和倉優希の日常は比較的平和と言えば平和な日常である。
朝食を作り、掃除に洗濯や備品の在庫管理と言ったことをするばかりである。
「ゆっきーが来てからなのか知らないけど、ここが綺麗になった気がする。」
「私もよ。」
「はい。」
「これほどまでとは驚いたな。」
京香たち一同も舌を巻く。
「ん?どうかしましたか?」
「なに・・・・・ただお前を雇って良かったと思うだけだ。」
「それは良かったです。」
京香の言葉にそう返すと優希は再び仕事に戻る。
「はい、おおむね健康だね。心臓に関してはちゃんと診察してもらった方がいいから。基本的な健康診断の方法しか知らないから。」
「おっけー。」
リビングで優希は朱々の診断をしていた。
急に心臓の方が痛いと言い出したので剣司から教わった基本的な診察方法で簡易的な診断をしていた。
と言っても血圧を測ったり喉の炎症を見たり違和感を聞いたりと言った特段すごいことをしているわけではない。
「けど任務で何かあったら問題だから大事を取って巡回には参加しない方がいいかもな。」
「えー。」
「えー、じゃない。不測の事態で負傷を負ったりすればその分京香さんや日万凛の負担が増えて部隊が壊滅に落ちる。それに気になったんだが、京香さんと寧ちゃん以外スタンドプレーが目立つぞ。」
「え?でも個々の力も大事でしょ?」
「お前らの場合パワーバランスに偏りが多い。お互いに守り合って戦わないと直ぐに死ぬぞ。」
「うへ~、痛いところ突かれたねー。まぁ否定できないんだけど。」
朱々の薄々は感づいていた。
個々として強いが一人であればと言えば弱点が多いのも七番体である。
全体を守るように京香は戦うが負担が多い。
ここ最近では優希も戦うので負担は減ってはいるがやはり大きいところもある。
「そういや京香さん御能力、“無窮の鎖”だったよな?」
「うん。でも醜鬼を操れはするんだけどその分使い勝手が悪いった感じなんだよ。」
「反応が遅いとか?」
「そうそう、組長も言ってた。」
朱々は優希の質問に反応する。
「それって醜鬼にだけか?」
「うん、そうだよ。でもなんで聞くの?」
「いや普通に人間に使ったらどうなるのかなーって思って。」
不意に思った疑問を口にする優希の言葉に京香は聞き耳を立てていた。
(たしかに、今まで人間でこの能力は試したことはなかった。だが試すとなると・・・・やはり優希しかいない。引き受けてくれるか?)
試したい気持ちはあるが実験動物扱いするのは京香の気が咎めるため正面から言いづらい内容である。
その時寧が報告を上げる。
「組長!北西12kmのところで遭難者です!」
「っ!」
考え事をしていた京香に突如来た報告ではあったが彼女は冷静に支持を出す。
「朱々は寮にて待機!優希と日万凛は共に行動しろ!私は奴隷で移動をする!」
「はい!」
「了解!」
日万凛と優希はジープへ走る。
「足引っ張らないでよ!あんた運転できないんだから!」
「え?俺大抵の乗り物操縦できるぞ。」
「は?」
優希はジープのカギを手に取るとエンジンをかける。
「後部座席に乗れ!」
「言われなくてもわかってる!」
シャッターが開きジープが七番組の寮から出る。
「あんた本当に運転で来たのね。」
「竜宮島ではいろいろのって運転したからな。」
「例の別世界の?正直あの話嘘じゃないかって今でも思ってるわ。」
「信じてもらわなくてもいい。今大事なのは俺がここにいることだ。」
「それってどういう―――――」
そこから先を聞こうとした途端、醜鬼の群れが襲ってきた。
「左旋回で動くから迎撃よろしく!」
「わかった!」
優希がハンドルを左に切りジープが大きく左に旋回すると日万凛は片腕をガトリングに変えて醜鬼を撃ち抜く。
