尾行は数多い私の長所の一つだと思っています。なぜかですか‥かの麒麟児に対するストーカー行為を年単位で成功させていたからですね。いやまあ今とは違いスキルもそれに対する想定もしていなかったから仕方ないだろうと私の伴侶となった人は言うでしょうね。ですがその事実はしっかりと私の自信となって私の中に芽吹いていました。
「ふむ‥4日目でも特にボロをださないのですか‥まあそんなものでしょう。あちらがボロを出すような状況に追い込むのはアリですね」
双眼鏡を縦に持ち、片目で対象の4人‥今6人となった組を見る。内訳は男2名、女4名。この学園の普通科一年生という脱落者が少ない時期にしては少々違和感を感じるバランスだから特に変ではない。
変なのはそこにある男の存在感。あまりにも乖離している。まさしく規格外。伴侶である空閑風堂に勝るとも劣らない。
どう考えてもおかしい。だからこそ観察する。
知らなければ、罠もはれず、策も巡らせず、非力な自分自身では何もすることはできないからだ。
「いいでしょう、根比べは私の好みではありません。さっさと知るべきことを知ってしまいましょうか」
さて、何をしてやりましょうかね、どこかしらの倶楽部を適当に焚き付けて奇襲させて出力の違いでも見てみましょうか‥事故でも装って怪我を負わせるのもアリ‥私が潜入して調査するのもアリ‥よりどりみどりときましたか、迷いますね。
そう考えながら双眼鏡をバッグにしまい、踵を返した。
否、返そうとしたその時、
「動くな」
首筋にスッとナイフが触れる。冷たく、無機質な、先ほどまで毛ほども感じていなかった殺意がぶわっと膨れ上がる。
「手を挙げ…素直だな」
要求通りに両手を首元の高さまでぴょこんと挙げる。首を動かさずに目線だけを動かし、刃がきちんとこちらに向いているのを確認できた。
‥峰でもない‥本気のようですね。
「特級科のお嬢さんが何の用かは知らねぇがお痛はそこらへんにした方がいいぜ」
刃をさらに押し付ける。きっちりと伝わる殺意。このまま引かなければなんとしてでも妨害するとの覚悟の表れ。
いつの間に、いやそんなことはどうでもいい、泳がされていたのは私、さすがは現副会長の血縁の者、さあどうする、どうなる、何か策は、思考を巡らせろ。
冷や汗が出てくるがそれを誤魔化すように、舌をぺろりと舐め、決意を固める。
右手を水平に動かし、指先で刃を触る。押し当てるとぷくりと皮膚が裂かれ、血がトクトクと流れ出る。
「?おい」
「やはりそうでしたか」
下手人…即ち黒江結衣がそう口を開く。
「私達特級科の生徒は一部を除きほとんどの生徒は
ナイフを持つ手が震える。
「研究データでは魂魄結晶を無くした者が有る者に対して有る程度の攻撃が効くのは地上では約4段階ほどの差が必要。決闘結界内では約0.5段階、ダンジョンの中ではほとんど同じ」
首元に息が吹きかかる。焦っているようだ。
「私は今現在文官系第一段階の後半です。私に傷をつけるには第五段階ほどの出力が必要。考えるまでもないですね」
するりと何も力が入ってない手からナイフを抜き取り、小野寺誠一の首元に突きつける。
「小野寺誠一さん、あなたは‥いえあなたたち4名はまだ生徒であり、魂魄結晶を宿していますね」
本名‥即ち真名は呪術的に大きな価値を持つ。それもあるが今回の場合は学園という限られ、情報も入手しにくい環境下でのアピール。真名を知られているというのはそれだけでリスク。
「何を‥何をするつもりだ」
すかさず予備のナイフを構える。少しは動揺したが依然、相手は文官系、平手押しならどうとでもなる。こちらが主導権を握っている。
間違っていない。それ自体は間違っていない。一般的には間違っていない。だが相対するは旦那が楽しめるように、どんなことがあろうと「楽しめる」という余裕があるように調整しようと奮闘する女、逸脱的な人間には通じない論理。
「いえ、普通科の生徒に協力者が欲しいと思いまして」
誠一は息を吐きながら鼓動を落ち着かせた。
目はひたすらに冷たい。
「‥続けろ」
