※この作品はR-18です。

奉仕しないと帰れない部屋に囚われた男の業務記録   作:dolph

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再会による再起動

 小さかった頃のフェルンは大好きな父と母にも秘密にしている事があった。週に一度だけ囚われの王子様に会いに行くのだ。

 

 そこはとても綺麗で何でも揃っているけど外には出られない。どこにも行けない。絵本の王子様のように綺麗なその人はずっと閉じ込められている。

 自分ではここから連れ出す事が出来ない。傍にいる事は出来る。本当にちっぽけな事だけど、あの人のためになれるのはとても誇らしかった。

 と言うのは自分への誤魔化しが半分である。

 

 どこにも行けないけど何でも揃ってる不思議な部屋。

 綺麗で豪華な部屋に見たこともない美味しいご飯。お風呂が広ければ、部屋の中なのに走って遊べるほど広い場所が幾らでもある。

 

 一番はそこに閉じ込められてる王子様。

 とても綺麗でとても優しくて、初めて会った時は神話の国の王子様にしか思えなかった。

 色んな事を知っていた。行く度に知らないお話をしてくれた。

 いっぱい遊んでもらった。遊び疲れて寝てしまった時は一緒に寝てくれた。

 お風呂にも一緒に入るようになって、頭のてっぺんから爪先まで綺麗にしてもらった。

 母からいい匂いがすると言われて、誤魔化すのが大変だったのは遠い思い出。

 

 週に一度しか行けないけど、毎日がとても楽しかった。母と父が死んでしまうまでは。

 自分が殺したようなものだった。

 

 その日が近付くにつれて、あの人は何度か住まいを移すように言ってくれていた。避難場所の確保と逃走ルートの確認をするように言ってくれた。

 まだ小さな子供だった自分には事の大きさがわからないで、子供の意見で引っ越しが出来るわけがなく、母と父には何も言わないでいた。あの人の言葉を本当だと思ってみんなに言えば良かったのに何も言えないでいた。

 そうしたら街が戦争に巻き込まれ、家族も友達も誰も彼も死んでしまった。

 自分が黙っていたせいで死んでしまったのだ。自分もみんなのところに行くべきと思った。

 

 なのにどうしても出来なかった。死んでしまったらあの人に会えなくなる。ずっと心配させたままになってしまいます。

 けれども一人では生きられません。そこを聖都の司祭であったハイター様に助けてもらえたのは幸運でした。

 あの人を兄様と呼ぶようになったのはこの頃だと思います。皆死んでしまったけれど、私には家族が残っていると思いたかったのです。

 

 兄様が優しいのは変わりません。ただ、今までと違って遊ぶだけではなくなりました。色々な事を教えて頂くようになったのです。

 私が兄様の言葉を本当にしなかったせいで皆死んでしまったのです。今度こそ兄様の言葉を疑う事はありません。

 ハイター様が仰ることとは反対の事もございましたが、兄様が仰ることは絶対です。常識と真っ向からぶつかる事であってもよくよく考えれば兄様の方が正しいのですから、考えれば考えるほど兄様の正しさを確認するのと同じでございました。振り返れば、兄様が教えてくださったのは考え方のように思います。知識と知識を繋げて知恵とする方法です。

 生憎兄様には魔法の才がなかったようでございましたから、魔法の研鑽についてを実地で見て頂くことが出来ません。ハイター様も魔法使いの魔法は勝手がわからないと仰っておりました。

 ですので、兄様から教えて頂いた考え方に沿って、独力で魔法の研鑽を重ねていきました。

 

 この頃になりますと、母や父が死んでしまったのは私のせいではないとわかるようになりました。心から納得できたわけではございませんが、断じて私が死なせたわけではありません。

 ハイター様からも励ましと慰めのお言葉を頂いておりましたが、このように思えるようになったのは兄様のおかげでございます。

 兄様がいらっしゃらなければ私の命はとうに尽きていました。おこがましくも兄様に何かお返ししたいと思うようになりました。

 

 兄様は会いに来てくれるだけで良いと仰ってくださいますが、私の気持ちは深まる一方でございました。

 そう思うのもやはり自分への誤魔化しでございました。

 幼かった私は、そのような日々がずっと続くと思っていたのです。

 

 同時にいつまでも続くわけがないとも思っていました。

 ハイター様は御高齢でいらっしゃいます。ハイター様がお元気な内に一人前となって一人でも生きていけると示さなければならなかったのです。

 だけれどもずっと一人でいるわけがないとも思っておりました。幼い私は大人になったら兄様のお嫁さんになると信じて疑わなかったのです。

 それが間違いの始まりでした。

 

