※この作品はR-18です。

ようこそ発情スキルの教室へ   作:ソフロス

23 / 25
こんばんは。
約1か月ぶりの投稿になります。

最近は大学の中間テストがあり、なかなか時間が取れずにいました。
今月も学期末テストが控えているため、引き続き投稿頻度は低めになるかと思います。

夏休み(8月~9月)の間に船上試験編を書き終えたいという目標はあるのですが、達成できるかどうかはまだ分かりません。
また、今年中に4.5巻と5巻の内容まで進めたいという、少し淡い目標も立てていますが、こちらも道のりはなかなか険しそうです。

これからもスローペースな更新となりますが、読んでいただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。


第22話 すべてはあの時に(一之瀬帆波)

 

1

 

一之瀬さんと別れ、俺たちはそれぞれ自室へと戻ることにした。

肩の力が抜けるような安堵と、胸に残る余韻。

それでも、前に進む決意だけは確かにあった。

 

明日、千秋さんにもこのことを打ち明けよう。

正直、怖い。

失望されるかもしれない。嫌われるかもしれない。

だけど、それでも伝えないといけないと思った。

俺の真実を知った上で、どうするかを千秋さんに選んでもらうんだ。

 

そんなことを考えながら、自室までの廊下を歩いていたときだった。

 

――ピタリ。

背後に、妙な気配を感じた。

 

「……なんだ?」

 

思わず立ち止まり、振り返る。

しかし、そこには誰もいない。

廊下は静まり返り、聞こえるのは自分の呼吸と心音だけ。

 

「気のせい、か……?」

 

無人島試験で、俺は周りの気配にというものに過敏になっていた。

もしかしたら、その名残かもしれないな。

きっと何かゴミでも転がったんだろう。

 

――だけど、ほんのわずかに、嫌な予感を感じていた。

 

部屋に戻ると、ドアを閉める音がやけに大きく響いた。

靴を脱ぎ、制服を脱ぎ捨て、俺はそのままベッドに身体を沈めた。

 

なんだか今日は、特別身体を動かしたわけでもないのに、妙に疲れを感じたな。

 

……まあ、一之瀬さんとも、いろいろあった。

無理もないか。そう思って、目を閉じかけたそのときだった。

 

ブルッと静かな室内に、携帯のバイブ音が響く。

 

「……ん? 誰からだ……?」

 

眠気をこすりながら画面を確認すると、そこに映し出された名前は。

 

「一之瀬さん?」

 

画面には、メッセージアプリの通知がひとつ。

 

「そろそろペナルティの時間なんじゃないかと思って、連絡したんだけど……どうかな?」

 

ペナルティ。

俺に与えられた、『絶倫』のスキル。

毎日2人とセックスをしなければ、自分自身が発情してしまうという、厄介な能力。

 

今日は、朝に千秋さんとは一度は済ませたため、千秋さんとはできない。

星之宮先生や他の人に頼むこともできるが、今の俺の事情をすべて知っているのは一之瀬さんだけだ。

余計な説明も必要ないし、今後のことを考えても複数の人と関係を持つべきではない。

 

千秋さんには、明日、必ず……きちんと話そう。

だからこそ、今夜だけは。

 

そう心に決め、俺はゆっくりとベッドから身体を起こし、部屋を出た。

 

深夜の船内は、静まり返っていた。

柔らかな照明だけが足元を照らし、船内の機械音がうるさく感じる。

人気のない廊下を歩きながら、俺は共用のトイレの前までやってきた。

 

……その時だった。

 

「っ――!」

 

カタンと軽い音がして、トイレの扉がわずかに開いたかと思うと、

その隙間から、不意に伸びた細い腕が俺の手首を掴んだ。

 

「うわっ――!?」

 

引き寄せられるように、俺の身体はそのままトイレの個室の中へと引きずり込まれた。

驚いたまま顔を上げると、そこには、はにかむ一之瀬さんがいた。

 

「……い、一之瀬さん……おどかさないでくださいよ……」

 

薄い暗がりの中で、一之瀬さんはどこかいたずらっぽく微笑むと言った。

 

「あはは、ごめんね。でも、上條くんがここを通り過ぎそうだったから……つい」

 

その笑顔に悪気はなさそうだけど、もう少しやり方があったんじゃないかな。

 

「……それにしても、どうして多目的トイレなんですか?」

 

俺が思わず問いかけると、一之瀬さんは少しだけ肩をすくめた。

 

「だって、上條くんを女子トイレに連れていくわけにもいかないでしょ?」

「……まあ、それはそうですけど……」

 

たしかにこの時間、開いている施設も少ないし、船内で人目を避けて話せる場所は限られている。

男女が怪しい密会をしても、バレずに済む可能性が高いのはここくらいか。

 

「ここなら……誰にも見られずに済むから」

 

ぽつりと呟いた一之瀬さんは呟くとブレザーを脱ぎ始めた。

 

「上條くん。松下さんに悪いから、早く終わらせようね」

 

シャツのボタンを外し、スカートをすとんと床に落とす。

こうして見ると、やっぱり一之瀬さんのスタイルは抜群だ。

 

「そんなに見られると……恥ずかしいな……」

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

俺は思わず視線をそらし、壁のほうを見る。

 

