奉仕しないと帰れない部屋に囚われた男の業務記録 作:dolph
浮上した意識は連続性を保っていた。バラバラになったところまで覚えている。
真っ直ぐに男だけを見ていたのに、右目は天井を向いて、左目は床を向いた。頭部を切断されなければあり得ない状況だ。頭部を切断されたのなら、中身も当然切断された。脳を刻まれて生きていられるわけがない。修復に従事するナノマシンを飼っていても無理だ。
自分は間違いなく死んだのだと理性が告げた。
ならばこうして思考する今の自分は何なのか。脳を繋いで修復されたのか。脳が無事でも体はどうなった。首から下に繋がる重みがある。以前感じた重みと全く違う。
外部に意識を向けると、情報量の少なさと豊富さに戸惑った。
意識を研ぎ澄ませれば分子どころか電子の流れすら知覚出来た。今は全くわからない。代わりに届くのは、少しだけ漂う鉄と油の臭い。オゾン臭が混じるのは電気機器があるからだろう。酸素が電気で分解合成されている。
そんなものがどこにあるのか。火星の地表を飛ぶ宇宙船に戻されたのか。
戻ったのなら、あれは全部夢だったのかも。そうと自分を騙そうにも、知覚がそうではないと言っている。
記憶が偽りだとしても、今の自分の体は今までと違う。
体の重さと情報量の豊かさは、覚えがあった。今や遠い記憶で、二度と感じるつもりはなかったはずのもの。
ガチャガチャと金属音が響き、ピッピと電子音が続く。喧しくて眠りに戻れず、目を見開いた。
「う……」
光が目を刺し頭が痛む。
死んだのに何故頭が痛むのか。本当に死んだのか。ここはどこで、自分は一体どうなったのか。
馴染んでしまった声が聞こえた。
「お目覚めですか? あと一時間待っても起きないようでしたら無理にでも起きて頂くところでした」
夢か何かは続いているらしかった。
▼
「私はどうなったの?」
エーリカは目を閉じたまま尋ねた。ここでようやく平衡感覚を思い出し、体が横たわっている事を自覚する。背中の下は少し硬いが体が痛くなるほどではない。
「健康診断を受けたのは覚えていらっしゃいますか?」
「覚えてる。バラバラになったのも」
「あの時、エーリカ様が何を為さろうとしたか存じ上げませんが、敵対的行動と受け止められ対処されたようです」
「…………」
衝動的にこの男をバラバラに引き裂いてやろうと思った。
かつての師が語った無敵の強さまでは遠いにせよ、それなりに強くなったと思っていた。なのに叶わず、何も出来ない内にバラバラにされたのはショックだった。無力だった生身の頃よりずっと酷い。
「あのままにしておくことは出来ません。エーリカ様の体を復元するよう交渉したのですが、危険性を問われて拒否されました。代わりに生身の体を培養してそちらにエーリカ様の全情報を移したのです」
肉の体を作ったのに使った遺伝子情報は健康診断時に読み取ったもの。記憶や人格などにまつわる情報は、そこに加えて四分割された生体脳からも抽出した。
ちなみに、交渉には多くの時間を費やした。
超高性能AI搭載のアンドロイドであり、人格がなければ感情もないので、情に訴えることは不可能。よって、論戦を繰り広げた。
男は最初から勝ちを確信していたし、あちらも論戦の行方を予測していたはず。なのに、実際に口頭で論を競わせることを要求された。記録に取っておく事が重要らしい。
五時間も費やした。五時間である。五時間も議論をし通しだった。男としては、時間こそ取られたが楽な仕事であったと言っていい。なにせ言葉が通じるのだ。論理的にこれこれこうでと訴えればきちんと聞いてくれる。嫌だから嫌なの絶対にイヤ、なんて理不尽なことは言われなかった。
議論とは常にかくあって欲しいものである。
「エーリカ様がご懸念を抱いていた屍人戦士でしたでしょうか? 遠隔操作される機能は除外してあります。
「肉の体……。それじゃ私のボディは?」
体の重さと感覚から、予感はしていた。そこにもう一つ、とても重大なことが残っている。
「それは隣に」
エーリカは瞼の向こうから差す光にようやく慣れてきた。
目を開いた瞬間は軽い眩暈を感じたものの、視覚に不調はない。知らない部屋はあちこちに電子機器やら検査機やら様々なサイバネ用品が並び、どこか懐かしさを覚えた。
何とか上半身だけ起こして、隣を見た。隣には自分が横たわるのと同じ診察台がある。その上に、自分がいた。
