重い瞼を開ける。
「おはようございます。風堂さん」
顔を上げるとそこには夕日をバッグにまるで聖母のように柔らかい顔で微笑んでいる黒江さんがいた。
「ああ、おはよう」
軽くあくびをしながら伸びをし、時計を確認する。
6時半か…学生決闘が終わったのが2時半ごろで体感30分ほどは看病していたから最低3時間は寝てるな。そりゃ体もだるくなるわけだ。
「体調は大丈夫か?」
「ええ…少し身体が固くなっていてたまにふらついたりしますが大丈夫です」
ベットから降りて少しふらつきながら数歩歩いてそう言う。
明らかな強がり‥まあ彼女らしいと言えば彼女らしいので特に突っ込んだりはしない。
「沙姫、警戒を解いていいぞ。助かった」
「はい!」
俺が寝落ちしてしまったからだろう。華組の連中から黒江さんを何としてでも守り切るために常に抜刀できるような体制で警戒してくれていた沙姫に礼を言う。
「これからどうするつもりだ?なにか考えているのか?」
椅子を三脚奥から持ってきて沙姫を座らせ、黒江さんにも進める。すぐに座るあたりやっぱりきついのだろう。
「…正直に言いますが何も考えてないですね。一応確認しますが風堂さんが彼らから勝ち取った条件は何ですか?」
顎に手をかけて脳内から記憶を引っ張り出す。
「確か…『第壱学年生華組所属の結衣』に対し今後一切の受諾者二人の接触を禁止する権利だったはずだ。口外すること禁止してるわけではないからあいつらも今頃かえって上に報告しているはずだ」
「なるほど。まあそのあたりが妥当でしょうね。学生決闘は原則としてその場にいない者はかけられません。パートナー契約をしていたら別ですが今の私は誰とも契約をしていません」
襟元についている俺と沙姫のピンバッジを指さしてから自身の何もない襟元を見せる。
「なので権利という契約で首輪をかけることができるのはあの場にいた早乙女さんと甲田さんだけなのは仕方がないといえます。むしろあの場で彼らを再起不能にせずに帰したことで風堂さんがある程度本気で私を守ってくれると他の人たちに伝え広げるためには最上の一手かもしれません」
ですが、と言って言葉を濁す。
「それならいいじゃないですか?結衣ちゃんはもう安全なんですよね?」
沙姫がそう問う。俺もそう思うがここで言葉を濁すってことは…
「それは彼らの上が水上さんでなければ成立しますね」
思わず手で顔を覆う。九割九分あいつの仕業だと思っていたが、その予想が当たってほしくはなかった。
「水上?ですか?」
『どういう奴なん?そいつ』
「ドMでありドSだ。かかわるとひたすらに面倒くさく気に入った相手にはひたすら粘着し、壊すことを目的にしている」
「反撃されても興奮しながら喜ぶたちの悪い変態です」
吐き捨てるように言う。
「ですので彼には風堂さんの脅しが通用しません。今の私が寮に帰っても彼の手によってまた同じ事が起きてしまいます」
「それは俺の本意ではない。俺は助けると決めたなら最後まで助けるからな。如何したものか」
いや本当にどうしようか‥匿うとなれば少なくとも雨風凌げる場所であることは必須、下手なところにいても普通科の奴らに襲われかねない。真に安全な場所などこの学園にはあんまりないからな。いっそのこと人集めて倶楽部でも作って部室で生活させるか?そもそも華組所属の生徒は倶楽部に入れるのか?
色々とアイデアは浮かぶが安全性や非現実的という理由で却下する。
「私の部屋にしばらく泊まりますか?」
「いえ‥おそらく難しいです。寮内は結束意識があまりないところが多くなく、沙姫さんの所属されているクラスの寮では治安もそこまで良くはありません。華組の方々に沙姫さんと私を売る可能性も十分に考えられます」
よそ者に厳しいだけなのかはわからないが女子寮の姉妹は思ったより強固だ。少なくとも俺が沙姫の部屋に初めて行ったときは結構めんどくさかった。きちんとパートナーであることを示してこちらからは手を出さないという念書まで書かされたからな。黒江さんを連れて行ったら確実に騒ぎになって水上にバレる。そうしたら内部に手をまわされて終わりだ。
『いや、有りかもしれないぞ』
『沙姫ちゃんがいる麻鷺寮は女子寮では珍しく上役はなんだかんだ甘いやつが多い。きちんと説明していれば滞在を許してくれる可能性が高い。しかも大多数である匠工房の人たちは大体男子生徒にトラウマ持ちだ。無理やりレイプされる気持ちは痛いほどわかってくれるだらう。懸念点は寮長たる乙葉ちゃんだけだがちょろいから押し切れる。いける!いけるぞ!』
え?マジ?