「でも……上條くんもちゃんと私で興奮してくれてるみたいで、よかった……」

 

そう言った一之瀬さんの瞳は安堵したようで、少し寂しそうな目をしていた。

 

「じゃあ、上條くん。こっち向いて?」

 

その言葉に、俺は壁に向けていた視線をゆっくりと戻す。

シャツを脱ぎ、下着姿になった一之瀬さん。

その下着も、すぐに外して床に落とすと、一糸まとわぬ姿になった。

 

「上條くん……来て」

 

そんな一之瀬さんに促されるまま、俺は一之瀬さんの身体に手を伸ばす。

一之瀬さんの肌は、少し熱を帯びていて、ほのかに柔らかい。

ふくよかな胸に触れると、一之瀬さんの口からわずかに声が漏れた。

 

「んっ……はぁ……」

 

白い素肌に指先を這わせると、ぴくっと身体が小さく跳ねた。

そして俺は、そのまま手のひらで柔らかな乳房を包み込むようにして触り始める。

柔らかく弾力のある肌に指を沈めると、一之瀬さんの口から甘い声が漏れる。

 

「あっ……」

 

漏れた声を押し殺すように、一之瀬さんは自分の口に手をあてがう。

 

「ん……ふぅっ……」

 

それでも漏れ聞こえる声で、俺の思考もヒートアップしていく。

 

「上條くん……もっと強くしていいよ」

 

一之瀬さんの言葉に頷き、今度は少し強めに揉みしだく。

 

「あっ……んんっ……!」

 

一之瀬さんの反応を見ながら、俺はさらに手を下へと滑らせ、指先を一之瀬さんの中心に伸ばした。

すると、一之瀬さんのそこはすでに湿り気を帯びていて、小さく声を漏らす。

 

「はぁ……んっ……」

 

一之瀬さんの秘部から溢れ出た愛液は俺の指に絡みつくように、ビチャビチャと溢れていく。

 

「あ……はぁっ……んんっ」

 

くちゅ、くちゅと水音を響かせながら、俺は一之瀬さんの内側をほぐしていく。

 

「あっ、ああっ!上條くんっ……!」

 

一之瀬さんは俺の身体にぎゅっとしがみつき、快感に堪えている。

 

「一之瀬さん……もう我慢できそうにないです……」

 

俺の言葉に、一之瀬さんは小さく頷く。

 

「……うん……来て……上條くん」

 

一之瀬さんのその言葉で俺は制服のズボンを下ろし、肉棒を取り出す。

そしてそのまま、一之瀬さんの秘部へあてがい、一気に奥まで挿入した。

 

「あああっ!!」

 

肉棒が一之瀬さんの膣内を押し広げていく。

 

「はぁ……あああっ……!」

 

膣内は熱く絡みついてきて、すぐにでも果ててしまいそうになる。

 

「上條くんっ……気持ちいいよっ……」

 

俺も快感を必死に堪えながら、一之瀬さんを抱きしめるようにして腰を動かす。

 

「あああっ、んんっ……はぁっ」

 

一之瀬さんの大きな乳房が淫らに揺れ動く。

その姿がさらに俺の興奮を煽り、ストロークが激しくなる。

 

「ああんっ!は、激しいぃっ!」

 

一之瀬さんは俺の身体にぎゅっとしがみつき、快感に耐えている。

 

「はぁ……はぁ……一之瀬さんっ……」

「上條くんっ!わ、私……もうイっちゃいそう……」

 

一之瀬さんは身体を弓なりに反らせ、絶頂に達しようとしている。

俺はそんな一之瀬さんの身体をしっかりと抱き寄せる。

 

「はぁ……はぁ……上條くんっ、私……もうダメぇっ!」

 

そんな一之瀬さんの言葉に、俺も限界を迎えそうになる。

 

「俺も……もう……!」

 

ラストスパートをかけるように、俺も激しく腰を打ち付ける。

 

「んんっ!んあぁぁぁぁっ♡」

 

そして、ついに一之瀬さんは絶頂を迎え、それと同時に俺も限界を迎えた。

 

「くっ……!!」

 

俺は一之瀬さんの膣内に精液を流し込み、ドクドクと何度も脈打っていた。

 

「ああ……やっぱり、あったかい……上條くんの精子……」

 

ぐったりと脱力した一之瀬さんの身体を抱きとめながら、俺はゆっくりと肉棒を引き抜いた。

一之瀬さんの呼吸はまだ少し荒く、しばらく、ふたりとも言葉を交わさずに、ただ静かに時間が流れていった。

 

「……ごめんね、上條くん」

 

やがて、一之瀬さんがぽつりと呟いた。

 

「え……?」

 

思わず顔を覗き込むと、一之瀬さんは視線を逸らしながら続けた。

 

「やっぱり……こうしてると、気持ちが高まっちゃうみたいで……」

 

その言葉には、戸惑いと、罪悪感の色が滲んでいた。

千秋さんのことを思ってくれているのだろう。

 

「……まだ、ちゃんと割り切れてないのかも。でも……この船から降りるまでには、自分の気持ちを整理するから……」

「……一之瀬さんが謝ることじゃないですよ」

 

俺はゆっくりと首を振りながら言った。

 

