※この作品はR-18です。

奉仕しないと帰れない部屋に囚われた男の業務記録   作:dolph

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何とか五月中に投稿
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OHANASHI

 フェルンは無言で躊躇なく服が透けて見える魔法を発動した。使うつもりはなかったのできっと自動発動する魔法だったのだと自分に言い聞かせて。

 元の穏やかさを取り戻した表情に、ほんの一瞬だけ険が走った。

 

「……兄様が着ている服は魔法が掛かっているのでしょうか?」

「その通り。見るだけでわかるようになったんだね。フェルンが魔法の訓練を頑張っていたのを思い出すよ」

「私はもう子供ではないと申し上げました。子供を相手にするような言葉遣いはお止めください」

「それは失礼」

 

 残念ながら服は透けなかった。

 魔法が想定通りの効果をもたらさない苛立ちをぶつけているわけだが、フェルンには早速甘えている自覚がない。

 

「あんたたちって本当に知り合いだったのね」

「フェルンから聞いたのか? アウラの前に鍵を持ってたのがフェルンだよ」

 

 知り合いどころではないと言いたいフェルンは、ピンク髪の魔族に視線を滑らせた。こちらでは魔法の効果がきちんと発揮され、服が透けて中身が見える。

 胸は自分の方が大きいが、腰の括れなどを含めて総合的に判断するとそれなりに思えなくもない。ずるいと思うのは肌の綺麗さ。魔族だからか、それともあの部屋で何かをしているからか。

 続いて映った肌色は、誰が見ても自分が圧勝と判定するはず。

 

 フェルンに肌色を見られている魔族の少女はこう言った。

 

「アウラ様、これは殺していい人間ですか?」

「いいわよ」

「!?」

 

 目を丸くしたのはフェルン以外の人類二人も。

 

模倣する魔法(エアファーゼン)

 

 少女魔族ことリーニエが魔法を発動すると細腕に大きな斧が現れた。

 リーニエの固有魔法は模倣する魔法。リーニエが見たことがある動きを再現出来る。使用する武器も込みで。

 

 既に薙ぎ払いかかっており、魔法使いであるフェルンでは防げない。許可を出したアウラは動こうとしない。

 ソリテールは素手で止めた実績があるも、海から上がったばかりでスカートの水気を絞っている。

 フェルン同様にフリーレンにも不可。

 シュタルクなら止められるだろうが距離がある。

 巨大な斧は無慈悲に男の胴体を斬りつけて、男はその場でグルンと回転した。同時にリーニエは引っこ抜かれたように真上へ飛び上がった。

 

 一同が目を点にする中で、シュタルクだけは何が起こったか把握した。

 男は打点のやや上を軸に横回転して、リーニエの顎に細い紐を引っ掛けたのだ。

 回転力をリーニエに押し付けて横転してから両の足で着地した男は、自由落下に戻って着地しようとするリーニエの脚に足払いを仕掛けた。

 

「うぶっ!?」

 

 縦回転を与えられたリーニエは、哀れにも顔面から着地。

 

「ッ!!」

 

 すぐさま立ち上がろうとするが、間髪入れずに頭を踏み付けられた。

 

 美女美少女の顔を笑いながら踏みにじれる男である。但し、今は笑いは笑いでも苦笑していた。

 ソリテールにしたように踏み付けと呼ぶより踏み下ろしで、少女魔族は額を地面で強かに打ってなお頭が弾む。男はもう一度踏み下ろそうとして、

 

「おっと」

「!!」

 

 アウラより明るいピンク頭の脇を、光の槍が掠めて地面を抉った。

 男がフェルンの杖に紐を引っ掛けなければ、ピンクの頭を撃ち抜いたと思われた。

 ピンク頭から男へ視線を移すフェルンの顔は、表情が抜けていた。

 

「どうして邪魔を為さるのですか?」

「今のはアウラのせいだろう。そこまでする必要はないよ」

「アウラ様?」

「リーニエじゃこいつをどうにも出来ないって教えただけよ。杖を向けるのは止めなさい」

「だそうだ」

「……わかりました」

 

 フェルンは渋々と杖を下ろした。

 そんなフェルンに男は既視感を覚える。思い浮かべたのはかつてのフェルンではなくて、数少ない部下たちだ。

 種族が違うのにどうして連想したのかと首を捻りつつ、少女魔族を立ち上がらせた。

 幼く見えてもそこは魔族。強かに顔面を打ったはずだが、顔が汚れただけで怪我らしい怪我はない。鼻頭が赤くなってるのは御愛嬌。

 男はポケットから取り出したハンカチで顔を拭いてやった。

 少女魔族は瞳を揺らしてされるがままでいた。

 

