職場の女と娘が入れ替えられたお話~全部あんたらが悪いんだ~ 作:プニたけっち
「お前さぁ…なんでこんなこともできないわけ ? 」
「すいません…すいません…」
「お前もう三年だよな ? いまだに夜勤どころかこんなこともできなくて恥ずかしくないの ? 」
「はい…恥ずかしいです」
ある介護施設の職員室で20代の男性職員が30半ばくらいの小太りの男性職員に胸倉をつかまれている。20代の職員は
さて、介護の現場でも利用者の相手だけでなく書類作成や事務業務とは無関係ではいられない。会議のための資料作成、利用者の資料と苦情対応、トラブルの仲介、基本的な介護業務、全部並行して行わなくてはならないのが介護士の辛いところである。今回岩田が詰め寄られているのは上司から頼まれていた業務を完遂できなかったから。他の職員であれば十分こなすことができた業務なのだが、残念なことに岩田はその能力が足りていなかった。大抵の職場で求められるのは『即戦力』である。時間がない中一々新人の育成に時間をかけてなどいられず少し教えて後はポイッである。そんな厳しい状況の中で岩田は入社してきた。
岩田はこれまでバイトもすることなく学校の勉強に注力してきたインドア派、基本的に真面目だが他者との交流を苦手としあまり深く関わろうとはしてこなかった。しかし社会ではそんなことは通用しない。就職氷河期の中、学校教諭のコネで就職した介護という現場は岩田にとって相性最悪の仕事であったのだ。利用者トラブルの仲介も碌にこなせず、パソコンが苦手なため書類作成は遅い…というよりも作り方やコツを教われていない。自分で調べろと先輩達に言われ大苦戦。
何より一番の痛手は『立ち回り方がわからない』事であった。入社したてで新社会人、このカードを有効に使える入社三ヶ月の内に仕事内容をとにかく聞いて覚え実践し、体当たりでもいいからミスできるうちにやってみればよかったのである。基本的にミスをしたくない頑固で凝り性である岩田の悪いところがミスを許せなかったのだ、メモしても所々虫食い状態でそ読み返してもわからなくなり覚えれない。本当に立ち回り方さえしっかりしていれば何とかなった可能性が高い。
なぜならば、岩田は『覚えるのに時間はかかるが一度覚えたことは忘れない』そう難儀な特技があるのだから。
「誰がお前のケツ拭くことになるかわかってんのか ? 俺は知らねえからな、自分でなんとかしろよ」
松井は岩田を床に叩きつけると現場に戻っていった。他の職員は岩田の自業自得だとして誰も声をかけることなく黙って業務をこなす。あとには歯ぎしりしながら松井の後ろ姿を睨みつける岩田の泣き姿があった。
* * *
「…でさあ、あいつてんで使えねえんだよ」
「あああの子ね、私の職場に回されてきた時も大丈夫かなとは思ってたわ」
松井家の食卓では毅がビールを飲みながら職場での事を妻である
「あの調子じゃああまり長く持たないと思ってたけど…実際どうなの ? 」
「あー…実は施設長から呼ばれてな、あいつ契約更新されないらしい」
「そう、でも頑張ってたんでしょ ? 」
「頑張ってたのは認めるよ。でもさ、頑張ってるだけじゃだめなんだよ。あいつより後に入った職員はもう正社員になってるのにずっと契約社員のまま。俺が今まで指導した職員の中でもダントツで役立たずだ。指導係の俺の評価も下がったし散々だったわ」
「あ~納得ww」
松井毅、彼はこれまで多くの職員を指導してきた実績もある。妻の恵子も同じである。この二人には共通点が一つある、それは二人とも基本的に体育会系という事である。これまで二人が指導してきたのは全員、経験者、バイトで社会経験あり、このどちらかが当てはまる。