長く使ったボディが正しい位置で並んでいる。首から下はどうでもいい。問題は首から上。頭部もあった。目も口も閉じて、顔には何の表情も浮かんでいない。顔面の縦横に走る線がなければ、換装用ボディのようだ。
よろめきながら診察台を降りた。
転ばないよう手で台を掴み、恐る恐る自分の頭に触れる。
ピッタリと合わされていた頭部が切断された線に沿って開き、内側を覗かせる。
内側は中身が詰まっていた。
脳を保護する特殊ポリマー樹脂のおかげで散ったり欠けたりはしていない。だけどもそこには脳がある。
自分はそこにいたはずだった。
今はここにいる。
そこにあって、ここにもいる。
一つと一人がいる。それとも一人と一つなのか。
確実に言えるのは、さっきまでの自分はそっちだった。こっちの自分はいなかった。
それならいなかった自分は何なのか。自分なのか。自分ではないのか。自分とは一体何なのか。
本当の自分は沼に沈み、今の自分は沼から生まれた。馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばしたくても、沈み切らなかった自分がそこにある。
目を逸らせなかった。
「は……はは…………。わたし、死んだんだ」
「生きてるではないですか」
「じゃあこれは何なのよ!!」
「再利用したいので持ってきました」
再生したエーリカは横抱きにして、エーリカだった残骸は袋に入れて背負ってきた。アンドロイドは手伝ってくれなかった。長い階段を下って上ってを一人で完遂した。途中で赤い回復薬を服用したのは余談である。
エーリカがどんなに激しても男は変わらない。そもそも何に憤っているのか全く分からないのだ。
エーリカに背を向けたまま作業の手を止めず、ガチャガチャピッピギギーーと騒音を鳴らし続ける。
「そもそもエーリカ様のご懸念はどこにあるのですか? 死んだと仰られましても、現に生きてそこにいらっしゃいます。外部からのコマンドに従わせられる事もありません。自由です。生身の体になりましたから食欲を始めとする生理的欲求があるでしょうが、これはどうにもなりませんね。慣れていただく他ありません。他に何かございますか?」
「でも、だって……」
心理的には連続している。しかし、物理的には連続していない証拠がそこにある。今までの自分でないなら今の自分は何であるのか。
怖さの余り、体が勝手に震え始めた。全身が冷たい汗に濡れてくる。
「エーリカ様?」
エーリカでは言語化出来ない。
連続性が失われるとは、明日の保証がないと云うことである。
明日が来ない、つまりは死。
言葉にこそ出来ないが、死に繋がる恐怖がエーリカを襲っていた。
そこは男が全くわからない分野である。
死んでしまえば死を怖がる主体がなくなる。怖がろうにも恐れようにも、主体がないのだから不可能である。
生きてる時分であれば、困りはしても恐れはしない。死んでしまったら真の主に仕え続けられないのは困るが、死んでしまったら仕方ない。その後に生き返らせてもらえるかどうかは他の方々が判断する事なので、自分ではどうしようもない。考えても意味がない。
理性的に考えれば、死を恐れる意味がないのだ。
「えいっ!」
「つめたっ!?」
男はようやく振り向き、エーリカが青い顔で震えているのを見た。
と同時に、蓋を開けた赤い回復薬を投げつける。
頭から秘薬を被ったエーリカは、心理的には兎も角肉体の不調は完全に回復された。
「エーリカ様が何にお悩みなのかはわかりません。ですが、あなたはエーリカ様ですよ。診察台に鍵が乗っているでしょう? 今のエーリカ様となった時に握られていたものです。この部屋は六次元以上の領域から支配され、その鍵はそこから降りてきたものです。エーリカ様の世界の科学でも到底解けない世界の向こうから来たものです。それがエーリカ様はエーリカ様であると認めたのです」
肉の体となったエーリカの胸が上下し、手のひらに小さな鍵が握られているのを見て、男は心底安堵した。
利用者を死なせた挙句に鍵が消滅したとなれば、どんなペナルティがやってくるかわかったものではない。三年間一人で過ごすくらいなら難なく耐えたが、それが百倍にでもなったら流石に滅入る。
真面目に尽くしているのだから、全ての利用者はターニャのように厳重に鍵を管理してもらいたいものである。そして足しげく通って欲しい。
「生身の体になって混乱するのはわかりますが、落ち着いてください。そんな事よりどうやって時間を潰すか考えていてください。最低でもあと百時間はここにいて頂きますから」