「今のはアウラの悪戯だったから驚かせただけだよ。だけどね、もしも同じ事があったらしてはいけないと教えなければならない。リーニエと言ったね。魔族でも学習能力はあるんだから教えられなくても覚えたかな?」

 

 リーニエは無言で頷いた。

 

「結構」

「誰?」

 

 男が頷いたところで、のんびり歩いてきたエルフが至極尤もな疑問を口にした。

 リーニエが赤くなった鼻を撫でるのを、フェルンは杖を拭いつつ眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 外では海風に吹かれる。長話にはよろしくない。全員屋内に移動した。

 ソリテールの拠点は元が造船工場なだけあってとても広い。ところどころに小物や花が飾られ、ソリテールの美意識が光る。

 

 かつての管理所が会議室となった。様々な器具は引っ越しして、大きな長机だけが残っている。

 魔族三人が椅子に座り、長机を挟んで人類三人も椅子に座る。

 奇妙な縁で行動を共にする六人であるが、一つの部屋に集まるのは初めてだった。同じ場所にいても、基本的に魔族は人類と別行動である。そもそも魔族に団体行動は不可能だ。

 長いようで短い旅を共に果たせたのは、ソリテールとフェルンの強固な目的意識あってのものだった。他の面々は巻き込まれたようなものである。

 そんな六人が一堂に会するのは、強い外圧故だった。

 

「で、誰?」

 

 エルフの魔法使いが口火を切る。視線は鋭い。これが様々な元凶であると確信していた。しかしまともな答えは返ってこなかった。

 

「私の旦那様よ」

「私の兄様です」

 

 ソリテールは微笑み、フェルンは務めて表情を落とす。これまでに何度も見られた光景である。そのため、フリーレンは泣き続ける余裕がなかった。本当なら一ヶ月は泣いていたかったのに、たったの一週間で泣き止んだ。シュタルクも泣き出したからだ。

 ソリテールとフェルンが机を挟んで見つめ合う。向かい合って座っているのが悪かった。二人とも件の男の隣に座りたがってこのような席順になってしまった。

 フェルンが一触即発の空気を醸し出し、ソリテールが事もなく流すのがいつもの事。そんな二人であるが、海水でびしょ濡れになったソリテールの服を「服の汚れをきれいさっぱり落とす魔法」で綺麗にしたのはフェルンである。

 

「兄様でも旦那様でもヴィルトでもゲボクでも伯爵でも何でもいいわ。大体あんたのせいなんだからあんたが話をまとめなさいよ」

 

 魔族らしい醒めた顔のアウラは、ソリテールの隣でフリーレンの向かいに座る。魔族への強い殺意を持つフリーレンを抑えられるのは、服従させる魔法を掛けたアウラだけだ。アウラ自身にフリーレンへの抑止でいるつもりはなく、こんな茶番に付き合わされるのは面倒で仕方ないと思っている。

 指名された元凶は軽く頷いた。

 

「俺が話すからアウラは黙ってろ」

「っ!」

 

 今の言葉は強制力を伴っていた。異界の部屋から離れても逆転した服従させる魔法はそのままで、アウラは男の言葉に逆らえない。魔族らしからずに形相を歪めて男を睨み付けた。今のように黙らされる事が多々あり、態度と表情で不満を表明する事を覚えたのだ。

 そんな一幕にフリーレンは目を細めた。

 

「お前は人間? 魔力を全く感じない。そんな人間がいるはずない。お前は何? どうして魔族を従えている?」

「間違いなく人間ですよ。今のお言葉から察すると、この土地の人間は例外なく魔力を持っているのですか? 私は魔法の才能が全くないと太鼓判を押されておりますので、魔力を持つ方々が羨ましい限りです。もしや誰しも魔法を扱えるのですか? そちらの赤毛君も?」

「これはシュタルク。シュタルクに魔法の才能はないけど五年真面目に修行すれば氷を素早く水にする魔法くらいなら使えるようになると思う」

「芽がないわけではないのですね。可能性がないと断言された我が身からすれば、やはり羨ましい」

 

