「
何故?と言いたそうな顔で甲田がこちらを見る。自分のために他者を救うという俺の価値観が彼には理解しにくいだろう。自分が愉しいなら何を切り捨ててもいいとさえ考えていて自分より価値が低いものは全てモノ程度にしか考えてないやつだからな。
「たすけてと言われたもんでな」
ネクタイを締め直しながらそう答える。視界の端にはメジェド様のような素敵な頭巾を被っている決闘委員会の方々が「まだだ!まだ行くな!」とばかりに耐えている姿が映る。
「あ?カッコつけんなよ」
早乙女がメンチを切りながらこちらをみる。彼は粗暴に見えて自身と仲間を大切にする奴だった。だが仲間以外には容赦は全くと言っていいほどしない。だから彼女の仲間でもなんでもない、むしろ恨んでいる対象のはずの俺がなんの考えもなしに助けようとしているのが心底不思議なはず。ありもしない企みを俺の一挙手一投足から暴き出そうと必死だ。
そんな彼を甲田が手でセーブする。
やはり言動的にも甲田が早乙女の主か?
「いい手だね。あれは在校生全てが等しく有した自己救済の権利‥いかなる身分や立場も影響されない。黒江さんの代理人という立場ならば彼女を救えるかもしれない。そして特級科の生徒といえど学園が決めたルールには逆らえない。だがその手には一つだけ、大きな、大きな穴がある」
一本の指を立てる。
「僕がそれを断ればいい」
オペラ歌手かのように大袈裟な動きで話す。
「誰でも挑めるのと同時に決闘は拒否されるルールもあるからね。ルールに縛られているのは君も同じさ」
甲田は聡明だ、そんなことも気づかない奴じゃないだろう。だがもう一人はどうかな?
「あまり僕たちには逆らわないほうがいいよ」
「さ、帰るよ」と、言い残しながら余裕綽々とばかりに早乙女と放心状態の黒江さんを抱えて帰路に着こうとする。
「逃げるのか?」
早乙女に向かってそう問う。
「あ?」
わざと沈黙を保つ。
「おい、今なんて言ったァ!?」
釣れたな。やはりお前なら仲間の侮辱には耐えられないはずだ。
「待て早乙女!」
甲田の静止の声を遮るように、早乙女の怒りを増長するように、彼らの誇りを最大限侮辱するような言葉を吐く。
「特級科様のお偉いさんが普通科の生徒から逃げるのかと聞いているんだ」
瞳から冷静さが消える。
俺もここぞとばかりにエンジンがかかっていく。
「お前らは昔っから俺に勝てたことがないからな。また負けるのが怖いのか?弱虫が。そんなだから仕える主の程度がしれるって言ってんだ」
ん?甲田の顔にも少しばかりの怒りが出たな。誰かがこいつの上についてるのか?
「ああそうだよなぁ!元華族と言いつつもそんな制度はとうに形骸化している!おまえらは血を絶えさせないようにとろくに現実を見ようとしない、ただの塵どもだ!」
ひたすらに煽れ、早乙女の弱点たる誇り高さを侮辱しろ。
「やってやるよ」
「何をだ?」
「
釣り上げた。そう確信する。
待機していた決闘委員会の方々もここぞとばかりに半径5メートルほどの結界を張って準備を始める。
「早乙女!」
「ですがあいつは!」
ため息を吐きながらも甲田は考えるのをやめてない。
「‥わかったよ。僕も出ようか、逆に考えよう。彼を潰すにはいい機会だ」
嫌な笑顔でそういう。なーに考えてるかはなんとなくわかる。おまえの考えることはろくなもんじゃなかったからな。だが良い。それでなきゃ。
「受諾するということで?」
準備が終わったらしい決闘委員会のリーダーらしき人が確認をとる。
「ああ」「そうだね」
目つきが殺意に満ちている。
「挑戦者側は『第壱学年生華組所属の結衣』に対し今後一切の受諾者二人の接触を禁止する権利を主張している。受諾者の要求は如何に?」
まさしく変態の顔。ニチャアというオノマトペがよく似合いそうな口から自分が楽しむ為の要求が溢れる。
