授業でもほぼほぼ使われることのないグラウンド、日夜閑古鳥が鳴いているグラウンド。
そんなところに本日は人が朝七時の山手線‥要するに満員電車のようにごった返していた。
見渡す限りの人、人、人、軽く酔うほどには人がいる。
「
「
『取り敢えず食べ終わってから喋っとけよ両者』
もぐもぐもぐ…ごくん。
…はぐ。
『嘘だろこのタイミングでもう一口?!?!』
仕方ないだろ、この焼き鳥が異様にうまいのが悪い。
「
「Aランクの倶楽部はこういうのに出店しないのが通例というか当たり前らしいが彼女らは例外、その理由が垣間見えるな」
砂肝の触感最高…これ相当高級品だな?品種は忘れたが九州の地鶏と似ている。これを1本150銭でか、資金力の差だな。どれだけの人数を、どれだけの時間で、どれだけの思いで動かしたのか。黒蜜の名を冠する以上食べ物には妥協する選択肢がないだろう。
売り子の狼っ子もなかなか良かった。内から感じるエネルギーはまさしく壁を超えた強者、体重移動の方法からみるにガチタイマンの対人というわけではなく対モンスター勢なのだろうがそれだとしても戦ったら楽しそうだ。
「むー」
頬を引っ張られる。
「なんだ…?」
「浮気の気配を感じました」
「誤解だ」
…本当に誤解だ。
「結衣ちゃんがいない時はダメですよ」
メッ!と怒られてしまった。誤解とはいえ他の女の子のことを考えていたのだ。大人しく反省しよう。
「結衣は何してるんだろうか」
お詫びとばかりにたこ焼きを一つ食べさせる。ほらあーんだ。意外とうまいぞ。
ハフハフしながら食べてるの愛おしいな。全く俺の彼女は可愛すぎる。何かしらの罪に問われるのも時間の問題だな。
あら俺にも?あーん?誰得なの?私が得?ならいいか。
イカ焼き美味しいな。
「特級科で少し話さなきゃいけないことがあるとの話でしたが…」
「
特級科の生徒は原則普通科に編入させることはできない。そもそも特級科の生徒に普通科のツテがある事自体が珍しく、ほぼほぼ形骸化された規則だと思っていたがこんなところで牙を向けてくるとは。
俺も俺で必要以上に関わるのはどう足掻いても悪手だから結衣に任せた方がいいんだろうな。とゆうかそう判断したからこそ結衣は身一つで行ったわけだし。その判断に従おう。
おっとくしゃみが、誰か噂でもしてるのか?
「次は何を…お、武器がある」
ゴブリンシリーズか?見た目的にはそうだろうがなんか…性能良さげだな。鈍ではなくガラクタでもない。良質な武具だ。え?これがこんな安いの?初心者セットとほぼ同額じゃん。
『掘り出しものみっけたの?そーゆーのがフリマの醍醐味とはいえ大体ないか売り切れてるのに…さすがは神、運がよろしいことで。ん?ブルーシート?ゴブリン武器?ん?』
店員さんから許可をとり、手に取ったナイフをくるくる回す。いいフィット感。グリップがいい仕上げ。
逆手に持ち替え、切り上げ、袈裟斬り。振り回せる程度には程よく軽く、きちんと切れると確信できる程度には程よく重い。沙姫に対し軽めに投擲するとキィンと心地の良い金属音が響いた。目に追えぬ抜刀、レイドによりさらに腕を上げたな。
「3本ください」
これで欠けないのなら相当信頼できる。投げナイフ用に是非とも欲しい。
「毎度ありがとう。投げ始めた時はどうしてくれたもんか悩んだけどきっちり買ってくれて良かったわ」
閑古鳥が鳴いてるしおまけサイズ調整がてらメンテナンスしちゃうと随分と気前のいいことを言ってくれる髪の長い綺麗な2年の先輩。手のサイズを測られながらもふーんどっかで会ったようなと思考を巡らせる。
「しかもこの子のパートナーだなんてね、こんなところまでデートに来るとか随分といい関係じゃない」
あ、そうだ沙姫の寮の先輩だ。
「ありがとうございます」
この程度の調整ならスキルを使わずともできるのだろうか、
「これからも頑張んなさい」
仕事はできるが閑古鳥…この学園の構造から考えて搾取される側の人間。なるほど。
「暇だし他にメンテしてもらいたい武器あったら出しなさい。見てあげるわ。沙姫ちゃんもレイド攻略をしたんでしょう?」
新しい刀を手に入れて寮で大興奮していた沙姫の武器を見てくれたという話も聞いた。ならば俺も任せてみるのも悪くはないのかもしれない。
「メンテもしてくれるとありがたいが…それ以上に」