「運転上手いわね!」
「溝口さんにはまだ負けるけどな!」
敵を一掃すると優希はそのまま救助者の元へと向かう。
「要救助者確認!保護頼む!」
「わかったわ!」
日万凛が少年の保護をする。
「もう大丈夫よ。魔防隊だから安心して。」
「お姉ちゃんは?」
「え?」
「お姉ちゃんも一緒だったけどいなくなったんだ!」
その言葉を聞いた途端、優希はすぐ様通信を入れる。
「寧ちゃん、要救助者一名確保!でももう一人いる!」
〔はい、もう一人の反応の方には組長が向かっていますが大量の醜鬼がいて逃げている状況です!〕
優希はここで判断を下した。
「日万凛、俺は今から別行動をするからお前は一旦寮に戻れ!」
「はぁ!何言ってるのよ!この子も一緒に組長の元へ向かった方がいいに決まってるじゃない!」
「ここでこの子を一緒に連れて行ったら二次災害になる!この子を寮の結界内で保護して朱々を連れて援護に迎え!俺だったら単独行動できるから問題ない!」
優希の判断は正しかった。
保護した人間を連れて援護に向かうのはあまりにもリスクがあった。
下手にジープから目を話して子供が醜鬼に襲われてしまえば結果として敗北を意味する。
より安全で確実な手段を優希は日万凛に提案した。
「・・・・・・・わかったわ。でももし組長に何かあれば殺すから覚悟しなさい!」
日万凛はそう言い残すと少年を連れて七番組の寮へとジープを走らせる。
「俺も行くか。俺は、ここにいるぞ!」
優希はMk.XVIIへと姿を変えると背中の装備を変更。飛行用スラスターを吹かし、京香の下まで飛行する。
一方その頃京香は要救助者の女の子を無窮の鎖で使役している醜鬼を使って醜鬼から逃げていた。
「左に旋回しろ!」
醜鬼は強化の指示に数テンポ遅れて反応する。
(反応が鈍い!)
京香は少女を脇に抱えて醜鬼を捨てる。
捨てられた醜鬼は襲ってきた醜鬼によって蹂躙される。
(どうする?流石に守りながらでは・・・・・・)
そう考えているとジェット音が響き渡る。
「この音・・・・・・・・優希!」
「遅れてすみません!」
Mk.XVIIは両手にガンドレイクを展開しレーザーで敵を一掃する。
「優希、すまない。」
「いえ、気にしないでください。それより無窮の鎖していた醜鬼は?」
「捨てた。」
その会話だけで優希は理解した。
「・・・・仕方ない。」
京香は結界の札を取り出すと剣を逆手に持ち札ごと地面へ突き刺した。
「長くは持たない。優希、朱主と話していた件を実行するが、頼めるか?」
「ええ、生き残るためにはやります!」
優希は元の姿へと戻り、優希の言葉に京香は頷くと目線を女の子に合わせて言う。
「彼から少し離れて目を瞑っていてくれるか?」
「う、うん!」
「ありがとう。」
女の子は京香の言葉通りの行動をする。
「優希、私の能力は奴隷とした生命体の力を引き出し使役する。お前自身が強化されればこの場から脱することができる。」
「どんな代償かわかんないのが怖いですけどね。」
優希は苦笑いをする。
「それを承知の上で、だ。」
京香は右手の手袋を外し、優希の前に突き出す。
「さあ、屈服の時間だ。」
優希は京香の手を取ると指先にキスをする。
この時、この瞬間
ある未来が生まれた
優希の身体が京香の無窮の鎖により変化を起こす。
優希の首に無窮の鎖の首輪が巻き付き、全身を鎖が包み込み、変化を起こす。
肉体は白く、手足には鋭い爪、肉体は大きく人の姿ではない獣へと変貌する。
「これは・・・・・!」
「わぁ・・・・・・!」
魔都の月下の元に降り立ったのは白い獣。
醜鬼よりも美しく、そして強者を思わせる風貌をしていた。
(意識はある・・・・・・・・・・・俺は、ここにいる!)