 件のシュタルク君は、氷はほっとけば水になるんじゃ、と思うも口にはしない。そんな度胸があったらこの場にいない。出来るのはお行儀よく座っているだけである。

 正面に座るリーニエも静かだ。シュタルクは密かな共感を覚えかけたが、魔族にそんな感情を抱いても害悪なだけと散々聞かされたし知ってるし経験している。

 早く終わんないかなと窓の外に視線を向けた。蝶々が飛んでいた。

 

「ですが、その一事で私の出自がおわかりになるかと。私はこの土地で生まれたわけではないのです。それなりの立場がございますが、ここでは意味を持たないでしょう」

 

 男の名前は兎も角として、語る地名や国名はこの場の誰も聞いた事がない。

 

「私がここにいるのは私の意思ではありません。それ以前に私の力でここに来る事は不可能です。私がこの場にいるのは偶発的な事故か、それとも何者かの意思に寄るものなのかすらわかりません」

 

 そう語る男は、確証はないし検証も出来ないので口にしないが、幾つか推測している事はあった。

 

 フェルンが鍵を失ったのは死亡したからではない。再会を喜んでくれたのだから破棄でもない。鍵の所有を誰かに明かしたのだ。

 ソリテールはいずれでもない。ならば鍵を失う事はないが、現に失われている。フェルンがソリテールが鍵を所有している事を指摘し、それが喪失に繋がったのだろう。利用者ノートの表紙裏に書かれていない規則が適用されたと思われる。

 そもそも鍵の所有者が頻繁に入れ替わること自体初めてだ。鍵を手にした者は、基本的にずっと手にし続けている。寿命による死も未だない。

 異界の部屋と各世界とでは時間の流れが大きく異なるので、こちらの百年があちらの一日となる事もある。引き延ばされるのはこちらの時間ばかり。と云うわけでもない。こちらの一日があちらの百年である事もある。百年一日を地で行く不死者が所有者だとそうなる。

 所有者の主観時間、或いは意思に依る影響がとても大きい。

 とするならば、自分がこの場にいるのはフェルンかソリテールか、はたまた二人の意思に依るものか。

 利用者ノート自体は厳格な規則に則って働きかけてくるのだが、誰かの意思が介在すると途端に曖昧なものになってしまう。

 とても迷惑だがとっくに諦めた。どうにか出来るならどうにかしている。エーリカが全力で蹴りを入れても無傷で、あの方が消滅させようとして叶わなかった以上、出来る事は何もない。来訪者を持て成すばかりである。

 当面の問題はここにいる事だが、ずっとこの地に囚われるとは思っていなかった。

 

「但し、いつまでもこの地に留まれるわけではありません。つい先ほど、アウラが遠い場所に行っていたのをお気付きでしたか? 食事を済ませてひと休みし、風呂を使ってからこの場に来たのです。それと同じように、私も直にこの地を離れる事でしょう」

 

 フリーレンたちの主観では、建物の中に入ったアウラはすぐに出てきた。食事や風呂の時間はなかったし、そもそも用意が整ってない。

 しかし、確認しようがない事である。嘘を吐いているとしか思えない。だとしても、さっきまでいなかった男がここにいるのは事実である。

 真偽を確かめるべく、ソリテールが左を向いて鼻を鳴らし、右を向いて鼻を鳴らした。

 

「アウラと旦那様から同じ匂いがするわ。同じ香料が入ったシャンプーを使ったのね」

「そうなります」

 

 文脈から、シャンプーとは髪か体を洗う洗剤と察したフリーレンである。フェルンはそこから推測を一歩進め、話し合いの場でも離さない杖をぎゅっと握った。瞳孔がちょっぴり開いてアウラを見やった。

 幸いなことに、アウラは沈黙を強いられている。ここでもしも「体中を洗わせた」などと言おうものならゾルトラークが飛んできたかも知れなかった。

 

「フェルンとソリテール様と出会ったのがその場所でございますよ。いらっしゃる方々は様々にお呼びになります。名もなき異界の部屋です。私がそこに囚われた原因は不明です。私が元の世界に戻るにはいらっしゃる方が絶対に必要となり、現在はソリテール様にご助力を頂いているところでした」