つまり二人ともまっさらな新社会人に指導したことがない。まして仕事バイト経験ゼロの新社会人に体育会系のノリや経験者に行っている指導を行ったところで上手くいくわけがない。岩田の行いを頭から否定し押し付ける方法は致命的なまでに合わない、岩田の性格を見て取り指導できる職員であれば十分戦力になれたのだが…めぐり合わせが悪いとしか言いようがなかった。
「ところで、今度の休日に
「いいね、伊予も毅と遊びに行きたがってたし」
伊予は毅と恵子の子供でもう七歳になる一人娘だ。最近少々生意気に育ってきているのが悩みの種である。
「そうだな…もう少ししたら秋だし紅葉でも見に行こうか」
「いいわね、なら今度料理色々作っちゃおうかな」
「はは、期待してるよ」
互いにキスをし夜も更ける。明日は日曜日だが恵子は仕事、毅は休みで伊予を連れて遊びに行こうと考えていた。仕事では厳しいが妻と娘思いなのは本当。恵子からは良き夫、伊予からは良きパパではあった。
「ふわ~あ…もう寝るわ。明日早番だし」
「わかった、おやすみ恵子」
夫婦だけの時間は終わりを告げ、二人とも先に寝ている伊予とともに就寝に入る、今度の休みを楽しみにしながら。
だが残念なことにそんな翌日の家族計画は水泡に帰すのである…。
* * *
翌日
「な、なによこれぇッ ! ? 」
「うわあすごい ! 私ママになってるよ ! ? 」
早朝の松井家は大混乱に陥っていた。目が覚めた毅は目の前で慌てふためく恵子と伊予を見るが訳が分からなかった。ママになってるとはしゃぐ恵子、大人びた感じで話す伊予、まるで互いが入れ替わったように振る舞う二人。これで冷静に動けという方も無理がある。
「ふ、二人ともどうしたんだ… ? 」
「あなた大変よ ! なんでだか知らないけど私伊予になってるのよ ! ? 」
「パパ~私伊予だけどママになっちゃった~」
話をなんとかまとめると、恵子の中身は伊予、伊予の中身は恵子…というふうにまとまってしまった。ドラマじゃあるまいし…と内心愚痴る毅だが危機が迫っていた。恵子は本日早番、しかも現状では情報が不足しなにがなんだかわからないときている。恵子の中身が伊予だとしたら七歳の娘を働きに出すことになる。
「ど、どうしようあなた…」
「どうするつったって…」
まさか娘と妻が入れ替わったから休ませてくれなどと言えるわけがないし、それ以前に早番で急に休みを入れるわけにもいかない。一月前に岩田が急病で早番を休んだ際に毅はかなりきつくとがめてしまっていた。自分が身内にそんなことをさせるのはプライドが許さない。
「…行ってもらうしか…」
「じ、冗談でしょ ? 」
「俺がついてあげられればいいけどそうもいかないし…だれかに調子が悪いからサポートしてもらうようリーダーにお願いを…」
娘を窮地に追い込むか一家のプライドを優先するか、毅と恵子は後者を選択した。この状況がいつまで続くかもわからないし、ずっと休むわけにもいかない。だからこそ松井家は娘を仕事に出す選択を取った。
人間追い詰められれば本性が出るもの、普通なら休み一択なのだが…この選択は吉か凶か ?
(ど、どうしよう…ママのお仕事なんてわかんないよ…)
職場まで送られた松井恵子35歳、中身は松井伊予7歳。言うまでもなくそんな子に仕事内容などいくら説明したところでわかるわけがない。一生懸命車の中で覚えたメモを頼りに職場内を移動する恵子だが実際に動けとなると不可能。早くも緊張のあまり吐きそうになる。
(ヤバい、どうしよう、どうしよう…助けてパパ、ママ…)
職場の階段の踊り場で膝を抱える恵子、周りに助けてくれる職員などいない、みな自分の業務で手一杯なのだ。しかも忙しい早朝の時間帯で本来なら仕事前の下準備を行うはずが今の恵子にはそれができない。
業務開始まであと数分の時であった。
