、なあ? も、もし本当だとしたら……」
須藤くんの言葉を遮るように、真嶋先生が試験結果を告げる。
「ではこれより特別試験の順位を発表する。最下位はCクラスの0ポイント」
「ぶははは!オラ見ろ!やっぱり0ポイントじゃねえかよ!笑わせんな!」
須藤くんが龍園をあざ笑うように大声を上げる。
「……0だと?」
龍園の顔に、困惑の色が浮かぶ。
予想とまったく異なる結果に、理解が追いついていないようだった。
「続いて3位はAクラスの120ポイント。2位はBクラスの140ポイント。そしてDクラスは……285ポイントで1位となった。以上で結果発表を終わる」
その瞬間、Dクラスはもちろん、他クラスからも驚きのどよめきが起こった。
「うおおおおお!やったぜ!!ざまぁみろ!!」
須藤くんが拳を突き上げ、Dクラスの生徒たちも一斉に歓声を上げる。
「ななな、どういうことなんだよコレ!?なあ、おい!」
池くんも興奮と混乱の中、平田くんに詰め寄る。
平田くんは静かに、しかし確信を持って答えた。
「……向こうで説明するよ。それじゃ龍園くん、僕はここで失礼するよ」
そう言って、平田くんはDクラスの生徒たちを連れ、船内へと向かった。
船の中で平田くんは、全員を前に今回の試験の結果がなぜこうなったのかを簡潔に説明した。
堀北さんがAクラスとCクラスのリーダーを的中させたこと。
それが、Dクラスの勝利につながった最大の要因だということを。
堀北さんがクラスに貢献していたことを平田くんが説明すると、Dクラスの生徒たちは驚きと感動に包まれた。
その余韻も冷めやらぬまま、リタイアしていた堀北さんのもとへ、自然と皆が集まってくる。
「すごいじゃん、堀北さん!」
「リタイアしたって聞いた時はもう駄目かと思ったけど、クラスのためにここまでしてくれてたなんて感動だよ!」
興奮した声が次々と飛び交い、堀北さんは戸惑いの表情を浮かべていた。
「な、何を言っているのあなたたちは……」
状況を理解できていない様子の堀北さんは、やがて助けを求めるように俺と綾小路くんの方へ視線を向ける。
説明してという、静かな圧を放っている。
だが、程なくして。
「少し顔を貸してもらおうか」
俺たちの担任である茶柱先生が綾小路くんに話しかける。
「不良みたいな誘い文句ですね、茶柱先生」
綾小路くんはいつも通りの冷静な口調で言い放ち、茶柱先生と共にその場を後にする。
それからしばらくして、船内の雰囲気も徐々に落ち着きを取り戻していく。
1週間にわたる無人島試験の疲労が、どの生徒の表情にも色濃く滲んでいた。
それぞれが重たい体を引きずるようにして、自室へと戻っていく。
俺たちクラスの長い試験が、ようやく幕を下ろした。
8
試験が終わった、その夜のことだった。
千秋さんに連絡をしようかと部屋でソワソワしていた俺に、一通のメッセージが届いた。
送信者は、綾小路くんだった。
『堀北に呼び出された。ラウンジに来てほしい』
俺はすぐに返信をし、部屋を出た。
船内のラウンジに到着すると、すでに2人の姿があった。
綾小路くんと堀北さん。
堀北さんは綾小路くんを見るなり、怒気をはらんだ瞳で問いかけていた。
「この試験結果、一体どういうこと?」
どうやら、試験結果について綾小路くんを問い詰めているようだった。
「まあ、落ち着け。上條もぽかんとしてるぞ」
綾小路くんが俺に気づくと、堀北さんをなだめるように言って、俺をその場に引き込む。
「何から聞きたいんだ?」
「あなたがこの試験で何をしていたか。それを教えて」
堀北さんの鋭い口調にも動じることなく、綾小路くんは淡々と答え始めた。
「この特別試験が発表された段階でオレは追加ルール以外は眼中になかった。300ポイントをどうやりくりしていくかなんて、大体どれも似たり寄ったりなものだし、個人で操作できるものでもないからな」
綾小路くんはこの試験で自分が何をしていたのかを、簡潔に語っていった。
他クラスのリーダーを特定するために、スポット地点を探し、ベースキャンプの傾向から各クラスの方針を読み取ったこと。
そして、この試験で最も警戒すべきは、Cクラスだったということ。
「Cクラスの龍園に関しては全く未知数だった。ヤツはオレ以上に情報を集め、全てのクラスのリーダーを見抜いていた」
「ちょ、ちょっと。全てのリーダーを見抜いていたって……Dクラスだけじゃなく、BクラスとAクラスのリーダーも分かっていたの?」
堀北さんは目を見開いた。
「でも、だとしたら変よ。私たちはペナルティを受けるどころか、大差で1位だった。その説明はどうするつもり?」
これに関しては俺も驚いていた。
龍園くんがBクラスとAクラスのリーダー情報まで握っていたなんて。
