昔々のそのまた昔、妖怪の全盛期である平安の世。
当時の妖怪に対する恐れから複数の伝承が蛆のように発生した。下は蟻とそう変わらないような塵芥、上は当時の最高クラスの陰陽師であっても討伐できないような鬼まで。
そこの一つ、かの有名な蟒蛇の鬼のレイドに天狗が生まれた。
鬼の配下として天狗が生まれるのは当然と言えば当然であり、異質と言えば異質だ。
そのレイドは天狗にとってまさしく人生の絶頂期であった。
まさしく神と呼べるような当主、どう足掻いても勝てない上司、力を高め合える互角の同僚、こちら側に登ってこようとする後輩、定期的に来訪する
生まれてから気の遠くなるような長い年月が経ったある日、彼等の当主が異なるレイドに取り込まれた。
取り込んだレイドの名は鬼ヶ島、己の当主の同族がひしめく魔境、たとえ天地がひっくり返っても歯牙にすら届かない天上。天狗は取り込まれること自体に文句はなかった。それどころか歓迎している節があった。今の天狗は同族の中では最強、己の当主たる鬼には敵わないものの手合わせは新鮮味に欠ける。新たな好敵手は喉から手が出るほど欲していたからだ。
だが、同化の際、その天狗は文字通り弾き出された。その時の天狗は鬼というにはあまりに矮小な存在で鬼と化すにはあまりにも強大な存在だったのだ。
そうして天狗は上級の伝承レイド「天狗の話」のお山の大将と成った。紆余曲折あり風属性の根源レイド「枯木山」との同化が果たされ、超級レイド「天狗山」へと成ったことは本質と強さとのトレードとして受け入れている。
自分ならそんなものに惑わされないとたかを括っていた、本質を見失うことはまずないと。嗚呼、確かに本質は見失わなかった。ひたすらに強さを追うことが天狗の本質、そこはずれなかった。だが、魂は風の根源たる扇へと写った。
これによる恩恵は実質的な不死身、いくら肉体が致命的な損傷しようと魂さえ無事なら再生する代物、欠点は不死身による慢性的な飽き。
次第に鍛錬をやめた、意味がないからだ。
次第に歩くことをやめた、意味がないからだ。
次第に考えることをやめた、意味がないからだ。
どんなに挑戦者が来ようとも動く気にはならなかった、どうせ勝てるから、意味がないからだ。
だが、ある日、来た。神の威を持つものが、おまけが2匹ほどいるがどうでもいい、さあ、何をしようか、取り敢えず歪んだ伝承には従おう、神通力の力はいらない。伝承を完遂するついでに消してしまおう。
さあ、もう飽きた。
願わくば、極限まで楽しんで、殺してくれ。
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「チィ!」
何度目かの打ち合い、再度弾かれる。
「カッカッカッ!滑稽ィ!」
天狗が団扇を振るうと暴風が吹き荒れる。着地の姿勢のまま、足が浮き、遥か彼方に持っていかれそうになるが覚醒済みの狂鬼乱斧を勢いそのままに地面に撃ち立てる。視界がグオンとひっくり返るが難を逃れる。
「ああもう、やりにくい!」
天狗が団扇によって生み出した風をこちらの管理下に置き、向きを変え、勢いを増させ、返す!
「悪くはない」
団扇を二振り、それだけで相殺される。だが手は使わせた!まだ!
「良くもない」
ガキン、金属同士が打ち合うような音が響き渡る。
突きで喉元を狙う刀と寸前で止めた団扇が打ち合う音だ。
背後からの沙姫の急襲すらもか!いや、俺も意識的に風を読み取ればある程度周辺のことはわかる。格上は無意識にそれを行えることに疑問はない。
それを俺の風を相殺しながらできることに疑問があるだけだ。神通力による察知の方がまだ納得できるが初めの発言からして使えない!相手ははるか格上!
「うわっ」
空中に浮かされ、ぶっ飛ばされようとする沙姫を風で勢いを弱め、受け止める。
「すみません!」
「いやいい!このまま連続で畳み掛けるぞ!」
沙姫の攻撃を防ぐということは最低限効きはする。本来の役割とは違うが俺がヘイト取り役で沙姫がメインアタッカーだ。本命はそれだがどんどん役割をスイッチして後手後手の対応を打たせる!
