何ここみたいな場所でそんなもん出してるの?!工房室で詳しく見たいから預けてくれる?!とすごい剣幕をした先輩に叱られてしまった。まあ確かにあんな公共の場所で切り札とも言える固有武装を出したのは少々不味かったかもしれない。
この前のレイド攻略で魂の格的なのがランクアップしてから全く油断してしまう。気を引き締めなければ。力の質自体は上がったが出力が下がったとかいう変な感覚もあるし。
『風神見習いから風神に進化したからな‥人とは違う見方になることも当然じゃね?』
由々しき問題だな。一般常識から外れると碌なことがない。
拳をパァンと打ち付けると微風が辺りに舞う。理性を無しにして本能で戦う術を学んでから制御もしにくくなってきてるし修行がてらダンジョン進めるのもありだな。制御できぬ力など何の価値もない。あれはここぞという場面で相手の予想を外す為に奇襲がてら使うのが強いのだ。
どこからともなく足を踏み鳴らし、ワッと歓声じみた声が聞こえてきた。
「学生決闘だ!!」
「なに?!」
メンズーアだと?!
どこで‥校庭!近いな!観戦自体には時間的余裕がある。全力で楽しまなければ!
「おいおい一対一の連戦かよ」
「滅多にみないけど割とあるよな?なぜに?」
「そこの女のパートナー関係」
「いつものジャン‥何でそんな人数‥?」
「さぁ?あれ?相手一年坊だわ」
まずはポップコーン!沙姫は‥飲み物を買いに行ったなさすがだ。ふむ塩かキャラメルか‥俺としてはキャラメル派閥だが沙姫は甘いのがそこまで得意ではないからな、ハーフアンドハーフでもらおうか。
「胴元どこー?掛けさせろ!」
「学生決闘委員会まだかよ!一体ど」
「はいはいここに、胴元やらせていただきますよ」
「うわどこからともなく現れた怖!」
「白頭巾が目の前にいきなり来ると正気度減るわ」
「相手厄介倶楽部のあいつらじゃんえーなんだっけリストで顔見ただけだからおぼえてねぇ」
「餓狼のアホどもだろ」
ついでにフランクフルトも如何か?商売上手め!二つもらおう。甘いものには塩っけがあるものなんだよな。酒もどうかって?いや流石に昼間からは‥いただこうか。む!純米大吟醸!
「何秒耐えられるか!さあさあ只今10秒がオッズ1.2倍!1番人気ですよ!張った張った!」
「15秒に20万!」
「いやいや一年に期待しすぎた!10秒に5万!」
「王道の1番人気!いいセンスだが一分にに8万!」
「ククク甘い!甘すぎる!俺がいない間にここまでぬるくなったのか!期待するならもっとしておけ!二分に50万!」
「あ!あいつは‥最強の博打撃ち!まさかこの賭場でお目にかかれるとは‥」
「この賭場‥荒れるぜ!」
いや沙姫隠れて飲んでたわけじゃなくてな、そこのお兄さんが俺にサービスにってくれたやつが案外美味でな、それを一瓶買っただけなんだ。決して1人占めしようとは考えてないぞ。え?じゃあなんで目線があった瞬間に背の後ろに隠したかって?
スゥー
‥あの
‥その
…お兄さんもう二つください。
『そろそろ始まるぞ?賭けないのか』
ほくほくとした顔をしながら笑みを浮かべる沙姫から目を逸らす。
一つ一万か‥貯金を崩すほどではないがダンジョンのドロップ品を真面目に回収はしときたいな。マジックバックも返却したしそれも買わなくては‥食に妥協はしたくないが節約もやむなし、しばらくは買い食いを自制しよう。
『おいおい、自分の欲にセーブをかけるのは良くないぜ、欲しいと思わないと人というものは成長しないのだから』
一理はあるが現実を見るとな。
『そこに賭け事があるじゃろ‥そこでお金をがっぽがっぽよ』
いやいや、胴元が確実に勝てる形式のギャンブルに金を賭けるのはな‥まあ数千銭程度なら雰囲気代として払ってやるか。金を賭けた方が楽しめるし。
『なんかこう‥立ち振る舞いでどっちが勝つかわからんの?』
心の中で無理無理と言いながらも少し苦笑する。
俺がわかるのは立ち振る舞いからどの程度武に通じてるのかどうかくらいだ。ダンジョン内と同じ環境な以上片方が明らかに武に通じていたとしてもレベル差で押し切られたりとんでもマジックアイテムで初見殺しされる可能性は全然ある。それこそ片方が知り合い以上でないと確実性の高い予想は無理だな。
そう言い切ったところで対戦する二名が見えてきた。
ふむ、片方の2年はそれなりに強そうだ。筋肉というより贅肉といった体の仕上がり具合だが常在戦場という考え方ではそう間違っていない。体重が全てとは言わないが勝敗の重要な部分を占めているということは合っている。まさしくこの学園の中堅といったところか、まあ俺なら勝てるだろうが他の一年生にはきつい相手だ。それこそ叶馬以外であいつに勝てる存在は‥知らないな。
えーとその対戦相手は‥
そこにいたのはヒゲメガネを装着した変態だった。
「ええ‥」
思わず引いてしまう。いや!よく見ろあの肉体。俺よりフィジカル面では上か?もはやシャツが可哀想なほどの上腕二頭筋、是非とも触りたいほどだ。見覚えがあるな。
んー俺が肉体面で記憶してるなんてそれこそ山賊王先輩とか叶馬ぐらい‥あれじゃあ叶馬じゃね?
