「京都楽しかったですね、旦那様!」
そんな無邪気な感想に思わずため息が漏れる。
「‥ああ、そうだな」
特に!何も!無かった!
いや本当に何も無かった。京都に着き、一泊して観光しただけだった。妖怪の「よ」の字くらいはあったが「か」の字はないほどには特に何もなかった。
今は京都から帰るために
沙姫がいるからと一人で京の街を探索した結果、妖怪の噂話程度は拾えたがおそらく物語の重要なファクターとも言えない濃度の話だった。井戸端会議での主婦の噂話程度の信頼度から何を読みとけというのだ。無駄足というわけでもないがなぜこの物語が京都に連れてきたのかが全く持って読めん。
こういう時は沙姫の無邪気さが少々羨ましい。
「…あの人はただの僧でしたし攻略は振出しに戻ったといっても差し支えないでしょう。念のため陰陽寮にも忍び込んでみましたが特に何もなかったですね。天気の予報や占いぐらいしかしていませんでした。当時の暦の成り立ちを知るという知的好奇心を満たすのにはとてもよいものでしたが…レイド攻略につながるような情報とは言えなかったですね」
「俺も俺で散策途中色々なところを見たつもりだったが…陰陽師なんて見たか?見かけてはいないはずだが」
結衣がくすっといたずらっ子のように笑う。
「私のクラスをお忘れですか?」
顎に手を当て、少し考える。
「
「種明かしをしましょう。
ふふんと薄い胸を張りながらかわいいどや顔をしている。
『オノマトペが幻視できるほどの見事なドヤ顔…私がこの域に達したのは20代後半…!』
可愛いので柔らかい頬をムニュムニュしてやろう。
「…私は敵を斬ることでしか旦那様の役に立てていないので少し羨ましいです。京都でもただ楽しんでいただけで特に何かしていたわけではないですし」
「いえ?沙姫さんは私に付かず離れずの距離で護衛してくれていたじゃないですか、それだけで十二分に旦那様の役にたっていると考えますよ?だからこそ旦那様はある程度自由に動けましたし‥私は私で今回のスキルの組み合わせではラジコンを同時に2体操作しているようなものです。本体である私の動きは精細を欠いてましたからそばに誰かがいるという状況は大変ありがたかったです」
むにゅむにゅする手を優しく払いながらも沙姫に眼を合わせる。
沙姫は女性にしては背が高めだから平均身長を割っている結衣だと背伸びをするような格好になり、かなり可愛い。
「足りないものを補い合うことがパーティーの必須要項です。そもそも隣の芝生は青いとも言いますし」
結衣が懐に手を伸ばし、二枚のカードを指で挟む。
「私の現状の攻撃手段はこれしかありません。風堂さんは遊撃と奇襲が主な戦い方ですので真っ向勝負は任せますよ」
「任されました!」
俺と比べても沙姫は正面からこじ開ける事と思考をショートカットした本能と経験による即時の剣撃の能力は良すぎる。まさしく回避タンク件アタッカーだ。正直言って怖いほどに。
‥それなりには剣道やっていたんだがなぁ、やはり才覚と努力量が足りないか。
『自認器用貧乏だもんなぁお前。いろんなことがそれなりにできるが中学時代に母親の介護があったから経験が中途半端。勉学も文理はそれなりにできるけどトップクラスには及ばない。策を練るのも視野が広いから守りはそれなりだけど攻めるには閃きが足りない』
沙姫は俺より瞬発力が高く、思考はそこまで深く考えないが閃きで策を破れる。結衣は激しい運動が苦手だが閃きと洞察力、思考力共に高い。俺には足りないものを正面切って見せられるとまぁ‥劣等感というほどではないが感じるものはある。
「本当に隣の芝生はなんとやらだな」
「誰にでも言えますけどね‥ふむ、お爺様が‥どうしたんでしょうかね?止まって‥子供と話しているんですかね?」
子供が1.2.3‥6人か?6人の子供達が鳥を叩いている。罠で捕らえた縛った鳶を棒で打ちのめしている。
「まあ、気の毒な」
僧がそう、言った。
言った。言った。
俺たちのような
どこからか歯車が動くような、ギアが一つ上がったような、ガチャンという聞き慣れない機械音が聞こえた気がした。
「なんでそんなことをする」
僧が子供に声をかけた。
「結衣」
「はい、動きましたね。
チャリっと鯉口を切る音が響く。
「始まりますか?」
こちらの警戒とは異なり、老人と子供は日常会話のテンポで淡々と話す。
こちらが異常か、あちらが異常なのか。おそらくこの世界ではこちらが異常者なのだろう。
「殺して羽をとるんだ」
子供がそう言う。すると僧侶は扇をおもむろに取り出した。
「いや、いい。そう言う雰囲気ではない。おそらくだが京都からの帰りということで物語が動き始めた。戦闘がここで始まるほどこの物語は浅くない‥とは思う」
扇を子供に渡し、鳶を代わりににもらうという要求を僧は言う。
了承したのか、罠から手を離し、扇を手に取ると子供達は一目散に逃げ出した。
「鳶‥どのようなメタファーなんでしょうか。」
僧は鳶を罠から離そうとするが縄から手が滑りなかなか外せない。
見かねた沙姫が鳶以外を切るような軌道の斬撃をするとジタバタと足掻いていた鳶が大人しくそれを受け入れ、跳ぶような仕草で沙姫の手に収まった。
数秒ほどだろうか、腕に収まりふんふんと頷いたのち、その場で飛び立った。
血が見えたような気がしたがあれだけ元気なようなら大した傷でもないだろう。
「ありがとうございます沙姫様。では引き続き先を急ぎましょう」
曇天の中、先ほどまでの緊張感をも介さず、にこにこと柔和に見える笑顔がどこかこの世のものではないように恐ろしく見えた。
数刻後、道端の藪から僧が現れた。
傘を深く被り、表情は見えない。着物は質が読み取れない。素肌を出さないようにするためか、およそ旅をしているとは思えないほどの重装備だ。
「
口から出るは人の言葉。視覚聴覚は目の前の僧を人だと言っている。
だが雰囲気が、身に纏っている異様な気が、それを妖だと物語っている。
『なるほど、大物だな』
背負っている斧槍はひどく冷たかった。
あれぇ?思ったより進まん‥
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