うちわを取り出す。
「これが使えないとおそらく俺はお話にならない」
風の根源であり、天狗の魂であり、俺が受け継いだ
「故にこれの鑑定を頼みたい」
固有武装、銘を団扇、読みをオーバーラースギアという。
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ちりんちりんと音を奏でながら扉が開く。
上品なジャスがごく少量の音量で、されどもしっかりと聞こえるようなそんな音量で響く。
そこには上品にコーヒーの香りを楽しみながらも長い手足を存分に活かしリラックスしている針金細工のような背格好をした男性が座っていた。
「九重さん…また珈琲を飲んでるんですか、嫌いなくせによくやりますね。キャラ付けですか?」
「いきなりですねMs黒江。人は番いとなれば丸くなるというのに…飲み物は?」
「いつもので」
「ダージリンのアイスですね」
ぱんぱんと手を打ち、店員を呼ぶ。アイスティーとおかわりのホットコーヒー、パフェを追加で注文する。
「辛党でしょう?」
「ええ、だからこそ、あえてですよ」
「理解に苦しみますね」
「人はそんなものです。理解から逃げ、自分の理想像に逃避する」
「人間扱いですか、数日で随分と女性扱いも成長しましたね。男子3日会わざればとはよく言ったものです」
「当然でしょう、一度でも死した生徒は死徒、物とそう代わりはしません。今回あなたを人扱いしているのは空閑風堂に対する恐怖と敬意のみですよ。私が気になるのは死徒というものを知っている彼が貴女を身内に加えたという事実です」
「愛の力ですよ」
「その貧相な体でですか」
「その貧相な体に興奮して人形を犯したのはどちら様でしょう」
「ハハハ」
「ふふふ」
「ハハハハハ」
「ふふふふふ」
笑い声がくつくつと、ふつふつと、雰囲気を壊さないように静かに笑う。彼、彼女にとってこの程度はまだまだ序の口、ジャブの撃ち合い。それでも両者はこのやりとりをもう一度行えたことがそれなりに可笑しかった。
指先が震えてないか、注意しながらカップを持つ。水面に映るはいつもの微小。紅茶を一口、トラウマで震えていた心を冷やす。
ポーカーフェイスは慣れているが自分の心に噓をつくことはずいぶんと苦手になった。
「あなたはもう立ち上がれないものかと思っていました。現実に嫌気がさし、精神を壊したのかと」
「意外と現実というものは理想に近いのかもしれませんよ、私が救われたように」
一拍、はぁーと思いため息が九重から漏れる。
「変わりましたね、以前のあなたなら闘争心があった。現実を受け入れぬ強さがあった。孤高で生き抜くことができる気高さがあった」
「理解できないものを理解しようとする心があった」
「牙は抜かれ、空閑風堂のパートナーとなった今のあなたは何も面白くない」
さっさとここまで呼び出した理由を言え、つまらないと帰ると顔で語る。
「本題に入りましょう」
「停戦しません?」
静寂。
「何を言っているのです?私は空閑風堂を尊敬し、畏怖していますがそれとこれとは話が別」
無駄に長い足を組み替える。
「する気もさせる気もありません。あなた方は私の玩具なのですから」
「あなたにとって他者は意思を持った玩具ですか、トイストーリーのようですね」
「良いですねその例え。私はさしずめアンディですか」
伝票を持ちながら立ち上がる。
「帰らせていただきます。これからもどうぞ誠心誠意争いましょう」
ドアベルが響く。残ったのは結衣一人。
紅茶に再び口をつける。
さわやかな味が喉の不快感を押し流す。
「ええ、断られるのは想定済み」
「彼は私たちを敵だと思っているのでしょう」
「まあ私の狙いは別にありますので放っておいていいでしょう。せいぜい隠れ蓑として有効利用させていただきましょう」
計画が順調に進むことに満足そうに頷く。
「今年の普通科は粒ぞろいです。私の目的に沿って動かし、発進させれば誰であろうと止められません」
「そもそも第一」
「トイストーリーとは玩具が主役のハッピーエンドの物語なんですよ」
さあ、風堂さんが笑って終われるようなエンディングまで駒を動かしていきましょう。
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