「これは……もともと俺の問題なんですから。一之瀬さんを巻き込んでしまって、本当に申し訳ないと思ってます」

 

本当は、こんな形で誰かに頼るべきじゃなかった。

だけど一之瀬さんは、俺の話を聞いて、それでも力になろうとしてくれた。

それだけでも、どれほど救われたか。

 

「……ありがとう。一之瀬さん」

 

俺のその言葉に、一之瀬さんは微笑んだ。

どこか少し寂しげだったが、でも確かに優しさの滲んだ、笑顔だった。

 

2

 

寝室に戻り、ようやくベッドに体を沈める。

今日という一日を思い返しながら、ゆっくりと瞼を閉じ――

 

……深い眠りに就く、はずだった。

 

はず、だったのに。

 

「……またかよ」

 

薄ぼんやりと意識が浮かび上がる。

辺りは真っ白な空間。天井も床も存在せず、俺だけがぽつんと立たされている。

そして、目の前には、相変わらず小柄で偉そうな俺にスキルを押しつけてきたロリ神がいた。

 

「ったく……なんの用だよ、クソ神」

「誰がクソ神じゃああああ!」

 

頬を膨らませてムキになったロリ神は怒りをあらわにして、俺に飛びついてくる。

夢の中とは思えないほどの勢いで、俺の胸元をバシバシと叩いてきた。

 

「お前に決まってんだろババア」

「ババアじゃないわっ! まだ1000歳もいっておらんのじゃぞ!? ピチピチの乙女じゃ!」

「俺たち人間から見たら、十分ババアなんだよ……」

「ぬぐぅ……なんじゃと、ぶっ殺す……!」

 

こいつと話してると夢の中なのに疲れるんだよな。

なんで休息の時間にまで体力を消耗しなきゃならないんだ。

 

「で?今回は何の用だよ。くだらない世間話なら帰るぞ」

「お主の意志で、この場から帰れると思っておるのか?」

 

ロリ神は、相変わらず不敵な笑みを浮かべたまま、くすくすと笑っている。

その顔を見ていると、思わず蹴り飛ばしたくなったが、早く眠るためにも怒りを抑えた。

 

「わしが世間話をしたいだけで呼んだと、本気で思っておるのか?今日お主を呼び出したのは、新たなスキルを授けるためじゃよ」

「……は?」

 

耳を疑った。

また、スキル?

冗談じゃない……今のスキルだけでも手一杯なんだぞ。

こっちが能力のせいでどれだけ迷惑してきたか……

 

「あのな、俺はもうスキルには頼らない。そう決めたんだ」

「ほう?じゃが今の松下千秋との関係はわしが与えたスキルの上で成り立つものじゃろ?」

 

その言葉に、心臓を掴まれたような感覚がした。

 

「……たしかに、あのスキルがなければ、最初のきっかけはなかったかもしれない。でも……」

 

俺は一歩前に出て、ロリ神に言葉をぶつけた。

 

「この能力がなくても、一緒にいれば確実に距離は縮められたはずだ。それをこのスキルに狂わされたんだ」

 

しかし、俺の言葉はまるで届いていないようだった。

ロリ神は、相変わらず飄々とした態度を崩さなかった。

 

「そうか……しかし、この世界でお主のような凡庸な人間が生き残るには、スキルは必要不可欠じゃと思うがのう」

「いや、俺は……普通でいい。ただ千秋さんと、普通に笑って、過ごせればそれでいい」

 

その言葉に、神は急に表情を変えた。

ニヤリと、口角を上げて、まるで悪戯を思いついた子供のように不気味に笑った。

 

「……残念じゃが、それは叶わんよ」

「……なに?」

「松下千秋と普通に過ごす?それは無理な話じゃ。お主は、すでにゲームオーバーなんじゃからな」

「……意味がわからない。どういうことだ?」

 

神はわざとらしく肩をすくめ、くすくすと笑い出す。

 

「この前、わしを無理やり犯した報いじゃ」

「……っ」

 

言い返す間もなく、神の姿が徐々に淡く、透け始める。

 

「土下座でもして謝るというのなら、この場を打開するスキルを与えてやることも、考えてやってもいいがのう?」

「誰がお前なんかに……!」

「せいぜい、足掻くがいい。お主がわしに逆らったこと、後悔するんじゃな」

 

そう言い残すと、神の姿は白い靄に溶けるようにして、完全に消えた。

 

「ふざけるな……!」

 

俺の叫びは虚空に響くだけで、返事はなかった。

そして、俺の意識は、また深い眠りへと落ちていった。

 

3

 

目が覚めると、シーツがぐっしょりと濡れていた。

寝苦しさで目が覚めたのか、それとも――。

 

「……こんなに汗をかいてたのか」

 

額に手をやると、掌にじっとりとした感触が残る。

首筋にも寝汗がまとわりついて、肌がひやりとした。

 

「上條、昨日……けっこううなされてたぞ。大丈夫か?」

 

同室の牧田くんが、ベッドに腰かけたまま心配そうにこちらを見ていた。

 

「……え、そうなの?ごめん、起こしちゃったかな」

「いや、声はそんなに出てなかったけど……なんか夢で苦しんでるみたいだったから、ちょっと気になってな」

 

牧田くんは、あくまでさりげなく気を遣ってくれている。

けど多分、実際はもっとひどかったんだろう。

 