全財産かけてもいいレベルじゃないか!いまの全抜きのオッズは何倍だ?!‥70倍?!今の俺で賭けられる金額は?100万ちょい‥俺が掛けることによる倍率の変動をコミコミで考えても50倍は硬い。
「沙姫は掛けるか?」
「はい、こういうの結構好きなので!」
そう言い残し、賭場に向かって行く。手でも振りながら視界から外れたことを確認して…よし。
スマホを取り出す。
「大穴狙いといこうか」
へいそこの決闘委員会さん、全抜きフルベットで頼む。
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「HI•GE•ME•GA•NE!」「HI•GE•ME•GA•NE!」
シュプレヒコールに合わせ、タップダンスの音がカカカッと響く。
「馬鹿が油断しやがっ」
正拳が顔面に綺麗に沈み、錐揉みで吹っ飛ぶ。
「調子に乗んなよ、このガ」
正拳が腹に決まる。おそらく防御が間に合っていないのだろう。思った一拍前に打ち込んでいる。俺が喰らったのはそれか。俯瞰して見てみないと気付かない程によく練り上げている。一般的に稽古しただけでは決して身に付かない絶技。
「…て、てめぇ、なんかマジックアイテ」
再度正拳、よくみてみれば全員失神している。威力もそれなり以上、よくあのモーションで綺麗に力を加えられるものだ。
ナイスメンズーアという言葉と共に拍手が鳴り響く。後は景品である女を受け取ってお開きだ。あー良いもの見た。
スマホに表示される銭は5000万と少し、儲けた儲けた。うーむ沙姫にはバレてないだろうが結衣にバレると少し気恥ずかしいな。ここはサプライズがてら美味しい寿司でも買っていってやるか。マグロの頰肉は至高。
「何か良いことありましたか?」
「ああ、意図せず泡銭を稼げたからな。これならいっそのことちょっと高めのマジックバックでも買ってやろうかと…」
ここにはいないはずの、鈴が転がるような声。
思わず焦り顔で振り向く。
「あらあら、賭けていらしたのですか」
気配なんてなかったなぜ!いや風を読む力が止まっている。くぅランクアップのデメリットがここにきて響くとは!
「いや、いや違うぞ、確かに未成年者の飲酒、賭博は犯罪だがこの学園ではもはや文化として残っていて」
必死に言い訳を並べているときょとんとした顔をし、苦笑される。
「責めてませんよ。第一私そんなに器が狭いように見えます?全てを賭けて学生決闘をするならまだしも風堂さんの資産で賭ける分にはなにも文句はありませんよ」
な、ならよかった。いや多分全財産賭けていたことを知られたら結構怒られそうだな。君子危うきに近寄らず、やぶ蛇は突かない方針で行こう。
「本題に入りますが…場所を変えますか?ここだと人目が…」
「いや、必要ない」
パチンと指を鳴らす。風のドームが辺りを包み、あたりの声がさっきまではっきりと喧騒となっていたが、ただの雑音となる。無意識下の行使はまだムラがあるが意識さえすれば安定はする。
「水上さんはこちらとの争いを止める気は全くもってないそうです」
「そうか、分かってはいたが」
軽くため息をつく。あいつは油汚れかな?と思わせるほどには面倒くさい。中性洗剤を使っても全く落ちないことだけは確かだ。
「故に、私たちは攻勢に出るべきなのです」
三日月のような、獰猛にも見える、蠱惑的で、挑戦的な笑みを浮かべる。そういう表情をしている結衣は大体ロクでもないが最高に楽しいことを考えている。
ダンスを誘うような、そんな仕草で手を伸ばされる。
「風堂さん、学園を壊すことにご興味は?」
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