八千穂は倒れている日万凛に近づく。
(“青雲の志”は代償がある能力を用いた場合、それを支払わずにスキルの切り替えは実行できん。よって奴隷に褒美を与えるという“無窮の鎖”使用中はいきなり違う能力に切り替わることはない。心置きなく、詰みに入れる。)
八千穂には確信があった。
だがここで、一つの誤算があった。
能力を持つ人間が二人の場合、その前提が崩れることに。
「昔を思い出せ、日万凛。お前は常に大一番で結果を出せなかった。今回も同じよ。東の大辰刻には対応できんじゃろ。ギブアップせい、日万凛。」
日万凛は悔しかったが、現実を突きつけられ、心が折れかけていた。
(・・・・自分はここでも、結果を出せないというの?)
そんな二人の間に、一本のナイフが飛んでくる。
「っ!!」
「日万凛、上手く受け身とれ。」
投げたのは優希。
そして投げたナイフにはなぜかワイヤーが括り付けられていた。
(これって!)
時間は遡り、日万凛が優希がMk.XVIIの時に使える装備を聞いていた時だった。
基本的装備の中に、起爆剤仕込みのナイフがあることに呆れていた。
「こんなのよく考えたわね。」
「ナイフがあると無いとじゃ状況は大違いだからな。俺の先輩の一騎先輩は丸腰の状態で一回戦ったからな。ま、壁とか壊せるし、人間に刺したら確実に頑丈な人間以外は致命傷を与えられるな。」
「そんな機会がないのを願うわ。」
優希がワイヤーを引っ張り、投信が折れ、柄が引き寄せられる。
「なんじゃ?こけおどしか?」
「っ!」
日万凛はすぐに転がる。
直後、爆発が起きる。
「なっ!」
八千穂は驚きのあまり反応できず、吹っ飛んでしまう。
「あんた!危ないでしょ!」
「精神の治療には時にショック療法が聞くと、ネットに書いてた。」
「デマ情報じゃない!」
「ああ、実際意味ないぞ。手遅れの奴には、な。」
そう言うと優希は日万凛を見る。
「お前の姉、八千穂はミスしまくってた。デカすぎるボンミス。そんでもって、俺たちだったら、勝てるぞ。まだ立てるか?」
優希は日万凛に手を差し出す。
「誰に言ってるのよ。当たり前でしょ!」
日万凛は優希の手を取り、背中に乗る。
「随分と舐めた口を利くようじゃな。まずはその犬から躾けてやる!」
起き上がった八千穂は優希を睨む。
「その足では、もはや先ほどの速さは出せまい!」
「SDP選択、近藤健司!」
優希の負傷した箇所が結晶となり、治療される。
その光景に銀奈と六番組の面々は驚く。
「そう言えば、複数持ってたな。じゃが、能力が分かっているなら―――」
「SDP選択、羽佐間カノン!」
「なっ!?」
「えっ!?」
八千穂だけでなく日万凛も、その場にいた面々は驚く。
(なぜカノンの名が・・・・いやはったりか?ならば納得がいく!もしカノンの能力を真似れるのであれば私様の勝機は無い!)
八千穂にとっての天敵ともいえる能力を警戒する。
「おまけだ!」
優希は背中にMK.XIIIに使用されているスラスターを背中に出す。
「いくぞ!」
片腕にガンドレイクを出現させ、スラスターを吹かしながら旋回行動を取る。
「おら!」
ガンドレイクのレーザーを間隔を開けて放つ。
「最後の作戦、覚えてるな?」
「ええ!」
「インパクトに欠けるから少し残酷な方法で隙を作る!」
「何やるか知らないけど、わかったわ!」
「いくぞ!」
急ブレーキからの急加速で一気に近づく。
八千穂はポーズを取り、準備に入る。
その瞬間、優希の無窮の鎖が解除される。
(目眩まし!だがポーズはもう取った!東の辰刻!五秒止まれ!これで終わりじゃ!)
八千穂は銃口を向ける。
「なっ!」
目の前にあったのは腕であった。
(なぜ腕が!そもそも誰の腕じゃ!まさか日万凛の!いや、そんな愚かな選択をするわけがない!)