「夢見が悪かっただけ。大丈夫だよ」

 

そう口にしながら、俺は胸の奥に残る不穏なざわつきを抑え込もうとする。

昨夜、夢の中であいつが最後に言い放った言葉。

 

『お主は、すでにゲームオーバーなんじゃからな』

 

ただの負け惜しみかもしれない。

だけど、その言葉が妙に現実味を帯びて頭から離れない。

 

ただの予感。

……そう片付けたいのに、どこかで何かが狂い始めている。そんな確信に似た感覚があった

 

この重苦しさと汗を流すために、俺はシャワールームに向かった。

温かいシャワーを浴びて少しずつ、不安な気持ちを洗い流せていく気がした。

 

気持ちを整理しよう。

昨日の一之瀬さんとの行為。そして、あいつに言われたこと。

全部をリセットするように、俺は深く息を吸った。

 

着替えを済ませ、朝食をとるためにレストランへ向かおうと、部屋のドアノブに手をかける。

 

「今日は……千秋さんに、ちゃんと話すんだ」

 

小さく声に出してそう言った自分に、少しだけ背中を押された気がした。

 

怖い。不安もある。

でも、嘘を重ねる方がよっぽど辛い。

千秋さんには、本当のことを伝えなきゃいけない。

 

だから、俺は前に進むんだ。

そう思った。

まさにその矢先だった。

 

ポケットの中で、携帯がブルッと震える。

 

「……ん?」

 

もしかして、千秋さんだろうか。

そんな期待を抱きながら、俺は画面を覗き込んだ。

 

――綾小路清隆。

 

電話だった。メールじゃない。

綾小路くんが電話をかけてくるなんて、珍しい。

 

なにかあったのか?

不安が胸をかすめるが、あまり深く考えず通話ボタンを押す。

 

「もしもし、綾小路くん?電話なんて珍しいね、どうかしたの?」

『ああ、上條。悪いな、堀北に呼ばれて少し来て欲しい場所があるんだが……近くに人はいるか?』

「え?ああ、今はまだ部屋にいるから、ルームメイトはいるけど……何かあったの?」

『詳しくは会ってから話す。堀北に指定された場所なんだが――』

 

綾小路くんに言われた場所はこの船内の地下フロアにある配電盤室だった。

そんな場所、これまでに足を踏み入れたことすらない。

 

なんでわざわざ、そんなところに……?

 

確かに、周囲の人間に話を聞かれないという意味では最適な場所かもしれない。

けど、違和感は拭えなかった。

 

前に堀北さんと話した時は、もっと普通の場所だったのに……

胸の奥に、うっすらと不安が浮かぶ。

 

それでも、俺は綾小路くんの言葉に従い、目的の場所へと歩き出した。

 

配電盤室の前まで行くと、俺はゆっくりとドアノブを回す。

施錠はされていなかった。手応えもなく、すんなりと扉が開く。

 

中は薄暗く、鉄と埃のにおいが鼻をかすめる。

どこか、倉庫にも似た無機質な空気。

足を一歩踏み出すと、コツンと靴音がやけに響いた。

 

ここなら……たとえ叫んでも、外には声が漏れなさそうだな。

そんな場所に、俺は今、ただ一人で足を踏み入れたのだ。

 

堀北さんは……本当に、ここに俺を呼んだのか?

 

疑念が膨らんでいく。

この前の特別試験を思い返す。

Dクラスが1位を取れたのは、紛れもなく綾小路くんの暗躍があったからだ。

それから、1学期に堀北生徒会長と綾小路くんのしていた会話。

綾小路くんは入学試験でわざと手を抜いて点数を落としていたこと。

 

そして、俺はそれを知っている。

堀北さんと綾小路くんの会話を通して、綾小路くんが裏で全てを操っていたことを。

だとしたら、俺をここに呼び出したのは堀北さんじゃない。

特別試験での暗躍を知っている俺にわざわざ堀北さんが呼び出したと伝えたということは。

 

「まさか綾小路くんは俺を――」

 

ガチャン。

思考を遮るように、背後で重々しく扉が閉まる音が響いた。

 

「……上條、来てくれたんだな」

 

ゆっくりと振り返ると、そこには綾小路清隆がひとり、無表情のまま立っていた。

その背後に、堀北さんの姿はどこにもない。

 

「堀北さんも人が悪いよね。俺たちを、こんな場所に呼び出すなんてさ……」

 

なんとか冗談めかして笑ってみせるが、喉がひどく乾いていた。

心臓の鼓動が、耳の奥でドクドクと煩いほどに響いている。

 

「悪いが、堀北は来ない」

「……っ!」

 

やはり、そうか。

最初から堀北さんなんて、関係なかった。

 

「嫌だな、それだと綾小路くんが俺を騙してここに呼び出したみたいだけど……」

 

平静を装って口にしたが、指先がわずかに震えているのが自分でもわかる。

 

「そうだ。俺がお前に堀北からの連絡と偽ってここに呼び出した」

 

綾小路くんの目はただ冷たく、こちらを真っ直ぐに射抜いていた。

 

「ど、どうしてそんなことをしたの?まさか、綾小路くんが裏で動いてることを知っちゃったから……口封じ、しようとしてるとか?」

 