醜鬼が結界を壊し入ってくる。
「ふっ!」
優希が襲ってきた醜鬼を薙ぎ払うと醜鬼は真っ二つに切れる。
「うぉおおおおおおおおおお!」
優希の雄叫びが醜鬼たちを圧倒し、怯ませる。
「素晴らしい・・・・ここまで強化されるとは!」
「京香さん!」
「ああ!」
京香は女の子を脇に抱え優希の背中に乗ると首輪の鎖を掴む。
「お前の力をふるって見せろ、優希!」
「ええ!」
優希は醜鬼の群れの中へと走る。
すれ違いざまに一匹、また一匹と醜鬼たちを倒していく。
「右に跳べ!」
寸分の狂い無く同時タイミングで指示した方向へ跳ぶ。
(反応も素晴らしい!)
ここまで強化の心が満たされたことはなかった。
「嘘・・・・・・・組長の能力が・・・・・・」
「ユッキーと一緒になってすっごいことになってる!」
京香が優希を無窮の鎖するタイミングで増援に来た日万凛と朱々は上からその光景を唖然と見ていた。
「優希!」
「はい!」
優希は二人の元まで跳ぶ。
優希が着くと京香は優希から降り、二人の元へ女の子を渡す。
「この子を。」
「はい。」
朱々が女の子を抱える。
「組長!」
「「っ!?」」
日万凛が見る先には複数の醜鬼が一つとなって強大な醜鬼へと姿を変える。
「私が対処する。お前たちはそのこと下がっていろ。」
「はい!」
二人は京香の指示に従う。
京香は剣先を巨大醜鬼へと向ける。
「突っ込め優希!ありったけの力を奴にぶつけろ!」
「はい!」
優希は巨大醜鬼に向かい跳ぶ。
巨大醜鬼は片腕を突き出しそこから肉を伸ばし優希を捕まえようとする。
優希はそれを足場に蹴る。
そして一気に懐まで飛び込み、京香の斬撃と共に会心の一撃を入れる。
巨大醜鬼は崩れ、消滅する。
「すご・・・・」
「何者なの、あの男・・・・・・」
朱々と日万凛は驚くしかなかった。
優希の無窮の鎖が解除され、元の姿へと戻る。
「結構疲れますね、これ。」
優希は片膝をつく。
「組長。」
「すまないが先に戻っていてくれ。」
「・・・・・・・・わかりました。」
日万凛は納得しないものの指示に従い女の子を乗せてその場を後にする。
「大丈夫か?」
「少しだけ・・・・・・・体力を持っていかれますし疲労も相当ですね。」
「そのようだな。お前にこれほどの力があったとは驚きだ。これからも私の奴隷として働いてもらおう。」
「ははは、すっげー内容。でも京香さんの目的は・・・・・・・」
「ああ、総組長になることだ。」
京香の目には強い意志と決意があった。
「醜鬼が現世に一匹でも出れば甚大な被害が生まれる。私の目的は総組長になり、速やかに醜鬼を絶滅させることだ。これからも頼むぞ、優希。」
京香はそう言うと優希の頬に両手を添え、キスをする。
「んぐっ!?」
流石の優希もこれには驚いた。
「きょ、京香さん!」
「これが代償か・・・・・・・・・・知っての通り私のこの能力には代償がある。私は主として奴隷が働いた分に見合う報酬を出す。今までは豚肉でよかったのだがまさかこうなるとはな。」
そう言うと京香は再び優希に顔を近づける。
その際に帽子が頭から滑り落ち、隠れていた表情が露となる。
顔が真っ赤になるほど赤く染まっている京香の顔に、つい目を奪われてしまう。
「これは私の身体が勝手に動いてしまう。こういうのとは無縁と思っていたのだがな。」
そう言うと京香は今度は下を絡ませてディープキスをする。
数分間それが続いた。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
少しばかり距離を離して座っている二人。
忘れられるならば忘れたいが、そうはいかない。
「優希、わかっていると思うがこのことは他言無用だ。」
「ええ・・・・・・・さすがにこれはおいそれと言えないですし言う勇気もないです。」
数分してからMk.XVIIに姿を変えた優希は京香をお姫様抱っこして七番組の寮へと戻ったのであった。
これが運命の結び目であった
君は知るだろう
この鎖が彼を止められればと思うことを
そして彼はその制止を振り切り、自らの命を捧げることをいとわないのだと