試行している間にも2秒経過する。
「くっ!」
八千穂は残弾全てを放つ。
腕が邪魔で見えないが、おおよその位置の検討はついていた。
そして再び時間が動き出した瞬間。
銃声が聞こえ、八千穂の動脈を銃弾がかすめる。
「----」
八千穂は真下に視線を向ける。
そこには会おう向けで銃口を向けている日万凛の姿があった。
八千穂は傷口を押させる。
「ここまであがくようになるとは・・・・生・・・意気・・・・」
八千穂は後ろに倒れる。
「これは・・・・!?」
銀奈も引き分けかに思われた。しかし、倒れている日万凛が拳を上げる。
「決着ゥゥゥ!!勝者、東日万凛!七番組は一本選手です!」
銀奈のアナウンスがその場に響き渡る。
「あれれ~~~、負けちゃいましたね。」
「敗因を学ぶことで実りとしようか。それよりもっと重要なのは・・・・・」
天花が視線を向ける方向には左腕がない優希の姿があった。
「ユッキー!腕が!」
朱々は急いで駆けつける。
「効果抜群だったな。」
「そう言う問題じゃないよ!」
冷静な優希に対し朱々はツッコミを入れる。
「ところでこの腕治る?」
「流石に私もここまでのけがは初めてですが、やってみます!」
銀奈は急いで能力で回復をする。
日万凛と八千穂はできたが、優希はできなかった。
「なるほど。組織が回復できるケガだったら可能だけど欠損とかは不可能なのか。」
「何感心しているの!」
「そうじゃ!貴様の片腕亡くなったんじゃぞ!」
「ああ、大丈夫。腕を戻せばいいから。」
優希はそう言うとガンドレイクで切り落とした腕を拾う。
「SDP選択、立上芹。」
優希は落ちた片腕を同化させるとそのまま腕を再生する。
「よし、これで問題なし。」
「問題大ありよ!」
日万凛は優希の頭を叩く。
「痛いな。」
「自分の胸に手を当てなさい。」
二人は寮に行こうとするのを八千穂が止める。
「待て、日万凛!力をつけたな、認めてやる!相応に値する。ならば東の家に戻れるじゃろ!」
まさかの一言に驚く日万凛。が・・・・・
「八千穂、今の自分は七番組が居場所よ。何を言われようが家には帰らないわ。」
悲しいかな、長く隔てられた革質で彼女の意志は固かった。
八千穂は石のように固まってしまう。
「固まったわね。」
「やっちはさー、感情の表現方法がイビツなんだよ~。」
天花とサハラが構ってあげてるとき、優希は思っていた。
(こいつも大概だが、姉も大概表現がめんどくさいな。素直になれと言うか、自分に正直になれと言うか・・・・・・・・もしかして、血筋的にめんどくさい性格じゃないのか?)
そんなことを思ってしまう優希であった。
寮の冷蔵庫を開け、日万凛はペットボトルの水を飲む。
「んじゃ俺も・・・・」
飲もうと手を伸ばした瞬間、左腕を掴まれる。
「ん?何か取りたいものでもあるのか?」
振り返った途端、日万凛は優希にキスをし、そのまま水を口移しする。
「・・・・・・・・これって、今回の・・・・」
「褒美よ。始まったみたい。」
その光景に物陰で見ていた朱々は顔を赤くしていた。
(体を張った代償って、そういうこと!)
日万凛の褒美はまだ終わらず、続ける。
「アンタの・・・・・優希のおかげで姉に勝てたわ。あ、ありがとう。」
「・・・・・・・日万凛。」
「この言葉は、代償で口が動いてるんじゃないからね。自分の意志。」
顔を赤くしながら暇はそう言うと優希の下唇は咥え、かみかみする。
流石の優希もどっちなのか聞くのは野暮であるのは理解している。
「全く、いやらしい褒美だわ。」
ちゅちゅちゅ
「こんなの・・・・」
ちゅちゅちゅ
「もう・・・・」
短いキスを何度もする日万凛。
(経験ないからわからなかったが、唇って柔らかいんだな。)
優希も経験がないため顔を赤くする。
そして唇を日万凛は押し付ける。
「あ、そう言えば家には帰る気はないのか?家族なんだろ?」
「いいの。辛かった時に拾ってくれた組長の側にいるわ。」
そう言うと日万凛は唇を舐め始める。
「・・・・・その。いろいろきつく当たって、ごめん。男子もやるわね。」
「ああ。だが俺の知ってる男で、すごい人がいる。臆病でも前に出て戦って、好きな人がきっかけで医者になった人を。」
優希の脳裏には剣司の姿があった。
「でも腕を切り落とすなんて、正気じゃないわ。」
「カノン先輩の能力で少し未来を見た。わずかな可能性で敗北する未来があったから、腕を切り落として投げつけれっば勝てる見込みあったからそっちを選んだ。」
「・・・・・・・・ねぇ、聞いてもいい?」
「なんだ?」
「なんでカノンさんを知ってるの?」
「・・・・・・・・・・・・・え?」
優希は間抜けな声を出す。
そのすぐそばの廊下の陰で朱々は顔を赤くしていた。
(ずるい!)
朱々は少し焼きもちを焼いていた。
この時は予想もしなかった
自分しか知らない存在が、この世界にいることに
そして、再開は近いことに