平静を保って問いかけたつもりだったが、声が震えていた。

 

「そうだと言ったら、どうする?」

 

その返答は、あまりにも無感情だった。

冗談とも本気ともつかない声音に、背筋が凍る。

 

「俺は……俺は綾小路くんの秘密を人に話したりなんかしないよ!綾小路くんも俺のこと、わかってるでしょ!?」

 

必死に訴えるように、言葉を重ねる。

 

入学してから、俺は綾小路くんのことを友達だと思っていた。

裏で何かしていることに気づいても、それを咎めようなんて思わなかった。

この前の特別試験の件だって、誰にも話していない。

俺は、本気でクラスのために協力したいと思っていた。

それだけだったのに。

 

「ああ。お前のことは軽くだが、把握している」

 

綾小路くんは、何の感情も乗せずに告げた。

 

「同じクラスの松下千秋と交際していて、通常の人間には持ち得ない能力を持っている、と」

「……なっ」

 

心臓が大きく跳ね、息が詰まった。

 

「なんで、それを……?」

 

俺の能力のことを知っている人間は、一之瀬さんただ1人のはずだ。

千秋さんとの関係ならまだ勘づかれてもおかしくない。

でも、スキルのことまで知っているなんて、ありえない。

 

綾小路くんは、感情の起伏一つ見せずに淡々と語り始めた。

 

「俺が、お前と松下の関係に気づいたのは、須藤とCクラスの暴行事件が起きた頃だ」

「そ、そんなに前から……?」

 

思わず、言葉が詰まる。

 

「特別棟に、お前と松下が入っていくのを見かけてな。佐倉が去ったあとも、しばらく様子を見ていた」

 

佐倉さんが去った後……それは一之瀬さんに出会うまでの間もということか?

俺の不安は的中し、綾小路くんの次の一言が俺の全身を硬直させた。

 

「性交が始まった時は、さすがに少し驚いた」

「……っ!せ、性交って……!」

 

その言葉があまりにも直球すぎて、思わず声が漏れる。

 

いや、確かに、あの時は――。

でも、まさか見られていたなんて……。

頭が真っ白になる。羞恥と恐怖と混乱が一気に押し寄せてきて、思考が追いつかない。

 

あの時、綾小路くんが特別棟に向かっていたことは確かに堀北さんから耳にしていた。

だが、堀北さんが見たのは一之瀬さんと会ってからの俺たち。

綾小路くんがそんな最初から俺たちを監視していたなんて考えもしなかった。

 

「最初の中間テストの時から、お前は他の生徒とは明らかに違っていた。自分の判断で動ける生徒は、Dクラスでは貴重だからな。俺は堀北とは別に、お前個人に興味を持った」

 

つまり、観察対象として。それが始まりだったのか。

 

「お前は、確かにDクラスの中では優秀だ。だが、一之瀬や葛城のような生徒には及ばない。そして――お前には決定的な弱点がある。松下との関係もそうだが、一之瀬にも手を出しているな」

「なっ……どうして、それを……」

「確信したのは昨日だ。スパから出てくるお前と一之瀬を、俺はこの目で見ている」

 

あの時、背後から何かに見られているような感覚があった。

それは気のせいじゃなかった。あれは、綾小路だったんだ。

 

「スパに一緒にいただけで、よくそこまで……」

「恋人関係にない男女が、夜に2人でスパに行く。それだけでも状況証拠としては十分だ。加えて、昨夜、お前と一之瀬が密会していたのも把握済みだ」

 

これ以上は何も言えなかった。

綾小路は、俺のすべてを把握していた――いや、すべてに近い何かを。

 

「……能力のことも、それで気づいたの?」

 

「確信に至ったのは昨日だが、疑いはずっと前からあった。特に、無人島での特別試験。あのとき、上條。お前と行動を共にしていた俺の中に、ある違和感があった」

 

綾小路はまるで実験報告でもしているかのように、静かに語り続けた。

 

「お前のそばにいた時、俺の精神が一瞬乱された。性的な興奮という感情に支配されかけたのは、初めてのことだ。それでお前の異常性を直感した」

 

俺は言葉を失う。

まさか、あの時に綾小路くんはそこまで感じ取っていたのか。

 

「さらに、身体能力だ。高円寺と張り合える生徒なんて、この学校にはそういないだろう。だがお前の運動能力は、常軌を逸している。普通の人間としては、な」

「……それで、俺と一緒に行動していたんだね。試験中、やけに近くにいた理由が、今わかったよ」

「ああ。お前がどういう人間かを観察し、能力の全容を少しでも把握するためだった。だが、観察対象は、もはや静かに見ているだけで済む段階を超えている」

 

そうか……綾小路くんは、ここまで全て見通していたんだ。

これはもう、お手上げだ。

 

俺は、とんでもない相手に目をつけられてしまったようだ。

 

「……それで、俺をどうするつもりなの?危険因子として、ここで排除でもする気?」

「危険因子、か。確かに、お前はこのクラスを一瞬で崩壊させられる力を持っている。能力なんていう他者への絶対的干渉できる存在は、均衡を脅かす」

 

やはり、綾小路くんにとって俺は脅威だということか。

このまま人目のつかないこの場所で――俺を消すつもりなのか?