「挑戦者たる風堂の全てだ。生きる権利も何もかもを要求させてもらおうかね。もともと彼女は華組でこちらの生徒。このくらいはしてもらわないと割に合わないねぇ」
まさしく外道。過去に散々トラウマを植え付けられた相手に対する最高なエキサイティングな仕打ち。
それを理解しながらも無言で頷く。狙いが俺だけなら沙姫を狙われるより数段楽だし何より彼らしい。
「承諾しよう」
喉を切り替えるために一度咳を出す。今まで落ち着き払った雰囲気とは一変し、腹の奥底から一本芯の入ってる怒号のような声で叫ぶ。
「双方の条件が合意したと見做す!よってぇ!ここに『
興奮した生徒がどんどんと集まり、決闘用の結界の周りにたむろする。
どうやらどっちが勝つかのかけもしている様子だ。
いつのまにか沙姫もきており、自身の制服を使って黒江さんのあられのない姿を隠しながら決闘委員会の人と一緒にいる。動いている口元をみると「やっちゃってください!」と読み取れた。
無邪気な期待ほど残酷なものはない。だが今の俺には最愛のパートナーがそう言っていることが最高のカンフル剤となった。
「それではぁ!受諾者により決闘のレベルを決定すべし!」
「当たり前だろう…
本日1番の歓声が響く。
足踏みによって大地が震え、声によって風が吹き荒れる。
まさしく最高のハレの日。
『俺もこれ以上の我慢が効かなかったところだ。ぶちのめせ』
ああ。
一足先に結界内に入り、軽く体を伸ばす。
盗まれないように骨をいつも持っているのが役に立ったな。
最初に相手するのは早乙女か。
「さあいざ尋常に」
目の前に迫る左ジャブ。
とっさに半身になってよける。
「
『初手からスキルぶっぱかよ!!』
強打は確か戦士系統のスキル。
激昂していても彼の体にしみこんでいる武術は効果を発揮する。
きっちりフェイントを織り交ぜながら彼の右手は鳩尾という急所をしっかりとらえている。
だが、弱い。
前のめりになった足の脛めがけて骨を投げる。
「痛っ!」
力が入っていないならたとえスキルが入っていても俺の拳とは打ち合えない。
「
骨が折れるいやな感触。
痛みで悶絶している奴の上に馬乗りになってマウントポジションを取る。
「
「まっ」
「
風を圧縮し右肩を塵にする。
「あぁがぁがががぁ!」
耐えられないだろうそうだろう。
「お前の敗因は痛みを知らないことだ」
「あっっっ」
のどを潰しながら持ち上げる。
少し血が漏れているが気にしない。
「一度失ってみないと誇りの大切さはわからない」
力を籠める。
「這い上がれ」
力を籠める。
「地の底からもう一度」
白目をむいている。
「そうしたらお前はもっと強くなれるさ」
手を離すと何の抵抗もなく地に沈んだ。
急いでポーションを持ってくる決闘委員会の方々を尻目に甲田に問う。
「やるか?」
「ああ…君をやらなければ!僕は!
うおおお!と叫びながらこちらに突っ込んでくる。
「その通りだ!」
風装束をそのまま維持し、一瞬で懐に潜り込む。
「ひっ」
おびえながらも俺に刀を振り下ろす。
いい覚悟だ。
だが
「遅い!」
もう俺の拳は腹に届いていた。
ドン!と衝撃が音となって響く。
喧騒が鎮まる。
「楽しかったぞ」
そう言い残す。
膝をつき気絶していながらも、最後まで逃げない漢に対し、
最大の敬意を込めながら。
「彼らが目覚めたら伝えておきます。ナイスメンズーア」
鳴り響く歓声とともに俺と沙姫は黒江さんをお姫様抱っこし、その場を去った。
沙姫 旦那様なら負けませんよ?(純粋無垢)なムーブをし、決闘委員会(女)を少し引かせた。黒江に関しては旦那様が拒否しないのなら二番目のパートナーにしてもいいと考えている。
風堂 絶望的な状況でも立ち上がる漢が好き。考えなしはそこまで。黒江が心神喪失状態のためとりあえず保健室に運んでいる。
甲田&早乙女 漢と考えなし。トラウマをオリ主に植え付けてやろうとしたが暴力でひっくり返された。一応五体満足
黒江 あったかい…
感想…感想…(乞食)