 ハイター様の古いご友人がいらっしゃいました。エルフの魔法使いであるフリーレン様です。ハイター様はフリーレン様に私の事をお話しくださって、私はフリーレン様に師事する事を許されたのです。

 フリーレン様はハイター様と一緒に魔王を討伐した勇者一行のお一人です。この世界で上から数えた方が早い卓越した魔法使いでいらっしゃいます。魔法に関わる事ならフリーレン様にわからないわけがないと思ってしまいました。フリーレン様に聞けばきっとわかると思ってしまったのです。

 

 兄様は初めて会った時からずっとお変わりありません。不思議な魔法の力で閉じ込められているのです。魔法であるのならばフリーレン様に伺えばきっと解決してくださいます。 フリーレン様ならばきっと魔法の秘密を解いて頂けると信じていたのです。

 欲深い私が愚かだったのです。週に一度ではなく、毎日お会いしたいと思ってしまったのです。

 フリーレン様に白いドアの鍵をお見せして、どのような魔法が掛けられているのか調べて頂こうと思った瞬間でした。三年間誰にも知られずに持ち続けていた鍵は何処かに消えてしまいました。

 

 鍵がないのですから、白いドアも現れません。

 兄様にお会い出来ません。

 何も言えずにお会い出来なくなってしまいました。

 

 兄様が絶対してはいけないと仰った事をしてしまったのです。愚かで欲深な己を心の底から恨み、悔やみました。今度こそ自分の命を断とうと思ったほどです。

 ですが、それはハイター様への裏切りとなり、フリーレン様のお心を傷つけ、何よりも兄様はそんな事をけして望まないとの確信がございました。

 それにそのような時にどう考えてどう行動すればよいかを兄様から教えて頂いておりました。

 

 一刻も早く一人前の魔法使いとなって、あの鍵を探し出す事が私の生きる目的となりました。

 

 フリーレン様から一人前と名乗る事を許され、ハイター様を送り、聖都で魔法使いの試験を受けました。

 鍵の手掛かりは何もないのでフリーレン様の旅に同行します。

 時に魔族と戦い、フリーレン様のご友人のお弟子さんが旅の供に加わり、一級魔法使いの認定を受けました。

 その際に女神に最も近いとされる魔法使いと言葉を交わす機会がありましたが、鍵については何も伺いませんでした。魔法について知れば知るほど、魔法の力ではどうにもならない場所であり鍵であると思うようになったのです。

 旅の目的地は北の果てでございましたから北へ北へと進み続け、黄金に変えられたヴァイゼの街に辿り着きます。

 そこで無名の大魔族に遭遇したのが転換点でございました。

 

 

 

 

 

 

 魔族三人に人類三人。

 交ぜれば必ずや殺し合いに発展するであろう一行が不思議な均衡を保って一堂に会していた。

 

 魔族のアウラに三人への害意はない。殺しても殺さなくても良いのだが、諸事情あって死臭がつくと大変困った状態になる事が予想出来、自衛以外での殺人を控えている。とりあえず自分の生存を隠したいので、すぐにもこの場を離れたかった。

 魔族のソリテールは、フリーレンと話したくてわざわざ探していたのだからフリーレンを害する謂れがない。フェルンの言葉が切っ掛けで異界の部屋のドアを開く鍵が失われたと強く推測されるので、手掛かりとなるフェルンを傷つけるつもりもない。シュタルクはどうでも良いが、彼を害するとフェルンとフリーレンが協力してくれなくなると思うので手を出すつもりはない。

 リーニエは魔族である。人類三人を積極的に殺そうと思うものの大魔族の二人から禁じられたので手を出せない。二人から命じられた事に従うまでである。それ以前に正面から挑んではいずれも厳しい三人だ。

 

 エルフのフリーレンはしょぼくれていた。フェルンの不意打ちでソリテールを仕留めたと思ったらアウラの魔法を掛けられ完敗した。愛用の杖も壊された。もう一歩も動けない。

 人間の魔法使いであるフェルンは、長年探していた手掛かりをソリテールが持っていると確信した。事に寄ったらフリーレン達との旅をここで終わりにして、ソリテールについていくつもりでいる。

 人間の戦士であるシュタルクは頭痛がとても痛くなった。なんだこれと何度も自問したが何も変わらない。

 