「は? 百時間?」
精神の不調が肉体へ影響するように、肉体が万全となれば精神は落ち着くもの。欠けた自己同一性に死の気配を嗅ぎ取ったエーリカだったが、強制的に落ち着かせられ、続く男の言葉に混乱させられた。
異界の部屋の仕様については最初の訪問で説明された。
色々な設備があるのは措いておき、利用時間は二十四時間が基本。それ以上滞在すると、意識を失うと元の世界に戻される。具体的には、眠ってしまうと目覚めるまでの間に戻されるらしい。
エーリカの滞在は毎回短く、男に芸をさせて笑いながら甘々飲料を飲んだら帰っていた。長くても三時間である。利用時間が短いので、男としてはかなり楽な利用者であったりもする。エーリカは男に酷い事をしていると自覚していたが、実は歓迎されていたりした。
それが百時間とは、聞いていた時間を大幅に上回る。
「エーリカ様はサイボーグ体から生身の体となりました。こちらに来る直前にどのような環境にあったか知りませんが、あらゆる状況に対応できる装備品を作っているところです。それが完成するまではここにいて頂きます。それに生身の体は久し振りなのではありませんか? 体を慣らすために色々としてみる事をお勧めしますよ」
「装備品……。何でそこまでするわけ? 私なんて放っておけばいいじゃない」
「始めに申し上げましたでしょう? 何度もいらして頂きたいからです」
「あんたは自分の家に帰りたいんだものね」
「それもありますが、それだけではありませんよ。エーリカ様にこれからもお会いしたいからです。そのためにも、元居た世界で危険に晒されては困ります」
「……何言ってんの?」
拗ねて吐き捨てた言葉に、思ってもみない言葉が返ってきた。
一瞬言葉に詰まり、何とか捻り出した声は上擦った。
「もしかしてあんた、虐められるのが好きなの?」
「失敬な! 違います。エーリカ様にはエーリカ様だからこそ価値があると申し上げているのです」
「……あっそう」
生身の体になったせいか、胸の奥で心臓が脈打つのに慣れない。今まではジェネレーターが調整した通りに動いていた。
無論、男は嘘を言ってない。
誤魔化す事なら出来ても、嘘は下手な自覚があった。下手な嘘を吐いて見破られたら後で痛い。現に、エーリカには初対面時に吐いた嘘を見破られ、大いに背筋を冷やされた。
エーリカが部屋に通うことによって男は帰還が近付く。
それ以外にもエーリカに大きな価値を見出してるのは本当なのだ。エーリカが持つ格闘技術である。
エーリカの世界について学んできた男は、エーリカの技は
以前、教えを請うた時はボコボコにされて終わった。サイボーグの力あってのものだったわけだが、そこに技がなかったわけではない。学びがないでもなかった。
それがエーリカも生身の体となった。自身の世界に戻って再びサイボーグの体を得るかどうかはわからないが、向こうで危険に晒され死んでしまったら学びも何もない。何としても無事に再訪して欲しい。
「他にも申し上げたいことは色々あるのですが、後にしましょう。今は一つだけ覚えていてください。いいですか? 今度こそ絶対です。破られたら困ります。私もエーリカ様も困ります」
「なによ?」
「眠らないでください。眠らなければこの部屋に滞在し続けることが出来ます」
「百時間も起きてろって言うわけ? 出来るわけないでしょ! サイボーグだった時だってちゃんと寝てたのよ!?」
「そのためにこれがあります」
作業に戻った男は、右手でカタカタしながら左手に赤い液体が入った小瓶を持った。
「エーリカ様も何度か目にしているはずです。こちらの薬は肉体の損傷を癒す以外にも、疲労を消す効果があります。眠気だって消えるのです。定期的に服用すれば眠らずにいられます。八時間に一本は飲んでいただきますよ?」
ところによっては神の血の如き神秘の秘薬であるが、無制限に供給されるこの場では眠気覚ましである。男は自身の世界でも同じように使っている。使わなくて後悔した事もある。吝嗇はいけないのだ。吝嗇は出来る方だから出来る事である。
「私はこちらの作業に掛かりきりになりますので、エーリカ様のお相手が出来ません。お待ちいただく間は自由にしてくださって結構ですが、出来る限りこの部屋にいて頂きたいものですね。差し当たって宇宙ムバディ読本を用意してあります。ノートへの記帳も忘れない内にしておいてください。それと生身の体になりましたから、化粧の仕方を覚えた方がよろしいでしょう。そのままお戻りになると差し支えがあるやと存じます」