「ふぅ…あれ、松井先輩 ? なにしてるんですかそんなところで」
「え ! ? え~と…(だ、だれ ? 名前わかんない…)」
これからの事に震える恵子へ声をかけたのは何故か毅の職場に所属する岩田であった。
「あ、俺今日と明日だけヘルプでこの施設で働くことになりまして…2日だけですがよろしくお願いします」
「え…え~と」
ぺこりと頭を下げる岩田に対してしどろもどろの伊予、あぅあぅとしか言えない伊予に対して心配になった岩田は思わず声をかけた。
「あの…具合悪いんですか ? なら今からでもリーダーに伝えて休んだほうが…あとは俺が何とかしますから」
「…うぅ、すみません助けてください ! 」
大声を出した恵子に周囲の職員が一瞬だけ視線を向けるがすぐに業務に戻った。
「た、助けてください…とは ? 何かあったんですか ? 」
「じ、実は…信じてもらえないかもしれないけど、朝目が覚めたら私ママになってて、ママが私になってて…代わりに仕事行けって言われて」
「ま、待って、落ち着いて…いやもう時間が…とりあえず俺となるべく一緒にいて、事情は後から聞くから…」
「は…はい、お願いします」
説明になっていそうでなっていない恵子の話しを突き放さなかった岩田、彼の視点で見れば突然先輩が意味不明な事を口走っているけどなにかあるんだろうな…程度にしかわかっていないのだろう。それでも話を聞こうという姿勢を捨てなかったのは良い所だと思う。
さて、松井夫妻から役に立たないと散々な評価を下されていた岩田であるがそれでも仕事は真面目に且つ懸命にこなしていた。確かに彼は約3年も勤務したわりには仕事はできないが決して役に立たないわけではない。一度頭に入ったことは忘れない、だから悪いメガネで見なければ十分動けているしきちんと仕事はできている。
指導係が岩田に合わせた指導さえできていれば今頃十二分に戦力となっていた可能性は非常に高い。現にフリーハンドで動いているならキビキビ動けているのだから。
一方で今の恵子こと娘の伊予ちゃん、彼女は岩田を平等な視線で見ていたから彼がバリバリ仕事ができるやり手の社会人に見えていたのだ。施設の皆が挨拶程度にしか自分に接してこなかったのにしっかり事情を聞こうとしていた彼は救世主に見えたことだろう。否、誰だって同じ状況に追いこまれたらそう見えるに違いない。
時間が過ぎて休憩時間。約束通り恵子は岩田へ事情を説明していた。
「う~む…話通りなら二人の身体が入れ替わったと」
「そう、そうなんですよ ! 私どうしたらいいか…私にママのお仕事なんてできないよぉ…グスン」
そこで限界が来たか恵子が泣き始めてしまう。岩田も一目につかない所で話そうと言って場所を選んだわけだが功を奏したといえる。誰も来ないことを確認してから恵子の頭をなでる。恵子を安心させようという心遣いだが傍目からは他人の妻に粉かけてるようにしか見えないからだ。
「で、でも岩田さんがいれば私頑張れそうです ! 」
「あ、あのね伊予ちゃん。この仕事は勤務時間が異なるから毎回俺が助けられるわけじゃないんだよ」
「え… ? 」
やはり中身は子供、表情がコロコロ変わる。パァッと輝く笑顔から急転直下、この世の終わりのような表情に変化。別に岩田は悪くはないのだが罪悪感が残る状況である。
「あ、あの、どうにかなりませんか ? 私このままママのままだったらどうすれば…」
「あ、慌てないで伊予ちゃん、大丈夫だよ。こういうものはね、一晩経てば直るものさ」
「そんなことあるわけないじゃないですか ! 子供だと思ってバカにしないで ! 」
確かにその通り、岩田の言っていることは何の根拠もない。しかし何故か岩田は自信たっぷりである、子供を安心させるための方便なのか… ?