 差し当たってアウラが起こした大爆発である。間違いなくヴァイゼから見えていた。遠からず調査隊が派遣される。次の瞬間にも、空を飛べる魔法使いが様子見にやって来るかも知れない。そうなったら間違いなくとても面倒な事態になる。

 

「仕方ありません。私たちがヴァイゼに報告へ赴きます。時間が掛かるかも知れませんが必ず戻りますので、ソリテール様は離れた場所でお待ちください」

「えーっと、それじゃこいつらの事は報告しないのか?」

「したところでどうなりますか? フリーレン様ですら破れたのです」

「う゛っ…………」

「黙ってるつもりかよ?」

「報告したところでどうにもならないと言ってるだけです。ソリテール様が死臭を漂わせているならば話は変わりますが、そうではないようでございますので」

「フリーレンと赤毛には私たちのことを黙っておくように命令しておくわ。あんたには……あまり関わりたくないわね」

「赤毛じゃなくてシュタルク……」

「私もアウラ様には何の用もございません。ソリテール様だけが残ってください」

「アウラも関係あるわ。あそこに何回も行っているもの。アウラはその内に戻るのよね? 旦那様に伝えて欲しいわ」

「何で私が。……離れなさいよ」

 

 その旦那様からソリテールへの伝言を預かっているアウラであるが、ソリテールが鍵を失くした以上伝えても無駄である。ソリテールに会いに来たのだって気紛れだ。知人が生きてるから顔を見に来た程度の意味しかない。魔法の試用をして結果をソリテールに押し付けたかったとは思っていた。この場を離れられればどうでもいいが、ソリテールがくっついて離れない。

 フェルンの目がギラリと光るのも不気味である。

 フェルンの魔法がソリテールを撃ち抜いたのを遠目で観ていた。油断しきったところで長距離からあれをやられると自分でも危ういと思う。フリーレンは嫌な弟子を育てたものだ。

 

「では行って参ります。数日掛かる可能性もございます。離れた場所でお待ちください。くれぐれも見つからないように。戦闘も厳に控えてください。フリーレン様、一旦ヴァイゼに戻ります。立ってください」

「無理。疲れた。もう立てない」

 

 ソリテールと一緒に空を飛んで魔力だか気力だかが尽きたのか、フリーレンはその場にへたり込んで動かない。放っておけば膝を抱えて蹲りそうである。

 こんな時のフリーレンに強い刺激は厳禁とフェルンは知っている。大人のお姉さんが小さな女の子にするようにいっぱい褒めていっぱい甘やかしてやらないといけないのだ。

 

「フリーレン様はとても頑張りました。フリーレン様のおかげで私もヴァイゼも元に戻ったのです。ヴァイゼに行けば美味しいご飯が待っていますよ? あと少しだけ頑張ってください。立ちさえすればシュタルク様がおんぶしてくれますから」

「………………わかった」

 

 フリーレンがよろよろと立ち上がって、腰を下ろすシュタルクの背におぶさった。

 鍛え抜いてるシュタルクにとって、見た目通りに軽いフリーレンを背負ったところで大した負担ではない。けども溜息を禁じえなかった。シュタルクとて疲れていたし、一行で最年長のフリーレンが見せる幼い仕草に思うところがないではないし、何よりもフェルンと違ってフリーレンとの付き合いが短く、扱いを熟知していなかった。

 

「ったく。杖がないから歩けないってババアかよ」

「う゛っ……」

「代わりの杖を作るか買えばいいではありませんか。私がハイター様から頂いた杖を壊してしまった時、フリーレン様はそう仰っておりましたよ?」

「う゛っ!」

「私もフリーレンと同じくらいかもっと生きてると思うけど、自分の事はお姉さんだと思ってるわ。でもフリーレンはおばあさんなの?」

「う゛う゛っ!」

「シュタルク様もソリテール様もそんな事を言っては駄目です! フリーレン様はご自分のお年を気に為さっているのですから!」

「……う゛…………あ゛………………」

「あっ……」

 

 と、フェルンが気付いた時には遅かった。

 

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」

 

 フリーレンが泣いた。号泣した。泣き喚いた。

 魔族三人とフェルンは素早く距離を取ったが、おんぶしているシュタルクにはどうにもならない。

 

「うっ、うるせぇ!」

「あ゛ーーーーんっ! あ゛あ゛ーーーーんっ!!」

 

 シュタルクの叫びがかき消されるほどの号泣である。

 フリーレンが泣き出すと三日に渡って泣き喚く。フェルンはハイターからそう聞かされていた。それがついと現実になってしまったのだ。

 