エーリカは思い切り鼻白んだ。
「何よ。私が不細工だって言いたいわけ? そうよ。サイボーグ体の顔は私の顔じゃなくて好きなの選んだだけよ。悪かったわね」
「失礼いたしました。言い方が悪かったですね。全くの真逆です。お顔の印象は変わらないのですが、今のお顔の方がかなりお綺麗ですよ。そのままではあちらで親しい方におかしいと思われるかと思われますので提案した次第です」
「ふん。つまんないお世辞は止めて!」
「何だとこのアマ!!」
男はキレた。
「な、なによ……」
今までエーリカがどれほど痛めつけても辱めても、この男は困ったり難しい顔をしても怒った事は一度もない。
だと云うのに今の声は、聞き違えようがなく怒りの色があった。
言葉を交わす間もずっと背を向けて何かしらの作業をしていたのに、手を止めて椅子を蹴って立ち上がった。
振り向いた顔は怒りに歪んでいる。元の顔が良すぎるほどに良いので、怒りの形相は迫力が凄い。エーリカは思わず後退って、けどもすぐに診察台にぶつかった。下がろうにも下がれず、逃げ場を探す間にも眉間に皺を刻んだ男が近付いてくる。
何に怒っているのか全く分からない。怒らせる言葉は言っていなかったはず。理解出来ない事が恐怖を煽った。
「いいですか? エーリカ様がどこでどのように過ごして来たか私は知りません。ですが、私は私を知っています。ありとあらゆる美しいものを見てきました。私は美しいものを知っているのですよ。その私が、エーリカ様はお綺麗であると言っているのです。いいですか? 私の審美眼は絶対です。失礼ながらエーリカ様と比べたら天地の差と言って良いでしょう。そもそもエーリカ様は今のお顔を見ていませんね? なのに私の言葉を否定するのですか? 私が綺麗だと言っているのに。エーリカ様がどのように思われるにせよ、お顔がお綺麗になったのは事実です。いいですか? 白を見て白と言うように、黒を見て黒と言うように、お綺麗になったのは事実なのですよ。おわかりですか? おわかりですね? まさかおわかりにならないわけではないでしょうね?」
「わ、わかったから!」
「おわかりいただけて幸いです」
この男は美の神に仕える美の信徒なのだ。
それを誰かに教えたとして、冗談半分にでも美神を侮辱されたらよくて八つ裂きにする。誰が相手でもそうする。そうなったら誰も幸せにならないので、誰にも教えるつもりはない。
教えなくても美の信徒である事に変わりはない。美の究極を知っているのだから己の審美眼は絶対である。
それを否定するのは、美神への想いを否定されるのと同じである。絶対に認めない。
一方のエーリカは、心臓が激しく脈打った。
どうして男が怒ったのかわからなくても、お前は綺麗だと言われたのだ。気恥ずかしくなって仕方がない。
サイボーグであった時にそんな事を言われた事はなかった。後付けの顔に言われても、何とも思えない。精々がセンスの良さを褒められてるようなもの。生身であった時もない。
実を言えば、エーリカの知らないところで言われたことはある。
エーリカがサイボーグ置換手術を受けた際、脳を抜かれた抜け殻は
二百年以上過去の予測はその通りであった。
「お顔以外にも身長が少し伸びています。こちらを詰めるわけにはいきませんね。それと……」
「…………なに?」
詰め寄られて如何に綺麗であるかと説かれたばかりだ。
内容は嬉しくないでもない事であったが、エーリカの警戒は解けない。一体何を言われるものか。
男の視線が、エーリカの顔から少し下がった。
「胸がかなり大きくなっています。理想的な栄養状態での成長を仮定して培養した肉体ですから、身長が伸びたのもそのせいでしょう」
「!?!!??!」
弾かれるように自分の体を見下ろした。床は見えても爪先は見えない。こんもりと盛り上がる丸い乳房が視界を遮っている。のみならず、乳房の先端にある突起まで見えた。サイボーグ体では全くの不要で存在していなかったもの。
エーリカは、何も着けていなかった。
一応、寝ていた時はシーツだけ掛けられていたのだが、寝台から起きたと同時に床へ落ちてそのままである。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
「うぉっ……」
至近で炸裂する音響兵器!
