1話目 始まり
思えば昔から俺は不思議な子供だった。
同年代の子供よりはるかに力が強く、物覚えも早い。
生後半年で「母上」としゃべったとお手伝いさんから聞いたことがある。
小学校の時にはその才能があふれんばかりに輝いていて周囲の大人たちからギフテッドと呼ばれていたらしい。
運動も、勉強も、遊びも、何でもかんでも一番にできた。
そのことを父上は「これが先祖返りの力か」と言っていた。
先祖返りが何かは知らないが、ほめられているのかなと当時は感じていたため「僕ね!せんぞがえりなんだ!」と学校中で自慢して回っていた記憶がある。
家はかなり裕福で華族と呼ばれる立場だった。
父上も母上も人並み外れた力を持っていて、それを武器に政界で立ち回り、それなりの地位を持っていた。
幸せだった。 今振り返ってもこの時に戻れるなら戻りたいと思うくらいには。
だがそんな日々も俺が中学1年生の時に崩れ去った。
父上が所属していた政党の大規模な粛清があったらしい。
その渦中で俺の父上は責任を取らされて諸々あって死んだ。
いわゆるトカゲのしっぽ切りってやつらしい。
その時から家にお手伝いさんはいなくなり、それまで一緒に遊んでいた友達からは無視され、母上は鬱病とその他諸々の精神病を患い、寝込んでしまった。
かろうじて転校の必要はなく、偏差値も特にいらないので志望の高校は変えなくてもよかったものの、なぜかは知らないが科が変わってしまった。
あれもこれも全て父上が死んでしまったからだろうか?俺が少し優秀なくらいで調子に乗ってしまったからだろうか?それはわからない。
それでも俺はあきらめなかった。 諦めきれなかった。
生まれながらに持った力を鍛え、高校でもついていけるように勉強をした。
幸いにも2人でいる分には大丈夫なほどお金の蓄えはあった。
志望校である豊葦原千五百秋水穂学園とはどのようなところなのかとインターネットで調べてみてもろくな情報はなく、小学生の時にそこの卒業生であった母上に聞いても「一度でも死んではだめ。あそこでは死なない限りは天国だけど、一度でも死んだときから地獄になるわ。いい?一度でも死んではだめ。お母さんとの約束よ」と言われてまともに取り合ってもらえなかった。母上は普段はとてもいい人なのだが高校の話題になったら取り乱してしまうんだな、とあの時は考えていた。
どうやらほんとらしい。
日本や諸各国には人知れずダンジョンがあり、それを攻略していると。
その中でも母上と父上は特級科である華組だったと。本来なら俺もそこに入る予定だったが家が没落してしまったため、普通科しか行けないと。そのダンジョンの中では死んでしまうと復活できるが、ヒトとしてなくしてはいけないものをなくしてしまうと。
家を復興させたいならそこに通えばいい。したくないなら普通の高校に通ってくれと。
正直言って何を言っているかわからない。本当に錯乱していないのか?お医者様を呼ぶべきだろうか、そんな空想みたいな話があってたまるか、そう思った。だがなぜか俺の頭は本当のことを言っていると冷静に判断した。
この後から学園のことを考えると頭が痛くなり、幻聴がきこえるようになった。叶馬には近づくな、丙組には何としても入るな、タイトルロールには巻き込まれるなと何度も言われた。
その中でも特に言われたことは生き残りたければあの学園に入るなということだった。
逆にそれが俺の好奇心を搔き立てた。そこに何があるのか、なぜおれの勘はそんなことを言っているのか、叶馬とやらを名指しで危険だと判断する理由は何だと。
気付けば俺は豊葦原千五百秋水穂学園に入学していた。
母上が言っていたことは本当だった。ダンジョンがあり、それを攻略する学生。その学園の中では性行為が蔓延しており、普通科の生徒は鍛えた肉体も、優れた頭脳も何も発揮されないまま緩やかに死んでいく。
一度でもダンジョンの中で死んだらそうなってしまうことは伏せられていた。
それはそうだろう。そのためにこの学園は作られたのだから。
今日が初めてのダンジョンダイブ。
プラスチック製の盾と警棒、正直言ってこの肉体でも危うい。
(いけるか…いやいけるかじゃない。行くのだ。母上との約束を守り、家を復興させるためにはここで死なずに強大な力を持たなくてはいけないのだ)
決意を固め、警棒を握りしめる。
ミシッと音はなるが、そんな些細なことは置いておく。
他の者とは違い、一人きりだが問題はない。
足手まといだ。
戦意をたぎらせ羅城門と呼ばれる施設に入る。
いの一番に始界門に入り、軽くチェックをすます。
体調…問題なし。装備…一部不安はあるが拳と足が無事、問題なし。覚悟…有り余るほどにある。
担任から小声で「ごめんなさい…ごめんなさい」と言われたが何のことだかわからない。ここにいるのはそうでもしないと生きられないものしかいない。そこで悩むのはお門違いだ。まあこんな至極当たり前のことも言えないから俺はコミュ障なのだが。
そんなことを考えているうちに準備が終わったようだ。
(さあ、楽しみだ)
よくわからない文字列が俺の頭を満たす。おそらく世界各国の言語だろうが、内容が同じなことはわかるが意味が分からない。
(何度も何度も重ね掛けし、言語を統一させないことでセキュリティの強化も図っているのだろうか?だとしてもメンテナンスが大変なはず…)
だが最後の文章は見えた。
――汝この門を潜る者一生を破棄せよ――
ダンテかよと普段の俺なら決してしないような口調でそう心の中でつっこんだ。
とたん、頭に猛烈な頭痛が走った。
叶馬には近づくな…1度も死ぬな…鬼の島には入るな…物語に取り込まれるな…誰にも服従するな…。そんな強烈な念が頭を駆け回る。
痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイタイイタイイタイイタイイタイ
イタイ
イタイ
イタイ
イタイ
痛みが治まった。
『お、これが僕の肉体かー』
何か声が聞こえた。
『この世界に転生させてやるって言われたから乗ってやったがなかなかいい肉体じゃーん』
幻聴?それにしてはやけにはっきりしている。
『は?』
『え?自我残っているの?え?やばない?え?僕主人格じゃないの?』
とにかくいろいろ言いたいがとりあえずこれを聞こう。
『うっわまじかー魂の格がちゃうやん。乗っ取りもできなさそうだし詰んだか?詰んだな。ま、しょうがないか切り替え切り替え。てゆうかこいつまじまじ見てみるとめっちゃいいポテンシャル持ってるじゃんすっご』
(すみませんが誰ですか?自己紹介をお願いします)
そう聞くとさっきまでぺちゃくちゃしゃべっていたものは数秒だまり、やがて大声で笑いだした。
『えwまじw?最初に聞くことがそれw?かなり面白い性格してるねw普通取り乱すでしょふつー』
机をバンバンと叩く人が幻視される。
(早くしてください)
『あーはいはい。僕のことね…いまから君の脳に住むことになったものだ。本名は教えられないが気軽に相棒と呼んでくれ!』
俺は何かわからないものを脳に飼うことになってしまった。
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