「あ゛ーーーーんっ! あ゛ーーーーんっ!!」

 

 こうなってしまった以上、話し合いも何もない。

 アウラは汚いものを遠ざけるようにしっしと手を振る。

 フェルンは大きく頷いて、飛行魔法を発動した。

 

「私はヴァイゼに先行します。あちらもいち早く状況を把握したいと思われますので。シュタルク様はフリーレン様を連れてヴァイゼに向かってください」

「ちょまっ……」

「あ゛ーーーーんっ! あ゛あ゛ーーーーーーんっ!!」

 

 シュタルクの声はフリーレンの喚き声に掻き消された。フェルンが飛び去るのを呆然と見送ることしか出来なかった。

 やはり呆然と振り向けば、三人の魔族がこっちを見ている。どうして振り向いてしまったのか。喚くフリーレンをどうにかしてくれると思ったのか。

 

「うるさいから早くあっちに行きなさいよ」

「そこは静かにしろって言うところじゃ……」

 

 シュタルクがアウラに掛けられた魔法はそのままだ。命じられれば従ってしまう。しかし何でも命じられるなら、フリーレンを黙らせて欲しかった。

 

 

 

 

 

 ヴァイゼでの報告は消去法によりフェルンが行った。

 フリーレンは機能不全でシュタルクは消耗してる上に、二人ともアウラから魔法を掛けられている。

 報告する相手は黄金の眠りから覚めたばかりのヴァイゼの住民ではなく、マハトを破った一級魔法使いだ。フェルンもまた一級魔法使いであるので適任であった。

 無名の大魔族はフリーレンたちと協力して討ち倒し、大爆発は件の魔族が自爆した事にした。

 

 ここでとても大きな問題が発生する。

 件の魔法使いはソリテールとすれ違っていた。老魔法使いは当然のようにソリテールの事を報告に上げるはず。フェルンはソリテールを討伐したと報告した。

 もしもソリテールが人類の前に姿を現した末に逃したら、フェルンの報告が虚偽であったと明るみに出てしまうかも知れないのだ。

 そうなったらなったでフェルンは構わない。対応策は幾つか考えている。どれも切り捨てられて人類に叛意ありと見做されたら大陸魔法協会と決別するだけである。一級魔法使いの認定を受けたのは北の関所を通り抜けるためであって、肩書には興味がない。

 生きる目標と定めた鍵の手掛かりを得た以上、大陸魔法協会の庇護はどうでも良いのだ。

 

 魔族三人と合流した一行は、ソリテールの提案によって一先ずソリテールの拠点に落ち着く事になってしまった。

 アウラは自由時間を満喫してあちこちでむやみやたらと魔法を掛けるつもりでいたし、ソリテールと合流するまではそうしてきた。今後もそのつもりでいたがソリテールが離してくれない。鍵が消えてしまった以上、アウラは異界の部屋と繋がる重要な存在なのだ。

 フェルンはソリテールを逃すつもりがない。

 フリーレンはソリテールが逃がしてくれない。アウラから魔法を掛けられているので、ついてこいと命じられたら逆らえない。生死に関わらず人類に危害を加える命令でなければ逆らうつもりもない。未だにしょぼしょぼしており、フェルンからあーんされないとご飯が食べられなかった。

 シュタルクとリーニエはおまけである。

 シュタルクは、旅の仲間二人が大魔族に連れられるのを放っておけない。

 リーニエは、かつて仕えたアウラが行くなら拒まれない限りついていく。フリーレンとフェルンは殺してはいけないと言われているが、シュタルクについてはその限りではなく、アウラの目につかないところで首を狙っている。シュタルクは大迷惑である。アウラに訴えても、生きてるじゃないの一言で終わらせられる。ちょっと時々涙が出た。

 

 旅の道中でそれぞれがそれなりに情報交換するも、有意義なものとはならなかった。

 遠い部屋の存在を知らない者たちには伏せておきたいソリテールとフェルンであり、魔王生存の可能性はフリーレンが一蹴する。

 

 なんでこんな奴らと、と思うアウラが旅路で一番活躍していた。何にでも使える服従させる魔法である。

 適当な魔物や獣に魔法を掛ければ、お肉の獲得から下処理まで命じるだけでやってくれる。死体にも有効な魔法なので、自分で自分の体を下処理して綺麗な川でお肉を冷やしておいてくれるのがとても便利なのだ。