 

「でもさ、仮にここで俺を潰したところで無駄だと思うよ。確かに場所的にはバレにくいかもしれないけど、俺の傷だらけの姿を見れば、学校も動くはずだよ……須藤くんの時みたいにね?」

 

わずかな抵抗のつもりだった。

 

「そうだな。だが、俺は力づくでお前を押さえ込もうなんて考えていない」

 

そう言って、綾小路くんはポケットから携帯を取り出した。

そして、静かに画面を操作し、俺の目の前に差し出してきた。

 

「……こ、これは……」

 

俺の顔から、血の気が引いていくのがわかった。

 

「上條。これが何か、わかるな?」

 

その画面に映し出されていたのは、とても見覚えのある。

信じがたい光景だった。

 

俺と千秋さんが特別棟でしていた、あの行為。

その一部始終が、綺麗に、鮮明に、動画として記録されていた。

 

それだけじゃなかった。

昨晩の、一之瀬さんとの密会。

あのときの会話の一部始終が音声で、しっかりと残されていた。

 

「……これを学校側に提出したら、どうなると思う?」

 

綾小路くんの声は、淡々としていた。

まるで、俺の心がどう揺れようと関係ないと言わんばかりに。

 

「退学とまではいかないかもしれないが……停学は避けられないだろうな。寮ならまだしも、学校内の特別棟だったからな」

「くっ……」

 

言い返せない。

どう考えても、言い逃れできる余地なんて、どこにもなかった。

 

「お前は自分だけならいいと思っているかもしれないが、この映像を提出すれば松下の停学も確定する。そして――この一之瀬との音声を、松下に聞かせたらどうなるか……わかるだろ?」

 

頭が真っ白になった。

千秋さんとの関係も、一之瀬さんとの関係も全部、壊れる。

 

ようやく、話す覚悟を決めたばかりだった。

少しずつでいい。ちゃんと向き合おうと、そう思った矢先だった。

 

でも、すべてが……裏目に出た。

 

それを突きつけてきたのは、綾小路清隆。

俺なんかとは、最初から格が違う。そんな現実を、思い知らされた。

 

ここで下手なことをすれば、千秋さんがどうなるかわからない。

もう俺にできることなんて、何1つなかった。

 

「綾小路くん……俺は、本当に君の邪魔をするつもりなんてない。信じてくれ……」

 

俺は力が抜けるままに、膝をついた。

そして、そのまま床に頭を下げる。

 

「だから……お願いだ。千秋さんには……手を出さないでくれ」

 

綾小路くんは、しばらく黙って俺を見下ろしていた。

その視線はどこまでも冷たく、底が見えなかった。

 

「――お前にとって、松下千秋は、それほどまでに大事な存在なのか?」

「……ああ。俺にとって、千秋さんは……」

 

言葉に詰まりながらも、俺は絞り出す。

 

「本当に、大事な人なんだ。だから……どうか、お願いします……」

「一之瀬にも手を出した奴が、よく言うな」

「ち、違う!それは……俺の意思じゃない。あれは、俺のスキルが……!」

「スキル、か……」

 

そして次の瞬間、綾小路くんは俺の肩を無造作に掴み、沈んだ身体を引き起こす。

 

「立て」

 

その眼差しは変わらない。

冷静で、鋭くて、何一つ揺らいでいない。

 

「綾小路くんの要求はなに? ……もし千秋さんに関わることなら、抵抗させてもらうよ」

 

俺は拳に力を込める。というより、込める素振りだけ見せた。

警告のつもりだった。

だが綾小路くんはそんな言葉を気にも留めない。

次の瞬間、綾小路くんは一歩踏み出し、俺の肩を掴んで壁へと押しつけた。

 

「うっ……!」

 

頭が鈍く壁にぶつかり、声が漏れる。

 

「暴力で来るなら、俺もそれで返すだけの話だ」

 

その言葉に、背筋が凍る。

そして、綾小路くんと俺の距離が縮まる。

わずか数10cmで接触するような僅かな距離。

 

「上條、股を開け」

「……え?」

 

聞き間違いかと思った。いや、そうであってほしかった。

 

「どういうつも――」

 

動揺したまま言葉を発しかけた瞬間、口を手でふさがれた。

 

「ちょっ、ちょっと待っ……うそっ!」

「動くな」

 

綾小路くんは、静かに告げる。

まさか、これはそういう……綾小路くんの言葉で俺は覚悟するしかなかった。

 

「綾小路くん……」

 

俺はゆっくりと、股を開いた。

すると、綾小路くんはズボンのベルトに手をかける。

 

「こういうのは初めてだから、優しくして……」

 

俺は弱々しい声で、呟いた。

もうどうしようもない。俺はこのまま綾小路くんの欲望の捌け口になるんだ。

 

「……お前は、何を想像しているんだ?」

 

冷たい声が、俺の思考を一瞬で凍らせた。

まるで、すべてを見透かしているように。

 

「な、なにって……今の流れは、どう見たって……」

「お前がどんな人間なのか、それを確かめたかっただけだ。特に意味はない」

「なっ……!ちょ、それって……」

 

つまり今の一連のやり取りは、すべて無意味だったということか。

俺が股を開いたのも全部、試されただけ?