絶叫したエーリカはその場に蹲った。守るように固く両手で体を抱き、顔は深く俯ける。
いつぞや胸を触られた時は叫んでから反撃出来たが、今は出来ない。生身の体で効果ある攻撃が出来るかわからないし、したら色々見えてしまう。
サイボーグとなって長くとも失わなかった羞恥心は、生身の体に戻ったら層倍だった。
顔も体も熱くて動けない。
色々見られたのが恥ずかしくて堪らない。
そしてその時、気付いてはいけない事に気付いてしまった。
生身の体となった自分をここに運んだのはこの男だ。
今も裸なのだから、服ごと再生されたわけがない。
裸の自分を運ばれて、寝かされた。
胸以外にも色々見られて触られているかも知れない。
そしてそれはその通りである。
エーリカの体に異常がないか、触診してきちんと確かめていた。
乳房の大きさどころか柔らかさも知ってる男である。
サービスで脇を脱毛してあげていたりする。
「ずっとそのままでは問題がありますから、何かお召しになる事をお勧めします。クローゼットルームへご案内します。申し訳ありませんが、衣服の吟味に時間を掛けられませんので簡易な服を選ばせていただきます。ああ、下着の付け方も覚えていただかないといけませんね」
「…………」
エーリカはぷるぷるしたまま動かない。
背中からシーツを掛けてもらったので、見えてしまうから動かないわけではない。別の要因で動けなくなった。
死んだと思ったら再生されて自分が何であるかに混乱し、混乱は解消しきったわけではないが自分にだけの価値があると言われてやはり混乱し、かなり綺麗になったと言われて揶揄われたと思ったら本気も本気だったようで何故か怒られてやはり混乱し、裸を見られて恥ずかしくて恥ずかしくてやはり混乱し、自分の殻に閉じこもろうとしたのだが、生身のお肉の体が生理的欲求を訴えた。極度の緊張と混乱が脳へ情報を届けさせなかったらしい。
遠い昔であるが、生身であった時に覚えがある感覚。
下腹部に圧迫感を伴う鋭い痛み。下半身に力が入る。体中が強張ってきた。
「エーリカ様? またも何かお悩みなのですか?」
「…………」
答える余裕がない。口を開いたら崩れてしまう。
しゃがみ込んだまま固く脚を閉じ、一瞬でも長く耐えるための防御態勢。
しかしそれは、問題解決に寄与しない。何とか出来た先延ばしは、時計の秒針が一周する程度。
「う…………」
そしてエーリカは決壊した。閉じた脚の間が温かくなってきた。僅かにでも漏れてしまえば残りを止める事叶わず、チロチロと続いてしまう。
音を立てるほどの勢いは防いだが、何の慰めにもならなかった。
再生してから云時間も裸で放置されたのだから無理もない。
エーリカが突如襲われたのは、生身の体であれば避けられないもの。
排尿感であった。
「う……、ぐす…………。うぅ…………」
エーリカは声を上げて泣き出した。
床にするのは褒められないが、顔に乗られてされなくて良かったと男は思った。
何故かこうなりました
ちゃんと色々実装しました