 人類の街に入れば出会う者に片端から魔法を掛けて貢がせる。夜のお店ルックなアウラが直々におねだりしなくても欲しいと言ったものを持って来てくれるのだ。これについては流石に人類三人の良心が痛んだため、相場と思われる金銭を払っていたりする。

 魔法を掛けた相手は放置して日常に戻らせる。アウラが必要な時に命じれば、自害させる事も隣人に斬り付けさせる事も可能である。そんな事をずっと繰り返してきたアウラだ。

 その上魔法の隠匿に重点を置いてあるので、フリーレンと同等以上の魔法使いが入念に調べないと魔法を掛けられていることすらわからない。アウラが数年旅をしてから一声かければ、それだけで人類の社会を壊滅に近い状態にまで陥らせることが出来てしまえた。やる予定は今のところない。万が一の保険である。

 

 そうして旅をする中で、密かにシュタルクの恋が散った。フェルンとソリテールの会話の断片から、フェルンには好きな人がいるらしい、と気付いたのは実のところ全く関係ない。

 シュタルクは旅の仲間であるフェルンのことを、割と厳しくてたまに優しくてきれいでとてもおっぱいが大きくていいなと思っていた。

 しかしソリテールと話してる時のフェルンは、頻繁に瞳孔が開き気味になる。表情豊かではないフェルンが、あからさまに冷たい顔になる。言葉遣いこそ丁寧でも、時々ぐさりとくる言葉を放ったりする。

 どれもがソリテールに向けられたものでシュタルクは離れているところで見ているだけというのに、うなじの毛が逆立った。面と向かってやられれば泣いてしまう確信があった。

 フェルンはきれいでかわいくておっぱいが大きいけれど、自分ではどうにも出来ない女の子だと悟ってしまった。フェルンが聞いたら頬を膨らませる事必至であるが、フェルンはシュタルクのそう云った対象から外れてしまったのだ。

 女性ばかりなのに、他には論外のエルフ。もっと論外の魔族三人。シュタルクがなんだこれと思わない日はなかった。

 

 

 

 

 

 

 奇妙な一行が海辺にあるソリテールの拠点に落ち着いて数日。

 造船工場を改造した家の中にアウラが入ったかと思うと、銀髪に光彩異色の男を連れて出てきた。

 ソリテールが飛び、フェルンに撃ち落され、フェルンは男の前に立つ。

 

「死んでしまったと思っていたよ。元気でいてくれて良かった」

「あっ」

 

 男は心からの喜びを露わにして、フェルンを抱き締めた。

 

 社交辞令でも有形無形の圧力で言わされたわけでもない心からの言葉である。

 予てより子供には甘く優しい男であり、自身がそうであったため孤児にはもっと甘く優しい。フェルンはどちらも当てはまった。

 当時のフェルンは小さな子供だったので尽くすと云うのとは違うが、一切の手抜きを排除して全力でフェルンの健康と安全に心を砕いた。

 が、唐突に訪れなくなった。

 挙句、同じ世界出身と思われるアウラが来訪。フェルンは鍵を失った、すなわち死んでしまったと判断していた。それが美しく成長した姿で現れたのだ。

 

「私はもう子供ではございません。離してください」

「そうだね。すまなかった」

 

 男は微笑を浮かべて軽く謝罪し、フェルンから一歩離れる。

 フェルンは赤い頬を膨らませた。社会性がないために恥の概念を知らない魔族や、神経が太いのか精神が死んでるかして厚顔無恥を極めている男とは違う。フェルンはちゃんと羞恥心を持っていた。人目があるところで抱き締められるのはとても恥ずかしい事である。

 が、抱き締められた瞬間に色々と切り替わった。

 

 フェルンが生きる第一目標は、命を救って生きる術を教えてくれた兄様に再会する事であった。もしもきちんと別れを告げられたらこうも引き摺る事はなかったかも知れないが、本当に何も言えず、何の予兆もなく会えなくなってしまった。心にぐさりと突き刺さって抜けなかった。

 魔法を学び操るのは性に合っているが、それとて第一目標の達成に有用と思われるからである。逆を言うと、不要であったり不利であると思われるものは意識無意識問わずに封じていた。

 それが抱き締められた瞬間に、十年間完全凍結していた乙女回路が瞬間解凍された。

 十年分の利子を付けて、心と体がきゅんきゅんと全力で回り始めた。




フェルンの初期条件を変えたらこんな事に
これからどうなるんだろう?
さっぱりわかんないです_(:3 」∠)_
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