 

「上條、お前をここで消すのは簡単だ。だが、今はまだその時じゃない」

 

綾小路くんの目を見つめても、何も読み取れない。

そこにあるのは、深く澱んだ黒。

のぞき込んだところで、返ってくるものなどない。

 

「俺は、お前がこの学校生活にどう作用するかに興味がある。だから……お前には、俺の手駒になってもらう」

「手駒……って」

「ここには友情も、信頼も、絆も存在しない。ただ、お前の弱みを俺が一方的に握っている――それだけだ」

 

映像、音声、そして、千秋さん。

俺の全ては、綾小路くんの掌の上にある。

 

「選べって言われても、選択肢なんてないんでしょ……わかったよ。千秋さんに手を出さないって約束してくれるなら、俺は――なんだってやる」

「それでいい。お前には、汚れ仕事も、リスクを伴うことも任せることになる。それは覚悟しておけ」

「拒否権なんて最初からないんだよね……全部、わかってるよ。なんでもやる」

 

その時、俺ははっきりと理解した。

綾小路清隆という男を、絶対に敵に回してはいけない。

 

彼の前では、どんな正しさも、どんな想いも、意味を持たない。

一之瀬さんには――本当に、申し訳ないと思う。

だけど……

 

俺は、そんなに優しくも、強くもなかった。

 

ヒビの入った花瓶に、接着剤を塗って直しても。

砕かれる前に直す意味はなかった。

 

昨日、ようやく繋ぎとめたはずの俺の心は、今日、粉々に砕かれた。

俺はもう、綾小路くんに「やれ」と言われたら、ただ従うだけの人形だ。

 

4

 

この日、俺は綾小路清隆という、たった1人の生徒に屈した。

 

俺の学校生活、その存在意義。

何もかもが、綾小路くんの掌に握られている。

彼の気まぐれひとつで、俺だけじゃない。千秋さんの生活さえ、簡単に壊される。

 

だから俺は、綾小路くんの顔色を窺いながら、駒として動くしかなくなった。

綾小路くんの言葉、命令は俺にとっては絶対だ。

 

でも、綾小路くんも少しだけ情報を明かしてくれた。

 

この学校生活で、目立った行動は極力避けるつもりらしい。

表向きの指揮は堀北さんに任せ、自分は裏で糸を引く立場に徹すると。

 

だけど……そんな言葉を、どこまで信じていいのか。

綾小路くんの真意なんて、俺にはわからない。

話してくれたその言葉すら、何かの布石かもしれない。

綾小路くんの本当の目的は、いったい何なのか見当もつかない。

 

『お主は、すでにゲームオーバーなんじゃからな』

 

あいつの言葉が、ふと脳裏をよぎる。

 

そういうことか。

俺は、もうずっと前から詰んでいた。

 

気づかないうちに、選択肢をひとつずつ失って。

知らないうちに、逃げ場がなくなっていた。

ずいぶん前から、道を踏み外していたらしいな。

 

無気力なまま、ベッドに身体を沈めていると携帯が震えた。

 

画面に映る名前は、松下千秋。

……千秋さん。

 

俺は、ゆっくりと着信ボタンを押す。

 

「……もしもし――」

 

自分の声が、ちゃんと届いているのか自信がなかった。

本当は今日、一之瀬さんのこと。

それから、俺の能力のことも……千秋さんに伝えるつもりだった。

 

ようやく、その覚悟ができたはずだったのに。

 

「もしもし……今、大丈夫かな?」

 

千秋さんの、優しい声。俺を気遣ってくれる声。

 

「だ、大丈夫ですよ。どうかしました?」

 

精一杯、明るく返す。

でも、喉の奥に罪悪感が張りついていた。

 

「どうかしたって……今日まだ会ってないでしょ?だから――」

 

会いたい。

俺に、会おうとしてくれている。

なのに俺は、どんな顔で会えばいいんだ。

 

『――松下千秋には、能力のことは話すな。今後、お前が駒として動く時に邪魔になるからな』

 

綾小路くんの、あの冷たい声が脳裏にこだまする。

 

「本当に……ごめんなさい。ちょっと試験の疲れが……今になってきたみたいで……」

「そう……なんだ。じゃあ、また今度ね。お大事に――」

 

千秋さんの声が、少しだけ震えていた。

寂しさを押し殺した、その言葉が……俺の胸に突き刺さる。

 

ごめん……ごめんなさい。

本当は、伝えたかった。

でも俺は、もう何も選べない。

 

俺は……弱い。

電話が切れた後も、俺はしばらく携帯を耳に当てたままだった。

 

もう聞こえないはずの千秋さんの声が耳元に残る。

画面の表示が消えて、現実に引き戻された。

 

「……っ」

 

天井を見上げる。

 

どうして、こうなったんだろう。

俺はただ、千秋さんと一緒にいられれば、それだけでよかったはずなのに。

 

あいつが――俺にスキルなんてものを与えたせい?