「信じられないけどわかった。そう云う事にしないと話が進みそうにないしね」

「ありがとうございます。質問がおありでしたら何なりと」

「さっきも聞いたよ。魔族を従えてるのはなんで? どうしてそんな事が出来る?」

「従えているわけではありませんよ。まずアウラは、初対面時に私へ服従させる魔法を掛けました。どういうわけか魔法が逆転したので荒事を封じています。その後は少々不可解な事がございまして、私と同じく異界の部屋に囚われてしまいました。ソリテール様は私を食べようとしたので無力化し、弱ったところにアウラの魔法を掛けさせました」

「ふふ……。でもアウラからの命令はあの部屋で暴れない事だったわ。ここでは違う。私がもう一度旦那様を殺そうとしたら出来るのかしら?」

 

 机に頬杖を突いたソリテールは、愛しの旦那様を見て恍惚と微笑んだ。

 血肉を喰らって一つに溶け合うのはとても魅力的だ。してしまったらどれほどの快楽を得られるだろう。

 

「それは遠慮願いたいですね。アウラに命令を重ねさせるのも避けたいので、ソリテール様には抑えて頂きたく存じますよ」

「もちろんしないわ。旦那様に触れられなくなるのはとっても悲しいもの。それにあんなに痛い思いは二度としたくない。フリーレン、聞いて? 旦那様ってとっても凄いのよ。私は旦那様を全力で殺そうと思ったのに手も足も出なかったの」

「あれは手も足も出ないようにしたのですよ。単純な力比べでは、私がこの場で一番弱いでしょう。リーニエの攻撃を受けて無事だったのも服の防御力が高いだけです」

 

 無事だったのは特製ジャケットのおかげ。その後の体術はエーリカに習ったものである。前者がなければ真っ二つになったろうし、後者がなければ吹っ飛んでいた。

 

 名指しされたリーニエはピクリと震えた。専ら聞き役で、彫像のように座っている。シュタルクのように窓の外を眺める気分になれない。

 

「さて、どこまで制限なくお話し出来るか私にもわかりません。私が自身の世界に戻り事情を話そうとしても口には出来ないのです。言葉にしても聞き取れるものにならなかったり、私の意識に言葉が上らない事もあります」

 

 異界の部屋と、部屋に通じるドアと、ドアを開ける鍵について話し合えるのは、部屋に囚われた者と鍵の所有者だけである。

 ここまで話せている事に、男はある予感があった。

 

「私とアウラは囚われているので強制的にそこへ連れられます。いらっしゃる方々がそこへ行くのに必要となるのが鍵なのですよ。所有者が手放そうとしない限り、けして紛失しません。始めはフェルンが持っていました。失くしたのは、おそらく誰かに鍵の存在を明かそうとしたのでしょう」

 

 フェルンは小さく頷いた。

 

「フリーレン様にお見せして鍵の秘密を解いて頂こうとしました。兄様にご心配をおかけして申し訳ございません」

「元気でいてくれるならそれで十分だよ。色々と話をしたいが後にしてもらおう。フェルンの次に鍵を手にしたのがアウラです。ここでは二年前になるでしょうか。アウラも部屋に囚われ鍵の行方は不明に。それを手にしたのがソリテール様となります」

「一年は経ってないのかしら?」

「補足をありがとうございます。先に話した事と一部重複し、鍵は所有を他者に明かすと喪失します。おそらくソリテール様が鍵を持っている事をフェルンが指摘したのが原因でどこかへ消えてしまったのだと推測します」

「その通りよ。フェルンに鍵を持っているかって聞かれたら消えてしまったわ。旦那様にはもう会えないかと思ったけれど、こうして会えてとっても嬉しいの」

 

 男はソリテールの隣に、長机の短辺に座っている。大きい机なので短辺でも複数人が座れる広さがあった。

 ソリテールが男の真隣に椅子を移動させた。のみならず、男の肩に肩を寄せる。机の下ではそっと手を握った。

 ガタンと音を立ててフェルンが立ち上がった。

 熱気なのか冷気なのか不穏な気配が立ち昇り、シュタルクは冷や汗を掻きつつ窓の外に集中した。頑張れば耳を閉じれるのだ。蝶々が見えなくなった代わりに、海鳥が通り過ぎた。

 

「兄様にお伺いします。ソリテール様は兄様の事を旦那様と呼んでいます。どのような意味なのでしょうか?」

「それは――」

「私と旦那様は愛し合った夫婦なの。私は人類の研究をしてきたから言葉の意味もちゃんとわかっているわ」

 