「じゃあこうしよう。もし明日までに元に戻らなかったら『伊予ちゃんの言うことをなんでも何回でも聞いてあげるよ』」
「…もし戻ったら ? 」
「その時は『1つだけ言うことを聞いてもらうよ』もちろんだれかを傷つけろとか物を盗めとか無茶なことは言わない。今の君でもできることさ」
「…わかりました」
「よし。じゃあ残りの業務もしっかりやろう、俺からあまり離れないように」
話しが終わると同時に休憩時間終了のアラームが鳴る、岩田が立ち上がり恵子もそれに続く。その後は何事もなく勤務終了時刻を迎えたのだが…。
「今日は本当にありがとうございました。岩田さんがいなかったらと思うと…」
「いえいえ、伊予ちゃんの親御さんにはとってもお世話になったから・・・・・・・・ね」
「い、岩田さん ? 」
一瞬、本当に一瞬だけ岩田の顔が歪んだのを恵子は見た。すぐ表情がにこやかになったので見間違いだろうと恵子は追及しなかった。
「それじゃあお父さんが迎えに来ると言っていたし、帰り気を付けて」
そう言って岩田はバスに乗るため近所のバス亭へ歩いていき、恵子は駐車場で待っているであろう父毅の元へと急ぐ。
見ると車内には毅と下校時間の為か、娘に成りすましていた本物の恵子がいた。娘を出迎えようと車のドアを開けた途端…。
「「えッ ! ? 」」
恵子と伊予の視点が変わる。車内にいた本物の恵子は外にいた恵子に、外にいた本物の伊予は社内にいた本物の伊予に。
身体が元に戻ったのだ。
「パパ ! 私…元に…戻ってる ! ? 」
「な、ほ、本当か伊予 ! 」
「うん ! 」
「あなた ! 私たち、身体が元に戻ってるわ ! 」
ガチャリとドアを開け抱きしめあう三人家族、降ってわいたような災難は僅か一日もかからずに過ぎ去ったのである。何事かと凝視する他職員の視線に気が付き照れくさそうにその場を車で立ち去る毅達。
自宅へ戻った伊予は職場での出来事を両親へ伝えた。毅と恵子は岩田の奮闘ぶりに驚きを隠せないようでしきりに本当かと尋ねてしまっていた。だが伊予は岩田との賭けに関しては黙っていた。
(賭け事なんかしてパパとママに怒られたくないし…)
誰だって他者から怒られるのは避けたいところ、特に子供ならば両親からのカミナリなんて御免だろう。兎にも角にも朝のドタバタから一転して松井家では穏やかな夜が過ぎていったのだ…。
* * *
翌朝
また二人が入れ替わった…などという事はなく毅は夜勤、恵子は日勤、伊予は学校とそれぞれ出かけて行った。恵子が出勤すると本日までヘルプに来ていた岩田とばったり出会った。
「先輩おはようございます」
「おはよう、昨日はその…娘が世話になったみたいで、ありがとう」
「あ、その様子だと元に戻れたみたいですね(ヒソヒソ)」
恵子が元に戻ったと知ると岩田が小声で話しかけてくる。周囲に聞かれないための配慮だろう。
「え、ええ…ところで、私と娘の身体が入れ替わってたの他の人には…(ヒソヒソ)」
「言えるわけないですよ、そんな話誰も信じませんよ」
ごもっともな意見と配慮に恵子は素直に頭を下げ、仕事を開始するのだった。岩田もそのまま業務に戻り汗をかきながら勤労に励む、だが毅が言っていた通り先日岩田には契約更新は成されない通達が来ており本日が最後の勤務なのだが…。
数時間後
恵子の勤務終了時刻が訪れ帰り支度を終えると職場の外で自宅へと電話をかける。電話には伊予が出て学校の宿題をしていたと伝えていた、やはり昨日の出来事があり心配になったのだろう。内心安堵しながら電話を切る。
「先輩、娘さんですか ? 」
「い、岩田君 ! ? びっくりした、いきなり声をかけないでよ」
「ははは、すいません。一応今日が最後の勤務だったものですから…ところで娘さんはご自宅ですか ? 」
「え、ええそうだけど…それが ? 」
恵子の返答を聞くと岩田は満足そうにしながら頷いた。
「いえ昨日は大変でしたから、元気かなと…娘さんにはよろしくとお伝えください」
岩田は言うだけ言うとそのまま踵を返し立ち去ろうとし、恵子も岩田の行動に不信さを感じながらも帰宅しようとし…その瞬間パチンッと指を鳴らす音が聞こえた。
