21話目 爪を研げ
手に力を籠める。
パリッという心地のいい破裂音が耳に響く。
食べるために顔を近づけると芳醇な小麦のにおいが鼻腔に満ちる。
一口噛めば質の良い小麦が口腔内でステップを刻み、二口噛めば厚めにきられたハムとチーズがワルツを踊る。
冷たい肉片とチーズに固いパンという字面だけでは何とも殺風景な組み合わせだが殺風景に潜む熟成させた豊潤さが至高のおいしさを生み出している。
十分に楽しんだ後、飲み込む。
即座に、されど上品に紅茶を口に含ませる。
まさしく最上の朝食。
思わず頬が緩むのも仕方がないだろう。
「おいしいですね!」
太陽のような笑顔でサンドイッチにかぶりつく沙姫がそう言う。
そうだろうそうだろう。
「おいしいですね…」
沙姫と同じパンを一口食べ、少し目を見開きいて驚いた表情をする結衣がそう言う。
そうだろうそうだろう。
「やはり華組の寮も同じようなクオリティなのか?」
パンを食べながらも会話を進める。
「ええ、そうですね。メニューの種類などに差異はありますが味のレベルは相違ありません」
「なるほど…すごいな。よく教育されている」
「どれだけの予算があるのでしょうかねえ」
備品である急須から追加の紅茶が湯呑へ注がれる。
中身と外身の乖離が激しく、ギャップを感じるがまあそんなモノだろう。
『のめりゃいいんだよのめりゃあ』
まあそれも物事の本質だな。
「これからの予定についてだが」
最後の一口を飲み込み、食後の紅茶をたしなみながら本題を話し出す。
「まず目下の目標はレイド攻略だ」
沙姫に目で合図を送ると待ってましたとばかりに地図を広げる。
購買部で買える既知内領域の地図から分岐し、ルーズリーフを追加して俺と沙姫で何枚も手書きで続きを書いた傑作だ。
「まずは結衣にこれをスキルでいつでも確認できるようにしてほしい。まあ魂魄結晶を失っているからダンジョン内でやってもらうが」
「あ、そのことなんですが」
「どうした?」
周囲を少し見渡した後、こっちによってくださいとばかりに手招きさせる。
少し身を乗り出すと耳元でささやかれる。
「魂魄結晶が復活しています」
なるほどなるほど…なるほどー
腕を組み、天井を仰ぐ。
「私と同じだったんですか?」
沙姫もなかなかにやばいことと察したのか、小声で話している。
「沙姫さんも何らかの手段であれを取り戻したのですよね?詳細をお伺いしても?」
「‥よくわかりません。ただ私には鬼がついていました。それに体を操られて‥旦那様が解放してくれて‥それだけです」
「なるほど、何かに取り憑かれていたのですね。そしてそれは結果的に沙姫さんを守ってくれていたと。妖怪の類いでしょうがなんにせよ不幸中の幸いでしたね」
一度は無くなったはずの魂魄結晶の再現…なぜかは聞かなくてよいだろう。それがわかっているなら真っ先に話しているだろうし、普通科の華組に恨みを持っているであろう
「再現性はあるのか?」
「いえ…」
「そうか」
まあそんなモノだろう。
「わかった。ならば他人に見られない環境下でこの地図をインプットしてくれ。終わったら学園にレイド攻略の申請とかの書類仕事も頼む」
「了解です」
地図を棒のように巻いて結衣に手渡す。
「武器の調達と整備、結衣のモンスターカードに関しては俺に任せてくれ。当てがある」
『わざわざ初日から一週間かけてやったからな!場所も突き止めてるしアポも…取れてるよな?』
でえじょうぶだ。今日の11時からでアポは取れている。あちらの倶楽部は俺に対してある程度契約を真摯に守らなければいけない理由もあるから反故にはしないだろう。
『気に入らねぇからぶん殴るって選択肢もワンチャンありそうなの怖すぎない?』
「では私は…?」
沙姫が不安半分、期待半分といった目で俺を見てくる。
「沙姫には食料調達やテントなどのレイド環境下で必須になってくるものの調達だ。金は俺が出すからレシートでまとめてあとで俺に渡してくれ。どんなものが必要なのかわからなかったらこの寮の先輩方に聞いてくれると助かる」
こればっかりはマニュアルだけではなくて経験も必要なところだからな…経験ある先輩方とある程度仲がいい沙姫にしかできない仕事だ。
「はい!」
よし。いい笑顔だ。
「目標は3日以内に出発だ。各自、準備を開始してくれ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
廊下をコツコツと足音を立てて歩く。
まともな感性を持っていればあまり立ち寄らない鉄筋コンクリート製の倶楽部棟、まあつまりはAクラス専用の倶楽部棟の一つだ。
そんなところでこんなふうに歩いていたら「よっしゃ身ぐるみはがしてやる」とばかりに上級生が襲ってくるだろう。いや、襲ってきて欲しい。そうなってしまったら仕方がないので闘争へと移行させてもらおうか。勝ったら勝ったで再度身代金代わりに何かをもらえばいいし負けたら勝つまで挑み続ければよいだけだ。なに、あの先輩も大歓迎というかむしろどんと来いといいそうな性格だろうし笑って許してくれるはずだ。
だが予想に反して少しにらんでくるだけで特に手は出されなかった。なぜだろうか、部長さんが客人として招いてくれているからか?それともこの前のが周知されているからか?まあ両方か。残念。
「よお」
目の前に巨体の男が現れる。
「時間通りだな」
少し肥満のように見られる風貌だが足取りの軽さからして戦闘用にみっちりと筋肉が詰まっているのだろう。まさしく戦士用、ウェイトこそ最強の筋肉といったところか。
「わざわざお時間を割いていただきありがとうございます。
さあ、交渉開始だ。
風堂 ヴォルケイオウにつながりを持った男。あわよくばAランクの強者たちと殴り合いたい
沙姫 生活用品調達担当。某現場の先輩方のクラフターにコネがあるため適性
結衣 文官なのでやること多数。事務仕事も率先してやってくれる聖人
遅くなって大変申し訳ございません。あれもこれも全てガンダムのせいです
高評価と感想をよろしくお願いします
作者のTwitter
https://x.com/honbinosukai