Bクラスの金田くんも、伊吹さんと同じように匿われていた。
これはわかっていたことではあるが、やはり龍園くんの差し金だったということか。
結束力の強いBクラスのリーダーの情報をしっかりと把握していたんだな。
「Dクラスがペナルティを受けずに1位だった理由なら、上條がよく知っている」
「どういうこと?」
堀北さんの視線が俺に向けられる。
正直、ちょっと怖い。
「そ、それはね。堀北さんはリーダーじゃないからだよ」
「私がリーダーじゃない?あなたは何を言っているの?」
俺はポケットから1枚のカードを取り出し、堀北さんに差し出した。
「これは……どうして、こんな……」
カードには『カミジョウハルカ』の刻印。
俺の名前がリーダーとして登録された証だった。
「試験は公平でなければならない。だから、ルールは基本的に公平に作られている」
綾小路くんが堀北さんに静かに説明を始めた。
「リーダーが体調不良なんかでリタイアした場合、どうなると思う」
「それは……リーダーが不在になるわ。だから占有権も消える……」
「違うな。マニュアルにはこう書かれてあった。『正当な理由無くリーダーを変更することはできない』と。リタイアは正当な理由に当たると思わないか?」
堀北さんの表情がピクリと動く。
「だからあなたは、私を……?」
「これがCクラスに知られながらも被害を免れた理由だ」
「けど待って。私が伊吹さんにカードを盗まれたからそうなったものの、もし徹底してカードを守り通していたら――」
彼女は記憶をたどるように、カードを盗まれた瞬間を思い出そうとする。
綾小路くんは、わざとキーカードを伊吹さんの視界に入るように仕向け、堀北さんがそれを手放す隙を作るために山内くんを使い、泥をかけるという策を考えていた。
そして、伊吹さんの目的に最初から気づいていたこと。
さらに、AクラスとCクラスが裏で繋がっている可能性があることも話した。
「全く……言葉が出ないわ」
堀北さんが呆然と呟いた。
俺も同じだった。
綾小路くんの話を、ここまで詳しく聞いたのは初めてだ。
概要は知っていたつもりだったが。
まさか、ここまで深く読み切っていたなんて。
同じクラスメイト。そう思っていたけど、綾小路くんが見ている世界は、俺とはまるで違っていた。
背筋が、わずかに冷えた。
「気に入らないわ。私を駒として動かして、散々利用したってことでしょう?」
「ああ。それは否定できない」
堀北さんは不服そうに唇を噛みしめた。
「今回の件であなたが凄いことは、もう疑う余地も無く理解させられた。あなたが手を貸してくれるのなら、Aクラスを目指すことも十分現実的なものになる。でも、行動理念はなに?事なかれ主義のあなたが参加した理由が知りたい」
その問いに、綾小路くんは少しだけ黙ってから、口を開いた。
「体調が悪い中、1人で戦い抜こうとするおまえに心を打たれたからだよ」
「……普通言わないわよ、そんな分かりやすい嘘」
「つまり教える気は無いってことだ」
そう言って綾小路くんは立ち上がった。
「Aクラスに上がるための手助けをしても構わない。だが、条件を1つ付ける。それはオレの詮索はしないことだ。今後一切触れないことを約束するなら手を貸そう」
堀北さんは少し黙っていたが、やがて意を決したように、綾小路くんの手を取った。
「あなたが話したくないのなら仕方ない。詮索しないことで手を貸してくれるというのなら拒む理由は無いわね。事なかれ主義の、事なかれな過去に興味はないもの」
その返答に、綾小路くんは満足したようで小さく頷き、無言でラウンジを後にした。
俺は、静かにその背中を見送っていた。
そして気づくと、堀北さんが俺の方を向いて言った。
「……上條くん。あなたにまで出し抜かれたのは、正直気に入らないわ。私はまだ、あなたのことは認めてない」
「別に出し抜いたつもりなんてないよ。俺はただ、綾小路くんに言われてここに来ただけだし。俺がリーダーになったのだって、運動神経を買われただけだからね」
綾小路くんは、俺がある程度身体を動かせると知って、夜の時間帯にいくつかスポットを占有できないか頼まれた。
だから俺は、それに応えるために、昨日の夜1人でベースキャンプを離れてスポットを回った。
「綾小路くんも、意外と攻めたことをするのね。さっきは追加ルールしか眼中になかったって言ってたのに」
「それは俺も思ったよ。でも、詮索はするな。そう言われちゃったから、無理に聞くことはできないね」
「そうね……彼には、きっと別の狙いがあったのかもしれないわ」
今回の特別試験は結局、俺も堀北さんも、綾小路くんの掌の上で転がされていたってことだ。
そのあと、堀北さんとはあまり深い話もせずに、俺たちはそれぞれの部屋へと戻ったのだった。