「いける‥かもしれない。とりあえず寮長の説得は俺に任せろ」
「本当…ですか?」
「ああ、当てはある」
さあ、大勝負だ。
〜〜〜~~~~~~~~~~~
「そんな事情なら仕方ないけど前に書いてもらった念書忘れてないよね?」
「無論です」
「ならよし。私も個人的な事情があるから結衣ちゃんの情報を外に出さないように協力するわ」
いい人が過ぎないか?この人?
『マジかよ…ちょっろwwwww』
そういう言い方はよせ。
寮長である乙葉先輩は優しく、素晴らしい人なんだぞ。余所者である結衣が疲れた足取りで来たのを見た瞬間に何の事情も聞かずに風呂に入らせてくれたんだ。相変わらず俺に対する聞き取りに容赦はないがその内容も黒江さんに何をやったのか、お前がレイプしたのか、何をしでかしたのかというあくまで黒江さんを心配してのものだったし。やばめの内容は伏せたが華組の奴に狙われていることを話して学生決闘で一時的に引き剥がし、隠れさせる場所がほしいと言った後に協力してくれることを約束してくれた。危険を承知の上だろう。人間としての器が違う。
「本当にありがとうございました」
尊敬できる先輩に向けて頭を下げる。
「いいのいいの。かわりにきちんと責任もって守りなさい」
「はい!」
扉を明け、寮長室を後にし、沙姫の部屋に向かう。
踏み出すたびにギシギシとノスタルジックな音が響く。
麻鷺寮の作られた年代の古さとそれでも改築されない不遇さを表しているがこの雰囲気は好みだ。
扉の前に立ち、ノックをしようとするが話し声が聞こえてきた。
風堂さんがいいならやら受け入れてくれるなら~とあまり要領を得ない話だ。
まあいいかと思ってコンコンコンとノックする。
「どうぞ!」
沙姫の声が聞こえたので遠慮なく扉を開ける。
そこにはテーブルを挟んで話していたであろう沙姫と黒江さんがいた。
「似合っているぞ」
黒江さんは風呂上がりだからか頬が紅潮している。
沙姫のパジャマを着ているのだろう、サイズが合っておらずぶかぶかなパジャマを着た彼女に向かってそういう。
『沙姫ちゃん女子にしては大柄だからね、仕方ないね』
「あ、ありがとうございまひゅ」
嚙んだ?!珍しい。
黒江さんが恥ずかしさでうつむいている。
少しばかりいたたまれない雰囲気になったのでコホンとせきをし、目を合わせないように後ろに振り向いてから仕切り直す。
「あーそうだ。疲れただろう?俺は沙姫のベッドで寝るから黒江さんはもう一つのベッドで…」
袖をつままれる。
「風堂さん」
「あなたがとても大事なんです」
何かにかられるように、必死さをにじませながらも澄んだ声で言葉を紡ぐ。
「もう失いたくないんです」
袖を握る手がどんどん強くなる。
「ですが私はもう怖いんです」
声と一緒に何かをしゃくりあげるような音が混ざる。
「見捨てられるかもしれないという恐怖が」
手が震えているのを感じる。
「ですから…どうか…」
ここまで言われて察せないほど俺は鈍感じゃない。
「わ、私を」
そして俺はこの空気で襲わないほど純粋無垢でもない。
「あなたのものにッ!」
振り向き、唇を合わせ、舌を絡める。
数秒だろうか、数十秒だろうか、息も継がずにキスをする。
逃がさんとばかりに、絡めとるように、執拗に。
引けている腰を右腕で優しく包み込む。
真っ赤に赤面している
「今日は寝かさんぞ」
夜は長い。
風堂 独占欲はあるし懐に入ったやつを死ぬ気で守るヤツ。懐に入るまでには明確な線引きがある
結衣 愛している人とのキスで幸せホルモンいっぱい
沙姫 旦那様が拒否しないならパートナーにしてもいい。個人的にも結衣のことは境遇が似ているため気になっていて旦那様が拒否しても何とか抱かせようとしていたかもしれない
評価…感想…クレ…