「えッ ! な、なんでここに ! ? ママの仕事場だよね ! どうして…なんでまたママの身体になってるの ! ? 」
突然恵子が狼狽し始めた。あたりを不安そうにキョロキョロ見回す。
「やあ恵子さん…いや、伊予ちゃんかな ? 」
「あ…岩田さん ! 大変なんです、私またママと身体が入れ替わって…さっきまでお家にいたのに…」
眼前にいた救世主へ思わず声をかける恵子、またしても身体が入れ替わった事実に驚きのあまり、落ち着いて考えればすぐわかる疑問にたどり着けなかった。
『何故岩田は二人がたった今入れ替わった事を知っていたのか ? 』
「さあ伊予ちゃん約束だ。俺の言う事を1つ聞いてもらうよ…」
岩田圭吾…彼が身体を入れ替える能力に目覚めたのは僅か一月前の風邪をひいて体調を崩した時だった。その時は松井毅からの 責もあり早く治さねばと医師から処方された薬のほかに薬局から購入した風邪薬を一気に服用してしまう。
通常であればそんなことをするわけがない。用法用量を守らなければ薬は毒である、この時の岩田は肉体精神ともに極限まで追い詰められていた。風邪を治しても職場ではいびられる、ならばいっそ薬でおかしくなってしまえば楽になれるのだろうか… ? そう考える程に。
転職すれば ? と考える方もいるかもしれないが、新卒でやっと入れた会社を辞めるという決断は困難であった。職無しでいるのは収入が無くなり、ゆるやかな死を意味するのだ。
当然ながら用法用量を守らなかった岩田はその日頭痛や眩暈吐き気に襲われる…が、うなされる間に彼は脳内で発生した薬剤や病の奇妙且つ奇跡とも言える交配により脳の普段使われていない部分が活性化し身体と精神を交換させる力を手に入れた。
脳内で理解できたこの能力は残念なことに、自分と他者の入れ替えはできず同性の他者二名同士を入れ替えることしかできない。ただしタイミングは自分の自由で回数制限無しであった。
岩田はこの能力は使わないでおこうと決めてはいた。他人同士の身体を入れ替え相手が不幸になったとしても責任なんて取れない、自分が入れ替われるならどうなったかわからないが…。その考えが変わったのは事実上のクビが宣告された時だった。正直ホッとしていた自分がいたのは事実だった。もう先輩職員から怒られたり胃痛に苦しむ日々と別れることができる…だがそれでも我慢できない自分もいる。松田毅は職場に残り続ける。幸せな家族生活を過ごし続けるのだろう。
我慢ならなかった。
自分がこれだけ苦しんだのに。自分も悪かった、でもあいつの指導が適切だったらこうはならなかったかもしれない。あいつのせいで…そんな考えに支配されたらもう止まらない。あいつの人生を変えてやる。そのためなら使わないと決めた力でもなんでも使ってやると決めたのだった。
* * *
岩田は中身を伊予と入れ替えた恵子を連れて夜の繁華街へ連れてきていた。目的地は何度かお邪魔させてもらい愚痴を聞いてもらった馴染みの飲み屋である。
「あの…岩田さん、私もうお家に帰らないと…パパとママが心配しちゃう」
「心配ないよ、今の君はもう大人の身体なんだから少しくらい夜遊びしても。それに日が変わるまでには家に帰すからね」
岩田が賭けで提案した願い事、それは『自分とお酒を飲みに来てほしい』というものだった。最初は親に黙って夜遊びすることに嫌悪感を示していたが昨日の一件で信頼を寄せていた岩田からのお願いだという事と『約束を守らない悪い子でいると二度と身体が元に戻らないかもしれない』という言葉を嘯き恵子を夜の街へ連れ出すことに成功したのだ、酷いマッチポンプである。
昨日の入れ替わりは本当にうまく入れ替えられるのかという実験と今の状況を作るための一手だったのだ。恵子の施設へヘルプに行けという命令は願ったりかなったりだった。
お店についた岩田は早速恵子を席に着かせるとすぐに甘いお酒を注文し差し出す。少しピンクがかっているがれっきとした飲み物である。
「…美味しい」
「喜んでもらえてよかったです、先輩にはお世話になりましたし今日は俺の奢りです。いっぱい飲んで楽しんでください」
「はい、いただきます…」
お店には静かなBGMが流れており、少し薄暗くも適度に広い空間が大人の雰囲気を醸し出していた。夢の世界というわけではないが恵子がまず雰囲気に酔うには十分であった。