9
久しぶりの携帯。
無人島試験中は携帯端末の持ち込みは禁止されていたから、こうして画面を触るのも何日ぶりだろうか。
画面の明かりが目に眩しく、同時にどこか懐かしかった。
俺はメッセージアプリを立ち上げると、ずっと話したいと思っていた相手に連絡を送った。
文面は短く、けれど慎重に言葉を選んで。
数秒後、すぐに既読がついた。
返信はすぐに届き、2人でレストランで会うことになった。
約束の時間より少し早めに、俺はレストランの前に立つ。
胸の奥がざわついている。
何を話そう。どう伝えよう。
そんな思いが巡る中、ゆっくりと足音が近づいてくる。
そして――
「千秋さん……」
俺の視線の先に立つ千秋さんは、どこか少し大人びたようにも見えた。
その表情からは感情を読み取るのが難しい。
だけど、千秋さんは俺のことをちゃんと見てくれていた。
「取りあえず、中に入りませんか?」
俺がそう声をかけると、千秋さんは小さく頷いた。
「う、うん」
まだ、2人の間にはわずかな距離が残っている。
その距離を埋めるには、まだ足りない。
俺たちはゆっくりとレストランの中へ入り、空いていた窓際のテーブルに腰を下ろした。
席につくと、メニューを開きながらもどこか落ち着かない。
話を始めようとするが、言葉がうまく出てこない。
そんな空気を払うように、俺は少し笑って言った。
「な、なんだかこういうレストランで男女2人きりって緊張しますよね……」
「そうだね……」
千秋さんはメニューに目を落としながらも、柔らかく微笑んだ。
その笑顔が眩しい。
だけど、それでもどう謝ればいいのか。
何を、どこから話せばいいのか。
「あ、あの……」
「あのさ……」
俺と千秋さんの声が重なった。
互いに驚いたように目を見合わせ、お互いふっと笑ってしまった。
でも、その笑顔が少しだけ、ぎこちなかった空気を和らげてくれた気がした。
「いいよ、先に言って」
千秋さんが微笑みながら、俺に言葉の順番を譲ってくれる。
俺も千秋さんも、きっと考えていることは同じなんだ。
そう信じて、俺はゆっくりと口を開く。
「千秋さん……本当にごめん。あの時の俺は自分のことしか見えてなかった。自分のことで精一杯で、千秋さんのことを傷つけるようなことを言っちゃっいました。不安にさせて……悲しませて本当にごめんなさい」
俺の言葉を聞いた千秋さんは、しばらく俯いたまま何も言わなかった。
沈黙が、少しだけ苦しい。
でも、どんな言葉でも千秋さんの言葉を受け止める。
そんな覚悟をする。
やがて、千秋さんはゆっくり顔を上げる。
「……私こそ、ごめんね。遥のこと、ちゃんと信じてあげられなかった。遥の気持ちも考えずに、勝手に落ち込んじゃってて……」
「違います。千秋さんは悪くないです。俺が……千秋さんを不安にさせるようなことを言ってしまったから」
俺が必死に否定しようとすると、千秋さんはそっと人差し指を俺の唇に当てた。
「……やめて。遥の気持ちは、ちゃんと伝わってきたから。もう、それだけで十分だよ」
優しい笑顔とともに語られる言葉に、ホッとする。
「だから今度は、ひとりで抱え込まないでね。私のことも、頼って」
「……は、はい……!」
こらえていたものが切れたように、俺の瞳から涙がこぼれ落ちる。
「もう、だらしないよ?」
千秋さんがくすりと笑いながらも、優しくそう言う。
「だ、だって……」
千秋さんの言葉が、俺の中に染みていく。
胸の奥に張り詰めていた何かが、ふっと緩んだ気がした。
取り立てて目立つような出来事じゃない。
ありふれた、平凡なカップルのやり取りかもしれない。
でもそれは、俺たちにとってはかけがえのない瞬間になった。
そんな時間を、今、俺たちは静かに分かち合っている。
10
俺と千秋さんは船内にある高級スパに訪れた。
この船内ではこういった施設ですら無料で利用できるのだから驚きだ。
「すごいね……」
スパの豪華さに圧倒されたのか、千秋さんが感嘆の声を漏らす。
「ですね……俺も初めて来たのでびっくりです」
俺はそう答えつつ、受付で手続きを済ませる。
「えっと、予約した上條です」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ、ご案内いたします」
受付の女性が俺たちを部屋に案内してくれる。
「こちらでございます」
女性スタッフに通された部屋は、2人で使うには十分すぎるほどの広さだった。
マッサージをしてもらえる施設ではあるが、室内では2人きりになれるようになっていた。
「こちらがメニュー表となっております。もし何かございましたら、いつでもお申し付けくださいませ」
一通りの説明を終えた女性が去っていくと、俺たちは2人きりになる。