いや、違う。そう考えるのはもうやめたんだ。

 

無人島で、俺は自分の意思でスキルを使うと決めた。

佐藤さんも、篠原さんも……全部、自分で選んだ結果だ。

 

でも、一之瀬さんと話して、ようやくもう一度、自分と向き合えた。

偽るのはやめようと、保身をやめようと、あの時はそう思えたんだ。

 

……なのに。

綾小路くんに屈服して、結局、俺は元通り。

いや、元よりもっと酷いかもしれない。

 

自分を偽らなければ、俺だけじゃない。

千秋さんにまで危険が及ぶ。

 

迷走してるな……

たった数日の間に、俺の中の考えが何度も揺らいで、裏返って、壊れて。

俺は、何を?

 

どうすればいいんだよ。

なあ……誰か、教えてくれよ。

 

5

 

「なにを迷っているんじゃ」

 

嫌な声が聞こえた。

俺はいつの間にか眠っていたようだ。

 

「泣いていたのか? いい気味だな」

「惨めだろ? なんとでも言えよ」

 

今はもう、こいつの声を聞いても怒る気にもなれない。

自分の置かれている状況はどうしようもない。

本当に、惨めだからな。

 

「そう言われると、虐めがいがないのう……」

「……そうかよ」

 

まったく、笑える話だ。

無人島でどんなに走り回ったって、結局、詰んでいた。

意味もなく奔走して、佐倉さんも、小橋さんも、佐藤さんも、篠原さんも……

なんのために。

なんのために、俺は。

 

「欲がない奴じゃのう……」

 

神はあきれたようにため息をついた。

 

「その強大なスキルを、なぜ活かそうとせんのじゃ?」

「……これは、人を歪める恐ろしい力だ。こんなもの、ない方がいいに決まってる」

「その力があれば、数多の人間を思い通りにできるんじゃぞ?」

 

そうだ、この力は人を思い通りに操る力を持っている。

あの時、佐藤さんや篠原さんに自分の意思で踏み込んだ。

 

「それが、恐ろしいって言ってるんだ……!」

「持っているのは、お主じゃ。どう使おうが、お主の勝手じゃが……」

 

神は、じっと俺の瞳を覗き込んでくる。

 

「普通の人間なら、その力……存分に使うじゃろうなあ」

 

確かに、この能力は強大だ。

誰かを思い通りにできる。

それに魅力がないとは言わない。

でも、そんな力で手に入れた関係に、何の意味がある。

 

「俺は……そんな力、必要ない」

「力を持っていながら、それを使わぬとは……それは愚か者のすることじゃよ」

「……っ」

 

その言葉に、心が揺れた。

ずっと、このスキルを否定してきた。

けれど、本当にそれでよかったのか?

最初から向き合うことを避けて、ただなかったことにしようとしていたんじゃないか。

 

「お主は今、本当の意味でスキルと向き合う時が来ている」

「本当の意味で、向き合う……?」

「お主が本当にしたいことはなんじゃ?」

「俺が、したいこと……」

「普通の人間にできぬことも、スキルを持ったお主なら、できることがあるじゃろう?」

 

スキルを持つ自分が、普通の人間と同じ土俵に立とうとするのは、ただの自己満足かもしれない。

俺は千秋さんといたかった。

ただそれだけだった。

 

少しプライドが高くて、自信家で、でもちょっぴり繊細で。

俺の隣で微笑む彼女、話してる時間が幸せだった。

そんな彼女をいつしか好きになっていた。

最初に俺の『発情』が発動したのは、その時だ。

 

そうだ。

最初から、俺はスキルを使っていた。

否定したかったスキルの上に、俺の幸せは成り立っていた。

 

「もうこのスキルはいらない、なんて言ってたけど。それは都合のいい逃げだったのかもな」

 

スキルを持った俺は普通じゃない。

だったら、その現実を受け入れるしかない。

 

「愚か者のまま終わるつもりはない」

「目つきが変わったのう……」

「ああ。見て見ぬふりは、もうやめだ」

 

縛られる必要なんてない。

否定して、逃げて、怯えるばかりだった俺は、もういない。

今度は、俺がこの力を制する番だ。

 

「試してやるよ……俺のスキルをな」




今回の話で、最初に思い描いていた展開まで、ひとまずたどり着けたかなという印象です。

内容としては、第6話で描いたエピソードを掘り下げる形となりましたが、あれからもう1年以上が経っているので、覚えている方はほとんどいないかもしれませんが、今回のエピソードは物語全体の中でも、ひとつのターニングポイントになるかなと思います。

ここからは、原作に沿って綾小路くんの登場シーンも少しずつ増えてくる予定です。
また、4.5巻の内容は箸休め的なエピソードが多いので、いろんなキャラクターも出せると思うので、アンケート結果も反映できる場面があると思います。
あと船上試験中は坂柳はお休みしてるから多分出せないです、ごめんなさい。

これからもマイペースな更新にはなりますが、引き続きよろしくお願いします。

今後行為シーンが欲しいキャラクター候補(すぐには反映できない可能性高いです)

  • 松下千秋
  • 佐倉愛里
  • 櫛田桔梗
  • 堀北鈴音
  • 長谷部波瑠加
  • 佐藤麻耶
  • 篠原さつき
  • 園田千代
  • 一之瀬帆波
  • 小橋夢
  • 白波千尋
  • 姫野ユキ
  • 星之宮知恵
  • 西野武子
  • 伊吹澪
  • 椎名ひより
  • 神室真澄
  • 山村美紀
  • 白石飛鳥
  • 坂柳有栖
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