「これも美味しいです…甘くてジュースみたい」
恵子が先ほどから飲んでいるのはアルコール度数は高いが非常に飲みやすいお酒である。お酒初心者の恵子はピーチジュースのように甘くのど越しが良いお酒を次々と飲み干してグラスを空にしていく…。
「とても美味しいです…ふふふ…美味しい…」
次第に顔を紅くし、にも関わらず恵子はジュースのようにカクテルを次々と飲んでいきどんどん体内にアルコールを取り込む。岩田は止めない、恵子が勝手に酔っぱらっていくのを隣で見ているだけだ。
アルコール度数が高く飲みやすいカクテル、人それをレディキラーと呼ぶ…。
* * *
「うぃ~ヒック ! いい気分です~ ! 」
「はいはい恵子、帰りますよ」
さりげなく恵子を呼び捨てにしながら彼女の腰に手を回す。恵子は泥酔しており一人では歩けずよろけながら岩田の誘導に従い歩いていく。店の外に出ると時刻はちょうど夜の10時、周囲には仕事帰りの男性やカップルの男女が話しながらすれ違っていく。岩田は空いている手で懐に忍ばせておいたボイスレコーダーの録音ボタンを起動させ、自分と恵子の会話を録音させた。
「恵子さん、俺の事が好きなんですか ? 」
「あたりまえですよぉ~ヒック ! だ~いすきです~ ! 」
「ありがとう。でもそろそろ帰らないと…旦那さんがいるんでしょ ? 」
岩田は素早く恵子の目の前に文字を書いたメモを出した。恵子の中身はまだ7歳の子供、読めるようわざわざひらがなでメモに文字を書いていた。
「ん~ ? 『い~のい~のたけしなんて、あ~んなろくでなしのとうへんぼくこっちからねがいさげよ ! わかれていわたくんとさいこんしちゃいたいわ ! 』ってかいてるんですか~ ? 」
岩田は素早く恵子が余計な事を言う前に録音を切り、のらりくらりと言葉を交わしながら次の目的地であるラブホテルへと移動していく。到着した後も都合の良い部分だけボイスレコーダーの録音を行いながら会話を進めていく。
岩田にとってラブホテルへ入ることなど初体験だがこれも目的のため。悪戦苦闘しながら超ハイテンションの酔っぱらいを連れ部屋へと入っていく。
「ここきれいですね~、ヒック ! 」
ホテルの一室に入った岩田と恵子、恵子は早速ふかふかのベッドへダイブし顔をこすりつけて感触を楽しむ。一方で岩田はすぐさま服を脱ぎ払うと恵子の服もまた脱がせていく。
「はい伊予ちゃん、服を脱いでもらえるかい ? 俺も手伝うからね。はいバンザーイ」
「バンザーイ ! 」
両手を上げさせ服を脱がせていきブラは恵子に外させる。ズボンとパンティは横に転がせ岩田が脱がせる。あっという間に全裸となった恵子、今まで夫や娘にしか見せてこなかった生まれた時の姿はこの時初めて第三者へ解き離れたのだ。
「あついけどすずしくなりました~」
「それは良かった。では始めようかな、なにせ時間がないからね」
天井を向いて大の字になる恵子の乳首を指で押す。酒が入り興奮状態の恵子はピクッと震え、テンションが上がって面白いのかケラケラ笑う。続けて乳房の付け根をなぞる。しっとりたかいた汗が岩田の指にまとわりつき、くすぐったさに恵子がもだえる。恵子も思わず起き上がろうとするが岩田が馬乗りになっているのと初の感覚に身じろぎするだけで動けない。
腋の下からゆっくりと指で脇腹をなぞり徐々に手のひらと触る範囲を広げていく。おへそを触り左手で上、右手で下へとなぞり移動する。仕事で鍛えられているのか恵子の身体はしっかり引き締まっており無駄な肉はない。左手を首へ回し後頭部を支えながら接吻を交わす。恵子の中身である伊予はまだまだロマンチックな恋愛に憧れる少女、そんな夢見る少女のファーストキスは特別なもの、女酔っ払いの目はグルグル目から次第にハート型へと変わった。
伊予からの視点では岩田は大人の男性であり仕事もできて自分を助けてくれた男性、大人のお酒を教えてくれた男である。お酒で心拍数が増えていることもあり恵子は今の状況に酔っていたのだ。
