ゾンビになるまでにヤりたい100(暫定)のヒロイン 作:ボルメテウスさん
ビルの屋上は、冬の夜にしては風が穏やかだった。
遠くの街並みには、再建途上の光がぽつぽつと灯り、かすかな喧噪とともに年越しのカウントダウンが近づいているのが分かる。眼下では、皆が盛り上がる忘年会の声が微かに漏れていたが、ここは別世界のように静かだった。
閑さんが手すりに寄りかかり、肩に雪が降りかけるのを気にも留めず、空を見上げている。
「寒くないですか……?」
思わず声をかけると、彼女は振り向かずに微笑んだ。
「…これくらい平気。ここ、気に入ってるの。空が、綺麗だから」
彼女の横顔は、イルミネーションよりも澄んで見えた。
僕は少し遅れて隣に立ち、ぎこちなく肩を並べる。三日月さんとこうしてふたりきりになるのは、実のところ、まだ慣れない。彼女は年上で、僕なんかよりずっと経験がある人間だ。だからこそ、こういうとき、何をどう話せばいいのか、正直戸惑う。
でも、閑さんはいつも、黙っていてもそばにいてくれた。
「…今年、終わるんですね」
そう呟くと、彼女が少しだけ視線を僕に寄越す。
「うん。いろいろあったね。生き残っただけでも、奇跡みたい」
「…はい」
「でも、あなたが隣にいてくれるから、奇跡って感じない。すごく、自然」
言葉のひとつひとつが、夜の空気のように柔らかくて、それでも心の奥にしっかりと届く。
思わず僕は、そっと彼女の手に触れた。
冷たいと思った指先は、意外なほど温かかった。
そのまま、手を重ねる。指先を絡める。
少しの沈黙の後、彼女がぽつりとこぼす。
「…ねえ」
「はい」
「今夜、したいな。あなたと」
一瞬、思考が止まる。
鼓動が強くなり、耳の奥で鳴る。
「…ここで、ですか?」
気づけば、そんな情けない言葉が漏れていた。
けれど、閑さんはふっと笑って、僕の胸に額を預けるように寄ってくる。
「だって…年が明ける瞬間、誰より先に、あなたと繋がっていたいの」
その声音には、理屈じゃない想いが込められていた。
胸が熱くなる。体の奥から、彼女を求める熱がじわじわと湧いてくるのを感じた。
震える手で、彼女の頬に触れた。
冷たい指先を包むように、彼女の手が添えられる。
「…いいの?」
「うん。…高校生でしょ?でも、大丈夫。あなたとなら、怖くない」
彼女の唇が近づく。雪が降り始めているのに、唇の温度は凍てつかず、やわらかく、そして甘い。
ゆっくりと、ふたりの影が寄り添うように重なる。
彼女のコートの前を、ためらいがちに開く。
中にはセーターとシャツ。指先でその布越しに、彼女の体の線を感じ取る。
小さく息を呑んだ彼女の喉が、雪の静寂に溶けていく。
僕の手が、服の中へと忍び込む。
肌が触れた瞬間、思った以上に熱い。
「……あっ、ん……」
閑さんの吐息が耳に触れる。
ふたりの鼓動が交じり合うように、手探りで、けれど確かに、お互いの体を求めていた。
僕のジャケットも脱がされ、吐息とともに肌が夜気に晒される。
「震えてる…?」
「……少し、緊張してて……」
「可愛い」
そう囁いた彼女の笑みに、思わず顔を赤くする。
そのまま、ビルの片隅――壁の陰に隠れるように、ふたりはゆっくりと座り込んだ。
ひざを立て、彼女が脚を開く。
下着の布越しに感じる湿度に、僕の身体も応えるように熱を帯びていく。
慎重に、でも決して止まらないように、身体を重ねていく。
挿し込むその瞬間、彼女の背が僅かに跳ねた。
「……んっ……ぁ……」
僕もまた、息を飲む。
体が、繋がった。
雪が、空から静かに舞っていた。
どちらからともなく動き始める。
ゆっくりと、互いを確かめるように。
体温と、感情と、欲望とが交じり合っていく。
「……だいじょうぶ、だよ」
囁いた僕の言葉に、彼女は微かに頷いた。
「うん、あなたなら……大丈夫。もっと、触れて……」
触れ合うたびに、呼吸が荒くなる。
肌の温度が、吐息の熱が、互いの不安を少しずつ溶かしていく。
「……好きです、閑さん……っ」
「……私も……あなたが、好き……」
──0時を告げる、遠くの鐘の音。
世界が、新しい年を迎えた瞬間。
ふたりは、静かに絶頂を迎えていた。
彼女の腕の中で、僕はしばらく動けなかった。
鼓動だけが、雪の静けさを破っていた。
暫くして、彼女がそっと僕の髪を撫でる。
「これが……新年最初の、思い出ね」
「……はい。きっと、一生忘れません」
屋上に、ゆっくりと夜明けが訪れようとしていた。
そして、ふたりの静かな未来もまた、確かに始まろうとしていた。
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