もう何度目かの突撃、毎回攻め方は変えているが…
『相手は遥か格上、お前の権能による攻撃はほぼほぼ相殺される、きついなこれは』
んなことわかっている。今の札は沙姫の覚醒による奇襲と俺の撹乱しかない。新たな策を思いつく、それまでは処理能力を圧迫し続けて余裕をなくすしかない。
狂鬼乱斧の遠隔操作により、ブーメランのような軌道を舞い天狗をセルフ挟み撃ちにする。
『だけど多分先に潰れるのはお前だぞ』
いや…それも分かってる。だが俺の手札は完全風特化、奇襲も沙姫より得意だが‥相性が悪いから仕方ないだろう。
もはや鉤爪と化した片手に受け止められる。
『変に冷静‥そゆとこあるから叶馬と違って型に囚われるんだよ』
ああ゛?
自称相棒のあんまりな言い草と文字通り殺人的な忙しさに軽くキレる。
『出してないだろ、全力。そんで気づいてもいるだろ』
‥そんなわけないだろ。絶えず全力だし本気だ。
『無意識か‥』
「人の子よ!工夫と知恵を巡らせ、妖を討とうとする人の子よ!」
ただでさえ赤い面が、鬼のように、憤怒に染まる。それと同時に口元は半月を思わせるような弧を描く。
「滑れ」
再度の覚醒、沙姫の刀‥鋼雲龍水の能力はとてもシンプル、密度操作による重量変化、軽量化に反比例した切れ味増加だ。
沙姫が刀を盾のように扱うことで喉元に迫っていた扇を受け止める。ギチギチと通常の扇では起こり得ない鍔迫り合いが発生していることに不思議は感じるがレイドボスなんて反則の塊だ。
その隙をつき、斬首しようとするがするりと抜けられる。
「工夫はいい、人の子と我ら妖の力の差は明確!知恵もいい、人の子が優れているのはそこだ。嘆かわしくも仕方がない、時の流れというものはそういうものだから‥だが!ここにはそれすら乗り越える人の子と神の威を持つ者が、ここにはいる!嗚呼、嗚呼!なんとも!なんっとも!」
「阿吽」
二度、はらう。団扇を振るというただそれだけが嵐へと変換される。
狛犬二匹が標的となり俺たちの代わりに吹き飛ばされる。
「結衣!」
切れる手札が増えた。これでだいぶ楽になるどころか勝てる道が見えてくる。
「避難完了しました!加勢します」
ニンマリと笑みを俺も浮かべる。
なあそうだろう、天狗。蹂躙なぞ楽しくない、俺らが求めているのは互角の殴り合い。
「すまなかったな、そちらのを本気を出させなくて」
「良い良い!神の威を持つ者よ!」
楽しい。慣れない無詠唱によるスキル行使による頭痛、烈風による細かな切り傷による出血、コンディションは最善とは程遠い。
嗚呼、確かに本気だったよ、全力ではなかったかもしれないが。
俺はさっきまで自分の限界を意識的に制御して神の力を行使していた。俺には過ぎた力だとそう自覚していたから。
違うかもしれない、自称相棒がいうのだから俺は本気であっても全力を出していなかったのだろう。
頭をもっと柔らかく、できたじゃないか、今までできなかったスキルの無詠唱にみたいに、一段一段飛ばして駆け抜けてこう。
「よし、行けるな」
天狗は全力であった。されど本気でなかった。相手が全力を出すのを待っていたからだ。
一陣の風が何も気配を残さず、ぷつりと消えた。
神威は本気であった。されど全力でなかった。自身の全力の出し方がわかっていなかったからだ。
脳天に斧槍、本能にしか任せてない、理性の介在する余地のない、最速の一撃。
致死、その言葉が天狗の脳内に響く。当然のように躱そうとする。
首元、途端に走る幻肢痛、何故?神威?否、武士?否、狛犬使いが首を掻っ切っている。
脳天に重い衝撃、いやまだ軽い、速度に力を割き過ぎている。2度目、刀使いによる巨星と見紛う一撃。
脳が割れる感触。
まだ、まだ、戦いたい。まだ、まだ、
故に、天狗は
不死の呪いを
使うことを決めた。
鋼雲龍水‥元ヴォルケの刀。水属性なくせに単純な切れ味アップかよ重量軽くすると鈍になるとかいらねーと思われていたが風堂により「武器自体が軽いのめちゃくちゃ強くね?」と勘づかれてしまった。レベルアップした超人どもは手元の刀の重さなんて気にしないからね仕方ないね。沙姫いわく感覚が狂うので常用は難しいが使っていて色々な工夫ができるから楽しい。結衣いわく「質量操作?!刀でですか!それに付属の切れ味増加?!上限はどこまでですか?まさか空気より‥軽くなるんですか?!?!それもう質量操作ではなく重力操作の域ですよ!」とのこと。結衣が使っている世界線だったら機動力クソ強になっていましたがうちの結衣さんは運動音痴なのでないですね
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