千秋さんは気恥ずかしそうに顔を赤らめながら俯いた。
「……なんか、変な感じだね」
「ですね……ちょっと緊張します」
千秋さんは、ゆっくりと俺の隣に腰を下ろした。
「じゃあ、その……始めよっか」
「……はい」
俺は頷き、服を脱ぎ捨てていく。
その様子を、千秋さんはじっと見つめてきた。
「な、なんだか恥ずかしいですよ……千秋さんも早く……」
「う、うん」
千秋さんも俺と同じように服を脱いでいく。
やがて、一糸まとわぬ姿で2人向き合う。
「……千秋さん、綺麗です」
「もう……バカ……」
照れる千秋さんの姿は、いつも以上に愛おしく思えた。
「じゃあ……始めますね」
俺はゆっくりと千秋さんの身体に手を触れる。
「ん……」
千秋さんはくすぐったそうにしながらも、抵抗せずに受け入れてくれた。
俺はゆっくりと千秋さんの背中や腰回りをマッサージしていく。
「んっ……気持ちいい……」
時折、甘い吐息を漏らす千秋さんの姿を見ながら、俺は丁寧に続けた。
そして、手のひらがふと千秋さんの胸の膨らみに触れた。
「あっ……」
その瞬間、千秋さんの口から甘い声が漏れる。
そして千秋さんは恥ずかしそうにしながらも、俺の手をそっと掴んで自分の胸に押し付けた。
「……もっと、して?」
「は、はい……」
俺はゆっくりと手のひらに力を込める。
千秋さんの膨らみに指が食い込み、形を変えていく。
「んっ……あっ……」
千秋さんの口から漏れる甘い声を聞きながら、俺はマッサージを続ける。
やがて、千秋さんは物足りなさそうな表情で俺のことを見つめてきた。
そんな視線に応えるように、俺は千秋さんの胸の先端を口に含んだ。
「あぁっ……!」
「千秋さんの乳首、硬くなってきてる……」
「い、言わないで……」
学校の用意した高級スパ。
そんな場所で、千秋さんとこういった行為をする状況に、背徳感を感じる。
「千秋さん……下も……」
「……うん」
千秋さんは小さく頷き、ゆっくりと足を開く。
その中心部は、すでに湿り気を帯び始めていた。
「もうこんなに濡れてるんですね……」
「だって……こんなところでするの、初めてだし……」
やっぱり、場所が影響しているのだろうか。
いつもより反応が初々しい気がする。
俺はゆっくりと千秋さんの中に指を入れる。
「んっ……!」
そこはすでに柔らかく、すんなりと俺の指を迎え入れた。
そして、中をかき回すように動かすと、くちゅくちゅと水音が響く。
「あっ……やぁっ……」
「すごい音ですね……それにどんどん溢れてくる」
そんな俺の言葉に反応してか、千秋さんの中がきゅっと締まる。
「んあっ……だって……遥が、いっぱい触るから……」
「そうですね。でも、まだ足りません」
そう言って俺は指の動きを速める。
「あぁっ!だ、だめっ……!」
千秋さんは大きく目を見開き、身体を仰け反らせる。
それでも俺は手を止めない。
「だめっ……イッちゃう……!あぁっ……!」
次の瞬間、千秋さんの身体がビクビクッと震えた。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をしながら脱力する千秋さんが愛おしい。
そんな姿をずっと見ていたいと思った。
だけど、俺の我慢はもう限界だった。
「……次は、俺が気持ちよくなってもいいですか?」
そう尋ねると、千秋さんは小さく頷いてくれた。
このままだと部屋が汚れてしまうため、シャワールームへと移動する。
俺はシャワーヘッドを手に取り、お湯を出す。
「千秋さん……壁に手を突いてもらえますか?」
「……こう?」
千秋さんは言われるがままに壁に手をつく。
そんな千秋さんのお尻に、俺は自分のものを押し当てる。
「んっ……」
「痛かったら言ってくださいね」
ゆっくりと腰を動かすと、千秋さんが小さく声を漏らす。
「あっ……んっ……」
「大丈夫ですか?」
「バックって初めてだよね……だから緊張しちゃって」
「そうですよね……じゃあ、キスしてもいいですか?」
「うん」
千秋さんは振り返り、俺の首に手を回してくる。
キスをしながら、俺はゆっくりと腰を動かし始める。
「んっ……んむっ……」
千秋さんの唇を堪能しながら、俺は夢中で腰を打ちつける。
「んっ……んんっ……!」
「あっ……気持ちいいですっ!千秋さんっ!俺っ……!」
「わ、私もっ!遥のが奥まできてっ……!気持ちいいっ!」
千秋さんの膣内に、俺のものが激しく擦れる。
コツコツと子宮の入り口を叩くたび、千秋さんが甘い吐息を漏らす。
「あぁっ!遥っ……それっ、やばいっ!」
「千秋さんっ!俺……もう……!」
限界が近づくのを感じ、さらに激しく腰を動かす。
「あぁっ!はっ……激しっ……!」
「っあ!出ますっ!中に出しますっ!」