岩田の右手が鼠径部から大腿部へなぞられていき膝で止まる、今度は臀部へと移動し乱暴さを感じられないソフトな手触りに恵子の酔いは鳴りを潜め遂に自分から岩田の背中へ手を回してしまう。一向に他の事をしない岩田に段々と苛立ちを感じ始めた恵子は岩田の右手を触り自然と自らの秘所へ動かす。少女ではない女の動きは恵子の身体に残った記憶なのかもしれない。
準備万端とも言える恵子の秘所は濡れに濡れており岩田の指がスルスルと入っていく。艶のある声が恵子の口から漏れ出る、目を閉じ岩田の腰へ自由に動く右足を絡め『好きにして…』という意思を伝えた。
だが岩田は愛撫を止めない、それどころか恵子の身体が絶頂寸前になると行為自体が弱くなる。折角絶頂を迎えられそうだった身体が不満をため込む。行き所の無い力が吐き出し口を求めて暴れだす。
「い、岩田さん…お願いです…何か変なんです、どうしてか…岩田さんのおチンチンが、欲しくて…」
「はぁ…はぁ…そうかい ? でもそれは不思議な事じゃないんだ、男性と…好きな男と一緒に気持ちよくなりたいと願うのは当然なんだよ」
伊予はわかっていない、これは紛れもない不倫であり夫婦間の裏切り行為であると。これから行う行為はそれにあたると…しかし岩田は教えない。何故ならば教えると不都合だから、毅への意趣返しはこれしか思い浮かばない。
岩田は自らの肉棒を恵子の秘所にゆっくりと沈めていく。既に非処女の身体はなんの抵抗もなく肉棒の侵入を歓迎した。生まれて初めて体内に異物を入れられる感覚、子宮を突かれる衝撃に感じる不安感、自然と恵子は岩田を抱きしめ両足を腰に回した。それは未知の感覚による恐怖感も混じっていたが一番は眼前の男に対する信頼の現れなのだろう。
岩田もまた他人の妻を好きにできる背徳感により興奮を隠せず腰が荒々しく動く。見た目は大人だが中身は少女、いくら酔っているとはいえ美女を自分の思い通りにできるのだから興奮もする。
腰が動きラストスパートに入る岩田、そして恵子も腰が浮き二人の股がパンパンとぶつかり呼吸がそろっていく。岩田の腰が沈むと恵子の腰が浮き肌のぶつかる音がする。生々しい肌の音と男女の声がホテルの部屋に響き二人のボルテージも最高潮に達した。
「イクぞ恵子 ! 受け止めろ売女め ! 」
「な、なんかくるよ ! 岩田さん、岩田さん ! 」
岩田が自らの精子を吐き出すと同時に恵子もまた視界が真っ白になる感覚に陥った。身体の頭からつま先まで電気が走るように痺れ自分自身を股間から吐き出すような…これがイクということなのだと恵子…伊予は知った。
「な…なんなのこれ…き、気持ちよかっ…」
恵子は最後まで言い切る前に力尽き眠りについた、酔った状態から初めてのセックスと恵子が限界を迎えるには無理もないことだった。
「お疲れ様伊予ちゃん…約束は守るよ」
岩田がパチンッと指を鳴らす、すると若干ではあるが恵子の雰囲気が変わる。今までは快感に溺れてだらしない顔つきだったのが別人のようにややしかめっ面になる。岩田が指を鳴らすと対象が元に戻る、つまり恵子と伊予はまた元に戻ったのだ。伊予はまだ子供だから夜中外には出られないから家にいる。時刻は現在ちょうど0時、伊予の精神は元に戻り自宅へ戻ったから『日が変わるまでには家に帰す』という約束はしっかり守ったことになる。岩田が言った時間がないとはこのことだったのだ。肉体と精神の状態は肉体が優先される。身体を入れ替えても肉体が寝ていれば精神もまた眠る。今まで伊予は目の前で起きていたが自宅で寝ていたら伊予は元の身体で強制的に眠りにつく。恵子の肉体はたった今寝たので恵子本人は元の身体で爆睡中なのである。伊予も寝ているだろう。ついさっきまで中身が大人だったとしても身体はまだ7歳、眠くて眠くてどうしようもなかったに違いない。
岩田がシャワーを浴びると手早く身支度を整えベッドで眠る恵子を一瞥した。恵子は精液で身体がベトベトになった状態で爆睡している。この調子では朝まで起きないだろう。
「ではこれで。明日は大変だと思いますが気を付けてお帰りを」
岩田は恵子を一人置いてホテルを後にした。後に残ったのは『独身男性と二人で酒を飲みラブホテルで不倫セックスを楽しみ爆睡している人妻』である…。
後編はまた後日となります。お読みいただきありがとうございました。