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ひたすらに雑魚を蹴散らす。ギャアギャアと不快な音を奏でるがそれすらも楽しい。やはり強敵との戦いも至高だがこう鏖殺するのも別種の楽しさがある。
これは俺がまだ解脱しきれていないからだろう、人間なんて所詮そんなものだ。思考を纏めるには適度な運動が最適だからというのもあるが最近フラストレーションが溜まりすぎて自分を鎮めるために1人でダンジョンに潜ってしまったのも解脱できていないせいかもしれない。
『いやいや、学園を壊すか‥』
くくくと自称相棒が笑う。
『僕には全く、これっぽっちも、粒子レベルで頭によぎらなかったな、いやーこんな立ち位置してると視野が狭くなってかなわんな』
三方向から囲まれる、一見ピンチに見えるだろうが実は違う、まず壁を蹴りながら一方向を殲滅、即座に天井を蹴って二方向目にロックオン、同時に二方向目の奴らの後ろに黒雲を生成、突っ込む。
『しかも学園を壊す方法がね‥まさかまさか、戦いは数だよ兄貴とはよく言ったものだよ。この学園で人が1番多いのは普通科だ』
通過、ただ通過しながらのおざなりな一振りで死んでいく。9階層というそれなりなところでも容赦なく。
『具体的には特級科との差をなくし、全員がよほどのことがない限り生き抜ける学園を作ること。そのことに関しては何も文句がない。人権的で、論理的で、倫理的で、素晴らしい案だ』
黒雲を踏み台にし、三方向目へ、首を刈るでもなくただの縦切り、体重と勢い、それだけの運動エネルギーで数体が弾ける。
「ギャギャ‥ギャ!」
後ろに立っていた残り1匹、団扇を振う事で発生する風によってバラバラにして終了だ。
「ふぅ‥」
ため息、軽く弾んだ心臓を元に戻す。
「問題点が多数あるがな」
ずんずんと、進みながらそう答える。
『そうだな‥軽く問題点を挙げていこうか』
『一つ、特級が特級である理由がなくなる。利権という甘い餌がなくなると、学園内外からの激しすぎる抵抗が予想できる。二つ、性問題。今までは子を産めなくなるからこその政治事情だったが、魂魄結晶を宿していれば子を産む。かといって、リビドーを解放するなというのはあまりにも非現実的』
ここが9階層のボス部屋か‥なるほど騎士系の魔物。事前情報通りだな。確か物理攻撃にたいする高い耐性持ち、なんなら魔法攻撃による耐性もそれなりにあるが弱点はきちんと存在する。それは同じ攻撃を受けるとそれに対する耐性が弱体化される代わりにその他への耐性が強化されるというもの‥パーティのダメージディーラー以外はダメージを与えてはならないという完全初見殺し。
だからこそ俺はソロで来た。
『みどり先生みたいな
まあそんなもんだろう。
斧槍で切りながらも頭は戦闘ではなく思考に回す。反射のみで戦うのいうのも案外乙なもんだ。
逆に四つ目、それが一番難しく、これがクリアできたら他のはどうとでもなりそうだ。究極的に言えば特級の奴らに「うん」と言わせればいい。上層部などは、そうした後、普通科との連携での数の暴力でどうとでもなる。
『学生同士の契約と結託!それならばぁー!』
決まっている。学生決闘だ。まずは1年をどうにかして早めに掌握。2、3年は生徒会と普通科との秋の倶楽部模擬決闘で学生決闘にするように仕向ければいける。つまり最速なら、秋まででSランククラブにならなければならない。
『そして今、普通科で特級課生とのメンバーに勝てそうな人物など、数えるほどしか存在しない。4段階クラスのカンストは必須条件。パッと思いつくのは、Sランク倶楽部の長4人は筆頭候補。Aの中でも山賊王、はらぺこ狼クラスのぶち壊れが必要だ』
それを集めるための華が、圧倒的な名声が必要だ。
ならばどうするか。
『水上を普通科生徒のわかりやすい敵とし、罠に嵌め、それを討伐することで』
「英雄と成る」
俺は骸となった騎士を蹴飛ばし、第十階層である密林龍園へと足を伸ばした。
これから起こるパーティに顔を綻ばせながら。
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