「いいよっ……!出してぇっ!」
俺は最後に大きく腰を引き、そして一気に突き入れた。
その瞬間、千秋さんの中に大量の精液が放たれる。
「あぁっ!出てるっ!遥の熱いの、いっぱい中に出されてるっ!」
千秋さんは身体をビクビクと震わせながら絶頂を迎えた。
2人の荒い息遣いだけが響く室内で、俺は千秋さんの中から自分のものを引き抜く。
「んっ……」
千秋さんは小さく声を漏らすと、その場にへたり込んだ。
そんな千秋さんに優しく声をかけながら、一緒にシャワーを浴びる。
身体を洗い終えた後、俺たちは再びベッドの上に戻ってきた。
そのまま横になり、裸のまま抱き合った。
今度は身体を交えることはせずに、ただただお互いの体温を感じあう。
「千秋さん……好きです」
「私も。好きだよ、遥……」
俺たちは再び唇を重ねる。
触れ合うだけのキスだったが、それだけでも十分に気持ちは伝わった。
「ねぇ、遥……」
「なんですか?」
千秋さんが俺の胸に顔を埋めながら言う。
「また……2人で来ようね」
「……そうですね」
スパというのは初めての体験だったが、とても充実した時間を過ごすことが出来た。
今度また、2人で来ようと千秋さんと約束をして高級スパを後にした。
ということで無人島試験編は終了です。
船上試験では、神の介入はほとんどない展開になるはずです。
あまり、オリキャラ同士の行為シーンに価値を感じないので、必要以上にそういう展開は入れたくないなと思っています。
今回の神とのセックスに関しては、最初から決めていたことだったのでこの展開になりました。
船上試験では10人とセックスをするみたいな縛りはありませんが、まだセックスをしてないヒロインとも交わらせていくのでよろしくお願いします。
あと、毎回感想がとても励みになっています。
いつも書いてくださる方、本当にありがとうございます!
今後行為シーンが欲しいキャラクター候補(すぐには反映できない可能性高いです)
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松下千秋
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佐倉愛里
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櫛田桔梗
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堀北鈴音
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長谷部波瑠加
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佐藤麻耶
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篠原さつき
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園田千代
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一之瀬帆波
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小橋夢
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白波千尋
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姫野ユキ
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星之宮知恵
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西野武子
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伊吹澪
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椎名ひより
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神室真澄
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山村美紀
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白石飛鳥
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坂柳有栖