 男が答える前に、にっこりと笑うソリテールが言い放った。

 フェルンの目が据わり、杖を握る手が震える。が、いきなり魔法を使ったりはしない。それは愚か者がする事であると、そこにいる兄様から教えてもらっていた。言うべきことはわかっている。

 

「どこかに届け出ましたか?」

「えっ?」

「兄様もソリテール様も、結婚をどこにも届け出ていないのですね? でしたら無効です。お二人が夫婦である事を私は認めません」

「えっ……と。フェルンに認めてもらわなくてもいいのだけれど。旦那様? フェルンの言葉がわかる?」

「結婚は社会において重要な制度なんですよ。二人が夫婦であると社会に認めさせる、或いは知らしめるわけですね。フェルンが指摘するのはその事です」

「私も旦那様も人類社会と関係ないわ。私は魔族で、旦那様は遠いところから来ている。私たちが夫婦と言えば夫婦なの。旦那様は私と夫婦になってくれるって言ってくれたわ」

「魔族は嘘吐きとフリーレン様から伺っております。その通りでございました。これ以上兄様を惑わせないで頂きます」

 

 飛び火して責任を押し付けられたフリーレンは、フェルンを見上げた。

 頬が膨れるくらいならまだしも、常に制限している魔力が大きく揺らいでいる。

 

 かなり不味い状況だった。

 フリーレンとシュタルクはアウラの魔法によって魔族たちに攻撃出来ない。フェルンは魔法を受けてない。フェルンだけは自由なのだ。

 ソリテールがフェルンに執着していたのは鍵とやらのせいで、鍵はそこにいる男に会うため。ソリテールは目的を達成した以上、フェルンを生かしておく必要がない。魔族なのに無意味な殺傷をしないソリテールだが、攻撃されたら反撃するだろう。そうなったら結果は見えてる。フェルンが大魔族と正面から渡り合えるようになるには、まだ半世紀はかかる。

 二人に挟まれた男が何とかしてくれると信じたい。

 

 男とて、二人が争ったら困る。自分がこの場にいて、ここまで異界の部屋について話せたことから、予感は確信に変わりつつあった。

 何とかしてフェルンを止めようとしたところ、とうのソリテールが杖を下ろさせた。

 

「フェルンも旦那様と夫婦になりたいのかしら? だったらフェルンも旦那様と結婚して夫婦になったらいいと思うわ」

 

 魔族は繁殖しないのだから番を作らない。当然、結婚の概念はない。ソリテールが男と夫婦になったのは人類社会をより深く知るための実践研究である。一夫一妻制との言葉は知っているものの、それが自分たちに適用されるとは思わないし思えない。複数人と結婚するのはどこがおかしいのか。むしろ二人だけの集団が三人になる事で、集団すなわち社会への理解が深まるのではと期待している。

 

 フェルンの杖に宿った魔力がフェルン自身に還元した。

 フェルンは考える。

 ソリテールを倒して兄様を解放するのが一番だが、理性的に考えれば不可能である。果たしたとしても、ソリテールに騙されていた兄様の誤認識を解くのは大変そうだ。

 しかし、ここでソリテールの提案に乗れば、同じ立場でじっくりと兄様の理解を得られるのではないだろうか。自分の方がソリテールよりもずっと胸が大きい事であるし。

 

「兄様!」

「……なにかな?」

 

 フェルンの顔は真剣である。

 髪と同色の瞳は純真な光を放ち、真っすぐに男の顔だけを見据えた。

 

「私にプロポーズしてください」

 

 幼い頃、兄様のお嫁さんになる事を信じて疑わなかったフェルンである。

 離れてしまっても想いは薄れることなく一層焦がれ、再会を果たして確信した。

 

 ソリテールは男の手を握ったまま微笑みを崩さない。黙らされてるアウラは怒りの形相。魔族のリーニエは何のことかわからない。

 フリーレンはぽっかーんと口を開け、シュタルクは窓の向こうの海鳥を追って遠い海に思いを馳せてる。

 男は瞬間目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑んで、ソリテールに断ってから立ち上がった。今後を考えれば断れるわけがなかった。

 

「フェルン、愛してるよ。俺と結婚してずっと傍にいてくれるかな?」

「はい、お受けいたします」

 

 こうして男はフェルンとも夫婦になった。

 アウラは爆裂術式をぶっ放したくなった。




スピード婚その2
どうしてこうなったかわからないです_(:3 」∠)_
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